千姫影道中〜秀頼の幽霊に取り憑かれた俺が挑む25番勝負〜

かじや みの

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プロローグ

姫路城を守るもの

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「着いたぜ、秀頼」

 俺は、声に出して呟き、目の前に聳える大手門と、その向こうに見える姫路城の大天守を見上げた。

「すっげえな」

 思わずため息がもれた。
 その口が開きっぱなしだ。

 漆喰の白が、太陽の光を反射して、キラキラ輝いていた。
 晩秋の澄んだ空気で、その光は鋭さを増して迫ってくる。
 壁ばかりではない。屋根の瓦も、そこにある何もかもが、神々しく光を放っているかのようだ。

 眩しくて、目を細めた。

 ここまでの道中にも見えていたが、大手門から見る城はまた格別だった。
 一番かっこよく見えるように設計されているに違いない。

「なるほど、な・・・」

 耳元で、抑揚の無い声が聞こえた。
 秀頼の声だ。

「どうした?」

 その声がわずかに震えているように感じて、ちらりと肩越しに視線を投げた。
 城の威容に、幽霊でも圧倒されているのだろうか。

「これが、本多・・・忠刻・・・」

 俺の肩に乗るように立っている秀頼の顔は、真っ直ぐ姫路城を見ている。
 いや、城を見ているようで、別のものを見ているのか。
 その口から漏れたのは、千姫の夫の名前だ。

「近づけない」

「は?」

 幽霊が怖がって震えてる?
 しかも、天下の豊臣秀頼が、だ。

 こんな弱気な秀頼は初めてだった。

 あとで話すが、母上である淀君とやり合った時でも、堂々と力強かったのに。

「お千は、守られているんだな」

 圧倒されているのは、今は亡き千姫の夫らしい。

「見えるの? 俺には見えないけど」
「感じるんだ。大きな愛で、包まれている。城ごと、すっぽりと。・・・すごい力だ」

 そう言う秀頼の顔は、ほっとしているような、悲しいような。

「よかったじゃん。じゃあ、やめとくか?」

 俺がここにいるのは、千姫に会いたいから連れてきて欲しいと頼まれたからだ。

「守られてるならいいじゃん」

 本多忠刻は、二人目の夫で、千姫が一目惚れしたとも噂されている人物だ。
 二人の仲はすこぶる良いと評判だった。
 死後も千姫を守っているなら、秀頼が出る幕はないのではないだろうか。

「今はな。姫路にいる間は、という意味だ」

 門が開いているのは、行列を迎え入れるためだ。

 千姫は、江戸に帰る。
 夫が亡くなり、もうここにいる必要もなくなったのだ。

 江戸には、姫の父と弟がいて、帰りを待っている。

 道中、江戸から迎えにきた行列を追い越してきた。
 もうまもなく到着するだろう。

「近づけないんじゃしょうがないだろ?」

 そもそも俺が千姫に会えるわけがない。
 幽霊である秀頼なら、なおさら無理だから、俺が駆り出されたということなのだが。

 秀頼の手足になり、口になって、千姫に思いを伝えるために、ここに来た。

 取り憑く人物を間違えたんじゃないのか。

 俺には正直、どうでもいいことなのだ。

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