崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第二章

触手

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 足音。多分、それだと思う。いつも大人の人たちが響かせてる、カツンッカツンッという音。ボクとは違って、靴を履いてるからそんな音がするらしいけど。……何か、嫌だった。
 マスター以外に会いたくないというのもあったけど、それ以上に、怖かった。何か、得体の知れないものが近づいてるような感じ。嫌な気配。
 だからボクは、一度自分の牢屋に戻った。人間に見つかったネズミのように、ささっと逃げ帰った。そして音が出ないように、ゆっくりと扉を閉めて。息を潜める。
「――!」
 今、扉の前を何かが横切った。間一髪、ボクは見つからなかったようだ。
 ボクは牢屋の陰に身を隠して、そこから窓の外を見つめる。だから、わかった。今外に居るのは、人間じゃない。
 正確には、人間のような”何か”ではあるのだろう。でも、ボクの無知さゆえだろうか。あれを人間だと思うことは、どうしてもできない。
 ボクは足音が遠くなったのを感じると、再び扉をゆっくりと開けた。そして隙間から覗いて、さっきの奴をもう一度見る。
 ……。頭がぐちゃぐちゃだ。頭から、なにか触手のようなものがうにょうにょ生えてて。何か奇怪な肉片のようなものが、蠢いている。
 首から下も、多分同じなのだろう。大人たちが着るような白衣を着ているけど、手や足が肉塊みたいな感じだから。
『ぐぐうー……』
 その時、ボクのお腹が鳴った。音に気が付いたあいつが、ボクの眼を見た。
「ひっ……!」
 ボクは、すぐに扉を閉めた。でもすぐにあいつは扉の前まで来て、扉をドンドンと叩く。
 いや、叩いてはいなかった。どうやら体当たりをしているようだった。手を使わず、身体全体で。
 そしてボクが、小さくなって怯えていると。アイツは、窓から触手を入れてきた。長くてうねった、赤色の触手。触手はいくらか牢屋を見渡すような動きをすると、ボクの右腕に巻き付いてきた。
「うわあっ! や、止めて!」
 何か、ベタベタする。嫌だ。透明で粘ついた液体が、そこらに飛び散ってて。すごく、気持ち悪い。
 するとアイツは、もう一つ触手を牢屋の中に入れた。そして今度は、それをボクのお腹に這わせて……。お洋服の中に、入れてきた。
「や、やだ! 嫌だ! 離してよ!」
 ボクは空いている左手で、触手を攻撃する。叩いたり、ひっかいたり。でも全然ダメージはないようで、むしろボクが攻撃すればするほど、触手の動きは激しくなった。
「ひあっ……!?」
 触手が、ボクの胸を通過する。ねばねばした液体が、胸について。とても冷たい。
 そして首の辺りまでたどり着いた触手は、怯えるボクと目を合わせて。――無理矢理、口の中に入ってきた。
「おぼっ!? ごえっ!!」
 口の中で、暴れている。アイツが、触手を出し入れしている。なんで、どうして。
 苦しい。息が出来ない。口の中が、アイツの触手でいっぱいで。……そして触手は、何かを”出した”。
「んんー!? かっ……ぐえっ!!」
 喉奥を、何かが通る。熱い。お腹の中が、何かで溢れていく。気持ち悪い。
 その何かの液体のようなものは、ボクの鼻まで溢れて来て。まるでだらしがない鼻水のように、垂れてしまう。
 そんな。これじゃまるで、あの大人たちみたいな。あいつらにされたことと、そっくりじゃないか。
「……かっ、がはっ!! おええっ!!」
 アイツはボクのお腹をパンパンにすると、飽きたように触手を引き抜いた。そして栓を失ったボクは、思い切りその場で吐き戻す。
 どのくらい出たかわからない。でもしばらくは、ずっと吐いていて。頭の中と身体中が、変な匂いで塗りたくられてしまった。
 ……白い。ボクの吐いていたそれは、白色。そして匂いはまるで、……あのシチュー。いや、シチューに混ざっているものの方だ。
 放心していた。頭が、上手く回らなかった。自分が今、されたことを理解しようとしても。何かが、それを拒否しようとしていた。
 けど、現実だった。現実が、ボクを責め立てている。――お前は、犯されたんだと。人間でもない、触手なんかに。人間でもない、化け物なんかに。
「っ!」
 すると触手は、今度はボクの足を触った。そしてぬらりとした動きで、上の方に登ろうとしている。
 ボクは、察した。だから、必死に抵抗した。でもそうしたら、アイツはもっと触手を増やしてきた。両腕が動かなくなって、足が動かせなくなって。身動きが、取れない。
 触手が、登ってくる。触手は、ボクのスカートの中に入ってきて。中をまさぐった。
 嫌だ。嫌だ。そこだけは、嫌だ。そこには、マスターとの想い出が。そこは、マスターだけなんだ。
「”や”めでッ! ”い”やだッ! 入”れ”ないでッ! ”だず”げでッッ!!」
 叫んだ。必死に叫んだ。でも、関係なかった。それどころかむしろ、アイツは喜んでいるようだった。声にならないうめき声で、笑っている。
 ……悔しい。怖い。なのに、どうにもできない。今すぐこの汚い触手を、押しのけたいのに。叩き切ってしまいたいのに。
 助けて。誰か、助けて。マスター。僕。誰か、誰か。――お願い、だから。ボクを、……助けて。


『ドガァァアァアンッッ!!!!』


 ……。一瞬、意識が飛んだ。それは本当に、一瞬だったと思う。
 何かが起きた。ボクのすぐそばで、何かが。大きな爆発音のようなものが、聞こえて。それで、意識が飛んだ。
 気が付けば、耳鳴りがしていた。頭痛もしていた。多分、怪我もしている。痛い。とても。……でも、触手の気持ち悪さが、どこかに消えていた。
 身体が動かない。拘束されてるとかじゃなくて、純粋に動かない。指一本、動かせなかった。
 それでも、目だけは開いた。少しだけど、辺りを見渡せた。煙が、いっぱいモクモクしてる。なぜだか、瓦礫が沢山ある。
 すると、煙の奥に人影が見えた。……背が高い。大人だろうか。もしかして、ボクを助けてくれた?
 ……懐かしい匂いがする。何の匂いだっけ。……ああ、そうだ。確か、昔マスターがつけてた、香水だ。じゃあ、あれは、マスターなの?
 人影は、ボクに近づいた。そしてゆっくりと、ボクを抱きかかえた。……懐かしいな。もっとちっちゃかった頃に、よくマスターにこうしてもらった。
 じゃあきっと、この人はマスターだ。ボクを、助けに来てくれたんだ。……嬉しいな。マスターは、ボクを嫌いになったんじゃなかったんだ。
 お礼が言いたい。ありがとうって。……でも、声が出せない。どうしても、眠たくて。またボクは、眠ってしまった。
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