25個のスイーツのあとで

かじや みの

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15−1 一年ぶりのチョコレートケーキ

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 年が明け、京一郎から電話がかかってきたのは、仕事始めの前日の夜だった。

「パッピーニューイヤー、美香さん。年末年始、忙しそうでしたね。ゆっくりできましたか?」
 あまりに発音が良くて、京一郎が英語も話せることを知る。

「明けましておめでとうございます」
 美香は恥ずかしくて、日本語で返した。
「それが、ほとんど家にいられなくて・・・。でもあんなに食べましたけど、1キロぐらいしか増えてなくて、よかったです」
 笑い声が聞こえた。
「たくさん食べてましたね」

 あのあとも、伊勢の定番のグルメを食べ歩いた。
 休みの間中、毎日のように投稿して忙しい冬休みだった。
 たくさん食べたが、たくさん歩きもしたのだ。

「あのぜんざいだけ美香さんが写っていなくて、それがまたいい感じでしたね。初日の出が神々しくて、日本人なんだと実感しました。伊勢に行きたくなりましたよ」
 京一郎の褒められて、体がほてってくる。
 初日の出の時は、父が一緒だったので、自撮りが恥ずかしかったのだ。

 伊勢シリーズは好評で、フォロワーも順調に伸びて、伊勢に行きたいですというコメントをたくさんもらった。

「ぜひ、いらしてください」
「鳥羽とか、賢島に足を伸ばすのもいいですね」
「ぜひぜひ」
「その時は、案内してくれますか?」
「はい。いいですよ」
 軽いノリで返事をした。
 きっと、社交辞令だろうから。
「でも、京一郎さんの方が詳しいんじゃないですか?」
「それでも、美香さんがいると違うと思いますよ。その人の景色がありますから。また新しい発見ができると思います」

 舞い上がってしまいそうになるが、ああ、なるほど、と美香は思う。
 そうやって、女を口説くのか。
 京一郎には、口説いているという自覚はないかもしれないが。
 海外にも、女がいるのではないかと確信する。
 女の方から誘われたとしても、いいですね、とついて行ってしまうに違いない。

「今、どちらなんですか?」
「パリですよ。ランチの時間です」

 どうりで、周りが賑やかなわけだ。

「美香さんも来ませんか。パリの食べ歩きもいいかもしれません」
「そんな急に・・・」

 そんなお金と暇がどこにあるのだ。

 でも、パリの街を歩いて美味しいものを食べている自分の姿を思い浮かべてしまった。
 隣には京一郎がいて・・・。

 見たことがないような景色を、京一郎は見せてくれる。

「会いたいですね」
「え?」

 思いがけない言葉を聞いて、耳を疑う。

「美香さんにいろんなものを見せてあげたい。いえ、一緒に見てみたい」
「またまたあ」
「帰国したら、どこかへ行きましょうか」
「嬉しいです。そう言ってもらえるだけで」
 それだけで、美香の心は満足する。

 京一郎を呼ぶ声が聞こえ、では、と電話が切れた。




「さあ、頑張りますか」

 仕事始めから、ジム通いを再開し、汗を流した。

「美香さん、いいですねえ。リバウンドなしじゃないですか」
 インストラクターさんにも褒められた。

「もうそろそろ、ウエア、サイズダウンしときます?」

 新年早々から出費がかさむ。

 1月は投稿を控え、出かけなかったのは、2月に向けて、無駄遣いはできなかったからだ。

 したがって、京一郎からの電話もなく、静かなひと月を過ごした。

 そう、2月はもう一度東京へ行く。

 自分の成長を実感できる、あの場所へ。

 京一郎と初めで出会い、扉を開いた場所。

 グレードアップして、グリーン車で東京まで行くつもりだった。

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