25個のスイーツのあとで

かじや みの

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13 攻めのクリスマスパフェ

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 12月に入り、街がクリスマス色に染められる頃。

 京一郎からのクリスマスプレゼントが送られてきた。

 中身を開けて、これは何事かと驚き、直接渡してこないということは、クリスマスには当然、会えないということだろうと冷静に分析する。

(でも、こんなの受け取れない)

 真っ赤なニットと、クロスのネックレスだ。
 十字に嵌め込まれたダイヤモンドが輝いている。
 高価なものに違いない。

 こちらから電話することもできず、どうしたものかと悩んでいると、タイミングよく京一郎から電話がかかってきた。
 届く時刻を把握しているのだろう。

「いかがですか? 気に入っていただけると嬉しいのですが」

「気に入るも何も、こんな高価なもの、受け取れません。お返しします」

 京一郎が笑い出した。
「美香さん。受け取ってください。素直に受け取るものでしょう。返そうとする人は初めてですよ。それとも気に入りませんでしたか」

「いいえ、違います。こんなこと、していただく理由がわかりません」
 恋人でもないのに、と言いたい気持ちを抑える。

 愛を育もうと言ったくせに、あれから一度も会っていない。約束さえしていない。

「理由がないと、気持ち悪いですか」
「はい」
「では、言いますよ。そろそろ、いいのではないかと」
「何が、ですか?」
「顔出ししましょう。それを身につけて西園寺美香で、出てください」
「はああ!?」
 スマホの向こうで京一郎の楽しそうな笑い声が聞こえる。

 頭が真っ白になる。

「無理です、そんなの! せっかくフォロワーさん増えてきたのに、減っちゃいますよ」
「大丈夫です。僕が見たいのですよ。美香さんを。笑っている美香さんの今の姿を」
「・・・」
 体がかっと熱くなった。
 このニットのように、顔が赤くなっているかもしれない。

「どうですか。見せてくれますね」
 嬉しさと、怖さが同時に大波となって美香を襲う。

「自撮りなんて、恥ずかしいです」
「では、カメラマンを派遣しましょうか」
「いいえ! いいです、そんなこと。インフルエンサーじゃあるまいし。やめてください」
 慌てて否定した。
 余計に恥ずかしい。
「そうですか?」
 笑われている。
「自分で撮ります」
 と、言ってしまった。
 はめられているのではないかと疑う。

「では楽しみにしていますよ。プロフィールも整えておきましょう。自分でできますか?」
「やってみます」
「名前と顔以外の情報はなるべく出さずに、謎を残す感じにしましょう」
「はい。あとでアドバイスお願いします」
「それと、僕は海外に行くことになりました。クリスマスも年末年始も日本にいませんから。帰国は2月ごろになるかと」
「そう、・・・ですか」
「今、寂しいと思ってくれましたか?」
「お、思ってません」
 どうせ会えないのだ。
 どこにいても同じではないか。
 ただ、自分と、京一郎の距離が少しも縮まっていないことがわかっただけだ。
 セレブと庶民の差はあまりにも大きい。
 年末年始、美香はせいぜい実家に帰るくらいしかできない。
 先月は旅行に行ったから、しばらくは遠出もできない。
 普通のOLなのだから。

「それは残念です。また電話しますね。日本時間に合わせますから」
「あ、ありがとうございます」

 言い方が少し、冷たくなってしまった。

 京一郎が、少し無言になる。

「大丈夫ですか? 元気がないようですが」
「いいえ、なんでもありません」

 咄嗟に声を明るくした。

「ちょっと、不安になっただけです」
「顔出しのことですか? もし、どうしてもできないようでしたら、無理しなくていいですよ。美香さんのアカウントですから」
「はい」
 顔出しするのは怖かった。
 見るのは、京一郎だけじゃないのだ。

「贈り物、ありがとうございました」
 まだちゃんと、お礼を言っていないことに気がついた。

「本当に、もらってしまっていいのでしょうか」
 まだ心から信じられていない。

 京一郎がまた笑った。

「いいと言っているでしょう。お返しなんて要りませんから。遠慮しないで」
「だって、私は・・・」

 京一郎さんの、何?

 口に出す勇気がなくてのみ込んだ。

「美香さんだから、できるのですよ。思い出して。のぞみは何ですか? どうしたいんでしたっけ」
「それは・・・私は・・・」

 言葉がつまって出てこない。

 代わりに涙が出てきてしまった。

「私は、一人で立っていられる女になりたいです」

 震える声で言った。

「美香さんなら、できますよ。焦る必要はありません」

 違う。欲しい言葉は、そうじゃない。
 言いたいことも、そうじゃない。

 でも、それはまだ、言葉にできなかった。

「楽しんでできなければ、意味がないですからね」

「大丈夫です。やってみます」

 怖くても、立ち止まってはいられないのだ。




 冬のコートを新調した。
 太って見えるため、暗い色のコートしか持っていなかったが、今回、桜色に近い、淡いピンクのウールコートを買ってみた。

 ぶたが歩いていると言われそうだと思ったが、真っ赤なニットとよく合いそうな気がしたのだ。

 それを着て、いつもよりおめかしして、名古屋の老舗ホテルへ行く。

 ラウンジカフェでは、クリスマス限定のスイーツが提供されている。

 お目当ては、もちろんそのスイーツ、クリスマスパフェだ。

 ホテルには、カップルや家族連れ、おしゃれした女子たちがたくさんいた。

 おひとり様は珍しい。
 この状況で、楽しめるだろうかと心配になった。

 みんな楽しそうに笑い、写真を撮りあっている。

 そう、思わず笑顔になり、写真を撮りたくなる、かわいいパフェなのだ。

 運ばれてきたときには、もう、人のことはどうでもよくなっていた。

 食べるのがもったいない。

 インカメにして、パフェと自分を入れてみるが、アングルがなかなか難しくて、パッとしない。

 早くしないとアイスが溶けてしまいそうだ。

「お撮りしましょうか?」

 多分、見かねたのだろう。
 ホテルの女性スタッフに声をかけられた。
 写真を撮ることに慣れているようだった。
 その手があった。

「すみません。お願いします」

 恥ずかしかったが、上手く笑顔を引き出してくれて、スプーンでアイスの部分をすくい取り、口に運ぶ仕草も含めて複数枚撮ってもらう。
 被写体がまずいので、いいショットがあれば載せてみようと思っていた。

「あの、一緒に写っていただけませんか?」
 おひとり様クリスマスを強調するために、写真を撮ってもらった人を入れさせてもらおうと思ったのだ。

 アパートの部屋に帰って、写真を選び、キャプションを書く。

 お題は、おひとりさまでも楽しむクリスマス。

 60キロ台に落ちたとはいえ、まだまだぽっちゃりの美香だが、ホテルの素敵な内装と、赤のニットがよく映えて、自分でもまあまあかな、という気がした。
 さすがに投稿ボタンを押す手が震え、何度もやめようと画面を消したりしていたが、京一郎に見てもらいたい気持ちが勝って、ボタンを押した。

「ああ、やっちゃったーー」

 もうどうにでもなれ、とスマホを放り出して、ベットに倒れ込んだ。

 ホールケーキを一気喰いしてから一年が経とうとしていた。

 一人だということは変わらなかったが、全然気持ちが違った。

 それは、攻めているからだ。

 周りの人たちに助けられて、必死についていっているだけなのだが、自分で一歩を踏み出していると思えることで、自信が少しずつついてきてる実感があった。
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