ノースキャンプの見張り台

こいちろう

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18.野球大会

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 タッちゃんとコウちゃんの言っていたことが現実になった。野球大会が開かれることになったのだ。
「百番地」対「川北小」
 大二郎先生が、町内会長のガミガミさんに相談してくれたらしい。場所も、監視塔そばの大広場。百番地で一番広い、学校のグランドみたいな草一本はえてない広っぱだ。
 そのことが決まってから、リューイチたちのクラスでは野球のことばかり話していた。タッちゃんがピッチャーでヨーちゃんがキャッチャー。これだけは最初から決まっている。あとは、だれがどこを守って、打順はどうするか。これがなかなか決まらない。決まりかけてはむし返す。時々口げんかも始まった。
 まあ、そうやって楽しんでたところもあるんだ。
「あんたら、ええかげんにしい!」
大声で怒ったのは城田さんだ。泣く子も黙る女番長。五年三組の、いや六年生も黙らせる、学校一の怪力女子だ。
「四番がなんたらとか、うるそうてかなわん。あんたら、これ以上騒ぐんじゃったら、川本先生に言って試合をやめてもらうよ!」
男子全員がシュンとなる。
「だいたい川本先生は、あんたらがみんなで楽しゅう野球をして、百番地と仲良うなってもらおうと思うて、この試合を計画してくれたんじゃろうがね」
「そっ、そっ、そ、そうです」
「けんかをせんと、楽しゅうやりんさいや!うちらも応援に行ってあげるけん」
なんだ、自分も楽しみなんじゃないか。
「その代わり、やるからには負けちゃあいけんよっ!」
「はい」
「はい」
「はいっ!」
負けたらとんでもないことになりそうだ。

 日曜日の午後、いよいよ決戦の時がやって来た。
 なんてたくさんの人が集まったんだ。五年三組は全員集合だ。もちろん城田さんもいる。いるどころか、丸太のベンチの上にデンと立って、まるでいばってる。百番地の子たちもほぼみんなが見に来ている。ユーイチとコウちゃんはもちろん、シューイチくんも百番地のチームに入っている。ツヨシくんはヒロくんとベンチから応援だ。
 バットやグローブも、大二郎先生が小学校から借りてくれた。それに、真っ白い新品のソフトボールだ。ライン挽きも借りてくれて、きれいに白線が引いてある。グランドも竹ぼうきで掃いたみたいにきれいだ。午前中に、町内会の人たちが協力して準備してくれていたみたいだ。ベースだってちゃんとある。
 これはもう、本格的な野球場だ!
「試合開始!」
アンパイヤーはガミガミさん。でもすぐに大二郎先生に替わってしまった。
「ピッチャーのボールが速すぎて、わしにはよう見えん」
なんて言ってたけど、本当は午前中の準備のせいで腰が痛くなったらしい。丸太のベンチにすぐに座った。
 百番地のバッテリーは、寛太健太のふたごの関西コンビだ。
「寛太ぁ、もっとまっすぐにミットめがけて投げんかい」
「あほぬかせ、おまえのミットのかまえかたがおかしいんやろうが」
やたらと言い合ってるが、でもけっこう息があってるんだ。うまいことアウトをとる。アッという間に一回の表、川北小レイ点。
 対するタッちゃんは、
「あれっ、タッちゃん緊張しているぞ!」
 トップバッターはファーストゴロに仕留めた。二番バッターはボテボテのサードゴロだったけど、緊張したリューイチがトンネル。ワンアウト、ランナー二塁で、三番の強打者シューイチくん。選球眼がいい。フォアボールで出塁。百番地の声援のすごいことすごいこと。ツヨシくんとヒロくんは、ずっと立ち上がったままで大喜びだ。
 ますますタッちゃんが緊張する。いよいよ四番バッター、コウちゃんの登場だ。コウちゃんはじっとタッちゃんをにらんでいる。
 第一球、大きくはずれてボールだ。
 そして第二球、
「カキーン!」
「打ったア!」
まっすぐまっすぐ、見張り台の方だ。監視塔に向けて飛んでいく。
 弾丸ライナー!
「ガーン~」
監視塔のさびた鉄柱に、弾丸がまっすぐ命中だ。
「まるで真法寺の鐘の音じゃ」
百番地全体に地響きをおこすような、ものすごい音がした。
「ホームラン!」
「こりゃあすごいや!」
百番地側の応援席はどっとわいた。
 一方、五年三組のみんなはシュンとしてしまった。タッちゃんをみると、もっとシュンとして、肩を落としている。リューイチにはタッちゃんの緊張がすごく伝わった。
「ピッチャー、ドンマイ、ドンマイ!まだ三点じゃあ。これからおさえりゃあええんよ!タッちゃんがんばれよお、がんばれえッ!」
城田さんが一人大声で叫んで、タッちゃんを励ます。
 そのがんばれがんばれが、タッちゃんはいやなのだ。ほら、タッちゃんの顔が余計に緊張している。
「城田さん。おさえて、おさえて」
サードを守っていたリューイチは、守備位置のすぐそばの『五年三組応援団』に向かって、手を合わせてたのんだ。
 城田さんにはすぐ分かった。
『そうかそうか、そうだったね!』
そういうように、自分の頭を軽くたたいた。 
 声援の音がピタリと止んだ。さあ、仕切り直しだ。
「タッちゃん行くでえ!」
ヨーちゃんが立ち上がって両手をあげる。
「よっしゃア、これからが勝負じゃ!」
 タッちゃんが燃えてきたぞ!
「さあ、五年三組木村辰也、気合いの入った顔をしています。マウンドから相手バッターをにらんだ。すごい気迫だ!ピッチャー一球入魂!投げたッ。ストライクだァッ!」
いい珠がまっすぐヨーちゃんのミットに。
 タッちゃんの実況中継が始まった。何やらブツブツ言いながら、どんどんテンポが良くなった。
「よーし、勢いは止まらないぞ!第二球目、またまたストライクッ」
目にもとまらぬその速さ。第三球、もっと速い球だ。
「ものすごい剛球だァ!バッターがびっくりたまげて、後ずさりしたぞオ!バッター空振り、三振!」
そして次のバッター、ユーイチも三球三振!
「タッちゃん、人間の球じゃないよ。宇宙人じゃろ?」なんておどけてみせる。
「ピッチャー最高!」
 城田さんの大声で『五年三組応援団』はわきあがった。
「よーし、五年三組の攻撃だ!すぐに三点くらい取り返すぞ」
でも、やっとベンチにすわったとたん、
「あれっ、あれれ」
あっという間だ。また三人で攻撃が終わって守備に出た。
 でも、タッちゃんが調子付いたから、こっちの守りも短い。守備についたかと思ったら、もう攻撃だ。
「どっちもピッチャーがいいや」
 あっという間に五回表。リューイチたちは円陣を組んだ。どうしても寛太健太からヒットが打てないんだ。
「ベンチで見てたら打てそうな球なんじゃけど、バットに当たってもボテボテのゴロになってしまうんじゃ」
「うまい具合に打たされとるんよ」
「キャッチャーの健太、なんかピッチャーに大声で話しかけたり、打席のオレらにも声かけたり、一人でブツブツ言うたりして。それがおかしゅうておかしゅうて、つい力が抜けるんよ」
「ピッチャーよりキャッチャーに負けとるんじゃあないか?」
「そうじゃ。バントしょうじゃないか」
「キャッチャーの近くに球を落とそうや。そしたら、健太はたびたび立ち上がってヘトヘトになる」
「ヘトヘトになったら、少しはおとなしゅうなるじゃろう。そりゃあええわ」
「そうじゃそうじゃ。よし、みんなでバントしよう」
 このバント作戦がうまくいった。寛太の球にバットをうまく合わせて、みんなでバント。これが全然うまくはない、へたくそなバントだ。あっちへ飛んだりこっちへ飛んだり、後ろにはねて、応援席の中に入ったり。スリーバント失敗でツーアウト。
 でもそれが良かったみたいだ。明らかに健太の口数が減った。あっちに球を追いかけ、こっちに球を追いかけて、立ち上がる動きも次第に鈍くなる。次のバッターはリューイチ。最初からバントのかまえをしている。もうキャッチャーの健太は一言もしゃべらない。すると、寛太の球も力がなくなってきた。山なりのゆるーいカーブ。思わずリューイチはバットを振り切った。
「カキーン!」
「やった、やったぞ!」
三塁線を抜けてボールは勢いよく外野の向こうまで飛んでった。
「二塁打だ!」
 チーム初安打。城田さんたちの喜ぶこと、喜ぶこと。
「エッヘン」
自慢げにみんなを見まわしていると、次のヨーちゃんも、カキーンと快音を上げて大ヒット!あわててリューイチは走った。サードベースを回って一気にホームベースに滑り込んだ。
「セーフ!」
 五年三組に一点が入った。すっかりヒーローだ。五年三組の女子がみんなまぶしそうにリューイチを見ている。
「エッヘン!エッヘン!」
 ところが、次のタッちゃんがやってくれた。
「カーン!」
球は高く高く飛んでいく。大きく大きく円を描いて、青い空のてっぺんでいっぺん止まったかと思ったら、ゆっくり下に落ちてきた。
 落ちた先は監視塔の屋根の上。緑のトタン屋根にゴツーンと当たって、それから真下へ。
「あっ、あの下は鉄条網の地獄だぞ」
新球がさけてしまう!そう思ったら、ボールはうまく手前に落ちてくれて、トントントンとグランド真ん中までもどってきた。
 大二郎審判はホームラン!の判定。
「やった、やった、同点だ!」
『五年三組応援団』はもうお祭り状態だ。
「よっしゃあ、よっしゃあ!」
「勝ったぞ。勝ったぞ!」
「まだ勝っちゃあいないんだよ!」
 百番地は、ピッチャーマウンドにみんなが集まって作戦会議だ。
「なんやねん。寛太のアホが!ヒットを打たれてからカーッとなってしもうて。頭冷やさんかい」
健太のカツが効いたのか、その後寛太は立ち直る。キャッチャーの健太も、再びやたらと口数が増えてくる。完全に寛太健太のペースにもどってしまった。
 でも、タッちゃんのスピードボールも冴え渡る。どちらも得点どころかヒットも出ないで、とうとう最終回を終わってしまった。
「良かった、良かった。仲良う引き分けじゃ。これでええ、これでええ。ええ試合をみせてもろうた」
ガミガミさんは引き分けで終わったことを喜んだ。

 松本のじーじとばーばが、手作りのクッキーと紅茶を持ってきてくれた。みんなが仲良くなった。川北小も百番地も、みんな一緒に集まってしゃべっていた。百番地も川北と変わらないんだ。監視塔なんてちっともこわくない。
 タッちゃんとコウちゃんなんか一番よくしゃべっていた。『五年三組応援団』も、百番地の子どもたちも、男子も女子も一緒になって、広場いっぱいに広がって遊びだした。その姿を、大二郎先生とガミガミさんはうれしそうに見つめていた。

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