逆襲の王女は敵国の王妃をめざす

かじや みの

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4章 王女、王城へ乗り込む

5 試される決意

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 王太子は執事を伴っており、今後の予定などを慌ただしく話しながら、席につく。

 出入り口には、護衛の騎士の姿もある。

 さすがに新人の出番はなく、壁になったつもりで息を殺していた。

 次第に震えはおさまってきたが、心臓がドキドキしていて、音が聞こえていないはずなのに、気付かれないか心配になるほどだった。

 緊張がなかなか解けないのは、王太子の機嫌が良くないせいもあるだろう。

 王家の食卓は、テオにとっては、心休まる楽しいひと時だったが、ここはそうではない気がする。

 味わうでもなく、お腹が空いているから食べているという感じだ。

 政務が忙しく、ゆっくり食事をしている暇はないのだろうか。

 昼食だからそうなのかもしれず、夕食は、妃さまとゆっくり過ごすのかもしれない。

 給仕の係の仕事を見ていたのだが、その仕事の見事さに見入ってしまった。
 さすがに王家の給仕は素晴らしい。

 視線を送りすぎたようだ。

 テオの視線が気になったのだろう、王太子が不意にこちらを向き、目があった。

 慌てて下を向いたが、ぶるりと側からみてもわかるほどに震えてしまった。

「見ない顔だな。新入りか」

 低いが、穏やかな声だった。
 怒っているわけではないらしい。

「はい。新しく雇い入れた者でございます」

「かわいそうに、震えておるではないか」
 王太子が笑っている。

「申し訳ございません。初めてのことで、緊張しておるのでしょう」
 と、隣についていてくれる美人の召使いが頭を下げ、テオもそれにならって頭を下げた。

「かまわん」

 これ以上見られたくないと思っていたが、王太子の興味をひいてしまったらしい。

「茶を淹れてもらおうか」
「はい」
「その新入りにだ」
「え?」

 驚いて顔を上げると、皆の視線がテオに集まっていた。

 誰も助け舟は出してくれない。
 ティーセットの場所を示されて、急いで向かう。

 頭の中は真っ白だったが、大きく息をつき、支度に取り掛かった。

 茶葉を蒸らしている間にも、深呼吸を繰り返して、気を鎮める。
 問題を起こしてはならない。
 敵意を見せてはならない。
 と、自分に言い聞かせた。

 トレーにカップを乗せて運ぶ。
 ソーサーの上に乗ったカップがかちゃかちゃと音を立てた。

 平常心のつもりでも、抑えるのは難しい。

 こぼさないように気をつけていると、足が進まない。

 王太子に近づくのだと思うと尚更だ。

 動作は慣れているはずなのに、ギクシャクとぎこちない動きになってしまっている。

「私が怖いか」

「あっ!・・・」

 ソーサーをテーブルに置こうとして、赤く色づいたお茶が、ついにカップから溢れてしまった。

 申し訳ございません、と言おうとして固まる。

 王太子の手が、テオの髪に触れてきたからだ。

「美しい髪だ。なぜ伸ばさんのだ」

「・・・」

 思わず王太子を睨みそうになって、顔を背けた。
 目を瞑る。

 そうしていないと、泣きそうにだった。

 忘れもしない。
 この髪は、リアの城を出るときに切ったのだ。

 もう戻れない幸せな日々との別れと、決意のために。

 それから、伸ばさずに、肩の上で切り揃えている。

 髪に触れた手が、頬をなで、顎までくると、先端を摘んで、強引に王太子の方に向かされた。

「!・・・」

 声が漏れそうになるのを堪える。

 目を合わせずにただ震えていた。

 怯えているように見えるのだろう。
 揶揄うような、いたぶって楽しむような笑みを浮かべた王太子の口元が見えた。

「なかなか美しい。名前は?」

「ソ・・・ソフィアと申します」

「殿下、そろそろ」

 執事に促されて、手が離れた。
 王太子は、お茶を飲み干して立ち上がる。

 その姿を、頭を下げて見送ると、力が抜けて座り込んでしまった。
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