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11−4 宣戦布告と誕生日ケーキ
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「じゃあ、何が本当なんでしょうか。愛しているのは、誰なんですか。アイドルの人? 結婚は棒読みなんて書かれてましたよ」
「かすみのこと? あれはうまく嵌められてしまった。おそらく優美への当てつけだと思う。それから優美に誘われることが今まで以上に多くなったので。マスコミの方は、裏から父が手を回してそれほど追いかけられることもなくなりましたが。いまだに親の傘に守られている、情けない男ですよ、僕は」
と、自嘲するように笑った。
「そんなことないです。私だって、実家に帰ったら、親にとろとろに甘やかされてますよ。親バカなのは、お金持ちも同じなんですね」
京一郎が肩を揺らして笑い出した。
「うちの親を親バカ呼ばわりしたのは、あなたが初めてですよ」
「ごめんなさい。うちと一緒にならないですよね。どうしよう、失礼なこと・・・」
「面白い人ですね、あなたは」
照れ隠しにグラスのビールを一気飲みした。
体も頭もふわふわしていい気分になってきた。
失礼ついでに言ってやろう。
「京一郎さんがはっきりしないから、いつまでも続くんですよ、バトルが。私まで巻き込まれてしまったじゃないですか。それとも、別れた奥さんをまだ愛しているとか」
「絡みますねえ、今日は」
「気がないなら、はっきり言うべきです」
「何をですか」
「どっちかに決めてあげないと」
「どっちも愛していなかったら? 前の妻は、よくある政略結婚で、愛して一緒になったわけじゃない」
「あ、わかった。他にもいるんですね、付き合っている人が。白状しなさい」
「あははは。いませんよ」
「笑い事じゃありません」
空になったグラスに、ビールが注がれた。
「では、美香さんが、宣戦布告してくれますか」
「宣戦布告?」
「確かに、こんなくだらないことは、いい加減終わらせた方がいいでしょうね。そのために、あなたも、バトルに加わるというのはどうですか?」
「え?」
何を言われているのか、すぐに理解できなかった。
「というと」
「美香さんも、僕の恋人候補に名乗りをあげるということです。いいアイデアだと思いませんか」
「はい? そ、そんなの、無理に決まってるじゃないですか! 笑い物になるだけです」
「美香さんなら、対抗できると思いますよ」
「無理です。無茶言わないでください!」
恋人候補とは、美人華道家や元アイドルと肩を並べるということでは。
同じ土俵に立つということだ。
「冗談じゃありません!」
真っ赤になって、否定する。
「それほど、僕は嫌われているということすか」
笑顔のままで、京一郎が言った。
「嫌いってわけでは・・・」
思わぬ方向に話が進んでいき、動悸が激しくなる。
「先ほど、美香さんは勘違いしてしまうと言いましたね。勘違いしてください」
「は? 勘違いって、そんな。私のことを愛しているわけでもないのに、愛されていると勘違いするなんて、嫌です。そんなものはすぐに見破られて・・・」
「では、愛を育みましょうか」
「な・・・」
絶句して、口が金魚になる。
そういうことが、さらっと言えてしまうのだ。
「そういえば、僕にメールを送ってくれていたのでしたね。見せてくれませんか」
「もう、いいんです、あれは」
「履歴が残っているのでしょう?」
「まあ・・・」
話題が逸れたことにホッとして、スマホを取り出し、メールのアプリを開けて手渡した。
京一郎がメールを読んでいる間に、食事を終わらせる。
恥ずかしくて気まずくなった気分を、美味しい食べ物が紛らわせてくれた。
「とてもいい写真ですね」
京一郎が、笑顔で写真を見てくれているのが嬉しい。
「それは、友達が撮ってくれて」
「美味しそうだ。美香さんはSNSはやらないのですか」
「そういうの、恥ずかしくて、やってないんです。リア充アピール苦手で」
「ではやりましょう。メールに代わる連絡手段ですよ。今からアカウントを作ってください。そこに写真をアップしていくのです。僕が見に行きますから」
「なるほど」
「そうすれば、今美香さんがどこにいて、何を食べているのか、わかるでしょう。はい」
スマホを返され、促される。
「今、ですか?」
「僕が見ていますから」
目の前で待機されては、もう、やるしかない。
ダウンロードするところから始まった。
「京一郎さんは、SNSはやらないのですか?」
「そういうのは、親が許さないので。親に反発して、グループを抜けたあと、ライターになりたくて母親の旧姓を名乗って活動を始めたのです。それでも見つかって、名前が表に出ないゴーストならいいと。勝手に父が。親の傘から抜け出すのは、簡単じゃない」
「窮屈なお家なんですね」
「多くの目が集まりますからね。僕に同情してくれるんですか」
「はい。同情します。ふふふ」
今まで、自分と京一郎では、何もかも違いすぎて話せないと思っていたのに、笑って話しているこの時が信じられない。
アルコールの勢いというやつなのかもしれなかったが。
「あの・・・宣戦布告の話は本気なのでしょうか。京一郎さんは、いつか、お父さまの会社に戻るのでしょう。そんな京一郎さんに相応しい恋人が、いつか現れるんじゃ」
「そんな未来のこと、誰にもわかりませんよ。一年後のことも、明日のことすら、わからない。今という時間を積み上げていくことしか、できないのです。今、美香さんはどうしたいですか?」
「どうって・・・急に言われても、わかりません」
なんて答えたらいいのかわからなかった。
「僕は、今、美香さんのことが、もっと知りたいと思っていますし、僕のことももっと知ってほしい。あなたは、僕の理想に近いのではないかという気がしています。だから・・・もっと、真剣に考えてみてほしい。美香さんの、気持ちは?」
「急に、そんな・・・。私、あそこで出会わなかったら、もう二度と会わないつもりで」
「でも、今、こうして会ってる」
「私・・・怖い」
思わず立ち上がった。
酔が急に冷めた感じだ。
「ごめんなさい。今日は、ごちそうさまでした。いつも、ご馳走になってばかりですけど」
「わかりました。僕を好きでない人に、頼めることではなかったですね」
「・・・」
なぜか胸が痛くなった。
窓の外に目をやる。
「あの・・・」
「どうしました?」
京一郎の声は、あくまでも優しい。
「もう少し、景色を見ていっていいですか?」
「もちろん」
窓際に立った。
闇と光のコントラストが、濃くなっている。
「ほんと、綺麗・・・」
前は一人で見た景色だ。
隣に京一郎が立つ。
突然に今、自分がやりたいことが降ってきた。
「あの、私・・・半年前に、ここで泣いたんです。どうしようもなく寂しくて。・・・もう泣きたくありません」
この景色に誓おう。
「私、どうしたいのか、わかりました。京一郎さんの、隣に居られるような、女になりたい」
「美香さんなら、なれますよ」
見上げると、京一郎の笑顔が美香を受け止めていた。
10月は、美香の誕生月だ。
最上階のスカイラウンジで、ケーキを食べた。
大好きなモンブランだ。
外の景色を見ながらの贅沢な時間。
青空と、モンブランを写真におさめて初投稿した。
26歳おめでとう、私。
誕生日には、京一郎から花束が送られてきた。
赤い薔薇が26本だった。
「かすみのこと? あれはうまく嵌められてしまった。おそらく優美への当てつけだと思う。それから優美に誘われることが今まで以上に多くなったので。マスコミの方は、裏から父が手を回してそれほど追いかけられることもなくなりましたが。いまだに親の傘に守られている、情けない男ですよ、僕は」
と、自嘲するように笑った。
「そんなことないです。私だって、実家に帰ったら、親にとろとろに甘やかされてますよ。親バカなのは、お金持ちも同じなんですね」
京一郎が肩を揺らして笑い出した。
「うちの親を親バカ呼ばわりしたのは、あなたが初めてですよ」
「ごめんなさい。うちと一緒にならないですよね。どうしよう、失礼なこと・・・」
「面白い人ですね、あなたは」
照れ隠しにグラスのビールを一気飲みした。
体も頭もふわふわしていい気分になってきた。
失礼ついでに言ってやろう。
「京一郎さんがはっきりしないから、いつまでも続くんですよ、バトルが。私まで巻き込まれてしまったじゃないですか。それとも、別れた奥さんをまだ愛しているとか」
「絡みますねえ、今日は」
「気がないなら、はっきり言うべきです」
「何をですか」
「どっちかに決めてあげないと」
「どっちも愛していなかったら? 前の妻は、よくある政略結婚で、愛して一緒になったわけじゃない」
「あ、わかった。他にもいるんですね、付き合っている人が。白状しなさい」
「あははは。いませんよ」
「笑い事じゃありません」
空になったグラスに、ビールが注がれた。
「では、美香さんが、宣戦布告してくれますか」
「宣戦布告?」
「確かに、こんなくだらないことは、いい加減終わらせた方がいいでしょうね。そのために、あなたも、バトルに加わるというのはどうですか?」
「え?」
何を言われているのか、すぐに理解できなかった。
「というと」
「美香さんも、僕の恋人候補に名乗りをあげるということです。いいアイデアだと思いませんか」
「はい? そ、そんなの、無理に決まってるじゃないですか! 笑い物になるだけです」
「美香さんなら、対抗できると思いますよ」
「無理です。無茶言わないでください!」
恋人候補とは、美人華道家や元アイドルと肩を並べるということでは。
同じ土俵に立つということだ。
「冗談じゃありません!」
真っ赤になって、否定する。
「それほど、僕は嫌われているということすか」
笑顔のままで、京一郎が言った。
「嫌いってわけでは・・・」
思わぬ方向に話が進んでいき、動悸が激しくなる。
「先ほど、美香さんは勘違いしてしまうと言いましたね。勘違いしてください」
「は? 勘違いって、そんな。私のことを愛しているわけでもないのに、愛されていると勘違いするなんて、嫌です。そんなものはすぐに見破られて・・・」
「では、愛を育みましょうか」
「な・・・」
絶句して、口が金魚になる。
そういうことが、さらっと言えてしまうのだ。
「そういえば、僕にメールを送ってくれていたのでしたね。見せてくれませんか」
「もう、いいんです、あれは」
「履歴が残っているのでしょう?」
「まあ・・・」
話題が逸れたことにホッとして、スマホを取り出し、メールのアプリを開けて手渡した。
京一郎がメールを読んでいる間に、食事を終わらせる。
恥ずかしくて気まずくなった気分を、美味しい食べ物が紛らわせてくれた。
「とてもいい写真ですね」
京一郎が、笑顔で写真を見てくれているのが嬉しい。
「それは、友達が撮ってくれて」
「美味しそうだ。美香さんはSNSはやらないのですか」
「そういうの、恥ずかしくて、やってないんです。リア充アピール苦手で」
「ではやりましょう。メールに代わる連絡手段ですよ。今からアカウントを作ってください。そこに写真をアップしていくのです。僕が見に行きますから」
「なるほど」
「そうすれば、今美香さんがどこにいて、何を食べているのか、わかるでしょう。はい」
スマホを返され、促される。
「今、ですか?」
「僕が見ていますから」
目の前で待機されては、もう、やるしかない。
ダウンロードするところから始まった。
「京一郎さんは、SNSはやらないのですか?」
「そういうのは、親が許さないので。親に反発して、グループを抜けたあと、ライターになりたくて母親の旧姓を名乗って活動を始めたのです。それでも見つかって、名前が表に出ないゴーストならいいと。勝手に父が。親の傘から抜け出すのは、簡単じゃない」
「窮屈なお家なんですね」
「多くの目が集まりますからね。僕に同情してくれるんですか」
「はい。同情します。ふふふ」
今まで、自分と京一郎では、何もかも違いすぎて話せないと思っていたのに、笑って話しているこの時が信じられない。
アルコールの勢いというやつなのかもしれなかったが。
「あの・・・宣戦布告の話は本気なのでしょうか。京一郎さんは、いつか、お父さまの会社に戻るのでしょう。そんな京一郎さんに相応しい恋人が、いつか現れるんじゃ」
「そんな未来のこと、誰にもわかりませんよ。一年後のことも、明日のことすら、わからない。今という時間を積み上げていくことしか、できないのです。今、美香さんはどうしたいですか?」
「どうって・・・急に言われても、わかりません」
なんて答えたらいいのかわからなかった。
「僕は、今、美香さんのことが、もっと知りたいと思っていますし、僕のことももっと知ってほしい。あなたは、僕の理想に近いのではないかという気がしています。だから・・・もっと、真剣に考えてみてほしい。美香さんの、気持ちは?」
「急に、そんな・・・。私、あそこで出会わなかったら、もう二度と会わないつもりで」
「でも、今、こうして会ってる」
「私・・・怖い」
思わず立ち上がった。
酔が急に冷めた感じだ。
「ごめんなさい。今日は、ごちそうさまでした。いつも、ご馳走になってばかりですけど」
「わかりました。僕を好きでない人に、頼めることではなかったですね」
「・・・」
なぜか胸が痛くなった。
窓の外に目をやる。
「あの・・・」
「どうしました?」
京一郎の声は、あくまでも優しい。
「もう少し、景色を見ていっていいですか?」
「もちろん」
窓際に立った。
闇と光のコントラストが、濃くなっている。
「ほんと、綺麗・・・」
前は一人で見た景色だ。
隣に京一郎が立つ。
突然に今、自分がやりたいことが降ってきた。
「あの、私・・・半年前に、ここで泣いたんです。どうしようもなく寂しくて。・・・もう泣きたくありません」
この景色に誓おう。
「私、どうしたいのか、わかりました。京一郎さんの、隣に居られるような、女になりたい」
「美香さんなら、なれますよ」
見上げると、京一郎の笑顔が美香を受け止めていた。
10月は、美香の誕生月だ。
最上階のスカイラウンジで、ケーキを食べた。
大好きなモンブランだ。
外の景色を見ながらの贅沢な時間。
青空と、モンブランを写真におさめて初投稿した。
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赤い薔薇が26本だった。
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