25個のスイーツのあとで

かじや みの

文字の大きさ
24 / 37

14 初日の出とぜんざい

しおりを挟む
 クリスマスイブの夜遅くなってから、京一郎から電話があった。

 イブと言っても、平日で、普通に仕事に行き、ジムに行って汗を流してから帰宅するいつものルーティンをこなしただけで、もう寝ようとしているところだった。

「メリークリスマス、美香さん。なかなかよかったですよ。とても素敵です。僕の言った通り、大丈夫だったでしょう?」

 海外に行って、解放されているのか、嬉しそうな明るい声だった。

 京一郎の言う通り、フォロワーが減ることはなく、それどころか順調に伸びて、1000を超えた。

「京一郎さんのおかげです」
「僕は何もしていませんよ。投稿を作ったのは美香さんなんですから。やっぱり赤が似合いますね。ホテルの内装に負けない存在感がありましたよ。美香さんには似合うだろうと思っていました」
「ありがとうございます。褒めすぎですよ。京一郎さんがいなかったら、あんなことできません」
 洋服は地味で目立たないものしか選んだことがないし、そもそも顔出しなんてしない。
 一人では、とても考えられないことだ。

「よくできました。キャプションもよかったですよ。今後も楽しみです」
「これからも、こんな感じでいいと思いますか」
「そうですね。好きにやってみてください。その方が、美香さんらしさが出ますから」
「はい。やってみます。・・・今どちらにいらっしゃるのですか?」
「ドバイです」
「わお」
 さすがにセレブだ。
「今仕事が終わったところですよ。夜遅くにすみません」
「仕事って、ライターのですか?」
 海外の取材だろうか。
「いえ。グループに戻るように言われてまして、その前に、あちこちの支社に顔出しと僕にできることはないか仕事の内容を見ているところです」

「そう、ですか・・・」

 ますます距離が離れていっている。
 もしかして、そのまま海外に住むとか、あり得る話だ。
 手の届かないところに行ってしまう人なのだ。

「年末年始は、伊勢ですか?」
「はい。実家に帰省します」
「では、伊勢での美香さんも楽しみにしていますよ」
 それは、伊勢でも投稿しろということだろう。

「しばらく電話は控えますね。冬休みが終わる頃にまた」
「はい」

 良いお年を、と電話を切る。

 やけに静けさが身にしみる。
 よりにもよって、クリスマスに一人であることを強く意識してしまった。

 一足先にホテルでパフェを食べたので、今日はもうケーキは買っていないが、無性にやけ食いしたい気分になる。

 ぱんぱん、と自分で頬を叩いて、胸元で光るネックレスに手を当てた。

 あれから、お守りのように毎日身につけていた。
 挫けそうになった時、自分を奮い立たせるために。

「大丈夫。もう戻ったりしない。前に進むだけよ。美香」

 そう自分に言い聞かせて、息を吐く。

 京一郎は、ドバイから電話をかけてくれたのだ。
 恋人じゃなくても、気にかけてくれている。

 これはすごいことだよね。
 とんでもなく幸運なことだ。

 一人でも、私は幸せ。

 そう思っても、心の奥にある違和感は拭えない。

 でも、今は、それでいい。




 今年は早めに帰省した。

「美香? だよな」

 駅まで迎えに来てくれた父が目を細めた。

「当たり前でしょ。娘を忘れちゃったとかやめてよね」
「忘れるわけないだろう。見違えただけだよ。どうした。彼氏でもできたのか?」
「違いますぅ」
「なんだ。また振られて今度は食べられなくなったのか? まあそれはありえんな。心配事があるなら言いなさい。うちでたらふく食べていけばいい」

 ご馳走攻めで、体重が増えそうだ。

 いつもなら、ごろごろと過ごすのだが、体が軽くなったせいか、次の日から出かけた。

 やってみたいことがあった。

 伊勢の餅街道を歩くこと。
 昔から伊勢参りにくる旅人のために、宿場町には餅屋が多かった。

 絶対太りそうな企画だが、ダイエットは来年からまた始めるとして、たくさんある美味しいお餅を食べ歩く。

 誰かを誘おうかと思ったが、自撮りに慣れるために一人で行った。

 お店の看板を必ず入れて、お餅と、食べる自分を撮る。

 そして、締めくくりには。

「初日の出見に行くか?」
「行く」

 見慣れていて、特別だと思っていなかった景色だったが、京一郎に見せたいと思った。

 鳥居越しの初日の出。

 まだ暗いうちから家を出て、たくさんの人に混じってそのときを待つ。
 その待つ時間が辛くて、最近は誘われても行かなくなっていた。

 耳が痛くなるほどの寒さに耐えて、よううやく顔をだす太陽。

 感嘆の声が上がり、シャッター音があちこちで聞こえる。

 神々しい光と共に、新しい年が始まる。

 美香も写真を撮りながら、今年、やりたいことに思いを馳せた。

 50キロ台にまで体重を落とすこと、決着をつけること。

 決着をつけるのは、自分の思いに、だ。

 京一郎から離れる決断をすることになるのかもしれない。

 そうなったとき、一人で立っていられるだろうか。

 ちゃんとお参りしてから、おかげ横丁で、ぜんざいを食べた。

 お餅の食べ歩きの最後を飾る。

「おいしすぎるでしょ」

 いくらでも食べられる、甘さ控えめのぜんざいで、食べはじめ、開始だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

紅玉宮妃(予定)の後宮奮闘記~後宮下女ですがわたしの皇子様を皇帝にします~

福留しゅん
恋愛
春華国の後宮は男子禁制だが例外が存在する。その例外である未成年の第五皇子・暁明はお忍びで街を散策していたところ、旅人の雪慧に助けられる。雪慧は後宮の下女となり暁明と交流を深めていくこととなる。やがて親密な関係となった雪慧は暁明の妃となるものの、宮廷内で蠢く陰謀、傾国の美女の到来、そして皇太子と皇帝の相次ぐ死を経て勃発する皇位継承争いに巻き込まれていくこととなる。そして、春華国を代々裏で操ってきた女狐と対峙しーー。 ※改訂作業完了。完結済み。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【完結】氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話

miniko
恋愛
王太子であるセドリックは、他人の心の声が聞けると言う魔道具を手に入れる。 彼は、大好きな婚約者が、王太子妃教育の結果、無表情になってしまった事を寂しく思っていた。 婚約者の本音を聞く為に、魔道具を使ったセドリックだが・・・

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

年増令嬢と記憶喪失

くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」 そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。 ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。 「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。 年増か……仕方がない……。 なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。 次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。 なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……

処理中です...