千姫影道中〜秀頼の幽霊に取り憑かれた俺が挑む25番勝負〜

かじや みの

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プロローグ

1番勝負 淀君(下)

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「何を言う。そなたがおらねば、母は強くなれぬ。そばにおるのじゃ」
「私は、お千に会いに行きます」

 秀頼がそう言っても、淀君は怒らなかった。
「馬鹿な。会いに行ったとて、姿も見えねば話もできぬ。行ってどうなるものでもなかろうに」
 息子は母から離れないという確信と自信が、余裕を生み出しているのか。

「それでも、行かねばならぬのです」
「秀頼・・・」

 秀頼から、力強い気が立ち上る。

 俺は、どうすれば二人を引き離せるのか考えるてみるが、いい考えが浮かんでこない。
 そもそも親子の話に割り込んでいいのか。

「母を捨てるのか」
「そうではありません。離れていても、親子に変わりはありませぬ。母上のことは、大切に思っております」

 秀頼は説得しようとしているようだが、聞くようなたまとは思えない。

 だが、一人で動けない秀頼が、どうやって千姫に会いに行くのだ。

「しょうがねえな。俺が連れて行ってやるよ。どうすればいいかわからないけど。勝手についてくれば」

 俺が出した答えだ。
 二人を引き離すには、これしか考えられない。

 何だか嵌められたような気がしないでもなかったが、このまま放ってはおけなかった。
 秀頼が一体何をしようとしているのかも気になるし。

「許さぬ!」

 怒りは俺に向けられる。そりゃ、怒るよな。
 風が吹きはじめ、次第に激しさを増していった。

 淀君を封印すればいいのかもしれないが、そんな高度な技は持っていない。

「連れて行ってくれるのなら、名前を教えろ!」

 秀頼が立ち塞がりながら、俺に言う。

 名前を知っているのといないのとで、結びつく力が違ってくるということだろうか。

 今度の秀頼は、傍観者ではなかった。

「邪魔するな! 秀頼」

 飛んでくる物が、俺に当たらない。

「母に逆らうのか!」

 淀君の迫力に、俺の方がたじろぐ。
 本当に怨霊になってしまわないだろうか。

「行くのなら、この母を殺してから行くがよい」

 幽霊を殺す?
 そう言われて、秀頼の気も高まっていき、今にも戦いが始まりそうだ。

 人は死んでも、生きている時と同じような思考に囚われているのだろうか。

 でも、親子で殺し合うところなど見たくない。

「お方さまの相手は、俺がする」

 淀君が俺を見て、不敵な笑みを浮かべた。

「望むところ。受けて立とうぞ」

「いや。母上の相手は私でなければならない」
 秀頼が前に出て、刀を抜いた。

「やむを得ぬ」

 音はしないが、力と力がぶつかり合う。
 周りの空気が歪む。

 親子が刀を手にして、戦っていた。

 躊躇うことなく刀を振るう淀君に、秀頼がわずかに押されている。

 親に刃を向けることは、並大抵ではない。
 覚悟が試されているのだ。

「戦では、まだまだわらわに敵わぬ」

「いいえ。勝ってみせます」

 両者とも一歩も譲らず、刀を振るい続けている。
 肉体がないもの同士の戦いは、終わりがないように思えた。

 肉体がないからこそ、二人は戦えるのか。
 魂に、肉親や血など関係ないかもしれない。

 でも、戦国の世では、当たり前にあったことだ。

 己の正義を貫くために。
 正義と正義の戦いは、生き残るために。いや、死者であっても譲れないものがあるのだろう。

 俺は、まだ、名前を言っていないことに気がついた。
 こっちは生身の人間だ。
 雨もやまないし、これ以上ここに突っ立っているのもきつかった。

「俺の名は三郎! 秀頼、来い!」

 そう叫ぶと、走り出した。
 人に取り憑かなければ動けないのなら、ここから離れればいい。

「おのれっ」

 振り返ってみると、秀頼が、淀君の投げた刀を弾き、己の刀を投げ、石垣に突き立てていた。

 大坂城の石垣は、切込み接ぎで、隙間なく組まれている。
 隙間はないはずだが、刀は石を突き通し、淀君の着物の袖を石垣に縫い付けたのだ。
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