雪の匣庭

東崎 惟子@ 日曜西C24a

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僕から俺へのラブレター

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 先刻は電話口で声を荒げてしまい失礼。
 今のうちにもうひとつ謝っておこう、小説家である君からしたら、あまりに陳腐な書き出しになってしまうことを。だが、君と違って空想能力に乏しい僕にはこんな常套句しか思いつかないんだ。
 
――このメールを読んでいるとき、僕はこの世界にいないだろう。
 
 いや、僕も考えなかったわけじゃないさ。夢の世界の住人が、僕という夢吐き装置を失ってなお健在なのかということはね。僕のことをよく知る君からすれば、このメールは僕が長年貫いてきた主義主張と相反しているものに読めるだろう。そのとおりだ。
 だが、最後に僕のことを一度くらいは裏切ってもいいかなと思うんだ。ほかならぬ君の為だからね。
 だって、僕がいなくなったら、きっと誰も君の心を掻き立てることはできないだから。 せめてもの置き土産というわけだ。寂しくなったら何度だって読み返してくれてかまわない。
 読解能力に秀でている君ならば、もう気づいているだろうが……このメールには大したことは書いていない。
 この手紙はブーケトスなんだよ。
 互いに婚期を逃した身だ。知ってのとおり、僕は運良く相伴に預かることができたが……。どうせ君は、これからも初恋の相手を探して津々浦々を彷徨うのだろう? 
 その様子を想像するだけで、愛おしさとか、哀れっぽさとか、滑稽さとか、不毛さとかで色んな感情が込み上げてくる。このメールに添付の画像を見たら……悔しさに地団駄を踏むのだろう。ああ、嫌味っぽく聞こえたらすまないね。最後くらい大目に見たまえよ。言ってしまえば、僕はまさにこれからヴァージンロードへ踏み出すところなのだからね。幸せのど真ん中にいるのさ。
 ああ、話がズレた。
 要はね、君が心配だって言いたかったんだ。夢の世界では、君だけが僕に近しいところにいた。僕が君の心を騒がすように、君も僕の心を揺さぶっていたんだよ。僕達という小石は、いつだって互いの湖面を打ち据えて波紋を広げていたのさ。
 もし、君がまだ地面に足をつけて、目にパソコンの光を受けて、拳を怒りに任せて机に叩きつけて痛みを感じてられるのならば。
 そこが、万一夢でないのなら。
 君のことだけが、僕の唯一の名残なんだ。
 んん、おかしいな。ブーケトスのはずがこれではまるでラブレターだね。
 
 詮なき雑談で内容が薄まる前に、筆を置かせてもらおう。
 どうか、君にも、良き出会いがあらんこと。 
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