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碧海渚沙(七月二十六日)
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七月二十六日
夕刻頃、美雪からラインが来る。今度はメッセージではなく通話だった。電話口の美雪は最初から怒り口調だった。遊びの誘いについて、またしても恋衣に無視されているらしい。二時間くらい話をした。付き合わされるこっちの身にもなってほしい。話しているうちにどんどんヒートアップしていって、今から恋衣の家に乗り込むとか言い出す始末。おまえ、恋衣のこと好きすぎるだろとか思った。もちろん、言わなかったけど。痴話喧嘩に巻き込むのはやめてほしい。
夜十一時頃、またライン通話が来る。美雪は必死に何かを説明してきたが、どうにも支離滅裂で要領を得ない。今から会えないかと聞かれる。こんな夜遅くに非常識なヤツだとは思ったが、長期休みに入り昼夜逆転生活を送っていた私にとっては何ら問題のない時間帯ではあったので了承する。海賊公園(海賊船をモチーフにしたアスレチックが由来)で待ち合わせをする。
十一時半過ぎ、公園に到着する。美雪はベンチに座って待っていた。私の姿に気付くやいなや、駆け寄って泣きついてくる。顔は真っ青で血の気がない。いつも強気な美雪がこんなにも狼狽えているのは初めて見た。必死に私に話しかけてくるが、やはり何を言っているかわからない。ひとまず彼女を落ち着かせてから話を聞こうとしたが、まったくこちらの話を聞かないので意味がなかった。どうにかわかったのは、美雪が恋衣の家に行ったことくらい。あとはお母さんが溶けていたとか殺してあげられなかったとか。意味不明。苦しいと言って胸を抑えて俯く。大丈夫かと聞いて肩をゆする。反応して見上げる美雪の目から涙が流れていた。
その涙は、緑色でねばついていた。
どこを見ているのわらかない。焦点が合わない目。ぶつぶつ繰り返す。それはどうやら誰かへの謝罪のようだった。美雪の穿いているジーンズ。足元から緑の液体が流れだす。美雪の背丈がどんどん縮んでいく。
美雪は溶けているようだった。
骨の見える指。緑の腐肉がまとわりついた手で、汚わいを私の頬に塗り付けて必死に縋る。彼女の半身はもうほとんど粘液になってしまった。やがて緑の水溜りに吸い込まれるように、美雪の上半身も溶けて沈んでいった。
緑の小さな海の中、目玉だけが浮いている。それは、苦しいと訴えていた。スライムのようになりながらも苦痛を訴え続けていた。
ここにきてようやく私は叫んだ。
それまでの私は、目の前で起きている変化に理解がついていかず、ただただ茫然と見守っていただけだったのだ。
私は狂ったように喚きながら公園から駆け出した。家に向かって一心不乱に走った。振り向くこともしなかった。自分の部屋、ベッドの中に飛び込んだ。夏だというのに、布団を頭からかぶった。震えが止まらなかった。まとう厚い布団が、私を守ってくれる気がした。
夕刻頃、美雪からラインが来る。今度はメッセージではなく通話だった。電話口の美雪は最初から怒り口調だった。遊びの誘いについて、またしても恋衣に無視されているらしい。二時間くらい話をした。付き合わされるこっちの身にもなってほしい。話しているうちにどんどんヒートアップしていって、今から恋衣の家に乗り込むとか言い出す始末。おまえ、恋衣のこと好きすぎるだろとか思った。もちろん、言わなかったけど。痴話喧嘩に巻き込むのはやめてほしい。
夜十一時頃、またライン通話が来る。美雪は必死に何かを説明してきたが、どうにも支離滅裂で要領を得ない。今から会えないかと聞かれる。こんな夜遅くに非常識なヤツだとは思ったが、長期休みに入り昼夜逆転生活を送っていた私にとっては何ら問題のない時間帯ではあったので了承する。海賊公園(海賊船をモチーフにしたアスレチックが由来)で待ち合わせをする。
十一時半過ぎ、公園に到着する。美雪はベンチに座って待っていた。私の姿に気付くやいなや、駆け寄って泣きついてくる。顔は真っ青で血の気がない。いつも強気な美雪がこんなにも狼狽えているのは初めて見た。必死に私に話しかけてくるが、やはり何を言っているかわからない。ひとまず彼女を落ち着かせてから話を聞こうとしたが、まったくこちらの話を聞かないので意味がなかった。どうにかわかったのは、美雪が恋衣の家に行ったことくらい。あとはお母さんが溶けていたとか殺してあげられなかったとか。意味不明。苦しいと言って胸を抑えて俯く。大丈夫かと聞いて肩をゆする。反応して見上げる美雪の目から涙が流れていた。
その涙は、緑色でねばついていた。
どこを見ているのわらかない。焦点が合わない目。ぶつぶつ繰り返す。それはどうやら誰かへの謝罪のようだった。美雪の穿いているジーンズ。足元から緑の液体が流れだす。美雪の背丈がどんどん縮んでいく。
美雪は溶けているようだった。
骨の見える指。緑の腐肉がまとわりついた手で、汚わいを私の頬に塗り付けて必死に縋る。彼女の半身はもうほとんど粘液になってしまった。やがて緑の水溜りに吸い込まれるように、美雪の上半身も溶けて沈んでいった。
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