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プロローグ
秀頼の横顔
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秀頼と出会ったのは、大坂城だ。
まあ、当然と言えば当然だが。
大坂城は、城普請の真っ最中。
新しい城を建設するために、たくさんの大名家が駆り出されている。
そのため、武士と人足たちが入り乱れて戦場のような様相だった。
俺も日銭を稼ぐために、人足として働いていた。
普請場は、手っ取り早く稼げるから、よく潜り込んでいる。
おかげで忍びの仕事がない時でも、飢えることはない。
十年前、ここで、豊臣家は滅びた。
もうかつての大坂城の面影は何もない。
何もかもが破壊されて、一から造られていた。
十年前、俺はまだ子供で、大坂みたいな町には行ったことがなかったから、豊臣の城がどんな城だったか見たことないけどね。
新しい城は、徳川のものだ。
豊臣の記憶は、塗り替えられて消えていく。
まさに新しい時代を象徴するかのような城になる。
「でっけえ石だなぁ。こんなんどうやって運んだんだよ」
とため息が出るほどの巨大な石が使われている。
石垣が組み上がったところも多いから、横目に見ながら思わず声が出てしまう。
俺は石積み職人でも、大工でもないから、もっぱら資材運びだ。
砂埃が舞う普請場で、指図されるままに、動くだけだった。
ふと石垣の影に、何かが見えた。
(ああ・・・)
俺は、子供の頃から幽霊が見える。
城あとには、よく現れるそれは、全然珍しくない。
時代遅れの鎧を着ていたり、ざんばら頭だったり、いつの時代かと思うような着物で立っていたりするから、生きている人間と見分けはつきやすい。
いつもはまじまじと見ないようにしているのだが、ふと目に入ったそれは、思わず二度見してしまうほど気になってしまった。
それは、鎧を着ていない。
貴族のようなふわりと大きな袖の、見るからに上等な着物を着ている。
空を見上げている横顔が透き通るような美しさだった。ああ、実際透き通っているんだが。
(女?)
髪を垂らしていたから、男か女かはっきりしなかった。
だから見てしまったのかもしれない。
その中性的な感じが儚さを際立たせているようだ。
あたりは巻き上がる砂埃で、靄がかかったように視界が悪く、目を凝らす。
あまりに熱心に見過ぎたのだろう。
それは、俺の視線を感じたのか、こっちを見た。
目が合うときは、背筋がヒヤリとするものだ。
やばいと思ったが、そういう時ほど金縛りにあったように動けない。
「見えるのか」
それが言った。
頭の中に響くように声が聞こえた。
目が吊り上がり、空を見ていたときの柔らかな視線が、刺すような鋭いものに変わっている。
見られて怒っている?
「悪かったな」
普段なら、すっと視線を外してその場を離れるのだが、この時はなぜか、俺も動けなかったのだ。
それが放つものが、今まで出会ったどの幽霊よりも高貴な空気をまとっていた。
公家のようであり、武士のようでもある。
生きていたら絶対に会えない身分だったんだろう。
「私が、見えるのだな」
それが念押ししてきた。
「見えてなかったら、目があったりしないだろ」
騒がしい普請場でも、声は届く。
「お前を見込んで頼みたいことがある」
「やだ」
幽霊の頼み事なんて、いちいち聞いていられない。
「お前にしか、頼めないことだ」
「そんなこと、言われても、嫌なものは嫌だ。仕事しなきゃなんないし」
無視して仕事に戻ろうとすると、それは言った。
「私は、豊臣秀頼だ」
まあ、当然と言えば当然だが。
大坂城は、城普請の真っ最中。
新しい城を建設するために、たくさんの大名家が駆り出されている。
そのため、武士と人足たちが入り乱れて戦場のような様相だった。
俺も日銭を稼ぐために、人足として働いていた。
普請場は、手っ取り早く稼げるから、よく潜り込んでいる。
おかげで忍びの仕事がない時でも、飢えることはない。
十年前、ここで、豊臣家は滅びた。
もうかつての大坂城の面影は何もない。
何もかもが破壊されて、一から造られていた。
十年前、俺はまだ子供で、大坂みたいな町には行ったことがなかったから、豊臣の城がどんな城だったか見たことないけどね。
新しい城は、徳川のものだ。
豊臣の記憶は、塗り替えられて消えていく。
まさに新しい時代を象徴するかのような城になる。
「でっけえ石だなぁ。こんなんどうやって運んだんだよ」
とため息が出るほどの巨大な石が使われている。
石垣が組み上がったところも多いから、横目に見ながら思わず声が出てしまう。
俺は石積み職人でも、大工でもないから、もっぱら資材運びだ。
砂埃が舞う普請場で、指図されるままに、動くだけだった。
ふと石垣の影に、何かが見えた。
(ああ・・・)
俺は、子供の頃から幽霊が見える。
城あとには、よく現れるそれは、全然珍しくない。
時代遅れの鎧を着ていたり、ざんばら頭だったり、いつの時代かと思うような着物で立っていたりするから、生きている人間と見分けはつきやすい。
いつもはまじまじと見ないようにしているのだが、ふと目に入ったそれは、思わず二度見してしまうほど気になってしまった。
それは、鎧を着ていない。
貴族のようなふわりと大きな袖の、見るからに上等な着物を着ている。
空を見上げている横顔が透き通るような美しさだった。ああ、実際透き通っているんだが。
(女?)
髪を垂らしていたから、男か女かはっきりしなかった。
だから見てしまったのかもしれない。
その中性的な感じが儚さを際立たせているようだ。
あたりは巻き上がる砂埃で、靄がかかったように視界が悪く、目を凝らす。
あまりに熱心に見過ぎたのだろう。
それは、俺の視線を感じたのか、こっちを見た。
目が合うときは、背筋がヒヤリとするものだ。
やばいと思ったが、そういう時ほど金縛りにあったように動けない。
「見えるのか」
それが言った。
頭の中に響くように声が聞こえた。
目が吊り上がり、空を見ていたときの柔らかな視線が、刺すような鋭いものに変わっている。
見られて怒っている?
「悪かったな」
普段なら、すっと視線を外してその場を離れるのだが、この時はなぜか、俺も動けなかったのだ。
それが放つものが、今まで出会ったどの幽霊よりも高貴な空気をまとっていた。
公家のようであり、武士のようでもある。
生きていたら絶対に会えない身分だったんだろう。
「私が、見えるのだな」
それが念押ししてきた。
「見えてなかったら、目があったりしないだろ」
騒がしい普請場でも、声は届く。
「お前を見込んで頼みたいことがある」
「やだ」
幽霊の頼み事なんて、いちいち聞いていられない。
「お前にしか、頼めないことだ」
「そんなこと、言われても、嫌なものは嫌だ。仕事しなきゃなんないし」
無視して仕事に戻ろうとすると、それは言った。
「私は、豊臣秀頼だ」
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