31 / 44
4章 王女、王城へ乗り込む
4 王城へ
しおりを挟む
テオは、高く聳える塔のような城を見上げた。
他を圧する佇まいは、王が住む城に相応しい威厳がある。
奇しくも舞踏会が行われる夜に潜入したことがある。
その時とは違って、今日は堂々と入ることができる。
(リカ・・・)
会えるだろうか。
会えても親しく話すことはできないかもしれないが、それでも同じ屋根の下にいてくれると思うだけでも心強い。
難なく入り口から入り、取次の者に従って王城の中に入ることができた。
召使いの補充はよくあることらしく、拍子抜けするほどすんなりと受け入れられた。
着替えがすむと、さっそくに仕事を覚えるために、配属先へと連れて行かれた。
城の規模は、国力を表している。
リアよりも、ジュートよりも、ヤン王国の城は大きくて、働く使用人も多かった。
配属されるのは、掃除や片付けなどの、王家の人たちとは離れた雑用の係かと思っていたが違った。
意外にも、王家の近くで働くことになった。
そこが一番人が足りず、入れ替わりも激しく、なろうとする人が少ないところだという。
確かに、一番緊張し、気が抜けないところだ。
入りたての新人に務まるところではない。
食事の世話や、お茶を淹れたりするのは、簡単なようだが、作法があり、慣れていないと難しい。
「あの・・・私には、とても無理です」
ベテランの召使いについて歩き、説明を聞きながら、テオは思わず訴えてしまった。
「気持ちはわかるけど、とにかくやってみて。働くのは初めてではないのでしょ?」
三十歳くらいかと思われるその女性が苦笑した。
テオが、リアから来て、ジュートの王城で修行したことや、セド家で働いたことは隠している。
それでも、経験はあるという触れ込みであるため、抜擢されたのだろう。
「王太子さまは姿のいい者でなければ、どんなに仕事ができてもご不快になられます。あなたなら大丈夫よ」
「・・・」
それは、多少仕事ができなくても、美しければ許されるということか。
喜んでいいのか、複雑な気持ちになる。
この女性も、スラリとしていて美しかった。
でも、自分は、背が低いし、子供っぽく見えてしまう。
姿がいいとは言えないのではないだろうか。
(どうしよう・・・)
食堂に入って、昼食の準備に取り掛かっている。
美しい召使いに従って働くが、もうすでにドキドキしている。
これでは、いきなり王太子の顔を見ることになってしまう。
心の準備ができていない。
王太子は、テオの顔は知らないから、正体がバレる心配はないと思うが、平常心でいられるだろうか。
この食堂は、王太子と、王太子妃の二人が使うが、客があるときは大人数になることもあるし、天気のいい日は、ここではなく、外で食事をとることもあるようだ。
今は二人分の準備なので、楽な方だという。
少ない方が緊張すると思いながら、カトラリーを並べていく。
「あら、なかなか上手じゃない。手つきもいいし・・・」
「ありがとうございます」
「あなたのような子が来てくれてよかったわ」
中に入り込むには、敵を作らないことだ。
まずは成功したと言っていいかもしれない。
リカはここにはいないようだった。
王太子妃が入ってきた。
王太子妃は、実家から連れてきた侍女が世話をするため、こちらがすることは、後片付けくらいですることはない。
(綺麗・・・)
思わず見惚れてしまうほど美しく、ため息が漏れた。
琥珀色の美しい髪が腰のあたりまで長く、優雅で、おっとりとした雰囲気が好もしい。
テオは、部屋の隅に立って、見守るだけだったが、物静かなゆったりした時間が流れている。
そこだけ、違う刻が流れているかのようだった。
王太子を待つことなく、食事が進んでいく。
今日の王太子は、政務がたて込んでいて、食事も遅れるらしい。
夫である王太子が一緒でなくても、一向にかまわないようだった。
慣れているのだろう。
気にすることなく、侍女と話をしながら食事を楽しんでいるように見えた。
「ごちそうさま。美味しくいただきました」
王太子妃は、食事を終えて席を立ち、辺りを見回して言葉を発した。
皆にならってテオも頭を下げた。
王太子が入ってきたのは、王太子妃が退室してからかなり時間が経っていた。
(これが、王太子・・・)
凝視せず、見るともなしに目の端にとらえた。
さすがに存在感が違う。
王子よりもひと回りほど体が大きく、本当に兄弟なのかと思うほどに雰囲気が違った。
髪の色も、肌の色も違う。
確か、舞踏会で遠くから見たことがあった。
(意識しちゃだめ)
そう自分に言い聞かせても、体が震えてしまう。
この人が、リアを滅ぼしたのだ。
唇を噛み締め、うつむいた。
他を圧する佇まいは、王が住む城に相応しい威厳がある。
奇しくも舞踏会が行われる夜に潜入したことがある。
その時とは違って、今日は堂々と入ることができる。
(リカ・・・)
会えるだろうか。
会えても親しく話すことはできないかもしれないが、それでも同じ屋根の下にいてくれると思うだけでも心強い。
難なく入り口から入り、取次の者に従って王城の中に入ることができた。
召使いの補充はよくあることらしく、拍子抜けするほどすんなりと受け入れられた。
着替えがすむと、さっそくに仕事を覚えるために、配属先へと連れて行かれた。
城の規模は、国力を表している。
リアよりも、ジュートよりも、ヤン王国の城は大きくて、働く使用人も多かった。
配属されるのは、掃除や片付けなどの、王家の人たちとは離れた雑用の係かと思っていたが違った。
意外にも、王家の近くで働くことになった。
そこが一番人が足りず、入れ替わりも激しく、なろうとする人が少ないところだという。
確かに、一番緊張し、気が抜けないところだ。
入りたての新人に務まるところではない。
食事の世話や、お茶を淹れたりするのは、簡単なようだが、作法があり、慣れていないと難しい。
「あの・・・私には、とても無理です」
ベテランの召使いについて歩き、説明を聞きながら、テオは思わず訴えてしまった。
「気持ちはわかるけど、とにかくやってみて。働くのは初めてではないのでしょ?」
三十歳くらいかと思われるその女性が苦笑した。
テオが、リアから来て、ジュートの王城で修行したことや、セド家で働いたことは隠している。
それでも、経験はあるという触れ込みであるため、抜擢されたのだろう。
「王太子さまは姿のいい者でなければ、どんなに仕事ができてもご不快になられます。あなたなら大丈夫よ」
「・・・」
それは、多少仕事ができなくても、美しければ許されるということか。
喜んでいいのか、複雑な気持ちになる。
この女性も、スラリとしていて美しかった。
でも、自分は、背が低いし、子供っぽく見えてしまう。
姿がいいとは言えないのではないだろうか。
(どうしよう・・・)
食堂に入って、昼食の準備に取り掛かっている。
美しい召使いに従って働くが、もうすでにドキドキしている。
これでは、いきなり王太子の顔を見ることになってしまう。
心の準備ができていない。
王太子は、テオの顔は知らないから、正体がバレる心配はないと思うが、平常心でいられるだろうか。
この食堂は、王太子と、王太子妃の二人が使うが、客があるときは大人数になることもあるし、天気のいい日は、ここではなく、外で食事をとることもあるようだ。
今は二人分の準備なので、楽な方だという。
少ない方が緊張すると思いながら、カトラリーを並べていく。
「あら、なかなか上手じゃない。手つきもいいし・・・」
「ありがとうございます」
「あなたのような子が来てくれてよかったわ」
中に入り込むには、敵を作らないことだ。
まずは成功したと言っていいかもしれない。
リカはここにはいないようだった。
王太子妃が入ってきた。
王太子妃は、実家から連れてきた侍女が世話をするため、こちらがすることは、後片付けくらいですることはない。
(綺麗・・・)
思わず見惚れてしまうほど美しく、ため息が漏れた。
琥珀色の美しい髪が腰のあたりまで長く、優雅で、おっとりとした雰囲気が好もしい。
テオは、部屋の隅に立って、見守るだけだったが、物静かなゆったりした時間が流れている。
そこだけ、違う刻が流れているかのようだった。
王太子を待つことなく、食事が進んでいく。
今日の王太子は、政務がたて込んでいて、食事も遅れるらしい。
夫である王太子が一緒でなくても、一向にかまわないようだった。
慣れているのだろう。
気にすることなく、侍女と話をしながら食事を楽しんでいるように見えた。
「ごちそうさま。美味しくいただきました」
王太子妃は、食事を終えて席を立ち、辺りを見回して言葉を発した。
皆にならってテオも頭を下げた。
王太子が入ってきたのは、王太子妃が退室してからかなり時間が経っていた。
(これが、王太子・・・)
凝視せず、見るともなしに目の端にとらえた。
さすがに存在感が違う。
王子よりもひと回りほど体が大きく、本当に兄弟なのかと思うほどに雰囲気が違った。
髪の色も、肌の色も違う。
確か、舞踏会で遠くから見たことがあった。
(意識しちゃだめ)
そう自分に言い聞かせても、体が震えてしまう。
この人が、リアを滅ぼしたのだ。
唇を噛み締め、うつむいた。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」
その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。
努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。
だが彼女は、嘆かなかった。
なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。
行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、
“冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。
条件はただ一つ――白い結婚。
感情を交えない、合理的な契約。
それが最善のはずだった。
しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、
彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。
気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、
誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。
一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、
エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。
婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。
完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。
これは、復讐ではなく、
選ばれ続ける未来を手に入れた物語。
---
婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました
鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。
絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。
「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」
手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。
新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。
そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。
過去に傷ついた令嬢が、
隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。
――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
殿下、その婚約破棄の宣言が、すべての崩壊の始まりだと気付いていますか?
水上
恋愛
※断罪シーンは4話からです。
「……位置よし。座標、誤差修正なし」
私はホールのちょうど中央、床のモザイク模様が星の形を描いている一点に立ち、革靴のつま先をコンコンと鳴らしました。
「今日、この場に貴様を呼んだのは他でもない。貴様の、シルヴィアに対する陰湿な嫌がらせ……、そして、未来の国母としてあるまじき『可愛げのなさ』を断罪するためだ!」
会場がざわめきます。
「嫌がらせ?」
「あの公爵令嬢が?」
殿下は勢いづいて言葉を続けました。
しかし、この断罪劇は、誰も予想しなかった方向へと転がり始めたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる