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17.秘密基地
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大えんとつの前には、広い芝生の原っぱがあった。百番地の子どもたちが大好きな遊び場の一つで、やわらかな芝生の地面だから、すもうをとったり、転げ回って遊ぶのにとてもいい広場だった。
それが、たびたびトラックがいろいろな物を運んでくるようになり、いつの間にか材木置き場になってしまった。百番地の古い建物をこわして、いろいろなガレキを運んでくる。古いかべ板や窓わく、ベニヤ板、丸太に角材、いろんな形の雨どいやら、かわら、トタン板などが山積みになって、あっという間に原っぱをおおいつくしてしまった。
子どもたちは遊び場を奪われてがっかりした。いや、がっかりして他の空き地に移ったかと思ったら、すぐにまたここへもどってきた。なぜって、遊び道具をこれだけプレゼントされたのだ。子どもにとってこれほどすてきなプレゼントはない。
ここに秘密基地を作れる!材料はいっぱいだ。みんな、そう思ったのだ。
あっという間に、いくつものグループがそれぞれ気にいった材木を集めては、秘密基地を作っていく。山のように積まれた材木から板を引っ張り抜いて、迷路のような横穴をつくったグループや、たて穴を広げて塹壕(ざんごう)のような基地をつくったグループもある。寛太と健太たち川上小の六年生は、みんなで真ん中に陣取って巨大な基地を作っていた。
たまにトラックで資材を運んできたおっちゃんから、「こらっ」とどなられることがある。でも、たいがいトラックの近づく音が聞こえたら、みんなすぐ基地の中にもぐりこむのだ。
ユーイチたち四人は、奥の深い横穴式の部屋を作っていた。そんなとき、ちょうどテツオ兄ちゃんが通りがかった。テツオ兄ちゃんはユーイチのいとこで、商業高校の一年生だ。小さいころの病気がもとで左足が細いため、歩くときに足をひきずりながら歩いている。時々周りから変な目で見られることもある。でも、そんなことなんかテツオ兄ちゃんは全然気にしていない。いつも二コ二コした元気な兄ちゃんだ。足が不自由でも何だってできるのだ。
高校は自宅から三キロも離れた所にある。でも、自分で歩いて通学している。ユーイチの家がそのちょうど真ん中あたりだ。だから学校の帰りに時々寄って休んでいく。ユーイチは昔からテツオ兄ちゃんと遊ぶのが大好きだ。テツオ兄ちゃんは、手先がとても器用なので、いろんなものを作ってくれる。今年の正月に、竹を削って作ってもらった、ヤッコだこやグライダーを、ユーイチは今でも大切にしている。
テツオ兄ちゃんは建物をつくることが夢だったみたいで、小さいころから、自分が建てるビルの設計図をたくさん書いていた。本当は、工業高校へ行って設計士になりたかったんだ。だけど、足が不自由なため、家から一番近くて通いやすい商業高校に進路を変えたんだそうだ。
それでもやっぱり建築の仕事がしたかったらしい。ユーイチたちがやっていることを見ているうちに、
「ああしろ、こうしろ」と口を出し始めた。まるで建築現場で指図する監督みたいだ。
そして、とうとう自分から手伝うようになった。
「こんな廃材の山の中にもぐって、横穴なんかつくったら危なかろう。見ちゃおれん」
そう言って、廃材置き場から少しはなれた平らな地面に四角形を書いて、四つの角にレンガを置いた。
たしかにユーイチたちがやっていたことはとても危険だ。廃材の山の中で、板を引っ張ったり、突き出た柱につっかい棒を立てかけたりするのだ。いつ上から物が落ちてきて、くずれ落ちた板の下敷きになるか知れたものじゃない。
「安全な家は、まず土台作りからじゃ。こうやってレンガを置いてだ。これが四つの角じゃ。そして、この四角の中にゆかを作る。まず、平らな板を集めて張っていくんじゃ。さあ、手分けして材料を集めようや。使い勝手をよく考えて。これ位の長さの板、それからこれ位のちょっと短めの板と、それから柱にする太めの角材を集めておいで。安全第一で作るよ。横から引っ張って板を抜いたりせずに、上にあるものから持ってこいよ」
みんなで兄ちゃんから指図されて同じような大きさの材料をそろえた。その間に、兄ちゃんは古クギやハリがねを集めた。そして、長めの角材を四隅のレンガの外側で組んで、拾ってきた古クギを握りこぶしくらいの石で打ち付ける。見事に土台のわくができあがった。それから、その上に厚さが似たような板を打ち付けていく。床もできあがった。
「寸法はちょっとずつ違うが、柱にちょうどいい太さの角材が四本そろうたぞ」
そう言いながら、みんなが集めてきた材料を品定めしている兄ちゃんは、本当に楽しそうだった。柱を立てるのに四隅に穴を掘って、クギとハリがねで床のかどを固定する。作業がてきぱき進んでいく。まるで最初から設計図が頭の中にあるみたいだ。
「さあ、こんどはカベと屋根になるようなものを探しておいで」
ユーイチとコウちゃんは、戸板やベニヤ板、そしてトタン板を運んでくる。ケイコちゃんとトモコちゃんは、ゴザをどこからか探してきて、ゆかに敷いた。ベニヤ板と戸板を四方のカベに打ち付け、小さな窓わくも入れた。屋根にはトタン板を張り付けた。
「できあがり!」
材料の大きさがそろってないので、少しいびつな形にはなったが、中に入ると、けっこう立派な部屋になった。なかなかの出来ばえだ。
「自分の部屋っていいよね」
ケイコちゃんが言った。
テツオ兄ちゃんは、「まあまあかな?」
そう言いながら、満足そうな顔で出来上がりを見て帰って行った。
次の日、テツオ兄ちゃんはまたやってきた。サトミさんという同級生が一緒だった。帰る方向が同じなんだそうだ。
「ほら、これがさっき話した小屋だ。きのう一日でオレが作ったマイホーム」
なんだ、自慢したかったのか。
「まあ中に入ってみろよ。けっこう工夫したんだぞ」
その時はトモコちゃんとユーイチしかいなかった。
「なかなかすてきね。きれいな花ゴザが床にしかれていて居心地も良さそうだわ」
サトミさんはそう言って中に入った。テツオ兄ちゃんはいかにも自慢そうに、きのうの苦労をひとしきり話していた。
サトミさんは自慢話にしばらく付き合っていたが、やがて、トモコちゃんとばかり話すようになった。時々笑いながら、よく分からない言葉を使って話している。たあいもない女同士の話だって言っていた。
お兄ちゃんとユーイチはたいくつして小屋の外に出た。
「兄ちゃん、また竹とんぼを作ってくれんか」
「よっしゃ。今、小刀を持っとるか?」
「そんなの持ってたら、先生にしかられるよ」
「そうか。今はえんぴつ削りが教室にあるもんな。昔は自分でえんぴつを削っとったから、小刀くらいみんな持っとったが。そしたらな、竹とんぼの羽になるくらいの竹を探しといで」
古い竹の棒はすぐに見つかった。その間に兄ちゃんは自分のカバンから小刀を取り出した。
「この竹はちょっと古すぎて、すぐに割れてしまいそうなのぉ」
そう言いながらも器用に削って、竹ひごと羽に仕立てた。
「ええか、この竹とんぼの羽の右と左を微妙に角度をつけて上にそらして削るんよ。このコツは何べんも作って見にゃ分からん。あとは真ん中に竹ひごをきっちりかます穴を開けて、ほらこれでできあがりじゃ」
やったあ!さっそくユーイチは竹ひごを両手にはさんで、思いっきりこすり合わせる。すると竹とんぼは面白いように上へ飛んでいった。テツオ兄ちゃんが作る竹とんぼは、いつも上へ上へとヒュンヒュン飛んでいく。
「もう一つ作ってみようか。ユーイチ、ちょっと自分で小刀を使ってみろ」
ユーイチも小刀を持って恐る恐る削ってみた。
「あっ、危ない!小刀の刃は絶対自分の方に向けるんじゃない。自分の腹をグサッとつくぞ。ええか、こういうふうに持って、向こうに向けてゆっくり削っていけば安全じゃ。ほら、うまいこと削れとろう」
なるほど、兄ちゃんの言うとおりにしたら、不思議と小刀が思うように竹を削ってくれた。
ぶかっこうだけど、ユーイチオリジナルの、竹とんぼの出来上がりだ。意外とよく飛んだ。
「初めてにしては、まあまあの出来上がりじゃ!」
小屋に入ると、トモコちゃんとサトミさんはまだ話をしている。サトミさんはトモコちゃんのおさげをほどいて、ていねいにクシで髪をすき、きれいに三つ編みに結い直していた。時々トモコちゃんはキャッキャと声を出して笑っていた。ケイコちゃんと話している時とずい分違う。まるでお母さんに甘える子どものようで、今まで見たことのないような明るい顔をしていた。
テツオ兄ちゃんとサトミさんが帰ったあと、トモコちゃんがポツンと言った。
「サトミさんのお母さんは朝鮮人なんだって。うちのお母さんも朝鮮人なんよ」
それからしばらく、秘密基地は四人の遊び場になった、のだが・・・
せっかくテツオ兄ちゃんが作ってくれた小屋には、だんだん入ることがなくなって、やがてすっかり見捨てられてしまった。なぜって、秘密基地はその中で遊ぶことよりも基地を作ることの方が楽しいからだ。ユーイチたちはまた廃材の山に入って、横穴作りに夢中になった。テツオ兄ちゃんの自慢の家は、板を剥がされ、柱を取られ、あっという間に何もなくなった。
飛び出した丸太の下に、つっかい棒を立てて倒れないようにしたり、ベニヤ板やトタン板で部屋のしきりを作ったり、材料の奪い合いになったり、そのうち他の基地の子から攻撃をしかけられて戦争ごっこになったり・・・。みんなの原っぱは、自分たちで作った遊園地だ。百番地一のにぎやかな遊び場になった。
あるとき、いつものように四人で秘密基地の穴ぐらで遊んでいたら、遠くから聞き慣れた音が聞こえてくる。
「ロバのパン屋さんだ!」
百番地にはお店屋さんというものがない。だから、ロバのパン屋さんは人気がある。むしパンが中心だが、しょうゆだんごや、ちょっとしたおそうざいも置いている。リヤカーの上にパンケースをのせて、それをロバが引いて、そのロバをおじさんが引いて歩いてくる。そのときに鳴らすのが『ロバのパンの歌』だ。百番地に来るロバのパン屋さんは、ロバではなくて白い小馬だった。
「オレ、あのむしパンは好きじゃない。口の中でパサパサする。むしてから何日も過ぎとるみたいじゃ」
コウちゃんがそう言ったら、
「あれねえ、ウチのおじさんなんじゃ・・・」
ケイコちゃんが小さい声で言った。
「えっ!ああ、アゲパンも売ってるじゃろ。あのアゲパンは大好きなんじゃ。おじさんとこのアンドーナツはけっこううまいよのう」
コウちゃんはあわててユーイチに同調を求めた。ケイコちゃんとトモコちゃんは顔を見合わせて笑った。
『ロバのパンの歌』がどんどん近づいてくる。だれかのおなかがグーと鳴った。
「ちょっと待っといてね」
そう言って、ケイコちゃんが飛び出していった。帰ってきたケイコちゃんは紙ぶくろを手に持っていた。中にはアンドーナツが四つ。秘密基地の中で食べたアンドーナツはおいしかった。楽しくなってみんなで『ロバのパンの歌』を歌った。
『ロバのおじさんチンカラリン チンカラリンロンやってくる』
「そう言やあ、パンケースの屋根に、『一日一食パン食を!』って書いてあるじゃろう」
ユーイチはそう言って、この間テツオ兄ちゃんから聞いたことを、自慢そうに言おうとした。ところが、ケイコちゃんとトモコちゃんに全部言われてしまった。
「あれはねえ、今は日本のお米が足らんからなんよね。だから、給食もパンになっとるんよ」
「それで、山を削って、川を埋めて、湖を埋めて、海も埋めて、田んぼをいっぱい作ってるんじゃろ」
それをユーイチが言おうと思っていたのだ。
「ロバのパンってね、北海道で始まったって知ってる?」
ケイコちゃんが言った。また知ったかぶりを始めたな、とユーイチは思った。
「おじさんはね、北海道で生まれたんよ。行ってみたいなあ、北海道」
そう言ってトモコちゃんと顔を見合わせた。
「オレ、大人になったら旅行会社をつくるんじゃ」
コウちゃんが突然言い出した。コウちゃんが将来の夢を話したのは初めてだ。
ケイコちゃんが言った。
「そりゃいいね。ウチも飛行機や新幹線にのって、あちこちの町に行ける仕事がしたい」
「日本国中どこでも、北海道だって東京だって、どこにでも行けるんぞ。外国だって行けるんじゃ」
そうか、コウちゃんは山の向こうのその向こうの、遠い世界を夢見ていたんだ。
「ユーイチくんは将来何をしたいの?」
「えっ、ぼくか?ぼくは・・・」
急にトモコちゃんから聞かれてユーイチは慌てて考えた。
『そういえば将来の夢なんて、そんなこと考えたこともないぞ。夢と言われてもなあ。ぼくには夢なんてないんだ!』
「わたしはねえ、英語を習ってジョージを連れてアメリカへ行ってみたい」
トモコちゃんはユーイチの返事を待たずに、ひとり言のようにそう言った。
「こらっ!こんなところで火遊びをしちゃいけんよッ!」
突然、大声で叫ぶおばさんの声がした。どこかの基地でロウソクに火をつけた子がいたんだ。
「あんたら、ここでなにしとるんかね。危ないのに!火事になったらどうするんかね」
通りがかったおばちゃんに見つかったんだ。あまりのおばちゃんのけんまくに、あちこちの秘密基地から、かくれていた子供たちが次から次とみんな飛び出してきた。あんまりの人数に、おばちゃんはびっくりたまげていた。
次の日から、材木置き場は出入り禁止になった。町内会長のガミガミさんが、すぐに業者に言ったらしい。周りに丸い棒が打ち付けられて、百番地名物の鉄条網が、がんじがらめにはりめぐらされてしまった。
「ウチらの部屋に、もう入れんようになったね」
ケイコちゃんがポツンと言った。
それが、たびたびトラックがいろいろな物を運んでくるようになり、いつの間にか材木置き場になってしまった。百番地の古い建物をこわして、いろいろなガレキを運んでくる。古いかべ板や窓わく、ベニヤ板、丸太に角材、いろんな形の雨どいやら、かわら、トタン板などが山積みになって、あっという間に原っぱをおおいつくしてしまった。
子どもたちは遊び場を奪われてがっかりした。いや、がっかりして他の空き地に移ったかと思ったら、すぐにまたここへもどってきた。なぜって、遊び道具をこれだけプレゼントされたのだ。子どもにとってこれほどすてきなプレゼントはない。
ここに秘密基地を作れる!材料はいっぱいだ。みんな、そう思ったのだ。
あっという間に、いくつものグループがそれぞれ気にいった材木を集めては、秘密基地を作っていく。山のように積まれた材木から板を引っ張り抜いて、迷路のような横穴をつくったグループや、たて穴を広げて塹壕(ざんごう)のような基地をつくったグループもある。寛太と健太たち川上小の六年生は、みんなで真ん中に陣取って巨大な基地を作っていた。
たまにトラックで資材を運んできたおっちゃんから、「こらっ」とどなられることがある。でも、たいがいトラックの近づく音が聞こえたら、みんなすぐ基地の中にもぐりこむのだ。
ユーイチたち四人は、奥の深い横穴式の部屋を作っていた。そんなとき、ちょうどテツオ兄ちゃんが通りがかった。テツオ兄ちゃんはユーイチのいとこで、商業高校の一年生だ。小さいころの病気がもとで左足が細いため、歩くときに足をひきずりながら歩いている。時々周りから変な目で見られることもある。でも、そんなことなんかテツオ兄ちゃんは全然気にしていない。いつも二コ二コした元気な兄ちゃんだ。足が不自由でも何だってできるのだ。
高校は自宅から三キロも離れた所にある。でも、自分で歩いて通学している。ユーイチの家がそのちょうど真ん中あたりだ。だから学校の帰りに時々寄って休んでいく。ユーイチは昔からテツオ兄ちゃんと遊ぶのが大好きだ。テツオ兄ちゃんは、手先がとても器用なので、いろんなものを作ってくれる。今年の正月に、竹を削って作ってもらった、ヤッコだこやグライダーを、ユーイチは今でも大切にしている。
テツオ兄ちゃんは建物をつくることが夢だったみたいで、小さいころから、自分が建てるビルの設計図をたくさん書いていた。本当は、工業高校へ行って設計士になりたかったんだ。だけど、足が不自由なため、家から一番近くて通いやすい商業高校に進路を変えたんだそうだ。
それでもやっぱり建築の仕事がしたかったらしい。ユーイチたちがやっていることを見ているうちに、
「ああしろ、こうしろ」と口を出し始めた。まるで建築現場で指図する監督みたいだ。
そして、とうとう自分から手伝うようになった。
「こんな廃材の山の中にもぐって、横穴なんかつくったら危なかろう。見ちゃおれん」
そう言って、廃材置き場から少しはなれた平らな地面に四角形を書いて、四つの角にレンガを置いた。
たしかにユーイチたちがやっていたことはとても危険だ。廃材の山の中で、板を引っ張ったり、突き出た柱につっかい棒を立てかけたりするのだ。いつ上から物が落ちてきて、くずれ落ちた板の下敷きになるか知れたものじゃない。
「安全な家は、まず土台作りからじゃ。こうやってレンガを置いてだ。これが四つの角じゃ。そして、この四角の中にゆかを作る。まず、平らな板を集めて張っていくんじゃ。さあ、手分けして材料を集めようや。使い勝手をよく考えて。これ位の長さの板、それからこれ位のちょっと短めの板と、それから柱にする太めの角材を集めておいで。安全第一で作るよ。横から引っ張って板を抜いたりせずに、上にあるものから持ってこいよ」
みんなで兄ちゃんから指図されて同じような大きさの材料をそろえた。その間に、兄ちゃんは古クギやハリがねを集めた。そして、長めの角材を四隅のレンガの外側で組んで、拾ってきた古クギを握りこぶしくらいの石で打ち付ける。見事に土台のわくができあがった。それから、その上に厚さが似たような板を打ち付けていく。床もできあがった。
「寸法はちょっとずつ違うが、柱にちょうどいい太さの角材が四本そろうたぞ」
そう言いながら、みんなが集めてきた材料を品定めしている兄ちゃんは、本当に楽しそうだった。柱を立てるのに四隅に穴を掘って、クギとハリがねで床のかどを固定する。作業がてきぱき進んでいく。まるで最初から設計図が頭の中にあるみたいだ。
「さあ、こんどはカベと屋根になるようなものを探しておいで」
ユーイチとコウちゃんは、戸板やベニヤ板、そしてトタン板を運んでくる。ケイコちゃんとトモコちゃんは、ゴザをどこからか探してきて、ゆかに敷いた。ベニヤ板と戸板を四方のカベに打ち付け、小さな窓わくも入れた。屋根にはトタン板を張り付けた。
「できあがり!」
材料の大きさがそろってないので、少しいびつな形にはなったが、中に入ると、けっこう立派な部屋になった。なかなかの出来ばえだ。
「自分の部屋っていいよね」
ケイコちゃんが言った。
テツオ兄ちゃんは、「まあまあかな?」
そう言いながら、満足そうな顔で出来上がりを見て帰って行った。
次の日、テツオ兄ちゃんはまたやってきた。サトミさんという同級生が一緒だった。帰る方向が同じなんだそうだ。
「ほら、これがさっき話した小屋だ。きのう一日でオレが作ったマイホーム」
なんだ、自慢したかったのか。
「まあ中に入ってみろよ。けっこう工夫したんだぞ」
その時はトモコちゃんとユーイチしかいなかった。
「なかなかすてきね。きれいな花ゴザが床にしかれていて居心地も良さそうだわ」
サトミさんはそう言って中に入った。テツオ兄ちゃんはいかにも自慢そうに、きのうの苦労をひとしきり話していた。
サトミさんは自慢話にしばらく付き合っていたが、やがて、トモコちゃんとばかり話すようになった。時々笑いながら、よく分からない言葉を使って話している。たあいもない女同士の話だって言っていた。
お兄ちゃんとユーイチはたいくつして小屋の外に出た。
「兄ちゃん、また竹とんぼを作ってくれんか」
「よっしゃ。今、小刀を持っとるか?」
「そんなの持ってたら、先生にしかられるよ」
「そうか。今はえんぴつ削りが教室にあるもんな。昔は自分でえんぴつを削っとったから、小刀くらいみんな持っとったが。そしたらな、竹とんぼの羽になるくらいの竹を探しといで」
古い竹の棒はすぐに見つかった。その間に兄ちゃんは自分のカバンから小刀を取り出した。
「この竹はちょっと古すぎて、すぐに割れてしまいそうなのぉ」
そう言いながらも器用に削って、竹ひごと羽に仕立てた。
「ええか、この竹とんぼの羽の右と左を微妙に角度をつけて上にそらして削るんよ。このコツは何べんも作って見にゃ分からん。あとは真ん中に竹ひごをきっちりかます穴を開けて、ほらこれでできあがりじゃ」
やったあ!さっそくユーイチは竹ひごを両手にはさんで、思いっきりこすり合わせる。すると竹とんぼは面白いように上へ飛んでいった。テツオ兄ちゃんが作る竹とんぼは、いつも上へ上へとヒュンヒュン飛んでいく。
「もう一つ作ってみようか。ユーイチ、ちょっと自分で小刀を使ってみろ」
ユーイチも小刀を持って恐る恐る削ってみた。
「あっ、危ない!小刀の刃は絶対自分の方に向けるんじゃない。自分の腹をグサッとつくぞ。ええか、こういうふうに持って、向こうに向けてゆっくり削っていけば安全じゃ。ほら、うまいこと削れとろう」
なるほど、兄ちゃんの言うとおりにしたら、不思議と小刀が思うように竹を削ってくれた。
ぶかっこうだけど、ユーイチオリジナルの、竹とんぼの出来上がりだ。意外とよく飛んだ。
「初めてにしては、まあまあの出来上がりじゃ!」
小屋に入ると、トモコちゃんとサトミさんはまだ話をしている。サトミさんはトモコちゃんのおさげをほどいて、ていねいにクシで髪をすき、きれいに三つ編みに結い直していた。時々トモコちゃんはキャッキャと声を出して笑っていた。ケイコちゃんと話している時とずい分違う。まるでお母さんに甘える子どものようで、今まで見たことのないような明るい顔をしていた。
テツオ兄ちゃんとサトミさんが帰ったあと、トモコちゃんがポツンと言った。
「サトミさんのお母さんは朝鮮人なんだって。うちのお母さんも朝鮮人なんよ」
それからしばらく、秘密基地は四人の遊び場になった、のだが・・・
せっかくテツオ兄ちゃんが作ってくれた小屋には、だんだん入ることがなくなって、やがてすっかり見捨てられてしまった。なぜって、秘密基地はその中で遊ぶことよりも基地を作ることの方が楽しいからだ。ユーイチたちはまた廃材の山に入って、横穴作りに夢中になった。テツオ兄ちゃんの自慢の家は、板を剥がされ、柱を取られ、あっという間に何もなくなった。
飛び出した丸太の下に、つっかい棒を立てて倒れないようにしたり、ベニヤ板やトタン板で部屋のしきりを作ったり、材料の奪い合いになったり、そのうち他の基地の子から攻撃をしかけられて戦争ごっこになったり・・・。みんなの原っぱは、自分たちで作った遊園地だ。百番地一のにぎやかな遊び場になった。
あるとき、いつものように四人で秘密基地の穴ぐらで遊んでいたら、遠くから聞き慣れた音が聞こえてくる。
「ロバのパン屋さんだ!」
百番地にはお店屋さんというものがない。だから、ロバのパン屋さんは人気がある。むしパンが中心だが、しょうゆだんごや、ちょっとしたおそうざいも置いている。リヤカーの上にパンケースをのせて、それをロバが引いて、そのロバをおじさんが引いて歩いてくる。そのときに鳴らすのが『ロバのパンの歌』だ。百番地に来るロバのパン屋さんは、ロバではなくて白い小馬だった。
「オレ、あのむしパンは好きじゃない。口の中でパサパサする。むしてから何日も過ぎとるみたいじゃ」
コウちゃんがそう言ったら、
「あれねえ、ウチのおじさんなんじゃ・・・」
ケイコちゃんが小さい声で言った。
「えっ!ああ、アゲパンも売ってるじゃろ。あのアゲパンは大好きなんじゃ。おじさんとこのアンドーナツはけっこううまいよのう」
コウちゃんはあわててユーイチに同調を求めた。ケイコちゃんとトモコちゃんは顔を見合わせて笑った。
『ロバのパンの歌』がどんどん近づいてくる。だれかのおなかがグーと鳴った。
「ちょっと待っといてね」
そう言って、ケイコちゃんが飛び出していった。帰ってきたケイコちゃんは紙ぶくろを手に持っていた。中にはアンドーナツが四つ。秘密基地の中で食べたアンドーナツはおいしかった。楽しくなってみんなで『ロバのパンの歌』を歌った。
『ロバのおじさんチンカラリン チンカラリンロンやってくる』
「そう言やあ、パンケースの屋根に、『一日一食パン食を!』って書いてあるじゃろう」
ユーイチはそう言って、この間テツオ兄ちゃんから聞いたことを、自慢そうに言おうとした。ところが、ケイコちゃんとトモコちゃんに全部言われてしまった。
「あれはねえ、今は日本のお米が足らんからなんよね。だから、給食もパンになっとるんよ」
「それで、山を削って、川を埋めて、湖を埋めて、海も埋めて、田んぼをいっぱい作ってるんじゃろ」
それをユーイチが言おうと思っていたのだ。
「ロバのパンってね、北海道で始まったって知ってる?」
ケイコちゃんが言った。また知ったかぶりを始めたな、とユーイチは思った。
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そう言ってトモコちゃんと顔を見合わせた。
「オレ、大人になったら旅行会社をつくるんじゃ」
コウちゃんが突然言い出した。コウちゃんが将来の夢を話したのは初めてだ。
ケイコちゃんが言った。
「そりゃいいね。ウチも飛行機や新幹線にのって、あちこちの町に行ける仕事がしたい」
「日本国中どこでも、北海道だって東京だって、どこにでも行けるんぞ。外国だって行けるんじゃ」
そうか、コウちゃんは山の向こうのその向こうの、遠い世界を夢見ていたんだ。
「ユーイチくんは将来何をしたいの?」
「えっ、ぼくか?ぼくは・・・」
急にトモコちゃんから聞かれてユーイチは慌てて考えた。
『そういえば将来の夢なんて、そんなこと考えたこともないぞ。夢と言われてもなあ。ぼくには夢なんてないんだ!』
「わたしはねえ、英語を習ってジョージを連れてアメリカへ行ってみたい」
トモコちゃんはユーイチの返事を待たずに、ひとり言のようにそう言った。
「こらっ!こんなところで火遊びをしちゃいけんよッ!」
突然、大声で叫ぶおばさんの声がした。どこかの基地でロウソクに火をつけた子がいたんだ。
「あんたら、ここでなにしとるんかね。危ないのに!火事になったらどうするんかね」
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児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
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