25個のスイーツのあとで

かじや みの

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17−3 魅惑のトロピカルフルーツ

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 少し待っていてくださいと、京一郎が席を外すと、バーテンダーが、美香の前にグラスを置いた。

「もう、私・・・お酒は」

「アルコール入ってないから」

 真っ赤に透き通ったジュースだ。

「あ、アセロラ。さっぱりしますね」

「あんな楽しそうな京一郎くんは、珍しいよ。美香ちゃんがよっぽど気に入ってるんじゃないかな」

「そうでしょうか。なんだか、いつもひどいこと言ってるような気がして、私」
「甘いだけよりも、いいんじゃない? 酸味がクセになるフルーツみたいに」
「私はフルーツですか? 美味しいといいんですけど・・・。え? やだ、何言ってるんだろ、私」
 恥ずかしいことを言ってしまい、顔から火が出るかと思うほど熱くなった。

「あははは。美味しいに決まってる。怖いかもしれないけど、思い切って飛び込んでみたら。京一郎くんなら、大丈夫」

「飛び込むって、そんな勇気・・・。いいことはわかるんですけど、本当に、私でいいのかって。どこかで、信じきれていなくて。マスターはどう思いますか? 私はまだ、京一郎さんのことを、あまり知りませんし。マスターの方が、私より、よく知っていらっしゃるんですよね」
「まあね、前の奥さんもここに連れてきてたな。その後も何人か」
「そんなに・・・やっぱり・・・」

「飛び込んでみなきゃ、わからないよ。嫌なら、はっきり言ったほうがいいけど」
「そうなんですけど、飛び込んだら後悔するかも、と思うと。・・・関係ない、で済まされなくなるから」
 一度足を踏み込んだら、逃げられなくなる。
 そんな、覚悟、自分にできるのか。
「後悔してもいいんじゃない? ああ違ったって、わかっただけいいのでは。わかるのとわからないのと、どっちがいい?」
「それは、もちろん・・・マスター、もしかして、みんなにそれ言ってません?」
「言ってないよ。どちらかというと、やめとけって言うかな。大抵の子は、やめろと言われるとやりたくなるでしょ」
「あ、結局、みんなけしかけてるじゃないですか」
「そうとも言う」
「もう」

「楽しそうですね。なんの話ですか」
 二人で笑っていると、京一郎が戻ってきた。

「いやね、美香ちゃんが迷っているみたいだから、結局は、やったもん勝ちだと発破をかけていたところで」
「何を迷っているのですか?」
 京一郎に見つめられて、言葉に詰まった。
「え? それは、その・・・」
「はい、頑張って」
「ちょっとマスター」
「なんでしょう。気になりますが、行きましょうか。この後ゆっくり聞かせてもらいますよ」

 京一郎は、席につかずに、美香をうながした。

「山本さん、ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さま」
「どこに行くのですか? もうお腹いっぱいです」
「部屋ですよ。急でしたが、アップグレードしてきました」
「え? シングルですよね」
 一人で泊まるのに、意味がわからない。

「さあ、飛び込め」
 山本と呼ばれたバーテンダーが囃した。
「もう少し、一緒にいたくなりました。了承していただけますか」
「了承って・・・」
 ポカンとしている美香に、京一郎が、手を差し出す。

 椅子から降りると足に力が入らず、ふらついた。

 抱き止められて、心臓が跳ねる。

「大丈夫?」
「はい」

 計算高いと思われるのがいやで、離れたかったのだが、押しのける力が出なかった。

「早く、行った、行った」
 山本が手をひらひらさせている。

 京一郎に体を支えられるようにしながら、部屋までたどり着いた。

 すでに美香の荷物が運び込まれている。

 そこはシングルではなく、スイートルームだった。
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