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14 初日の出とぜんざい
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クリスマスイブの夜遅くなってから、京一郎から電話があった。
イブと言っても、平日で、普通に仕事に行き、ジムに行って汗を流してから帰宅するいつものルーティンをこなしただけで、もう寝ようとしているところだった。
「メリークリスマス、美香さん。なかなかよかったですよ。とても素敵です。僕の言った通り、大丈夫だったでしょう?」
海外に行って、解放されているのか、嬉しそうな明るい声だった。
京一郎の言う通り、フォロワーが減ることはなく、それどころか順調に伸びて、1000を超えた。
「京一郎さんのおかげです」
「僕は何もしていませんよ。投稿を作ったのは美香さんなんですから。やっぱり赤が似合いますね。ホテルの内装に負けない存在感がありましたよ。美香さんには似合うだろうと思っていました」
「ありがとうございます。褒めすぎですよ。京一郎さんがいなかったら、あんなことできません」
洋服は地味で目立たないものしか選んだことがないし、そもそも顔出しなんてしない。
一人では、とても考えられないことだ。
「よくできました。キャプションもよかったですよ。今後も楽しみです」
「これからも、こんな感じでいいと思いますか」
「そうですね。好きにやってみてください。その方が、美香さんらしさが出ますから」
「はい。やってみます。・・・今どちらにいらっしゃるのですか?」
「ドバイです」
「わお」
さすがにセレブだ。
「今仕事が終わったところですよ。夜遅くにすみません」
「仕事って、ライターのですか?」
海外の取材だろうか。
「いえ。グループに戻るように言われてまして、その前に、あちこちの支社に顔出しと僕にできることはないか仕事の内容を見ているところです」
「そう、ですか・・・」
ますます距離が離れていっている。
もしかして、そのまま海外に住むとか、あり得る話だ。
手の届かないところに行ってしまう人なのだ。
「年末年始は、伊勢ですか?」
「はい。実家に帰省します」
「では、伊勢での美香さんも楽しみにしていますよ」
それは、伊勢でも投稿しろということだろう。
「しばらく電話は控えますね。冬休みが終わる頃にまた」
「はい」
良いお年を、と電話を切る。
やけに静けさが身にしみる。
よりにもよって、クリスマスに一人であることを強く意識してしまった。
一足先にホテルでパフェを食べたので、今日はもうケーキは買っていないが、無性にやけ食いしたい気分になる。
ぱんぱん、と自分で頬を叩いて、胸元で光るネックレスに手を当てた。
あれから、お守りのように毎日身につけていた。
挫けそうになった時、自分を奮い立たせるために。
「大丈夫。もう戻ったりしない。前に進むだけよ。美香」
そう自分に言い聞かせて、息を吐く。
京一郎は、ドバイから電話をかけてくれたのだ。
恋人じゃなくても、気にかけてくれている。
これはすごいことだよね。
とんでもなく幸運なことだ。
一人でも、私は幸せ。
そう思っても、心の奥にある違和感は拭えない。
でも、今は、それでいい。
今年は早めに帰省した。
「美香? だよな」
駅まで迎えに来てくれた父が目を細めた。
「当たり前でしょ。娘を忘れちゃったとかやめてよね」
「忘れるわけないだろう。見違えただけだよ。どうした。彼氏でもできたのか?」
「違いますぅ」
「なんだ。また振られて今度は食べられなくなったのか? まあそれはありえんな。心配事があるなら言いなさい。うちでたらふく食べていけばいい」
ご馳走攻めで、体重が増えそうだ。
いつもなら、ごろごろと過ごすのだが、体が軽くなったせいか、次の日から出かけた。
やってみたいことがあった。
伊勢の餅街道を歩くこと。
昔から伊勢参りにくる旅人のために、宿場町には餅屋が多かった。
絶対太りそうな企画だが、ダイエットは来年からまた始めるとして、たくさんある美味しいお餅を食べ歩く。
誰かを誘おうかと思ったが、自撮りに慣れるために一人で行った。
お店の看板を必ず入れて、お餅と、食べる自分を撮る。
そして、締めくくりには。
「初日の出見に行くか?」
「行く」
見慣れていて、特別だと思っていなかった景色だったが、京一郎に見せたいと思った。
鳥居越しの初日の出。
まだ暗いうちから家を出て、たくさんの人に混じってそのときを待つ。
その待つ時間が辛くて、最近は誘われても行かなくなっていた。
耳が痛くなるほどの寒さに耐えて、よううやく顔をだす太陽。
感嘆の声が上がり、シャッター音があちこちで聞こえる。
神々しい光と共に、新しい年が始まる。
美香も写真を撮りながら、今年、やりたいことに思いを馳せた。
50キロ台にまで体重を落とすこと、決着をつけること。
決着をつけるのは、自分の思いに、だ。
京一郎から離れる決断をすることになるのかもしれない。
そうなったとき、一人で立っていられるだろうか。
ちゃんとお参りしてから、おかげ横丁で、ぜんざいを食べた。
お餅の食べ歩きの最後を飾る。
「おいしすぎるでしょ」
いくらでも食べられる、甘さ控えめのぜんざいで、食べはじめ、開始だ。
イブと言っても、平日で、普通に仕事に行き、ジムに行って汗を流してから帰宅するいつものルーティンをこなしただけで、もう寝ようとしているところだった。
「メリークリスマス、美香さん。なかなかよかったですよ。とても素敵です。僕の言った通り、大丈夫だったでしょう?」
海外に行って、解放されているのか、嬉しそうな明るい声だった。
京一郎の言う通り、フォロワーが減ることはなく、それどころか順調に伸びて、1000を超えた。
「京一郎さんのおかげです」
「僕は何もしていませんよ。投稿を作ったのは美香さんなんですから。やっぱり赤が似合いますね。ホテルの内装に負けない存在感がありましたよ。美香さんには似合うだろうと思っていました」
「ありがとうございます。褒めすぎですよ。京一郎さんがいなかったら、あんなことできません」
洋服は地味で目立たないものしか選んだことがないし、そもそも顔出しなんてしない。
一人では、とても考えられないことだ。
「よくできました。キャプションもよかったですよ。今後も楽しみです」
「これからも、こんな感じでいいと思いますか」
「そうですね。好きにやってみてください。その方が、美香さんらしさが出ますから」
「はい。やってみます。・・・今どちらにいらっしゃるのですか?」
「ドバイです」
「わお」
さすがにセレブだ。
「今仕事が終わったところですよ。夜遅くにすみません」
「仕事って、ライターのですか?」
海外の取材だろうか。
「いえ。グループに戻るように言われてまして、その前に、あちこちの支社に顔出しと僕にできることはないか仕事の内容を見ているところです」
「そう、ですか・・・」
ますます距離が離れていっている。
もしかして、そのまま海外に住むとか、あり得る話だ。
手の届かないところに行ってしまう人なのだ。
「年末年始は、伊勢ですか?」
「はい。実家に帰省します」
「では、伊勢での美香さんも楽しみにしていますよ」
それは、伊勢でも投稿しろということだろう。
「しばらく電話は控えますね。冬休みが終わる頃にまた」
「はい」
良いお年を、と電話を切る。
やけに静けさが身にしみる。
よりにもよって、クリスマスに一人であることを強く意識してしまった。
一足先にホテルでパフェを食べたので、今日はもうケーキは買っていないが、無性にやけ食いしたい気分になる。
ぱんぱん、と自分で頬を叩いて、胸元で光るネックレスに手を当てた。
あれから、お守りのように毎日身につけていた。
挫けそうになった時、自分を奮い立たせるために。
「大丈夫。もう戻ったりしない。前に進むだけよ。美香」
そう自分に言い聞かせて、息を吐く。
京一郎は、ドバイから電話をかけてくれたのだ。
恋人じゃなくても、気にかけてくれている。
これはすごいことだよね。
とんでもなく幸運なことだ。
一人でも、私は幸せ。
そう思っても、心の奥にある違和感は拭えない。
でも、今は、それでいい。
今年は早めに帰省した。
「美香? だよな」
駅まで迎えに来てくれた父が目を細めた。
「当たり前でしょ。娘を忘れちゃったとかやめてよね」
「忘れるわけないだろう。見違えただけだよ。どうした。彼氏でもできたのか?」
「違いますぅ」
「なんだ。また振られて今度は食べられなくなったのか? まあそれはありえんな。心配事があるなら言いなさい。うちでたらふく食べていけばいい」
ご馳走攻めで、体重が増えそうだ。
いつもなら、ごろごろと過ごすのだが、体が軽くなったせいか、次の日から出かけた。
やってみたいことがあった。
伊勢の餅街道を歩くこと。
昔から伊勢参りにくる旅人のために、宿場町には餅屋が多かった。
絶対太りそうな企画だが、ダイエットは来年からまた始めるとして、たくさんある美味しいお餅を食べ歩く。
誰かを誘おうかと思ったが、自撮りに慣れるために一人で行った。
お店の看板を必ず入れて、お餅と、食べる自分を撮る。
そして、締めくくりには。
「初日の出見に行くか?」
「行く」
見慣れていて、特別だと思っていなかった景色だったが、京一郎に見せたいと思った。
鳥居越しの初日の出。
まだ暗いうちから家を出て、たくさんの人に混じってそのときを待つ。
その待つ時間が辛くて、最近は誘われても行かなくなっていた。
耳が痛くなるほどの寒さに耐えて、よううやく顔をだす太陽。
感嘆の声が上がり、シャッター音があちこちで聞こえる。
神々しい光と共に、新しい年が始まる。
美香も写真を撮りながら、今年、やりたいことに思いを馳せた。
50キロ台にまで体重を落とすこと、決着をつけること。
決着をつけるのは、自分の思いに、だ。
京一郎から離れる決断をすることになるのかもしれない。
そうなったとき、一人で立っていられるだろうか。
ちゃんとお参りしてから、おかげ横丁で、ぜんざいを食べた。
お餅の食べ歩きの最後を飾る。
「おいしすぎるでしょ」
いくらでも食べられる、甘さ控えめのぜんざいで、食べはじめ、開始だ。
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