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たくさんの書状の山を、帝の前に持っていき、その処理を手伝うように言われた。
書状は、ここにくるまでにある程度吟味されていて、ほとんど決まったも同然の案件だ。
目を通し、印を押す。
「お前が押せ」
帝が読んだ書状を、雅朝に渡してくる。
お互い無言のときが、しばらく続いた。
これを読めば、今の政の動きがよくわかる。
まさに現場に立っているのだ。
「あの・・・」
話しかけていいものか、迷っていると、帝が目を雅朝に向け、愛おしげに微笑した。
「もうしゃべってもいいぞ。話しかけてはならんのは、取次の時だけだ」
「はあ。よかった」
「なんだ」
「これは、読んでも大丈夫でしょうか」
「好きにすればいい」
「ありがとうございます」
「それらを読んでおけば、大臣どもが話すことが理解できるだろう。しかし、おもしろいか?」
帝が首を捻る。
「私には退屈で、居眠り必至だがな」
「この国で起きていることが、ここにいるだけでわかるなんて、すごいです」
「そうか。それはよかった」
嬉しそうに笑った後、ふと寂しげな横顔になる。
「来てくれて嬉しいぞ。もしかしたら、もう来ないのではないかと心配した。右近に会えば、私のことなど・・・」
書状を目で追いながら言う。
「・・・」
それを見て、ぎゅっと胸が締め付けられた。
この世に存在してはならぬ者、と右近が言っていたのを思い出す。
あくまでも影としての生き方しかない。
「初仕事はどうだ。緊張するか」
「それはもう・・・名前と顔を覚えるのにしばらくかかりそうです」
「だろうな。頭の出来がここでわかるな」
意地悪な笑みを浮かべる。
同情して損した。
「しかし、ここでは声は抑えろよ。誰がみているかわからんからな」
「・・・」
そう言われて、あたりを見回す。
貴族たちが普段気軽に踏み込めない場所だからか、とても静かで、人の気配はないようだった。
「うわっ」
雅朝がよそ見をしている間に、帝の手が伸びてきて、抱き寄せられた。
「声を出すな」
荒い息が耳にかかる。
「ご公務中では・・・」
「この時を、どれほど待っておったか」
耳を甘く噛まれて、体が熱くなる。
しばらく抱かれていないのに、体が覚えていて、さらに奥が疼く。
「何日、お前を抱いてない」
袖から差し込まれた手が、肌をまさぐってくる。
「あ・・・」
「色っぽい声を出すな。このまま繋がって公務をしようか」
「そんなこと、無理に・・・」
決まってる。
あらぬことを想像してしまい、汗が出る。
「いい具合に湿ってきたな」
「なっ・・・」
押し除けようとするが、力強い腕が、雅朝を捉えて離さない。
膝の上に乗せられ、腰を強く押しつけてくる。
本当に、ここでやるつもりなのだろうか。
「まさか、ここに、右近を受け入れていないだろうな」
菊座に指を当てて撫でながら、帝が思いがけないことを言う。
「はあ? ち、違います」
否定したが、かっと血が上った。
「ん? なぜ赤くなる? 怪しいな」
腰をうかして逃れようとするが、長い指が、生き物のように動いて、雅朝の中に入ってこようとする。
「ま・・・待って」
人が来る。
雅朝が押しのけるのと、帝が手を離すのが同時で勢いがついてしまい、派手な音を立てて、書状が散らばった。
御簾から、雅朝の上半身が飛び出す。
「おおっ、近衛どの、何をしておいでか」
仰向けに寝転んでしまった雅朝の顔を、先達が上から覗き込む。
「も、申し訳ございませぬ。転んでしまいまして・・・」
苦笑するしかなかった。
影の帝は、顔を扇で隠して咳き込んだ。
「お上、大事ございませぬか?」
先達が慌てているが、帝は肩を揺らしているので、笑っているに違いない。
書状は、ここにくるまでにある程度吟味されていて、ほとんど決まったも同然の案件だ。
目を通し、印を押す。
「お前が押せ」
帝が読んだ書状を、雅朝に渡してくる。
お互い無言のときが、しばらく続いた。
これを読めば、今の政の動きがよくわかる。
まさに現場に立っているのだ。
「あの・・・」
話しかけていいものか、迷っていると、帝が目を雅朝に向け、愛おしげに微笑した。
「もうしゃべってもいいぞ。話しかけてはならんのは、取次の時だけだ」
「はあ。よかった」
「なんだ」
「これは、読んでも大丈夫でしょうか」
「好きにすればいい」
「ありがとうございます」
「それらを読んでおけば、大臣どもが話すことが理解できるだろう。しかし、おもしろいか?」
帝が首を捻る。
「私には退屈で、居眠り必至だがな」
「この国で起きていることが、ここにいるだけでわかるなんて、すごいです」
「そうか。それはよかった」
嬉しそうに笑った後、ふと寂しげな横顔になる。
「来てくれて嬉しいぞ。もしかしたら、もう来ないのではないかと心配した。右近に会えば、私のことなど・・・」
書状を目で追いながら言う。
「・・・」
それを見て、ぎゅっと胸が締め付けられた。
この世に存在してはならぬ者、と右近が言っていたのを思い出す。
あくまでも影としての生き方しかない。
「初仕事はどうだ。緊張するか」
「それはもう・・・名前と顔を覚えるのにしばらくかかりそうです」
「だろうな。頭の出来がここでわかるな」
意地悪な笑みを浮かべる。
同情して損した。
「しかし、ここでは声は抑えろよ。誰がみているかわからんからな」
「・・・」
そう言われて、あたりを見回す。
貴族たちが普段気軽に踏み込めない場所だからか、とても静かで、人の気配はないようだった。
「うわっ」
雅朝がよそ見をしている間に、帝の手が伸びてきて、抱き寄せられた。
「声を出すな」
荒い息が耳にかかる。
「ご公務中では・・・」
「この時を、どれほど待っておったか」
耳を甘く噛まれて、体が熱くなる。
しばらく抱かれていないのに、体が覚えていて、さらに奥が疼く。
「何日、お前を抱いてない」
袖から差し込まれた手が、肌をまさぐってくる。
「あ・・・」
「色っぽい声を出すな。このまま繋がって公務をしようか」
「そんなこと、無理に・・・」
決まってる。
あらぬことを想像してしまい、汗が出る。
「いい具合に湿ってきたな」
「なっ・・・」
押し除けようとするが、力強い腕が、雅朝を捉えて離さない。
膝の上に乗せられ、腰を強く押しつけてくる。
本当に、ここでやるつもりなのだろうか。
「まさか、ここに、右近を受け入れていないだろうな」
菊座に指を当てて撫でながら、帝が思いがけないことを言う。
「はあ? ち、違います」
否定したが、かっと血が上った。
「ん? なぜ赤くなる? 怪しいな」
腰をうかして逃れようとするが、長い指が、生き物のように動いて、雅朝の中に入ってこようとする。
「ま・・・待って」
人が来る。
雅朝が押しのけるのと、帝が手を離すのが同時で勢いがついてしまい、派手な音を立てて、書状が散らばった。
御簾から、雅朝の上半身が飛び出す。
「おおっ、近衛どの、何をしておいでか」
仰向けに寝転んでしまった雅朝の顔を、先達が上から覗き込む。
「も、申し訳ございませぬ。転んでしまいまして・・・」
苦笑するしかなかった。
影の帝は、顔を扇で隠して咳き込んだ。
「お上、大事ございませぬか?」
先達が慌てているが、帝は肩を揺らしているので、笑っているに違いない。
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