雪の匣庭

東崎 惟子@ 日曜西C24a

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碧海渚沙(七月二十七日)

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七月二十七日
 窓の外はいつも通りの雪。
 昨晩は一睡もできなかった。頭がふらつく。思考能力が低下しているのがわかる。鏡を見るのが怖かった。髪が真っ白になっているんじゃないかと心配だったからだ。昨晩の出来事は夢だと思うことにした。一睡もしてないくせにだ。そう思わないと、思い込まないとおかしくなってしまいそうだった。
 美雪にラインで電話をするが出ない。ここで出てくれたらどれだけ救われただろうか。
 私は確認しなくてはならない。昨夜の出来事が夢だと確認しなければならない。
海賊公園に行って、そこに緑の水溜りがなければ、夢だという確証が持てるだろう。
 姫子に電話をかけ、一緒に公園まで行ってくれないか聞く。すぐにОKの返事がくる。私の中で姫子の好感度が爆上がりだ。もう愛していると言っても過言ではない。
朝の八時。姫子に家に来てもらい、一緒に公園に向かった。彼女と一緒なら、もう緑の粘液を見ないで済む気がした。私にとって今の姫子は、これ以上ない現実の縁だ。
 結論から言って、粘液は公園にはなかった。公園には。 
 這ったような跡が砂上に。緑の柔らかな断片が続いている。
 公園の外の道路。そこ粘液は移動していた。
 何度も車に轢かれたのだろう。粘液は黒く汚れ、彼方此方に飛び散っていた。
「なにこれ」と姫子は顔をしかめた。
 わからないのか。これは美雪だ。
 私は生まれて初めて腰が抜けてしまった。まるで下半身だけ自分の体じゃなくなってしまったみたいに、まったく足に力が入らず、立てない。恐怖で涙があふれてきて止まらない。姫子が私を心配して声をかけてくれているようだが、何を言っているのかわからない。
 昨日のアレは夢ではなかった。
 粘液となった美雪は言っていた。
 苦しいと。苦しいのだと。
 なのに、私は逃げた。怖くなって家へ走った。
 だから、美雪は苦しかった。苦しいままだった。美雪はそれが嫌だった。
 だから、自分で苦しみを終わらせるしかなかったんだ。
 溶けた筋線維をフルに稼働させて、じりじりと道路に向かっていき、その身を投げ出したに違いない。
 そうしてやってき車のタイヤに轢かれ、四散した。
 粘液の中に割れた目玉を見つけた。恨みがましく私を見ている。
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 私は何度も美雪の目玉に謝った。


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