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安藤美雪(七月二十日)
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【安藤美雪】
七月二十日
「ね、夏休みはまた海行こうよ、海」
高校二年の一学期。終業式を終えた教室。
私、安藤美雪はいつもの友達四人組――碧海渚沙、西都姫子、月宮恋衣――と夏休みの予定について話をしていた。……いや、ひとりだけ『友達』と言ってよいか判断がつきかねる者がいるのだが……。
月宮恋衣は感情のない顔をしてうつむいている。彼女だけは友達ではないかもしれない。
四人は小学生の頃から幼馴染であった。親同士の交流が知り合うきっかけであり、今でも四人の親は仲が良い。だが、その子供達までもが必ずしも仲がいいわけではなかった。
「…………」
月宮恋衣だけは孤立していた。
月宮恋衣は喋らない。元来、彼女は人付き合いが苦手な子だったが、高校に上がったあたりからより孤独の色を強めいていった。かつては口下手なりに輪に溶け込もうとしていた様子も見られたが、今ではその努力も放棄してしまったようだった。恋衣を除いた三人の関係はなんとか体裁を保てる程度には良好であることが、より彼女を孤立させているようにも見えた。しかし、親同士の交流の手前、放逐することもできずただ地縛霊のように黙ってグループに所属しているのだった。一緒に遊びに行っても彼女から口を開くことはほとんどない。三人とも彼女のことを不気味に感じている。
だから、恋衣が寡黙になってからいじめに発展するまではそう時間はかからなかった。
「恋衣さぁ、アンタも海来るの?」
私の問いかけに恋衣は僅かに首を動かして頷いた。否定しないことは聞く前から分かり切っていることだった。四人は毎年夏休みに海に行くのが恒例になっていて、これに参加しないとなれば親が訝るに決まっている。
「どうせろくに喋んないくせに。行く意味ないんじゃない?」
あからさまに嫌悪を込めた言葉にも恋衣は反応を示さない。無力な人間に対する優越感を抱ける一方で、無視されている気もして腹が立つ。
「そうそう。去年だって、浜辺に人形置いて、キモイ虫みたいなのと遊んでたじゃん。山に行けっての。学校の裏にあるじゃん」
今日は姫子も攻勢に加わった。虫の居所が悪い時などは姫子も恋衣を嬲って遊ぶ。
だがはっきり言って、出しゃばりはウザイ。今は、私がこいつを虐めたいのだ。彼女の瞳の奥には嫉妬の火種がくすぶっているのも気にくわない。
一方、渚沙は恋衣と同じように無言に徹する。いじめを止めることはしないが、庇うこともしない。静観がモットーなので、姫子よりは信用できる。
「……まあ、いいや。どうせ私が何言っても仕方ないし。それよりさ、今日カラオケいこうぜ、カラオケ」
示さないといけない。
月宮恋衣は、私のものだということを。
駅の近くまで行くと寂れたカラオケがある。ここが私達四人の行きつけだった。だが、もし本当にカラオケが目的だったら、いくら安いと言ってもここを選ぶことはないだろう。内装が汚れているのをはじめ、ところどころ壁紙が剥がれているし、マイクによっては変な臭いがするものもある。トイレの衛生状態など言わずもがな。ここにカラオケ屋として機能など求めてはいない。
欲しているのは、密室空間である。
――ぺちゃ、くちゃ……じゅ……じゅる。
下腹部を這うじっとりとした快感。思わず手に力が入って、恋衣の顔を思い切り押し付けてしまう。彼女の小さな鼻が敏感なところに触れて刺激が増す。気持ち悪いが性感帯への刺激に体は正直だ。
「そう……そこ。そこだよ、やればできるじゃん……んっ」
本来歌声が響いていなければならない空間には淫猥な水音だけが漂っている。
座っている私のスカートの中に恋衣は顔を埋めている。この視界がたまらなく好きだ。文句も言わずに私の一番汚いところを舐り続ける恋衣。そして私達二人をうんざりした表情で……けれど腹の内の羨望と嫉妬を隠し切れずに眺めているだろう姫子の視線。性的快楽以上に恋衣を独占できているという優越感がもたらす気分の良さの方がたまらない。でなければわざわざ彼女の目の前で情事に耽ったりはしない。
月宮恋衣は不思議な存在だった。
確実に言えるのは、私達三人は彼女のこと大嫌いだったということ。いや、もっといえば嫌いですらないのかもしれない。彼女は路傍の石や飛び交う虫けらのごとく無意味で、関心を惹きつけるような要素はないのだ。それは間違いない。
なのに。なのにだ。
どういうわけか、恋衣を自分の物にしたくなる。
それが私と姫子の間での共通見解だった。もちろん一度だって言葉にしたことはないが、各々の目が何よりも雄弁にそれを語っていた。
たとえばこれが恋心ならば、話はもっとかわいらしく、甘酸っぱくまとまっていたのかもしれない。
だが恐ろしいことに……前述のとおり全員、月宮恋衣のことが嫌いなのである。だから話は単純に片付いてはくれない。
私は幼いころから格闘技をやっているから、そんじょそこらの男子よりも腕っぷしが強い。単なる恋慕だったのなら、暴力にものを言わせて奪ってしまえばいい。けれど、そうじゃないのだ。月宮恋衣は虫けらだ。そんなもののために躍起になっているところを見せるのは、ひどくプライドを傷つけられる気がした。それについては姫子も同じように考えているらしい。
だから恋衣が絡むと、私と姫子の間には互いの出方を伺うような、どんよりとした陰鬱な空気が蔓延していくのだった。
けれど、私の方が一歩リードしていると自負している。
こうやって性的いじめのていで、限りなくセックスに近いことをさせているのだから。
「はいはーい、ちょっと失礼」
膝立ちで奉仕している恋衣のスカートに、姫子は両手を差し入れ、するすると下着を下ろして掠め取る。
「これで五千円になるってんだからぼろいよね~」
恋衣の下着を変態に売りつけるのが姫子の金策らしい。だが本当に下着を売り払っているのか……私は怪しいと思っている。
まあ、かまわないか。所詮下着相手にしか欲情できないのなら私の勝ちだ。なにせ私はこうして本人を占有しているのだから。
とはいえ、それでも私への対抗心があけすけなので気に入らない。指に通した下着をひらめかせながら自分の席に戻るときにふっと口元に湛えた笑みも何か余裕を含んでいて釈然をしない。まだ自分に勝ち目があるとでも思っているのだろうか。むかつく。
そうだ。今日はもういけるところまでいってしまおう。
そう心に決め、一曲も歌わないまま、カラオケを後にする。
私達は駅前で解散した。けれど私だけは家路につくふりをして恋衣の後を追った。
日はもう沈んでいて、町を紫がかった闇が満たしている。恋衣が公園に差し掛かったところで、後ろから声をかけた。
「何」と機械的に答える恋衣に返事をせず、私は彼女の腕を引っ張って公園の茂みに連れ込んだ。明らかに差し引きならぬ雰囲気を纏っていただろうに、やはり彼女は無抵抗で引きずられた。
ここならば、背の高い草木が壁になってくれて公園の外からは絶対に見えない。とはいえ普段ならこんな場所でしない。彼氏にだってやらせたことはない。
けどカラオケボックスでの決意から一時間強。もう我慢できなかった。
私は恋衣のことを地面の上に押し倒して覆いかぶさった。キスできそうなくらいに顔が近づく。
大きな瞳に小さな唇。
恋衣はかわいい顔をしている。無感情なのもあわさって、造形だけを見ればまるで人形のようだ。もし私がこの可愛さに惚れているというのなら話は簡単だったろう。だが違う。ここまで近づいておいて、私はキスがしたいわけではない。
なら私は何がしたいのか。
何がしたくてこの子を押し倒したのだろう。
わからない。
ただ心の内に潜む得体のしれない暴力的な衝動に勝てなくて、そうしたのだ。
ともするとこれが恋心なのだろうか。
こんなにも昏く、暗澹とした感情の澱が……恋なのだろうか。
「あの……門限をもう過ぎているので……」
しばらく私は恋衣のことを見下ろし続けて、ようやく覚悟を決めてから唇を重ねた。奉仕させているときもそうだったけど、特別気持ちがいいわけではない。むしろ同性とこんなことしているなんて自己嫌悪がじわじわと体の奥底から上ってくるのがわかる。
でも止められない。
舌を侵入させ、口内を蹂躙する。気持ちの悪い領域に自ら踏み込んでいく。
私は、恋衣のはじめてにならないと気が済まないようだ。
それこそが何より彼女を占有している証拠のように思え、私はそれが欲しくて仕方なかった。
唇を重ねたまま、指をスカートの中に忍ばせる。秘裂を優しく撫でるとすぐに蜜が溢れてきた。
「は……はぁ――は……」
見れば恋衣の顔が上気して、息も荒くなっている。機械みたいな女だが、性感帯は備わっているらしい。この表情を知っているのもきっと私だけだろう。そう思うと指使いも激しくなった。
……嫌な予感がした。
それは女性でなければわからない微細な違和感である。けれど掻き混ぜているうちに徐々にそれは確信へと変わり、瞬間、地獄めいた憎悪の炎が私の中に渦巻いたのである。
「……姫子ね。どこまでしたの」
「どこまでって……」
「何をされたのかって聞いてんだよ」
「指とか玩具で……」
私は先を越された怒りを拳に込めて、恋衣の薄い腹に叩きつけた。不意の衝撃に恋衣は唾液をまき散らしてえずいた。
くっそ、だからか。だからこのところ姫子は余裕ぶってたんだ。
怒りに任せて何度も恋衣に八つ当たりをして殴り続ける。仰向けになっている恋衣は振り下ろされる拳の衝撃を受け流すことができず、何度も体を跳ねさせた。
悔しい。悔しい悔しい悔しい!
前戯だけで勝った気でいた私が恨めしくて仕方ない。最初に舐めさせた時に、そのまま最後までやっちゃえばよかったんだ。
「げっ……ぐっ……うげぇ……!」
行き場のない怒りが幾度となく恋衣に振り下ろされ、短く汚らしい断末魔をあげさせる。それもまた私の気に障った。
何か、何かないか。
私がこいつのはじめてになれる何か。
こいつを私のモノにできる何か……。
殴るのをやめても彼女は目の端に涙を浮かべながら、何度も苦しそうに呻いている。それを見て、ひとつの悪魔的なアイデアが脳裏に浮かんだ。
「なあ、恋衣。姫子は優しかったかよ?」
喘ぐ恋衣はまだ返事をできる状態ではなかった。きっと優しくされたのだろう。少なくともこんなに暴力的だったはずがない。だって彼女は抵抗しないのだから。力でねじ伏せる必要がないのだ。
だったら……。
この子を犯せば、それはきっとこの子のはじめてだろう。
七月二十日
「ね、夏休みはまた海行こうよ、海」
高校二年の一学期。終業式を終えた教室。
私、安藤美雪はいつもの友達四人組――碧海渚沙、西都姫子、月宮恋衣――と夏休みの予定について話をしていた。……いや、ひとりだけ『友達』と言ってよいか判断がつきかねる者がいるのだが……。
月宮恋衣は感情のない顔をしてうつむいている。彼女だけは友達ではないかもしれない。
四人は小学生の頃から幼馴染であった。親同士の交流が知り合うきっかけであり、今でも四人の親は仲が良い。だが、その子供達までもが必ずしも仲がいいわけではなかった。
「…………」
月宮恋衣だけは孤立していた。
月宮恋衣は喋らない。元来、彼女は人付き合いが苦手な子だったが、高校に上がったあたりからより孤独の色を強めいていった。かつては口下手なりに輪に溶け込もうとしていた様子も見られたが、今ではその努力も放棄してしまったようだった。恋衣を除いた三人の関係はなんとか体裁を保てる程度には良好であることが、より彼女を孤立させているようにも見えた。しかし、親同士の交流の手前、放逐することもできずただ地縛霊のように黙ってグループに所属しているのだった。一緒に遊びに行っても彼女から口を開くことはほとんどない。三人とも彼女のことを不気味に感じている。
だから、恋衣が寡黙になってからいじめに発展するまではそう時間はかからなかった。
「恋衣さぁ、アンタも海来るの?」
私の問いかけに恋衣は僅かに首を動かして頷いた。否定しないことは聞く前から分かり切っていることだった。四人は毎年夏休みに海に行くのが恒例になっていて、これに参加しないとなれば親が訝るに決まっている。
「どうせろくに喋んないくせに。行く意味ないんじゃない?」
あからさまに嫌悪を込めた言葉にも恋衣は反応を示さない。無力な人間に対する優越感を抱ける一方で、無視されている気もして腹が立つ。
「そうそう。去年だって、浜辺に人形置いて、キモイ虫みたいなのと遊んでたじゃん。山に行けっての。学校の裏にあるじゃん」
今日は姫子も攻勢に加わった。虫の居所が悪い時などは姫子も恋衣を嬲って遊ぶ。
だがはっきり言って、出しゃばりはウザイ。今は、私がこいつを虐めたいのだ。彼女の瞳の奥には嫉妬の火種がくすぶっているのも気にくわない。
一方、渚沙は恋衣と同じように無言に徹する。いじめを止めることはしないが、庇うこともしない。静観がモットーなので、姫子よりは信用できる。
「……まあ、いいや。どうせ私が何言っても仕方ないし。それよりさ、今日カラオケいこうぜ、カラオケ」
示さないといけない。
月宮恋衣は、私のものだということを。
駅の近くまで行くと寂れたカラオケがある。ここが私達四人の行きつけだった。だが、もし本当にカラオケが目的だったら、いくら安いと言ってもここを選ぶことはないだろう。内装が汚れているのをはじめ、ところどころ壁紙が剥がれているし、マイクによっては変な臭いがするものもある。トイレの衛生状態など言わずもがな。ここにカラオケ屋として機能など求めてはいない。
欲しているのは、密室空間である。
――ぺちゃ、くちゃ……じゅ……じゅる。
下腹部を這うじっとりとした快感。思わず手に力が入って、恋衣の顔を思い切り押し付けてしまう。彼女の小さな鼻が敏感なところに触れて刺激が増す。気持ち悪いが性感帯への刺激に体は正直だ。
「そう……そこ。そこだよ、やればできるじゃん……んっ」
本来歌声が響いていなければならない空間には淫猥な水音だけが漂っている。
座っている私のスカートの中に恋衣は顔を埋めている。この視界がたまらなく好きだ。文句も言わずに私の一番汚いところを舐り続ける恋衣。そして私達二人をうんざりした表情で……けれど腹の内の羨望と嫉妬を隠し切れずに眺めているだろう姫子の視線。性的快楽以上に恋衣を独占できているという優越感がもたらす気分の良さの方がたまらない。でなければわざわざ彼女の目の前で情事に耽ったりはしない。
月宮恋衣は不思議な存在だった。
確実に言えるのは、私達三人は彼女のこと大嫌いだったということ。いや、もっといえば嫌いですらないのかもしれない。彼女は路傍の石や飛び交う虫けらのごとく無意味で、関心を惹きつけるような要素はないのだ。それは間違いない。
なのに。なのにだ。
どういうわけか、恋衣を自分の物にしたくなる。
それが私と姫子の間での共通見解だった。もちろん一度だって言葉にしたことはないが、各々の目が何よりも雄弁にそれを語っていた。
たとえばこれが恋心ならば、話はもっとかわいらしく、甘酸っぱくまとまっていたのかもしれない。
だが恐ろしいことに……前述のとおり全員、月宮恋衣のことが嫌いなのである。だから話は単純に片付いてはくれない。
私は幼いころから格闘技をやっているから、そんじょそこらの男子よりも腕っぷしが強い。単なる恋慕だったのなら、暴力にものを言わせて奪ってしまえばいい。けれど、そうじゃないのだ。月宮恋衣は虫けらだ。そんなもののために躍起になっているところを見せるのは、ひどくプライドを傷つけられる気がした。それについては姫子も同じように考えているらしい。
だから恋衣が絡むと、私と姫子の間には互いの出方を伺うような、どんよりとした陰鬱な空気が蔓延していくのだった。
けれど、私の方が一歩リードしていると自負している。
こうやって性的いじめのていで、限りなくセックスに近いことをさせているのだから。
「はいはーい、ちょっと失礼」
膝立ちで奉仕している恋衣のスカートに、姫子は両手を差し入れ、するすると下着を下ろして掠め取る。
「これで五千円になるってんだからぼろいよね~」
恋衣の下着を変態に売りつけるのが姫子の金策らしい。だが本当に下着を売り払っているのか……私は怪しいと思っている。
まあ、かまわないか。所詮下着相手にしか欲情できないのなら私の勝ちだ。なにせ私はこうして本人を占有しているのだから。
とはいえ、それでも私への対抗心があけすけなので気に入らない。指に通した下着をひらめかせながら自分の席に戻るときにふっと口元に湛えた笑みも何か余裕を含んでいて釈然をしない。まだ自分に勝ち目があるとでも思っているのだろうか。むかつく。
そうだ。今日はもういけるところまでいってしまおう。
そう心に決め、一曲も歌わないまま、カラオケを後にする。
私達は駅前で解散した。けれど私だけは家路につくふりをして恋衣の後を追った。
日はもう沈んでいて、町を紫がかった闇が満たしている。恋衣が公園に差し掛かったところで、後ろから声をかけた。
「何」と機械的に答える恋衣に返事をせず、私は彼女の腕を引っ張って公園の茂みに連れ込んだ。明らかに差し引きならぬ雰囲気を纏っていただろうに、やはり彼女は無抵抗で引きずられた。
ここならば、背の高い草木が壁になってくれて公園の外からは絶対に見えない。とはいえ普段ならこんな場所でしない。彼氏にだってやらせたことはない。
けどカラオケボックスでの決意から一時間強。もう我慢できなかった。
私は恋衣のことを地面の上に押し倒して覆いかぶさった。キスできそうなくらいに顔が近づく。
大きな瞳に小さな唇。
恋衣はかわいい顔をしている。無感情なのもあわさって、造形だけを見ればまるで人形のようだ。もし私がこの可愛さに惚れているというのなら話は簡単だったろう。だが違う。ここまで近づいておいて、私はキスがしたいわけではない。
なら私は何がしたいのか。
何がしたくてこの子を押し倒したのだろう。
わからない。
ただ心の内に潜む得体のしれない暴力的な衝動に勝てなくて、そうしたのだ。
ともするとこれが恋心なのだろうか。
こんなにも昏く、暗澹とした感情の澱が……恋なのだろうか。
「あの……門限をもう過ぎているので……」
しばらく私は恋衣のことを見下ろし続けて、ようやく覚悟を決めてから唇を重ねた。奉仕させているときもそうだったけど、特別気持ちがいいわけではない。むしろ同性とこんなことしているなんて自己嫌悪がじわじわと体の奥底から上ってくるのがわかる。
でも止められない。
舌を侵入させ、口内を蹂躙する。気持ちの悪い領域に自ら踏み込んでいく。
私は、恋衣のはじめてにならないと気が済まないようだ。
それこそが何より彼女を占有している証拠のように思え、私はそれが欲しくて仕方なかった。
唇を重ねたまま、指をスカートの中に忍ばせる。秘裂を優しく撫でるとすぐに蜜が溢れてきた。
「は……はぁ――は……」
見れば恋衣の顔が上気して、息も荒くなっている。機械みたいな女だが、性感帯は備わっているらしい。この表情を知っているのもきっと私だけだろう。そう思うと指使いも激しくなった。
……嫌な予感がした。
それは女性でなければわからない微細な違和感である。けれど掻き混ぜているうちに徐々にそれは確信へと変わり、瞬間、地獄めいた憎悪の炎が私の中に渦巻いたのである。
「……姫子ね。どこまでしたの」
「どこまでって……」
「何をされたのかって聞いてんだよ」
「指とか玩具で……」
私は先を越された怒りを拳に込めて、恋衣の薄い腹に叩きつけた。不意の衝撃に恋衣は唾液をまき散らしてえずいた。
くっそ、だからか。だからこのところ姫子は余裕ぶってたんだ。
怒りに任せて何度も恋衣に八つ当たりをして殴り続ける。仰向けになっている恋衣は振り下ろされる拳の衝撃を受け流すことができず、何度も体を跳ねさせた。
悔しい。悔しい悔しい悔しい!
前戯だけで勝った気でいた私が恨めしくて仕方ない。最初に舐めさせた時に、そのまま最後までやっちゃえばよかったんだ。
「げっ……ぐっ……うげぇ……!」
行き場のない怒りが幾度となく恋衣に振り下ろされ、短く汚らしい断末魔をあげさせる。それもまた私の気に障った。
何か、何かないか。
私がこいつのはじめてになれる何か。
こいつを私のモノにできる何か……。
殴るのをやめても彼女は目の端に涙を浮かべながら、何度も苦しそうに呻いている。それを見て、ひとつの悪魔的なアイデアが脳裏に浮かんだ。
「なあ、恋衣。姫子は優しかったかよ?」
喘ぐ恋衣はまだ返事をできる状態ではなかった。きっと優しくされたのだろう。少なくともこんなに暴力的だったはずがない。だって彼女は抵抗しないのだから。力でねじ伏せる必要がないのだ。
だったら……。
この子を犯せば、それはきっとこの子のはじめてだろう。
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