崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

文字の大きさ
13 / 139
第二章

喧嘩

しおりを挟む
 そこは、長い長い廊下になっていた。行き止まりだと思った壁には、隠し扉があって。そこを抜けると、この廊下に繋がっていた。
 天井には赤いランプ。壁には、何か沢山の配管が伸びていて。ごーっという低い音が、そこら中で響いている。
「はあ、はあ」
 シロが、扉を閉めた。こちらから見ればそれは、とても強固というか。すごく頑丈な作りになっている。
 でも、今はそれどころじゃなかった。ボクはやけに冷静な中で、一つの疑念に襲われていた。……どうしてロインは、ボクの胸倉をつかんでるんだろう?
「……君は、何をしたかわかってるのか?」
 ロインが、質問した。でもボクは、意味がわからなかった。
「君は!! 自分の命を危険に晒したんだ!! わかってるのか!?」
「……え?」
 ……怒っていた。ロインは、ボクを怒っていた。顔を真っ赤にして、すごい顔で。
 でも、わからなかった。怒られるのは初めてじゃなかったけど……。……”ボク”のことで怒られるなんて、初めてだった。
「あのままだったら君は、殺されていた! 死んでいた! それがわからないほど、君は子供じゃないはずだろう!?」
「……でも」
「なんだ!?」
「でも、シロを助けたかったから」
 シロが、ボクを見た。ボクも、シロを見た。……すると、ロインが歯を食いしばって。ボクのほっぺを、叩いた。
「――え」
「いいか! この際だから教えてやる!! 君たちがやるべきことを!!」
「……やるべき、こと?」
「”生きる”ことだ!! 何があっても、全力で自分の命を守り抜くことだ!! それが、お互いが生き残る道に繋がる!!」
「……」
「確かに時には、自分を危険に晒さなければいけない時もあるかもしれない!! だがそれは、大人の仕事だ!! 君たちの仕事じゃあない!!」
「……大人の?」
 ロインが、息を切らしていた。……それでもボクは、わからなかった。この人が、何を言ってるのか。何に怒ってるのか。やっぱり、理解できない。
「ロイン、行こう。今は怒ってる場合じゃないよ」
「っ……。まだ、話は終わっていないからな!」
 ロインは、ボクから手を離した。そして、もう一度抱っこしてくれようとしたけど、流石に今は遠慮して。その後は、ボクは自分の足で歩いた。痛かったけど、頭の中がもんもんとしてたから、気にならなかった。
 廊下を進んでる間は、アイツらは追って来なくて。特に大きな問題もなく、ボクらはどこかへと辿り着いた。
「ここだよ」
 シロが、どこかの部屋へと入った。そこは、ボクの牢屋より幾らか大きいくらいで。何か、よくわからないものが沢山ある。
「――こ、これは!?」
 唯一わかったのは、水槽のことだけだった。いつだったか、マスターに見せてもらったことがある。お魚っていう生き物が、入ってる箱。
 でも、不思議だった。ここに入ってるのはお魚じゃなくて、人間だった。それも、大人の。男の人とか、女の人とか。みんな、裸だ。……息苦しくないのだろうか?
「……ここで作ってたのか。じゃあ、今回の騒動は……まさか、俺たちを鎮圧するために?」
 ロインが、興味深そうに水槽を見てる。確かに珍しいけど、そんなに気になることなのかな。
「ここなら、少しは安全だよ。……だから、そろそろ教えてくれない? ロインは、どうしてここに来たの?」
 すると、シロが話しかけた。ロインはそれを聞いて、少し黙って。何か思いつめたような顔をした。
「……君たちは、この施設から出たことがあるか?」
「ううん、ない」
 二人が話してる。ボクにも関係があるのだろうか? 無いのなら、少し休みたい。なんだか疲れちゃった。
「まあ、ないだろうな。……俺も、ないから」
「そうなの?」
「ああ。誰一人、ここから出れた奴は居ない。誰一人として、外の世界を見た奴は居ないんだ」
「……」
「ここに居る者は、全員奴隷のように働かされる。こき使われて、死んでいく。そんなのって、あんまりだろ?」
「そうらしいね」
「だから俺たちは、集まったんだ。……ここから、脱出するための組織。レジスタンスとして」
 ロインは、何か写真を見せた。そこには、ロインと同じようなお洋服を着た人達が、何人も写っていた。
「ここの奴らは、ずっと何かを作ってる。そのうちの一つが、さっき襲ってきた化け物だ」
「この水槽の人たちも、もうすぐそうなるよ」
「そうだろうな。目的はわからないが、奴らは何かをしようとしている。だが何にせよ、ろくなことじゃないのは確かだろう。それを調べるのも、俺たちの仕事だ」
 やっぱり、よくわからなかった。ボクには、少し難しかった。
「だが少し前から、この施設はおかしなことになっている。……見張りは消え、代わりに実験体が徘徊してて。完全な無秩序状態になってるんだ」
「……」
「まあおかげで、俺たちも色々と調べられてるんだが。どうにもきな臭い。……だからその裏の事情を調べるために、俺はここまで来たんだよ」
「ふーん……。まあようするに、ロインはマスターに会いたいってこと?」
「まあ、そうだな。それが出来れば手っ取り早い。あいつがここの責任者だからな」
 ……マスターに?
「許さない。あいつだけは、絶対に。こんな地獄を作った、償いをさせてやるんだ」
「ねえロイン、もしかして怒ってる?」
「当たり前だ! こんな地獄のせいで、何人が苦しんでいるか。俺の友達だって――」
「……くない」
「え?」
「……悪くない」
「……な、なんだ?」
「マスターは、悪くない。良い人だよ」
「……。なんだって?」
「それは、別の人のことだよ。マスターは、良い人なんだ」
「違う。君は騙されてるんだ。アイツはただの、いかれた科学者――」
「マスターをそんな風に言うな!!」
「っ!?」
 ……それは、初めてボクがあげた、怒りの声だった。
「マスターは悪くない! マスターはだって、ボクに優しくしてくれたんだ! ボクは、マスターが大好きなんだ!」
「だからそれが騙されてるんだよ! 本当に優しいなら、君をあんな牢屋に閉じ込めておかないはずだろ!?」
「違う! ボクを閉じ込めてるのは、他の大人だ! マスターこそ、アイツらに騙されてるんだ!」
「思い出せ!! 君たちは、アイツに注射を打たれていたはずだ! あれはただの実験用の薬だ! 君たちは、実験体なんだよ!!」
「黙れ黙れ! 黙れ!! やっぱり、お前なんか信用できない! お前なんか、アイツらに食べられちゃえばいいんだ!」
 ボクはシロの腕をつかんだ。そして、一緒に走った。
「あっ、待て!!」
 ロインが追いかけてくる。でも、追いつけっこない。ボクらだって、頑張れば早いんだ。
 ……やっぱり、大人なんて信じられない。大人はみんな、ウソツキだ。ボクらを、騙そうとしてるんだ。
「……クロ」
「シロ、逃げよう! マスターに会いに行こう! アイツなんて、信じちゃ駄目だ!」
「……うん、そうだね。でも、大丈夫だよ」
 すると、シロが急に立ち止まった。それでボクは、腕を引っ張られちゃって。その場で転んでしまった。
「ど、どうしたの? 急がなきゃ!」
 ボクは倒れながら、シロを見た。その後ろでは、ロインが迫ってきてる。急がないと……?

「――マスターなら、ここにいるから」

 ……突然、シロが光った。いや、シロのすぐ後ろの辺りが、輝いていた。
 眩しかった。ボクは、思わず目をつむって。いつかのようにまた、目が開けられなくなった。
「くそっ、何だ……閃光弾か!? あの子、あんなの持ってて……――!」
 遠くで、ロインの息を呑む音が聞こえた。だからボクは、何かあったのかと思って。必死に目を開けようとした。……そしたら、聞こえた。――マスターの、声が。
「私の子供を、虐めないでくれるかな……君」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...