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第一章 助けを求めた声
第2話 偽りの髪
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医務室は薬草の匂いがした。
苦くて、青臭くて、どこか懐かしい匂い。
母さんが薬を煎じている間、俺はベッドの横に座り続けていた。
メルリステラはまだ眠っている。
眠っているというより、意識が無いようにも見えた。
時々、指先がぴくりと動く。
まるで追手から逃げる夢でも見ているみたいに。
俺は彼女の手首に目を向けた。鎖の跡。
赤黒く腫れて、皮膚が裂けている。
乾いた血がこびりつき、まだ痛みが残っているのが分かる。
俺は回復魔法とクリーンの魔法を彼女にかけてあげた。
手首の傷は消えて、裂けた皮膚は治った。
だけど、こんな傷を付けられていた彼女が
これから先まともに笑えるはずがない。
「くそっ……」
奥歯を噛み締める。
「……レイ」
母さんが小さい声で話しかけてきた。
「そんな顔、やめなさいよ」
「ん?どんな顔?」
母さんは薬を混ぜながら言った。
「今にも誰かを殺しそうな顔」
俺は苦笑した。
「殺さないよ。俺は優しいからね」
「優しい人ほど、いざって時が怖いのよ」
母さんはそれだけ言って、コップに煎じた薬を注いだ。
父さんは壁際に立ち、腕を組んだまま黙っている。
漆黒のマントが闇みたいに見える。
魔王のくせに、魔王だからか?俺よりずっと冷静だ。
……いや、冷静を装っているだけだろう。
きっと怒りを内側で抑えているだけだ。
母さんがコップをベッドの横に置き、
メルリステラの肩を優しく抱き抱えた。
「起きられる?服はこれを着なさい。
あとこれは心が落ち着く薬よ。飲める?」
母さんはメルリステラに服を着せて
薬が入ったコップを手渡した。
メルリステラは薄く目を開けた。青紫の瞳。
松明の光を受けて、宝石みたいに透き通っている。
その目だけがこの子が“まだ壊れていない”ことを示していた。
メルリステラはコップを両手で持ち、少しずつ薬を飲んだ。
喉が鳴るたび、細い肩が震える。
飲み終えた瞬間、彼女は顔をしかめた。
「……にがい……」
「苦い方が効く」
俺が言うと、メルリステラはほんの少しだけ笑った。
その笑みは弱々しい。胸が痛くなる。
……笑えるじゃんかよ。
その笑顔は無くさせない。絶対に……
母さんはメルリステラの頬に手を当て、静かに呟いた。
「少しは落ち着いてきたかな?薬は気持ちを
落ち着かせられるものにしておいたよ」
「はい。ありがとうございます」
回復魔法は外傷など治せても、心の傷は治せない。
いや、俺ならどうにかできるが記憶操作はしたくない。
いまは母親の薬に頼るしかなかった。
俺は安堵のため息を吐いた。
「よかった……」
その瞬間、急にメルリステラの表情が曇った。
そして、ゆっくりと視線を俺に向けた。
「……ここは……本当に……魔王城……?」
「そうだよ」
俺が答えると、メルリステラは怯えたように肩を縮めた。
俺は慌てて言った。
「大丈夫。殺したりしないし、
売ったりもしない、鎖も付けない」
「……鎖……」
その言葉だけで、メルリステラの呼吸が荒くなった。
母さんが優しくメルリステラに言う。
「安心して。ここにはあなたを傷つける者はいない」
父さんは何も言わなかった。
ただ、メルリステラを見つめている。
魔王の視線を受けて、普通なら気絶するか泣くかするだろう。
でもメルリステラは、震えながらも目を逸らさなかった。
……強い。
戦えなくても、この子には強さがある。
メルリステラは唇を噛み、かすれた声で言った。
「……私は……逃げてきました……」
「うん」
俺はうなずいた。
「……私は…貴族の家に生まれました……でも…」
言葉が途切れる。
喉が詰まったように。
母さんが言う。
「無理に話さなくていい」
でもメルリステラは首を振った。
「……言っておかないと、皆さんにまで……
私はもう、人として扱われていないんです。
ただの、魔法奴隷……所有物だから……」
その言葉が、俺の胸を強く殴った。
人として扱われてない。
この子は、もう“所有物”として扱われている。
メルリステラは続けた。
「……魔法適正検査が……あるんです……」
魔法適正検査。
その単語を聞いた瞬間、父さんが僅かに目を細めた。
母さんの指が、コップを握り締めた。
俺は黙って続きを待った。
メルリステラは震える声で言う。
「貴族の子も、平民も皆……必ず受けます……
王国のために……兵士になるために……」
「……兵士?」
俺が呟くと、メルリステラは頷いた。
「攻撃魔法……剣士スキル……
それが強いほど……価値があるって……」
価値。
またその言葉だ。
「でも……私は……攻撃魔法適正がなかったようで……」
メルリステラは目を閉じた。
その瞬間、涙が頬を伝う。
「……『補助適正』って……言われました……」
母さんが静かに言った。
「補助適正は……奴隷区送り。
魔法奴隷だわ」
メルリステラは頷いた。
「はい……。
私の家族は……泣いていました…でも……」
彼女の声が、かすれる。
「次の日には……家族は私を見捨てました……」
俺は、歯を噛み締めた。
貴族ですら、実の娘を捨てる。
それほど検査が絶対なんだ。
いや、違う。
検査が絶対なんかじゃない。
“検査を絶対にしたい奴ら”がいるだけだ。
父さんが低い声で呟いた。
「攻撃魔法の適正者を探すだけの検査だよ」
メルリステラが驚いたように父さんを見る。
父さんは淡々と言った。
「その検査は意図的だ。
攻撃系魔法の適正者を見つけたいだけなんだ」
俺は拳を握った。
「……つまり、攻撃魔法以外の適性だったら
『魔法奴隷』扱いってこと?」
母さんがうなずいた。
「回復、補助、生活、結界……魔法は何百種類もあるのにね。
その適性検査の時に攻撃魔法以外の適性だった場合は……」
メルリステラが震えた。
「……私は……補助魔法と言われた……」
俺は即答した。
「補助も立派な魔法士だ。攻撃魔法にも勝るよ」
父さんが言う。
「だが王国は、それを価値と認めない」
母さんの声が冷たい。
「攻撃魔法士は支配階級。それ以外の魔法士は……
魔法奴隷になる。適性検査の時には
他の適正も見られてるの」
メルリステラは、息を呑んだ。
「……魔法奴隷……」
俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。
怒りだ。この子が奴隷になる世界。
そんな世界は、存在しちゃいけない。
メルリステラは続けた。
「……鎖を付けられて…奴隷区へ連れていかれる途中で…
逃げました…また捕まったら…………」
彼女は手首を見て、震えた。
俺はその手を握り、伝えた。
「もう大丈夫だ。傷は全て治した」
メルリステラは泣きながら言った。
「……でも……探されます……
私の髪は……金色で……目の色だって珍しくて……」
その言葉で、俺は理解した。
髪が目立つ。今のままの容姿ではだめだ。
俺は立ち上がり、メルリステラの前に膝をついた。
「変えよう」
「……え?」
メルリステラが目を丸くする。
俺は言った。
「隠蔽魔法で髪を変える。金髪のままだと
すぐバレてしまうからね」
母さんが小さく頷いた。
「いい判断ね」
父さんは腕を組んだまま言った。
「だが偽装は完全ではない。
強い魔法士の目は誤魔化せん」
「分かってるよ父さん」
俺はメルリステラの髪に手を伸ばした。
指先に触れた瞬間、髪は柔らかく細かった。
蜂蜜色の名残が、光の下で淡く浮かび上がる。
この髪は、彼女が“彼女”だった証だ。
でも今は違う。
今はバレないようにしないといけない。
俺は小さく息を吐き、魔力を流した。
指先が淡く光る。
「怖くない。痛くもない」
メルリステラは震えながらうなずいた。
「……お願いします……」
魔力が髪に染み込んでいく。
蜂蜜色が、ゆっくりと沈む。
金が闇に飲まれるように、色が変わっていく。
同時に、髪の長さが縮んだ。
腰まであった長髪が肩の辺りで止まり、さらに短くなる。
顎のラインに沿うように長さが整い、変わった。
鏡のように磨かれた銀盆が棚にあったので、
俺はそれを持ってきて彼女に見せた。
「ほら、見てごらん」
メルリステラは、銀盆に映った自分を見た。
黒髪。艶のある黒髪のショートヘアー。
前髪が目元にかかり、どこにでもいる少女に見える。
ただし。瞳だけは隠せない。
青紫の星みたいな瞳はどれだけ偽装しても、
彼女そのものだった。
メルリステラは口を開け、震える声で言った。
「……私……じゃないみたい……」
「でも君だよ」
俺は言った。
「君は君のまま。ただ、髪色と長さを変えただけ」
メルリステラは銀盆を抱きしめた。
その指が震えている。
「……これで……逃げられる……?」
「逃げるわけじゃない」
俺は静かに言った。
「もう君は1人じゃない。
俺が一緒に君が逃げなくていい世界を作る」
母さんが俺を見た。
父さんも俺を見た。
二人とも、何も言わない。
でも、その沈黙が許可とも受け取れた。
メルリステラは泣きながらうなずいた。
「……ありがとうございます……」
その時だった。
魔王城の外から大きな声が聞こえてきた。
空気が一瞬で変わる。
父さんが言った。
「来たな」
母さんが目を細める。
「早すぎる……」
俺は立ち上がり、腰の剣に手を置いた。
メルリステラの黒髪が揺れる。
彼女の顔が青ざめる。
俺は振り返って言った。
「大丈夫。俺がいる」
窓の外から男の声が響いた。
「魔王城の者よ!
王国の命により告げる!」
冷たく、威圧的な声。
続いて、こう言った。
「逃亡奴隷を返還せよ。ここに居ることは
わかっている。それは国家の所有物である!」
その瞬間、俺の中で何かがはじけた。
所有物?人間を?俺は失笑した。
「……は?」
「父さん、母さん」
俺は二人を見た。
「俺、あいつの所に行ってくるわ」
父さんがうなずいた。
「行け」
母さんもうなずいた。
「やりすぎないでね」
……やりすぎる?
こんな言葉を吐いた奴に?
俺は扉へ向かって歩き出した。
白銀の髪が揺れ、首に巻いた赤い布が揺れる。
父親と同じ漆黒のマントが闇を引きずる。
扉の前で、俺は立ち止まり静かに言った。
「あいつらなんかに渡すわけないだろ……」
苦くて、青臭くて、どこか懐かしい匂い。
母さんが薬を煎じている間、俺はベッドの横に座り続けていた。
メルリステラはまだ眠っている。
眠っているというより、意識が無いようにも見えた。
時々、指先がぴくりと動く。
まるで追手から逃げる夢でも見ているみたいに。
俺は彼女の手首に目を向けた。鎖の跡。
赤黒く腫れて、皮膚が裂けている。
乾いた血がこびりつき、まだ痛みが残っているのが分かる。
俺は回復魔法とクリーンの魔法を彼女にかけてあげた。
手首の傷は消えて、裂けた皮膚は治った。
だけど、こんな傷を付けられていた彼女が
これから先まともに笑えるはずがない。
「くそっ……」
奥歯を噛み締める。
「……レイ」
母さんが小さい声で話しかけてきた。
「そんな顔、やめなさいよ」
「ん?どんな顔?」
母さんは薬を混ぜながら言った。
「今にも誰かを殺しそうな顔」
俺は苦笑した。
「殺さないよ。俺は優しいからね」
「優しい人ほど、いざって時が怖いのよ」
母さんはそれだけ言って、コップに煎じた薬を注いだ。
父さんは壁際に立ち、腕を組んだまま黙っている。
漆黒のマントが闇みたいに見える。
魔王のくせに、魔王だからか?俺よりずっと冷静だ。
……いや、冷静を装っているだけだろう。
きっと怒りを内側で抑えているだけだ。
母さんがコップをベッドの横に置き、
メルリステラの肩を優しく抱き抱えた。
「起きられる?服はこれを着なさい。
あとこれは心が落ち着く薬よ。飲める?」
母さんはメルリステラに服を着せて
薬が入ったコップを手渡した。
メルリステラは薄く目を開けた。青紫の瞳。
松明の光を受けて、宝石みたいに透き通っている。
その目だけがこの子が“まだ壊れていない”ことを示していた。
メルリステラはコップを両手で持ち、少しずつ薬を飲んだ。
喉が鳴るたび、細い肩が震える。
飲み終えた瞬間、彼女は顔をしかめた。
「……にがい……」
「苦い方が効く」
俺が言うと、メルリステラはほんの少しだけ笑った。
その笑みは弱々しい。胸が痛くなる。
……笑えるじゃんかよ。
その笑顔は無くさせない。絶対に……
母さんはメルリステラの頬に手を当て、静かに呟いた。
「少しは落ち着いてきたかな?薬は気持ちを
落ち着かせられるものにしておいたよ」
「はい。ありがとうございます」
回復魔法は外傷など治せても、心の傷は治せない。
いや、俺ならどうにかできるが記憶操作はしたくない。
いまは母親の薬に頼るしかなかった。
俺は安堵のため息を吐いた。
「よかった……」
その瞬間、急にメルリステラの表情が曇った。
そして、ゆっくりと視線を俺に向けた。
「……ここは……本当に……魔王城……?」
「そうだよ」
俺が答えると、メルリステラは怯えたように肩を縮めた。
俺は慌てて言った。
「大丈夫。殺したりしないし、
売ったりもしない、鎖も付けない」
「……鎖……」
その言葉だけで、メルリステラの呼吸が荒くなった。
母さんが優しくメルリステラに言う。
「安心して。ここにはあなたを傷つける者はいない」
父さんは何も言わなかった。
ただ、メルリステラを見つめている。
魔王の視線を受けて、普通なら気絶するか泣くかするだろう。
でもメルリステラは、震えながらも目を逸らさなかった。
……強い。
戦えなくても、この子には強さがある。
メルリステラは唇を噛み、かすれた声で言った。
「……私は……逃げてきました……」
「うん」
俺はうなずいた。
「……私は…貴族の家に生まれました……でも…」
言葉が途切れる。
喉が詰まったように。
母さんが言う。
「無理に話さなくていい」
でもメルリステラは首を振った。
「……言っておかないと、皆さんにまで……
私はもう、人として扱われていないんです。
ただの、魔法奴隷……所有物だから……」
その言葉が、俺の胸を強く殴った。
人として扱われてない。
この子は、もう“所有物”として扱われている。
メルリステラは続けた。
「……魔法適正検査が……あるんです……」
魔法適正検査。
その単語を聞いた瞬間、父さんが僅かに目を細めた。
母さんの指が、コップを握り締めた。
俺は黙って続きを待った。
メルリステラは震える声で言う。
「貴族の子も、平民も皆……必ず受けます……
王国のために……兵士になるために……」
「……兵士?」
俺が呟くと、メルリステラは頷いた。
「攻撃魔法……剣士スキル……
それが強いほど……価値があるって……」
価値。
またその言葉だ。
「でも……私は……攻撃魔法適正がなかったようで……」
メルリステラは目を閉じた。
その瞬間、涙が頬を伝う。
「……『補助適正』って……言われました……」
母さんが静かに言った。
「補助適正は……奴隷区送り。
魔法奴隷だわ」
メルリステラは頷いた。
「はい……。
私の家族は……泣いていました…でも……」
彼女の声が、かすれる。
「次の日には……家族は私を見捨てました……」
俺は、歯を噛み締めた。
貴族ですら、実の娘を捨てる。
それほど検査が絶対なんだ。
いや、違う。
検査が絶対なんかじゃない。
“検査を絶対にしたい奴ら”がいるだけだ。
父さんが低い声で呟いた。
「攻撃魔法の適正者を探すだけの検査だよ」
メルリステラが驚いたように父さんを見る。
父さんは淡々と言った。
「その検査は意図的だ。
攻撃系魔法の適正者を見つけたいだけなんだ」
俺は拳を握った。
「……つまり、攻撃魔法以外の適性だったら
『魔法奴隷』扱いってこと?」
母さんがうなずいた。
「回復、補助、生活、結界……魔法は何百種類もあるのにね。
その適性検査の時に攻撃魔法以外の適性だった場合は……」
メルリステラが震えた。
「……私は……補助魔法と言われた……」
俺は即答した。
「補助も立派な魔法士だ。攻撃魔法にも勝るよ」
父さんが言う。
「だが王国は、それを価値と認めない」
母さんの声が冷たい。
「攻撃魔法士は支配階級。それ以外の魔法士は……
魔法奴隷になる。適性検査の時には
他の適正も見られてるの」
メルリステラは、息を呑んだ。
「……魔法奴隷……」
俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。
怒りだ。この子が奴隷になる世界。
そんな世界は、存在しちゃいけない。
メルリステラは続けた。
「……鎖を付けられて…奴隷区へ連れていかれる途中で…
逃げました…また捕まったら…………」
彼女は手首を見て、震えた。
俺はその手を握り、伝えた。
「もう大丈夫だ。傷は全て治した」
メルリステラは泣きながら言った。
「……でも……探されます……
私の髪は……金色で……目の色だって珍しくて……」
その言葉で、俺は理解した。
髪が目立つ。今のままの容姿ではだめだ。
俺は立ち上がり、メルリステラの前に膝をついた。
「変えよう」
「……え?」
メルリステラが目を丸くする。
俺は言った。
「隠蔽魔法で髪を変える。金髪のままだと
すぐバレてしまうからね」
母さんが小さく頷いた。
「いい判断ね」
父さんは腕を組んだまま言った。
「だが偽装は完全ではない。
強い魔法士の目は誤魔化せん」
「分かってるよ父さん」
俺はメルリステラの髪に手を伸ばした。
指先に触れた瞬間、髪は柔らかく細かった。
蜂蜜色の名残が、光の下で淡く浮かび上がる。
この髪は、彼女が“彼女”だった証だ。
でも今は違う。
今はバレないようにしないといけない。
俺は小さく息を吐き、魔力を流した。
指先が淡く光る。
「怖くない。痛くもない」
メルリステラは震えながらうなずいた。
「……お願いします……」
魔力が髪に染み込んでいく。
蜂蜜色が、ゆっくりと沈む。
金が闇に飲まれるように、色が変わっていく。
同時に、髪の長さが縮んだ。
腰まであった長髪が肩の辺りで止まり、さらに短くなる。
顎のラインに沿うように長さが整い、変わった。
鏡のように磨かれた銀盆が棚にあったので、
俺はそれを持ってきて彼女に見せた。
「ほら、見てごらん」
メルリステラは、銀盆に映った自分を見た。
黒髪。艶のある黒髪のショートヘアー。
前髪が目元にかかり、どこにでもいる少女に見える。
ただし。瞳だけは隠せない。
青紫の星みたいな瞳はどれだけ偽装しても、
彼女そのものだった。
メルリステラは口を開け、震える声で言った。
「……私……じゃないみたい……」
「でも君だよ」
俺は言った。
「君は君のまま。ただ、髪色と長さを変えただけ」
メルリステラは銀盆を抱きしめた。
その指が震えている。
「……これで……逃げられる……?」
「逃げるわけじゃない」
俺は静かに言った。
「もう君は1人じゃない。
俺が一緒に君が逃げなくていい世界を作る」
母さんが俺を見た。
父さんも俺を見た。
二人とも、何も言わない。
でも、その沈黙が許可とも受け取れた。
メルリステラは泣きながらうなずいた。
「……ありがとうございます……」
その時だった。
魔王城の外から大きな声が聞こえてきた。
空気が一瞬で変わる。
父さんが言った。
「来たな」
母さんが目を細める。
「早すぎる……」
俺は立ち上がり、腰の剣に手を置いた。
メルリステラの黒髪が揺れる。
彼女の顔が青ざめる。
俺は振り返って言った。
「大丈夫。俺がいる」
窓の外から男の声が響いた。
「魔王城の者よ!
王国の命により告げる!」
冷たく、威圧的な声。
続いて、こう言った。
「逃亡奴隷を返還せよ。ここに居ることは
わかっている。それは国家の所有物である!」
その瞬間、俺の中で何かがはじけた。
所有物?人間を?俺は失笑した。
「……は?」
「父さん、母さん」
俺は二人を見た。
「俺、あいつの所に行ってくるわ」
父さんがうなずいた。
「行け」
母さんもうなずいた。
「やりすぎないでね」
……やりすぎる?
こんな言葉を吐いた奴に?
俺は扉へ向かって歩き出した。
白銀の髪が揺れ、首に巻いた赤い布が揺れる。
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