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一章 姫路編
さらば姫路
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案内されたのは東屋だった。
遠くで監視する者の姿があるから、勝手なことはできない。
「千姫は本当に一緒に来ると思うか?」
秀頼に声をかけた。
千姫が一人で、いや、十兵衛も一緒だとは思うが、一介の草の言う通りに旅をするとは思えなかった。
「ありえないだろ」
「そうだな。ありえんな」
「もう、人ごとみたいに言って。何を言うのかとヒヤヒヤしたぞ」
「黙っていてすまなかった」
「江戸に行くったって、姫がついて来ないんじゃ意味ないし、その場合はどうするんだよ」
俺の言葉は、姫が来ない前提になっている。
「来ないときは・・・どうするかな」
「大坂に帰る?」
「そんなことはしない。ずっと三郎のそばにいようか。好きなところに行け」
「はあ? それはちょっと・・・」
苦笑いが漏れた。
遠慮願いたい。
「お千なら、心配ない」
キッパリと言い切る。
「ここで舐めた辛酸が、さらにお千を強くしたはずだ」
秀頼の横顔が、その辛さをなぞるように陰った。
十兵衛が来る。
「男山で待てと、姫が仰せだ」
と、俺の刀を差し出した。
「これがないと寂しいだろうから返しておく。川の向こうだ。すぐにわかる」
城の外、天守とは反対の方角だ。
その示した手を俺に伸ばして胸倉を掴んだ。
「妙な真似をすれば、即斬るからな」
脅すように睨んできたが、殺気はなかった。
行け、と突き放す。
後ろの秀頼に目をやり、何か言いたそうだったが、そのまま足早に戻っていった。
広場は迎えの行列が到着したためにごった返し、出ていく俺を咎める者もいなかった。
「これ、登るの?」
男山の入り口、石段が目の前に伸びている。
「千姫、これ、登ってくるのか?」
登り切ると、絶景が待っていた。
「すっげえ」
勇壮な白亜の城と、姫路の町が一望できる。
寝そべって休みながら待つことにした。
どれくらい刻が経ったのか、人の近づく気配で目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまっていた。
「これは、絶景じゃのう」
女の声がする。
旅装の女が感嘆の声を漏らした。
「千姫?」
まじか。
本当に来たのか。
後ろを振り返ると、十兵衛が立っていた。
間違いないようだ。
豪華な打ち掛けを脱ぎ捨てて、武家の妻が旅をするような軽装に着替えている。
「小さい姫は大丈夫だったのですか」
千姫の娘は、母親がいないことで騒いだりしないのかという意味だ。
「乳母が一緒ゆえ、大事ない。よう言い聞かせてある。母さまも後からすぐに追いかけるゆえ、騒いではならぬと。賢く、聞き分けの良い子じゃ。昔の妾にそっくりじゃ。妾もあの年頃に親元を離れて豊臣家に輿入れした」
城に目を止めながら笑った。
座るのにちょうどいい石に腰掛け、おもむろにキセルを取り出す。
一服つけるようだ。
火は十兵衛が差し出した。
吸い付けて煙を吐く。
「見納めじゃのう」
うっとりと目を細めて、十年を振り返っているのか。
そう言ったきり、長い間、黙って煙を燻らせていた。
「さらばじゃ、姫路」
遠くで監視する者の姿があるから、勝手なことはできない。
「千姫は本当に一緒に来ると思うか?」
秀頼に声をかけた。
千姫が一人で、いや、十兵衛も一緒だとは思うが、一介の草の言う通りに旅をするとは思えなかった。
「ありえないだろ」
「そうだな。ありえんな」
「もう、人ごとみたいに言って。何を言うのかとヒヤヒヤしたぞ」
「黙っていてすまなかった」
「江戸に行くったって、姫がついて来ないんじゃ意味ないし、その場合はどうするんだよ」
俺の言葉は、姫が来ない前提になっている。
「来ないときは・・・どうするかな」
「大坂に帰る?」
「そんなことはしない。ずっと三郎のそばにいようか。好きなところに行け」
「はあ? それはちょっと・・・」
苦笑いが漏れた。
遠慮願いたい。
「お千なら、心配ない」
キッパリと言い切る。
「ここで舐めた辛酸が、さらにお千を強くしたはずだ」
秀頼の横顔が、その辛さをなぞるように陰った。
十兵衛が来る。
「男山で待てと、姫が仰せだ」
と、俺の刀を差し出した。
「これがないと寂しいだろうから返しておく。川の向こうだ。すぐにわかる」
城の外、天守とは反対の方角だ。
その示した手を俺に伸ばして胸倉を掴んだ。
「妙な真似をすれば、即斬るからな」
脅すように睨んできたが、殺気はなかった。
行け、と突き放す。
後ろの秀頼に目をやり、何か言いたそうだったが、そのまま足早に戻っていった。
広場は迎えの行列が到着したためにごった返し、出ていく俺を咎める者もいなかった。
「これ、登るの?」
男山の入り口、石段が目の前に伸びている。
「千姫、これ、登ってくるのか?」
登り切ると、絶景が待っていた。
「すっげえ」
勇壮な白亜の城と、姫路の町が一望できる。
寝そべって休みながら待つことにした。
どれくらい刻が経ったのか、人の近づく気配で目が覚めた。
いつの間にか眠ってしまっていた。
「これは、絶景じゃのう」
女の声がする。
旅装の女が感嘆の声を漏らした。
「千姫?」
まじか。
本当に来たのか。
後ろを振り返ると、十兵衛が立っていた。
間違いないようだ。
豪華な打ち掛けを脱ぎ捨てて、武家の妻が旅をするような軽装に着替えている。
「小さい姫は大丈夫だったのですか」
千姫の娘は、母親がいないことで騒いだりしないのかという意味だ。
「乳母が一緒ゆえ、大事ない。よう言い聞かせてある。母さまも後からすぐに追いかけるゆえ、騒いではならぬと。賢く、聞き分けの良い子じゃ。昔の妾にそっくりじゃ。妾もあの年頃に親元を離れて豊臣家に輿入れした」
城に目を止めながら笑った。
座るのにちょうどいい石に腰掛け、おもむろにキセルを取り出す。
一服つけるようだ。
火は十兵衛が差し出した。
吸い付けて煙を吐く。
「見納めじゃのう」
うっとりと目を細めて、十年を振り返っているのか。
そう言ったきり、長い間、黙って煙を燻らせていた。
「さらばじゃ、姫路」
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