ノースキャンプの見張り台

こいちろう

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25.流感(インフルエンザ)

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 ユーイチは、もう何日も学校を休んでいる。流感だ。月曜日の二時間目、急に寒くなって体中がふるえてきて早退した。自分でなんとか歩いて帰った。毛布と布団をかけられて、「寒い、寒い」とふるえながら、いつの間にか眠っていた。  
 百番地では流感がはやっている。学校にもたくさんの欠席者がいた。家に帰ってから三日くらいずっと寝ていた。あまり覚えていない。ずい分高い熱が出たらしい。それでも食欲はあった。おかゆだの、リンゴをすっただの、牛乳寒天だのをしっかり食べていた。それはちゃんと覚えているんだ。
 母親からはいつも言われた。
「おまえは元気なときも病気の時も、食欲だけは落ちないから助かるよ」
 でもあとは、夢なんだか本当なんだか、ユーイチは変な世界をずっと飛んでいたような気がする。

 秘密基地の中だった。ケイコちゃんとソユンと、コウちゃんがいた。なんだ、まだケイコちゃんもソユンも、基地の中にいたんだ。
 三人が秘密基地の横穴を、腹ばいになってどんどん進んでいく。長い長い横穴だ。あれ、秘密基地の中はそんなに長いわけがないぞ。だけど、三人はどんどん先を進んでいく。
「おーい、待てよ!」
ユーイチは遅れないように、一生けんめいついて行った。そうしたら、いつの間にか地下壕に入っていた。見覚えのある地下壕だ。
 なーんだ、アイジエンにつながってたんか。
 そう思ってついて行くと、やがて、地下の通路が立って歩けるくらいの高さになった。そして、先に進んで行くほど、少しずつ広くなっていって、だんだん明るくなっていって、その中を三人はどんどん,どんどん進んでいって・・・


あれっ、急に体が軽くなったぞ
空の上だ!空を飛んでいるんだ

ケイコちゃんとソユンとコウちゃん
三人でどんどん高く上にあがっていく
監視塔がずっと下に見えるぞ
赤い光線だ 周りいっぱいに
あっちにもこっちにも光っている
見張り台に人がいるんだ
ガミガミさんだ
土山先生もいる
ヒロくんもいる
見張り台で何をしているんだ?
そうか、
ぼくらのことを見守ってるんだ

おーい、どこまで上がるんじゃあ!
ぼくだけ置いて行くんかあ!
ぼくも一生けんめい飛ぼうと
おや?飛び方が分からない!
おーいコウちゃん、
どうやって飛ぶんか?

落ちる!
落ちるぞ!
このままじゃあ落ちてしまうぞ
必死になって、
両手を鳥の羽のようにばたばたさせた
でも、ぼくだけどんどん落ちていく
これは危ない
必死に、必死に羽ばたいた
あれっ、前の三人には羽があるぞ!
翼がついているじゃないか
でも、ぼくには翼なんかない
両手でバタバタ、バタバタ
少し体が浮いてきたか
いやいや、やっぱり落ちている
必死にバタバタ、バタバタ

ハアハア、ハアハア
もうだめだ!
つかれたよ もう動けないぞ
ああ、このまま落ちて死ぬんかあ?
みんな ずいぶん遠くなってしまった
地面が近づいてくる・・・
激突だあ!  


 おや、コウちゃんの声が聞こえる。
「いつもありがとうね」
母の声だ。

 コウちゃんの声が聞こえたら、ユーイチは動きたくて仕方なくなった。パジャマのままで飛び出した。
「コウちゃんにうつるから出ちゃだめよ!」
母は止めたが、もうがまんができなかった。休んでいる間、コウちゃんと中村さんが交代で給食のパンを届けてくれてたんだ。
「おうユーイチ!もうええのか?」
いつものコウちゃんだ。
「おう、久しぶりじゃ・・・、コウちゃんさっきオレを置いていったろう。でも、あれ?コウちゃん羽がないじゃないか。羽がなんで・・・?もう地面に足は着いたんじゃろうか、ぼく、まだ寝ちょるんかのう。なんか頭の中がぼーっとするんじゃ」
 急に明るい所へ出てきたのだ。余計に頭がふらふらした。コウちゃんに会ったのは久しぶりのような、でも、そうでもないような・・・
「来週から学校に行かせるから、そしたらコウちゃんまたよろしくね」
母がそう言った。
「えっ!来週からじゃとお?」
えっと、今日はたしか木曜日だ。えっ、まだ三日もあるのか。もう、そんなに飛び続けられないぞ。
 そう思ったら、また気が遠くなっていった。
「そうそう、いつも朝通ってるところ、通れんようになったから。南門を通って学校に行くしかないようになった」
遠くでコウちゃんがそう言っていたような気がした。

 月曜日、一週間ぶりの登校だ。聞いていたように、ユーイチたちのくぐり抜けていた鉄条網がなくなっていた。代わりに、がんじょうなフェンスが取り付けられていた。
「この間、工事のおっちゃんが得意そうに、『おまえら、もうこれでくぐって抜け出ることもできんじゃろ!』と言うてたで」
コウちゃんがくやしそうに言った。
百番地の周りの鉄条網、そのうち全部がんじょうなフェンスに変わるらしい。でも、なんでフェンスで囲むんだ?
 ユーイチが休んでいる間に、世の中ずいぶん変わてしまったらしい。
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