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終章 冬が好きになった少年
最終話 過去との区切り、未来へ向けて
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ボクらは粉雪の中を進み、ラフィールの後を追いかけた。幸いなことにラフィールの足跡はまだ残っていたので、ボクらは暫くそれを辿り、そのうち街はずれの雪原へと足を踏み入れる。
どこまで行くのだろうか。ここから先はボクも行ったことが無い。今までは街に行く時に、横目で見て通り過ぎるだけだったから。この先に何か目指したくなるようなものがあるのかどうか、正直言って半信半疑。
とはいえ王様の用事って言ってたから、まあ一応何かがあるんだろうけど。実際、何を目指してるんだろう。見渡す限り、ただの雪原にしか見えないけど。トウヒの木みたいなのが沢山生えてて、後は遠くの方に山が見えるだけで……。
「……ん、あれ? これって……?」
そして数分ほど歩き、幾つかの木々を通り抜けた瞬間。その時ふと、妙なデジャヴがボクを襲った。知らない景色のはずなのに、何処かで一度見たことがあるような……恐ろしいまでの既視感。
思えば昔から、そういうデジャブは結構体験してきた。だからこれも、そのうちの一つだ……と、思おうとしたんだけど。どうにも何かがおかしい。
――見たことがある。本当に。ボクは今までの人生のどこかで、こんな感じの景色を見たことがある。でも、何かが違う。こんな広々とした雪原を見た覚えなんて無い。あ、いや。写真を撮りに行った時には見たんだけど……。
「でも景色が違うんだよなあ。この前の時は、あの山は見えなかったし。似てるけど違う……。いや、似てるんだけど……」
「ミノルお姉ちゃん? どうかしたの?」
「……あの、なんか見たことがある気がするんだ。この景色。でも何か違うんだよ。何て言うか、チョコレートとビターチョコレートみたいな……」
「わ、わかんない。その例え。まあでも、えっと、つまりまあ……似てるってことでいいんだよね?」
「うん。凄く似てるんだよ。……でも、何が違うんだろ……?」
そのうち気が付くと、ボクの足はラフィールを辿ると同時に……ボク自身の記憶を追いかけていた。いつ、どこでこの景色を見たのか。どうしてもそれを思い出したくて。
――だけどそういう記憶って、思い出そうとして思い出すんじゃないんだろう。あえて近い言葉を選べば、『ひらめく』っていう感じに近い。いつどこで見たのか、その記憶を……ひらめく。
他の人も同じかはわからない。でも少なくともボクはそうだった。雪原を進んでいき、やがて突然ラフィールが足を止め、ふと何の前触れもなく……振り向く。――そしてボクがラフィールと目が合った瞬間。ボクはひらめいた。
「……そっか。ここって、最初の場所なんだ。ボクとラフィールが出会った、一番最初の……」
そう。ボクはここでラフィールと出会った。ボクがこっちの世界に来た時、ボクはまさに今この場所に立っていたんだ。……ボクらが始まった、運命の場所。
そうだ。見覚えがある。あの山も、その辺の木々の並び方も、全部同じ。唯一違うのは、雪が積もっているということだけ。
「懐かしいだろ、ミノル。数か月ぶりくらいか?」
「う、うん。あ、あの時は確か……夏に入る手前くらいだったっけ。だからあの時はまだ、雪が降ってなかったんだ。……だだっぴろい大きな草原が広がってて、ボクはその景色に圧倒されてて……。ボーっと……」
あの時もこんな感じだったのだろうか。ボクがまたボーっと景色に見惚れているうちに、ラフィールはいつの間にか……ボクの目の前に。
「よ、マサト。護衛ご苦労さん。長かったろここまで」
「……えっ?」
「にしし。まあね。いきなり護衛を頼まれた時はビックリしたけど、まあ上手くいってよかったよ。これで作戦は成功?」
ど、どうやらマサトもグルだったらしい。妙に必死にせがんでいたと思ったら、そう言う事だったのか。……な、なんかマサトの誕生日を思い出すけど……。
「もしかして二人共、ボクをここに連れてくるために?」
「ああ。雪景色で随分変わっちまったから、少し時間はかかったが。ようやく同じ場所を見つけたぜ」
「そ、そうだったんだ……。いやでも、それなら別に騙さなくても。行こうって言われたら別に一緒に行くのに」
「あの時を再現したかったんだよ。俺とミノルが出会った時をな。……同時に、ケジメを付けたかった。色々と」
「ケジメ……?」
するとラフィールは、妙に真剣そうな顔をして……ボクと向き合った。そして一瞬、言いよどむかのように口を何度か閉じると。ふと決意したように……頭を下げ、言葉を発した。
「ミノル。あの時お前を襲って、すまなかった」
「……。――あ」
「どうあれ、俺はオーク族。お前は人間族。今こうして一緒に居られるとはいえ、あの時のミノルは……怖かったはずだ。突然襲われ、訳も分からず。……本当にすまなかった」
「……い、いやっ。ボクは別に……。そりゃ、その。最初はアレだったけど、今は……」
「馬鹿だったんだ。今も、あの頃の俺も。お前を手に入れたくて必死だった。……だが、やり方が間違ってたのは間違いない。それなのにミノルは、今こうして俺達と共に居ることを選んでくれている。……それにどう報いるべきか、わからなかった。だからまずは、あの時のことにケジメをつけたかった」
「……ら、ラフィール……」
それを伝えたかったのか。ボクに。……だからわざわざ、あの時と似たような状況まで作って……。
「三人で写真を撮った時に、ふとあの頃を思い出しちまってな。その……どうしても気になっちまってたんだよ。ほら、あの頃の俺って少々粋がってたろ?」
「う、うん。あの頃のラフィール、ホントに悪役だったもの。マサトが居てくれたからよかったけど、もしも居なかったら……今頃はもしかしたら……」
「え、おれ?」
「そうだよ。……正直思えば、多分マサトが居なかったら……相当オーク族っていうものに偏見持ってたと思う。でもマサトが誠心誠意、心の底からボクと接してくれてるってわかったから。今日まで一緒に居られたんだよ」
「え、えへへ。そ、そう? そっか。おれのおかげかあ。……ふふんっ! 感謝しなよ兄ちゃんっ!」
「ああ。わかってる。……ありがとうな、マサト」
マサトが居たから、ボクはオーク族に対する偏見を育てずに済んだ。マサトが居たから、もしかしたらラフィールも本当は良い人なんじゃないかって希望が持てた。……本当に、感謝してもしきれないな。マサトには。
「まあその、なんだ。……許してくれとは言わない。だがこのことは今後の俺の人生をかけて、償わさせてくれるか」
「……いや、その必要はないよ」
「え?」
「全くもう……まだ過去のこと気にしてたんだね、ラフィール。前に言ったじゃない、昔のラフィールのことも好きだって……」
「あ、ああ。だがそれとコレとは」
「同じだって。ああもう、やっぱりボクの心配性がうつってるんじゃないの? い、今更過去のことでボクがラフィールを嫌いになるわけないんだからっ。……だからもう気にしないでよ。ね?」
ボクはラフィールと手を握り、目を合わせる。それはあの時と同じはずの、ラフィールの瞳。
だけどまるで違って見えた。あの頃は少し怖かったこの瞳も、今じゃこうして……優しい瞳にしか見えない。
「積み重ねて来たんだよ。ボクらは。そしてこれからも、それは続いていく。……続けていきたいから。だからもう気に病まないで。ボクはラフィールの全部を受け入れるからさ」
「……。ああ、そうだな。……悪い、少し女々しくなってたみたいだ。こんなの俺らしくねえよな」
「そうそうっ。それに今更そのこと気にしてるんなら、あ、あの時あんなこと言うと思う? 風邪ひいてた時……。あれを言うのにボクがどれだけ勇気を振り絞ったか……」
「だよな。……クク。今思い出しても顔が熱くなってくるぜ」
「うっ。い、いいからそれはっ……。とにかくだね、せっかく思い出の場所に居るのに悲しい話はよそうよ。明るい話しよ! ほら、それこそさ……。――ボクらの未来の話とか!」
ボクは改めて雪原に目を向け、流れる風に身を委ねる。すると少しずつ雲が晴れて来て、徐々に雪の大地がきらきらと輝き出した。
一面に広がる青い空。そしてその真下にそびえる巨大な山。全てがオーロラのようにキラキラと輝くその様子は、あの時とはまた違った景色。
だからかもしれない。久しぶりに訪れた思い出の地と、初めて見るような綺麗な景色を前に。思わずテンションがあがってしまったのか……。
「……にしても。なんか、おれよかったなあ。この三人が一緒でっ」
「ん? どうしたのマサト、急に……。え、な、泣いてる!?」
「いやあの、感極まっちゃってさ。最初はほら、おれと兄ちゃんでミノルお姉ちゃんを奪い合うみたいなことしてたわけじゃない? でもそれが今、こうして仲良く一緒の景色を見られてるって思うと、嬉しくてさ……!」
「ああ、確かにそうだ。……あの時は俺かマサト、どっちかしか幸せになれねえと思い込んでたからな。まあ正直言って、ミノルが俺とマサトのどっちも選ぶとは思ってなかったよ」
「ははは……。ど、どうも強欲ですみません……」
「強欲で結構! おれはこの三人で居ることが好きだからさっ……! ――幸せだよ、今のおれっ! 世界中で一番……!」
――世界で一番、幸せ。ボクは内心、こんなに矛盾している言葉は無いと思った。
だってそれは、ボクら全員が同じだろうから。マサトも、ラフィールも、そしてボクも。ボクら全員が、世界で一番幸せだと思っている。
だけどそれでいい。なぜならその矛盾こそが、幸せの正体なんだろうから。おかしくて、変で、わけわかんなくて。それでも幸せだと感じずにはいられない、この気持ちが……。
「……大好きだ。マサト、ラフィールっ。……二人と居られて、本当によかった」
「「っ……!?」」
だから思わず漏れてしまった、その言葉。心で発したはずのそれは、気が付けばハッキリとした声量で漏れていて。思わずボクは顔を赤らめ、雪をも溶かしてしまうほどに熱くなっていく。
だけど訂正することはしなかった。だって本当のことだったから。ボクは二人の手を握りながら、ぐっと……恥ずかしさを堪え。むしろ開き直るように言葉を続ける。
「ず、ずっと一緒に居てよっ。ボクあれだからねっ。ふ、二人が居なきゃ……生きていけないんだからね本当っ! 二人が居ない幸せなんて、ありえないんだからっ……」
「……クク。ああ、わかってるさ。頼まれたって離れてやんねえよ。ミノルを幸せにするのは、この俺なんだからな」
「あッ! ちょ、また兄ちゃんだけ抜け駆けするつもり!? そんなの許さないんだかンね、ミノルお姉ちゃんを幸せにするのはおれなんだから! ――ていうかおれ海でのことまだ許してないかんね!?」
「マジかよ。いい加減許してくれよそれは」
「ちょ、ちょっと待ってって。ボクだけじゃ駄目なんだって! マサトとラフィールも幸せにならないと……! ボク全員が幸せにならないとヤダよ!?」
「「そこはミノル(お姉ちゃん)が居るから問題ないでしょ」」
「んなっ……なんでそこだけハモるの……??」
と、とにかく。まあどうやら、ボクらの間柄に心配はいらないらしい。
きっとボクらは、こんな風に日常を積み重ねるのだろう。
何気ないようでいて、とっても大切な思い出を。ありふれた日常で、かけがえのない毎日を。ずっとずっと、これからも……。
「……思ってみれば、長いようで短かった数ヶ月だったなぁ。最初はまさか、ここまでの関係になるだなんて考えてすらいなかったっけ。……海に行って、花火を見て。学園祭に参加したりして、不思議な猫を追いかけたりして。……色々あった。本当に。この数ヶ月……」
「そうだねっ。でもここからだよ。こっからがスタート! 心機一転、またこれから沢山の思い出つくろ! おれたち三人でっ……!」
「うん。そうだ。本当にそうだよ。……ここからなんだ。新しいスタートは。新しく生きるための……」
「……ん、ミノル?」
やがてボクは、このひと時に浸っているうちに……とある決意を固めた。その決意を胸に秘めながら、ボクはポケットの中から……〝とある物〟を取り出し、二人に見せる。
「――おい待て。それって……」
「前に王様から貰ってたんだ。妊娠出来るようになるっていう特別な薬。……何があってもいいよう、常に持ち歩いててよかった」
「に、妊娠っ……薬っ!? あ、あの時の……!?」
「ボク、飲むよ。これを。……今ここで。これを飲んで、ボクらは……新しくスタートなんだ」
「待てミノル。何もそれを飲まずとも、ミノルの体は殆ど変化し終えてるはずだ。多少時間はかかるだろうが、何も無理して……」
「だからこそだよ。……その、ラフィールで言うケジメだよ。……これはボクなりの、二人に向けたケジメなんだ」
「……ミノル……」
ボクは小瓶を片手に、思いを打ち明ける。今までずっと言えずにいた、あの言葉を。ボクが二人に贈る事のできる、一番大きな……あの言葉を。
さあ、言うんだ。勇気を出す必要なんてない。いつものように、二人に体を預けるみたいに。緩やかに……優しく。この気持ちに身を委ねればいいだけ……。
「ボク、二人の子供を産むよ。……マサト、ラフィール。二人だけの、大切な子供を」
「「――……ッ……!!」」
「ずっとタイミングを探してたんだ。これを飲むキッカケを。……今にして思えば、充分過ぎるほどキッカケはあっただろうけど……。一番納得出来る瞬間は、今しかないと思う。今この場で、二人の目の前で。……ボクはこれを飲みたい」
「み、ミノルお姉ちゃん……」
「ボクは決めたんだ。ボクはこの世界で、二人と一緒に生きていくって。……だからこれは、〝区切り〟なんだ。今までのボクとの。……覚悟、決めたから」
多少なりとも、二人に動揺はあった。だけどボクがいざ気持ちを打ち明けると、二人の表情は落ち着きを取り戻していき。そのうちいつものようにボクを見守る目に戻る。
覚悟は決まっていたんだ。ここに居る三人とも。だけどその覚悟が顕になる瞬間が、今まで無かっただけ。……キッカケが必要だったんだ。
「……本気か、なんて聴くのは野暮ってもんか。……ったく、変な所で強情だからな。おめーは」
「本当だよっ。……み、ミノルお姉ちゃんにはいつも、ドキドキさせられてばっかりだ……(ぐすっ)」
「あ、あはは。ごめん……」
「でも言っとくからねっ。もし具合悪くなったらすぐに言ってよ!? おれと兄ちゃんで、絶対に治してみせるから……!」
「ああ。忘れるな、おめーの背中にはいつだって俺がいる。……だか、安心して頼ってくれや。今も、これからもな」
「うん。大丈夫、いつも頼ってるからっ……はは。――……じ、じゃあ飲むね。……んくっ……」
そして、ボクは小瓶を傾けた。二人に見守られながら、中の液体をごくっと飲み干し。薬独特のにが~い味に耐えながら、数秒。
……次第に、体が火照り出す。薬が全身を駆け巡る感覚がして、思わず二人の胸の中に倒れ込む。はあはあと息が荒くなり、頭もボーッと……。
「だ、大丈夫。平気だよ。……大丈夫」
心配そうに見守る二人にそう言った。二人は何も言わず、ただ何かを耐えるかのようにボクを見守っていた。
だから安心出来た。二人に包まれていたお陰で、余計なパニックも……変な動揺も現れることもなく。そのうちボクの火照りは……ゆったりと落ち着いていった。
「ふぅ……。……ありがとう、もう大丈夫だよ。収まったみたい」
「はぁっ……よかったぁ……! と、ドキドキしちゃった。またミノルお姉ちゃんが倒れちゃうんじゃないかと思って」
「あはは。ご、ごめん。……でもこれで、ボク生まれ変われたかな。二人に胸を張れるくらいには……」
「ああ。当たり前だ。……よく頑張ってくれた。ありがとう、ミノル」
すると二人は、ボクを抱きしめつつ……手を強く握りしめた。それはまるでタイミングを合わせ計ったのかと思うほど、ほぼ同時で。
そのまま顔をグッと近づけてきたかと思うと、二人はボクにキスをする。最初はラフィール、次にマサト……って具合に。
……決して長いキスじゃなかったと思う。それに状況が状況だし、セックスの時のような深いキスは出来なかったけれど……。――今までで一番、心に残るキスだった。
まあそのおかげで、ボクの心臓はまたきゅんっ……と跳ねてしまい。せっかく落ち着けてきた火照りも、また再熱してしまったのだけれど。それはご愛嬌……。
「ああもうっ……! へ、変な所で息ピッタリなんだから……。……ま、まあでも。う、嬉しい。……ありがとう、二人ともっ……!」
「にししっ……! それじゃあさ、そろそろ兄ちゃんアレじゃない? アレやっといたほうがさっ」
「お、そうだな。すっかりタイミング逃す所だった」
「ん……? なに、なにかするの……?」
「ククク……。俺らが謝るためだけに呼びつけたと思ったら、大間違いだぜ」
「まあいいからいいから。ほら、こっち来て! こっち!」
そうしてボクは、二人に引かれて雪の中を進む。すると辿り着いたのは、近くにあった……大きな大きなトウヒの木。
そしてその木の近くに、一体誰が用意したのか……レジャーシートが張られていた。シートの上には、水筒とバスケットが置かれていて。まるでピクニックのような……。
「も、もしかしてこれ。二人が?」
「そ! 実は朝から用意してたんだあ~。ミノルお姉ちゃんを驚かせようと思って! にしし、ほら早く早く! 冷めないうちに……!」
背中を押され、ボクは慌てて靴を脱ぐ。そして二人と一緒にシートに座ると、マサトが手際よくバスケットから……数々の料理を取り出した。
「わあ……! なにこれ、二人が作ったの!?」
「そ! おれ特製のおにぎりに、兄ちゃん特製ハンバーガー……! あと肉やら野菜やら、諸々炒めたやつと唐揚げ!」
「す、すごい。まさか不器用な二人が、こんなに綺麗な料理を作ったなんて……」
「いつもミノルが作ってくれてただろ? だがこれからは俺らも、交代しながら料理しようってことになってな。その手始めだ」
「ちなみにそのおにぎりの中には、一個だけハズレとして激辛ワサビが投入してあります!」
「いやなんでえ……??? なんでそこだけボケたの?? ろ、ロシアンおむすび……?」
「人生には遊びが必要だよ、ミノルお姉ちゃんッ……」
「そ、そうなのか……????」
ま、まあハズレおにぎりはともかく。ボクは二人が作ってくれた料理を前に、気が付けばふと……耐え切れなさそうな気持ちがこみ上げてきそうになった。
だけどこんな嬉しい場所に、涙なんて似合わない。だからボクは必死に涙をこらえ、笑顔を浮かべる。
「ありがとう、二人ともっ……! ボク今、すっごい幸せッ……」
「クク……。まあ新しいスタートを切るには、ちょうどいい前菜だ。次にここに来る時には、新しいレパートリーも増えてんだろ」
「でも今はとりあえず、冷めないうちに食べよ! ほらミノルお姉ちゃん、箸! あとこれ皿で、コップはコレで……ああ兄ちゃん、唐揚げ取り過ぎないでよ!?」
「また揚げればいいだろ。気にすんな気にすんな」
「ここに油なんて無いんだって……! このっ、お、おれの分! このやろっ……――!」
……。ああ、もしもこの世界に……神様が居るのなら。どうかこの何気ない平和が、ずっと続きますように。
この小さなピクニックを、どうか来年も、再来年も。いつか……『当たり前だ』と思えるその日まで。どうかずっと、続いていられますように。
ボクらが大人になっても、おじいちゃんになっても。お墓に入って天国へ行く時も。どうかこの大切なひと時を、覚えていられますように。
――そして、いつか。ボクらの子供が産まれた時。この何気ない日常のもとに、大切に、育てられますように……。
「ん? ミノルお姉ちゃん、どうかした?」
「……ううん。何でもない。……さっ。冷めないうちに食べよ! せっかく二人が作ってくれた料理、残すつもりないからね……!」
「お、やる気か。大食いで俺に勝とうとは良い度胸だな」
「ああもうっ……! 二人共、落ち着いて! 食べる前にやることあるでしょほら! 両手を合わせてこうッ! ほら、こうっ……!! はいせーのっ……!!」
「「「いただきます……!」」」
――――――――――――END
どこまで行くのだろうか。ここから先はボクも行ったことが無い。今までは街に行く時に、横目で見て通り過ぎるだけだったから。この先に何か目指したくなるようなものがあるのかどうか、正直言って半信半疑。
とはいえ王様の用事って言ってたから、まあ一応何かがあるんだろうけど。実際、何を目指してるんだろう。見渡す限り、ただの雪原にしか見えないけど。トウヒの木みたいなのが沢山生えてて、後は遠くの方に山が見えるだけで……。
「……ん、あれ? これって……?」
そして数分ほど歩き、幾つかの木々を通り抜けた瞬間。その時ふと、妙なデジャヴがボクを襲った。知らない景色のはずなのに、何処かで一度見たことがあるような……恐ろしいまでの既視感。
思えば昔から、そういうデジャブは結構体験してきた。だからこれも、そのうちの一つだ……と、思おうとしたんだけど。どうにも何かがおかしい。
――見たことがある。本当に。ボクは今までの人生のどこかで、こんな感じの景色を見たことがある。でも、何かが違う。こんな広々とした雪原を見た覚えなんて無い。あ、いや。写真を撮りに行った時には見たんだけど……。
「でも景色が違うんだよなあ。この前の時は、あの山は見えなかったし。似てるけど違う……。いや、似てるんだけど……」
「ミノルお姉ちゃん? どうかしたの?」
「……あの、なんか見たことがある気がするんだ。この景色。でも何か違うんだよ。何て言うか、チョコレートとビターチョコレートみたいな……」
「わ、わかんない。その例え。まあでも、えっと、つまりまあ……似てるってことでいいんだよね?」
「うん。凄く似てるんだよ。……でも、何が違うんだろ……?」
そのうち気が付くと、ボクの足はラフィールを辿ると同時に……ボク自身の記憶を追いかけていた。いつ、どこでこの景色を見たのか。どうしてもそれを思い出したくて。
――だけどそういう記憶って、思い出そうとして思い出すんじゃないんだろう。あえて近い言葉を選べば、『ひらめく』っていう感じに近い。いつどこで見たのか、その記憶を……ひらめく。
他の人も同じかはわからない。でも少なくともボクはそうだった。雪原を進んでいき、やがて突然ラフィールが足を止め、ふと何の前触れもなく……振り向く。――そしてボクがラフィールと目が合った瞬間。ボクはひらめいた。
「……そっか。ここって、最初の場所なんだ。ボクとラフィールが出会った、一番最初の……」
そう。ボクはここでラフィールと出会った。ボクがこっちの世界に来た時、ボクはまさに今この場所に立っていたんだ。……ボクらが始まった、運命の場所。
そうだ。見覚えがある。あの山も、その辺の木々の並び方も、全部同じ。唯一違うのは、雪が積もっているということだけ。
「懐かしいだろ、ミノル。数か月ぶりくらいか?」
「う、うん。あ、あの時は確か……夏に入る手前くらいだったっけ。だからあの時はまだ、雪が降ってなかったんだ。……だだっぴろい大きな草原が広がってて、ボクはその景色に圧倒されてて……。ボーっと……」
あの時もこんな感じだったのだろうか。ボクがまたボーっと景色に見惚れているうちに、ラフィールはいつの間にか……ボクの目の前に。
「よ、マサト。護衛ご苦労さん。長かったろここまで」
「……えっ?」
「にしし。まあね。いきなり護衛を頼まれた時はビックリしたけど、まあ上手くいってよかったよ。これで作戦は成功?」
ど、どうやらマサトもグルだったらしい。妙に必死にせがんでいたと思ったら、そう言う事だったのか。……な、なんかマサトの誕生日を思い出すけど……。
「もしかして二人共、ボクをここに連れてくるために?」
「ああ。雪景色で随分変わっちまったから、少し時間はかかったが。ようやく同じ場所を見つけたぜ」
「そ、そうだったんだ……。いやでも、それなら別に騙さなくても。行こうって言われたら別に一緒に行くのに」
「あの時を再現したかったんだよ。俺とミノルが出会った時をな。……同時に、ケジメを付けたかった。色々と」
「ケジメ……?」
するとラフィールは、妙に真剣そうな顔をして……ボクと向き合った。そして一瞬、言いよどむかのように口を何度か閉じると。ふと決意したように……頭を下げ、言葉を発した。
「ミノル。あの時お前を襲って、すまなかった」
「……。――あ」
「どうあれ、俺はオーク族。お前は人間族。今こうして一緒に居られるとはいえ、あの時のミノルは……怖かったはずだ。突然襲われ、訳も分からず。……本当にすまなかった」
「……い、いやっ。ボクは別に……。そりゃ、その。最初はアレだったけど、今は……」
「馬鹿だったんだ。今も、あの頃の俺も。お前を手に入れたくて必死だった。……だが、やり方が間違ってたのは間違いない。それなのにミノルは、今こうして俺達と共に居ることを選んでくれている。……それにどう報いるべきか、わからなかった。だからまずは、あの時のことにケジメをつけたかった」
「……ら、ラフィール……」
それを伝えたかったのか。ボクに。……だからわざわざ、あの時と似たような状況まで作って……。
「三人で写真を撮った時に、ふとあの頃を思い出しちまってな。その……どうしても気になっちまってたんだよ。ほら、あの頃の俺って少々粋がってたろ?」
「う、うん。あの頃のラフィール、ホントに悪役だったもの。マサトが居てくれたからよかったけど、もしも居なかったら……今頃はもしかしたら……」
「え、おれ?」
「そうだよ。……正直思えば、多分マサトが居なかったら……相当オーク族っていうものに偏見持ってたと思う。でもマサトが誠心誠意、心の底からボクと接してくれてるってわかったから。今日まで一緒に居られたんだよ」
「え、えへへ。そ、そう? そっか。おれのおかげかあ。……ふふんっ! 感謝しなよ兄ちゃんっ!」
「ああ。わかってる。……ありがとうな、マサト」
マサトが居たから、ボクはオーク族に対する偏見を育てずに済んだ。マサトが居たから、もしかしたらラフィールも本当は良い人なんじゃないかって希望が持てた。……本当に、感謝してもしきれないな。マサトには。
「まあその、なんだ。……許してくれとは言わない。だがこのことは今後の俺の人生をかけて、償わさせてくれるか」
「……いや、その必要はないよ」
「え?」
「全くもう……まだ過去のこと気にしてたんだね、ラフィール。前に言ったじゃない、昔のラフィールのことも好きだって……」
「あ、ああ。だがそれとコレとは」
「同じだって。ああもう、やっぱりボクの心配性がうつってるんじゃないの? い、今更過去のことでボクがラフィールを嫌いになるわけないんだからっ。……だからもう気にしないでよ。ね?」
ボクはラフィールと手を握り、目を合わせる。それはあの時と同じはずの、ラフィールの瞳。
だけどまるで違って見えた。あの頃は少し怖かったこの瞳も、今じゃこうして……優しい瞳にしか見えない。
「積み重ねて来たんだよ。ボクらは。そしてこれからも、それは続いていく。……続けていきたいから。だからもう気に病まないで。ボクはラフィールの全部を受け入れるからさ」
「……。ああ、そうだな。……悪い、少し女々しくなってたみたいだ。こんなの俺らしくねえよな」
「そうそうっ。それに今更そのこと気にしてるんなら、あ、あの時あんなこと言うと思う? 風邪ひいてた時……。あれを言うのにボクがどれだけ勇気を振り絞ったか……」
「だよな。……クク。今思い出しても顔が熱くなってくるぜ」
「うっ。い、いいからそれはっ……。とにかくだね、せっかく思い出の場所に居るのに悲しい話はよそうよ。明るい話しよ! ほら、それこそさ……。――ボクらの未来の話とか!」
ボクは改めて雪原に目を向け、流れる風に身を委ねる。すると少しずつ雲が晴れて来て、徐々に雪の大地がきらきらと輝き出した。
一面に広がる青い空。そしてその真下にそびえる巨大な山。全てがオーロラのようにキラキラと輝くその様子は、あの時とはまた違った景色。
だからかもしれない。久しぶりに訪れた思い出の地と、初めて見るような綺麗な景色を前に。思わずテンションがあがってしまったのか……。
「……にしても。なんか、おれよかったなあ。この三人が一緒でっ」
「ん? どうしたのマサト、急に……。え、な、泣いてる!?」
「いやあの、感極まっちゃってさ。最初はほら、おれと兄ちゃんでミノルお姉ちゃんを奪い合うみたいなことしてたわけじゃない? でもそれが今、こうして仲良く一緒の景色を見られてるって思うと、嬉しくてさ……!」
「ああ、確かにそうだ。……あの時は俺かマサト、どっちかしか幸せになれねえと思い込んでたからな。まあ正直言って、ミノルが俺とマサトのどっちも選ぶとは思ってなかったよ」
「ははは……。ど、どうも強欲ですみません……」
「強欲で結構! おれはこの三人で居ることが好きだからさっ……! ――幸せだよ、今のおれっ! 世界中で一番……!」
――世界で一番、幸せ。ボクは内心、こんなに矛盾している言葉は無いと思った。
だってそれは、ボクら全員が同じだろうから。マサトも、ラフィールも、そしてボクも。ボクら全員が、世界で一番幸せだと思っている。
だけどそれでいい。なぜならその矛盾こそが、幸せの正体なんだろうから。おかしくて、変で、わけわかんなくて。それでも幸せだと感じずにはいられない、この気持ちが……。
「……大好きだ。マサト、ラフィールっ。……二人と居られて、本当によかった」
「「っ……!?」」
だから思わず漏れてしまった、その言葉。心で発したはずのそれは、気が付けばハッキリとした声量で漏れていて。思わずボクは顔を赤らめ、雪をも溶かしてしまうほどに熱くなっていく。
だけど訂正することはしなかった。だって本当のことだったから。ボクは二人の手を握りながら、ぐっと……恥ずかしさを堪え。むしろ開き直るように言葉を続ける。
「ず、ずっと一緒に居てよっ。ボクあれだからねっ。ふ、二人が居なきゃ……生きていけないんだからね本当っ! 二人が居ない幸せなんて、ありえないんだからっ……」
「……クク。ああ、わかってるさ。頼まれたって離れてやんねえよ。ミノルを幸せにするのは、この俺なんだからな」
「あッ! ちょ、また兄ちゃんだけ抜け駆けするつもり!? そんなの許さないんだかンね、ミノルお姉ちゃんを幸せにするのはおれなんだから! ――ていうかおれ海でのことまだ許してないかんね!?」
「マジかよ。いい加減許してくれよそれは」
「ちょ、ちょっと待ってって。ボクだけじゃ駄目なんだって! マサトとラフィールも幸せにならないと……! ボク全員が幸せにならないとヤダよ!?」
「「そこはミノル(お姉ちゃん)が居るから問題ないでしょ」」
「んなっ……なんでそこだけハモるの……??」
と、とにかく。まあどうやら、ボクらの間柄に心配はいらないらしい。
きっとボクらは、こんな風に日常を積み重ねるのだろう。
何気ないようでいて、とっても大切な思い出を。ありふれた日常で、かけがえのない毎日を。ずっとずっと、これからも……。
「……思ってみれば、長いようで短かった数ヶ月だったなぁ。最初はまさか、ここまでの関係になるだなんて考えてすらいなかったっけ。……海に行って、花火を見て。学園祭に参加したりして、不思議な猫を追いかけたりして。……色々あった。本当に。この数ヶ月……」
「そうだねっ。でもここからだよ。こっからがスタート! 心機一転、またこれから沢山の思い出つくろ! おれたち三人でっ……!」
「うん。そうだ。本当にそうだよ。……ここからなんだ。新しいスタートは。新しく生きるための……」
「……ん、ミノル?」
やがてボクは、このひと時に浸っているうちに……とある決意を固めた。その決意を胸に秘めながら、ボクはポケットの中から……〝とある物〟を取り出し、二人に見せる。
「――おい待て。それって……」
「前に王様から貰ってたんだ。妊娠出来るようになるっていう特別な薬。……何があってもいいよう、常に持ち歩いててよかった」
「に、妊娠っ……薬っ!? あ、あの時の……!?」
「ボク、飲むよ。これを。……今ここで。これを飲んで、ボクらは……新しくスタートなんだ」
「待てミノル。何もそれを飲まずとも、ミノルの体は殆ど変化し終えてるはずだ。多少時間はかかるだろうが、何も無理して……」
「だからこそだよ。……その、ラフィールで言うケジメだよ。……これはボクなりの、二人に向けたケジメなんだ」
「……ミノル……」
ボクは小瓶を片手に、思いを打ち明ける。今までずっと言えずにいた、あの言葉を。ボクが二人に贈る事のできる、一番大きな……あの言葉を。
さあ、言うんだ。勇気を出す必要なんてない。いつものように、二人に体を預けるみたいに。緩やかに……優しく。この気持ちに身を委ねればいいだけ……。
「ボク、二人の子供を産むよ。……マサト、ラフィール。二人だけの、大切な子供を」
「「――……ッ……!!」」
「ずっとタイミングを探してたんだ。これを飲むキッカケを。……今にして思えば、充分過ぎるほどキッカケはあっただろうけど……。一番納得出来る瞬間は、今しかないと思う。今この場で、二人の目の前で。……ボクはこれを飲みたい」
「み、ミノルお姉ちゃん……」
「ボクは決めたんだ。ボクはこの世界で、二人と一緒に生きていくって。……だからこれは、〝区切り〟なんだ。今までのボクとの。……覚悟、決めたから」
多少なりとも、二人に動揺はあった。だけどボクがいざ気持ちを打ち明けると、二人の表情は落ち着きを取り戻していき。そのうちいつものようにボクを見守る目に戻る。
覚悟は決まっていたんだ。ここに居る三人とも。だけどその覚悟が顕になる瞬間が、今まで無かっただけ。……キッカケが必要だったんだ。
「……本気か、なんて聴くのは野暮ってもんか。……ったく、変な所で強情だからな。おめーは」
「本当だよっ。……み、ミノルお姉ちゃんにはいつも、ドキドキさせられてばっかりだ……(ぐすっ)」
「あ、あはは。ごめん……」
「でも言っとくからねっ。もし具合悪くなったらすぐに言ってよ!? おれと兄ちゃんで、絶対に治してみせるから……!」
「ああ。忘れるな、おめーの背中にはいつだって俺がいる。……だか、安心して頼ってくれや。今も、これからもな」
「うん。大丈夫、いつも頼ってるからっ……はは。――……じ、じゃあ飲むね。……んくっ……」
そして、ボクは小瓶を傾けた。二人に見守られながら、中の液体をごくっと飲み干し。薬独特のにが~い味に耐えながら、数秒。
……次第に、体が火照り出す。薬が全身を駆け巡る感覚がして、思わず二人の胸の中に倒れ込む。はあはあと息が荒くなり、頭もボーッと……。
「だ、大丈夫。平気だよ。……大丈夫」
心配そうに見守る二人にそう言った。二人は何も言わず、ただ何かを耐えるかのようにボクを見守っていた。
だから安心出来た。二人に包まれていたお陰で、余計なパニックも……変な動揺も現れることもなく。そのうちボクの火照りは……ゆったりと落ち着いていった。
「ふぅ……。……ありがとう、もう大丈夫だよ。収まったみたい」
「はぁっ……よかったぁ……! と、ドキドキしちゃった。またミノルお姉ちゃんが倒れちゃうんじゃないかと思って」
「あはは。ご、ごめん。……でもこれで、ボク生まれ変われたかな。二人に胸を張れるくらいには……」
「ああ。当たり前だ。……よく頑張ってくれた。ありがとう、ミノル」
すると二人は、ボクを抱きしめつつ……手を強く握りしめた。それはまるでタイミングを合わせ計ったのかと思うほど、ほぼ同時で。
そのまま顔をグッと近づけてきたかと思うと、二人はボクにキスをする。最初はラフィール、次にマサト……って具合に。
……決して長いキスじゃなかったと思う。それに状況が状況だし、セックスの時のような深いキスは出来なかったけれど……。――今までで一番、心に残るキスだった。
まあそのおかげで、ボクの心臓はまたきゅんっ……と跳ねてしまい。せっかく落ち着けてきた火照りも、また再熱してしまったのだけれど。それはご愛嬌……。
「ああもうっ……! へ、変な所で息ピッタリなんだから……。……ま、まあでも。う、嬉しい。……ありがとう、二人ともっ……!」
「にししっ……! それじゃあさ、そろそろ兄ちゃんアレじゃない? アレやっといたほうがさっ」
「お、そうだな。すっかりタイミング逃す所だった」
「ん……? なに、なにかするの……?」
「ククク……。俺らが謝るためだけに呼びつけたと思ったら、大間違いだぜ」
「まあいいからいいから。ほら、こっち来て! こっち!」
そうしてボクは、二人に引かれて雪の中を進む。すると辿り着いたのは、近くにあった……大きな大きなトウヒの木。
そしてその木の近くに、一体誰が用意したのか……レジャーシートが張られていた。シートの上には、水筒とバスケットが置かれていて。まるでピクニックのような……。
「も、もしかしてこれ。二人が?」
「そ! 実は朝から用意してたんだあ~。ミノルお姉ちゃんを驚かせようと思って! にしし、ほら早く早く! 冷めないうちに……!」
背中を押され、ボクは慌てて靴を脱ぐ。そして二人と一緒にシートに座ると、マサトが手際よくバスケットから……数々の料理を取り出した。
「わあ……! なにこれ、二人が作ったの!?」
「そ! おれ特製のおにぎりに、兄ちゃん特製ハンバーガー……! あと肉やら野菜やら、諸々炒めたやつと唐揚げ!」
「す、すごい。まさか不器用な二人が、こんなに綺麗な料理を作ったなんて……」
「いつもミノルが作ってくれてただろ? だがこれからは俺らも、交代しながら料理しようってことになってな。その手始めだ」
「ちなみにそのおにぎりの中には、一個だけハズレとして激辛ワサビが投入してあります!」
「いやなんでえ……??? なんでそこだけボケたの?? ろ、ロシアンおむすび……?」
「人生には遊びが必要だよ、ミノルお姉ちゃんッ……」
「そ、そうなのか……????」
ま、まあハズレおにぎりはともかく。ボクは二人が作ってくれた料理を前に、気が付けばふと……耐え切れなさそうな気持ちがこみ上げてきそうになった。
だけどこんな嬉しい場所に、涙なんて似合わない。だからボクは必死に涙をこらえ、笑顔を浮かべる。
「ありがとう、二人ともっ……! ボク今、すっごい幸せッ……」
「クク……。まあ新しいスタートを切るには、ちょうどいい前菜だ。次にここに来る時には、新しいレパートリーも増えてんだろ」
「でも今はとりあえず、冷めないうちに食べよ! ほらミノルお姉ちゃん、箸! あとこれ皿で、コップはコレで……ああ兄ちゃん、唐揚げ取り過ぎないでよ!?」
「また揚げればいいだろ。気にすんな気にすんな」
「ここに油なんて無いんだって……! このっ、お、おれの分! このやろっ……――!」
……。ああ、もしもこの世界に……神様が居るのなら。どうかこの何気ない平和が、ずっと続きますように。
この小さなピクニックを、どうか来年も、再来年も。いつか……『当たり前だ』と思えるその日まで。どうかずっと、続いていられますように。
ボクらが大人になっても、おじいちゃんになっても。お墓に入って天国へ行く時も。どうかこの大切なひと時を、覚えていられますように。
――そして、いつか。ボクらの子供が産まれた時。この何気ない日常のもとに、大切に、育てられますように……。
「ん? ミノルお姉ちゃん、どうかした?」
「……ううん。何でもない。……さっ。冷めないうちに食べよ! せっかく二人が作ってくれた料理、残すつもりないからね……!」
「お、やる気か。大食いで俺に勝とうとは良い度胸だな」
「ああもうっ……! 二人共、落ち着いて! 食べる前にやることあるでしょほら! 両手を合わせてこうッ! ほら、こうっ……!! はいせーのっ……!!」
「「「いただきます……!」」」
――――――――――――END
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