触れられたいと思うまで〜トラウマを克服したら溺愛が始まるようです〜

かじや みの

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 駅のホームで悠人を見つけた。

「あれ? れん、もう帰りか?」
「悠人こそ、早いね」
「今日は、記録とっただけだから」
 だから、成宮も歴史研究部に来ようとしていたのだ。

「なんかあった?」
「・・・」

 さすがに悠人にはわかってしまう。

 駅まで歩くうちに、落ち着いて、普段通りに戻ったつもりでいたのに。

「部活、やっぱやめようかな」
「居心地悪いか。無理することねえや」
「そうだよね」

 詳しくではないが、さらっと教室であったことを話した。

 逃げたところまで話し、成宮のことは言わない。

 周りに聞かれたくないから、くっつきそうなほど近くなるが、小さい頃から一緒にいるから、不快になることはない。

「それって、あれだな。・・・なんだっけ」

 悠人は茶化したりせずに、真面目にれんの話を聞いてくれる。

 言葉を探して遠くを見るような目つきになった。

「腐女子ってやつなんじゃね?」
 思いついて満足したようにれんを見て笑った。

「腐女子・・・」
「そうか。歴研は腐女子に占拠されてんだな」
「占拠って」
 悠人の言い方がおかしかった。
「やっと笑った」


 電車が来て、乗り込んだ。

 二人とも同じ駅で降りる。

「悠人は、陸上やるの?」

 その話題を電車の中でするのは気が引けて、変えた。

「悩ましいところだが、さすがに速いやつ多いから目立てねえ」
「そうなんだ」

 部室から覗いたことも、黙っておく。

「でも女子多いし、距離が近いのがいいんだよな」

 とニヤニヤする。

「野球やサッカーは男ばっかで接点ないけど、少し違うんだよ。走ってるとこ近くで見れるもんな」

 悠人は中学時代は野球部に入っていた。

「もう野球やらないの?」
「それこそうまいやつ多いだろうから、レギュラーとれねえよ」
「レギュラーじゃなくてもいいじゃん」
「ダメダメ。目立たなきゃ、意味ねえだろ」
「そうかなあ」

 器用でなんでもこなすが、突き抜けたものがなく、どこへ行ってもそこそこにしかなれないというのが、悠人の悩みだった。


 駅で、自転車で帰る悠人と別れ、徒歩で家に向かう。

 悠人のおかげで気が晴れたが、もう、部活に顔を出す勇気はない。

 落ちそうになったれんの体を抱き止めた、成宮の逞しい腕の感触と、服を通して伝わってきた温もりを思い出し、顔が熱くなる。

 あれは、仕方のないことだった。
 と、自分に言い聞かせる。
 手を掴まなかった自分が悪いのだから。

 体が浮き上がっていて、成宮が抱き止めてくれなければ、確実に落ちていた。

 そのあと、お礼を言うどころか、れんは成宮を拒絶してしまっている。

 合わせる顔なんてない。

「あ・・・」

 今になって、あることに気がついた。

 古文書を教室に置いてきてしまった。

(まあいっか)

 湯浅さんか、藤田さんに頼んで持ってきてもらうしかない。

 同じクラスではないが、どちらかを見つけて話をしよう、部活をやめることもその時に言うことにした。

 一度しか顔を出さなかったけど、もともと誘われただけで、やりたかったわけじゃない。



 翌日の放課後、帰り支度をしていると、廊下が騒がしくなる。

 廊下は、生徒たちでごった返すが、明らかに、何かが違った。

「なんだ?」
 同じクラスの悠人が、女子の黄色い声に敏感に反応する。

 教室を出ると、背の高い上級生が廊下の壁にもたれて立っていた。

「あれ? 成宮先輩?」

 悠人の声に、成宮が、手をあげた。

「どうしたんですか?」
「三枝、俺は今日は歴研に顔を出す」
「ああ、なるほど。わかりました。れんのこと、頼みます」

 じゃあな、とれんに手をあげて、悠人が行ってしまった。

 事情を話してあるから、れんに用があるのだろうと察したのだ。
「・・・北畠」

 固まっているれんに、成宮が声をかける。

「ちょっと付き合え。図書室なら大丈夫だろ?」

「・・・」

 人にジロジロ見られるのも苦痛で、黙ってうなずいた。

 成宮は、それを見届けると、先に立って歩き出す。
 見られていることなど、気にしていない。

 その姿が、いちいち絵になっている。

 黙ってついていきながら、なんて言ったらいいか考えていた。

 一年生の二人を見つける前に、成宮に見つかってしまったのだ。

 自分で言うしかない。
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