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第二章
喧嘩
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そこは、長い長い廊下になっていた。行き止まりだと思った壁には、隠し扉があって。そこを抜けると、この廊下に繋がっていた。
天井には赤いランプ。壁には、何か沢山の配管が伸びていて。ごーっという低い音が、そこら中で響いている。
「はあ、はあ」
シロが、扉を閉めた。こちらから見ればそれは、とても強固というか。すごく頑丈な作りになっている。
でも、今はそれどころじゃなかった。ボクはやけに冷静な中で、一つの疑念に襲われていた。……どうしてロインは、ボクの胸倉をつかんでるんだろう?
「……君は、何をしたかわかってるのか?」
ロインが、質問した。でもボクは、意味がわからなかった。
「君は!! 自分の命を危険に晒したんだ!! わかってるのか!?」
「……え?」
……怒っていた。ロインは、ボクを怒っていた。顔を真っ赤にして、すごい顔で。
でも、わからなかった。怒られるのは初めてじゃなかったけど……。……”ボク”のことで怒られるなんて、初めてだった。
「あのままだったら君は、殺されていた! 死んでいた! それがわからないほど、君は子供じゃないはずだろう!?」
「……でも」
「なんだ!?」
「でも、シロを助けたかったから」
シロが、ボクを見た。ボクも、シロを見た。……すると、ロインが歯を食いしばって。ボクのほっぺを、叩いた。
「――え」
「いいか! この際だから教えてやる!! 君たちがやるべきことを!!」
「……やるべき、こと?」
「”生きる”ことだ!! 何があっても、全力で自分の命を守り抜くことだ!! それが、お互いが生き残る道に繋がる!!」
「……」
「確かに時には、自分を危険に晒さなければいけない時もあるかもしれない!! だがそれは、大人の仕事だ!! 君たちの仕事じゃあない!!」
「……大人の?」
ロインが、息を切らしていた。……それでもボクは、わからなかった。この人が、何を言ってるのか。何に怒ってるのか。やっぱり、理解できない。
「ロイン、行こう。今は怒ってる場合じゃないよ」
「っ……。まだ、話は終わっていないからな!」
ロインは、ボクから手を離した。そして、もう一度抱っこしてくれようとしたけど、流石に今は遠慮して。その後は、ボクは自分の足で歩いた。痛かったけど、頭の中がもんもんとしてたから、気にならなかった。
廊下を進んでる間は、アイツらは追って来なくて。特に大きな問題もなく、ボクらはどこかへと辿り着いた。
「ここだよ」
シロが、どこかの部屋へと入った。そこは、ボクの牢屋より幾らか大きいくらいで。何か、よくわからないものが沢山ある。
「――こ、これは!?」
唯一わかったのは、水槽のことだけだった。いつだったか、マスターに見せてもらったことがある。お魚っていう生き物が、入ってる箱。
でも、不思議だった。ここに入ってるのはお魚じゃなくて、人間だった。それも、大人の。男の人とか、女の人とか。みんな、裸だ。……息苦しくないのだろうか?
「……ここで作ってたのか。じゃあ、今回の騒動は……まさか、俺たちを鎮圧するために?」
ロインが、興味深そうに水槽を見てる。確かに珍しいけど、そんなに気になることなのかな。
「ここなら、少しは安全だよ。……だから、そろそろ教えてくれない? ロインは、どうしてここに来たの?」
すると、シロが話しかけた。ロインはそれを聞いて、少し黙って。何か思いつめたような顔をした。
「……君たちは、この施設から出たことがあるか?」
「ううん、ない」
二人が話してる。ボクにも関係があるのだろうか? 無いのなら、少し休みたい。なんだか疲れちゃった。
「まあ、ないだろうな。……俺も、ないから」
「そうなの?」
「ああ。誰一人、ここから出れた奴は居ない。誰一人として、外の世界を見た奴は居ないんだ」
「……」
「ここに居る者は、全員奴隷のように働かされる。こき使われて、死んでいく。そんなのって、あんまりだろ?」
「そうらしいね」
「だから俺たちは、集まったんだ。……ここから、脱出するための組織。レジスタンスとして」
ロインは、何か写真を見せた。そこには、ロインと同じようなお洋服を着た人達が、何人も写っていた。
「ここの奴らは、ずっと何かを作ってる。そのうちの一つが、さっき襲ってきた化け物だ」
「この水槽の人たちも、もうすぐそうなるよ」
「そうだろうな。目的はわからないが、奴らは何かをしようとしている。だが何にせよ、ろくなことじゃないのは確かだろう。それを調べるのも、俺たちの仕事だ」
やっぱり、よくわからなかった。ボクには、少し難しかった。
「だが少し前から、この施設はおかしなことになっている。……見張りは消え、代わりに実験体が徘徊してて。完全な無秩序状態になってるんだ」
「……」
「まあおかげで、俺たちも色々と調べられてるんだが。どうにもきな臭い。……だからその裏の事情を調べるために、俺はここまで来たんだよ」
「ふーん……。まあようするに、ロインはマスターに会いたいってこと?」
「まあ、そうだな。それが出来れば手っ取り早い。あいつがここの責任者だからな」
……マスターに?
「許さない。あいつだけは、絶対に。こんな地獄を作った、償いをさせてやるんだ」
「ねえロイン、もしかして怒ってる?」
「当たり前だ! こんな地獄のせいで、何人が苦しんでいるか。俺の友達だって――」
「……くない」
「え?」
「……悪くない」
「……な、なんだ?」
「マスターは、悪くない。良い人だよ」
「……。なんだって?」
「それは、別の人のことだよ。マスターは、良い人なんだ」
「違う。君は騙されてるんだ。アイツはただの、いかれた科学者――」
「マスターをそんな風に言うな!!」
「っ!?」
……それは、初めてボクがあげた、怒りの声だった。
「マスターは悪くない! マスターはだって、ボクに優しくしてくれたんだ! ボクは、マスターが大好きなんだ!」
「だからそれが騙されてるんだよ! 本当に優しいなら、君をあんな牢屋に閉じ込めておかないはずだろ!?」
「違う! ボクを閉じ込めてるのは、他の大人だ! マスターこそ、アイツらに騙されてるんだ!」
「思い出せ!! 君たちは、アイツに注射を打たれていたはずだ! あれはただの実験用の薬だ! 君たちは、実験体なんだよ!!」
「黙れ黙れ! 黙れ!! やっぱり、お前なんか信用できない! お前なんか、アイツらに食べられちゃえばいいんだ!」
ボクはシロの腕をつかんだ。そして、一緒に走った。
「あっ、待て!!」
ロインが追いかけてくる。でも、追いつけっこない。ボクらだって、頑張れば早いんだ。
……やっぱり、大人なんて信じられない。大人はみんな、ウソツキだ。ボクらを、騙そうとしてるんだ。
「……クロ」
「シロ、逃げよう! マスターに会いに行こう! アイツなんて、信じちゃ駄目だ!」
「……うん、そうだね。でも、大丈夫だよ」
すると、シロが急に立ち止まった。それでボクは、腕を引っ張られちゃって。その場で転んでしまった。
「ど、どうしたの? 急がなきゃ!」
ボクは倒れながら、シロを見た。その後ろでは、ロインが迫ってきてる。急がないと……?
「――マスターなら、ここにいるから」
……突然、シロが光った。いや、シロのすぐ後ろの辺りが、輝いていた。
眩しかった。ボクは、思わず目をつむって。いつかのようにまた、目が開けられなくなった。
「くそっ、何だ……閃光弾か!? あの子、あんなの持ってて……――!」
遠くで、ロインの息を呑む音が聞こえた。だからボクは、何かあったのかと思って。必死に目を開けようとした。……そしたら、聞こえた。――マスターの、声が。
「私の子供を、虐めないでくれるかな……君」
天井には赤いランプ。壁には、何か沢山の配管が伸びていて。ごーっという低い音が、そこら中で響いている。
「はあ、はあ」
シロが、扉を閉めた。こちらから見ればそれは、とても強固というか。すごく頑丈な作りになっている。
でも、今はそれどころじゃなかった。ボクはやけに冷静な中で、一つの疑念に襲われていた。……どうしてロインは、ボクの胸倉をつかんでるんだろう?
「……君は、何をしたかわかってるのか?」
ロインが、質問した。でもボクは、意味がわからなかった。
「君は!! 自分の命を危険に晒したんだ!! わかってるのか!?」
「……え?」
……怒っていた。ロインは、ボクを怒っていた。顔を真っ赤にして、すごい顔で。
でも、わからなかった。怒られるのは初めてじゃなかったけど……。……”ボク”のことで怒られるなんて、初めてだった。
「あのままだったら君は、殺されていた! 死んでいた! それがわからないほど、君は子供じゃないはずだろう!?」
「……でも」
「なんだ!?」
「でも、シロを助けたかったから」
シロが、ボクを見た。ボクも、シロを見た。……すると、ロインが歯を食いしばって。ボクのほっぺを、叩いた。
「――え」
「いいか! この際だから教えてやる!! 君たちがやるべきことを!!」
「……やるべき、こと?」
「”生きる”ことだ!! 何があっても、全力で自分の命を守り抜くことだ!! それが、お互いが生き残る道に繋がる!!」
「……」
「確かに時には、自分を危険に晒さなければいけない時もあるかもしれない!! だがそれは、大人の仕事だ!! 君たちの仕事じゃあない!!」
「……大人の?」
ロインが、息を切らしていた。……それでもボクは、わからなかった。この人が、何を言ってるのか。何に怒ってるのか。やっぱり、理解できない。
「ロイン、行こう。今は怒ってる場合じゃないよ」
「っ……。まだ、話は終わっていないからな!」
ロインは、ボクから手を離した。そして、もう一度抱っこしてくれようとしたけど、流石に今は遠慮して。その後は、ボクは自分の足で歩いた。痛かったけど、頭の中がもんもんとしてたから、気にならなかった。
廊下を進んでる間は、アイツらは追って来なくて。特に大きな問題もなく、ボクらはどこかへと辿り着いた。
「ここだよ」
シロが、どこかの部屋へと入った。そこは、ボクの牢屋より幾らか大きいくらいで。何か、よくわからないものが沢山ある。
「――こ、これは!?」
唯一わかったのは、水槽のことだけだった。いつだったか、マスターに見せてもらったことがある。お魚っていう生き物が、入ってる箱。
でも、不思議だった。ここに入ってるのはお魚じゃなくて、人間だった。それも、大人の。男の人とか、女の人とか。みんな、裸だ。……息苦しくないのだろうか?
「……ここで作ってたのか。じゃあ、今回の騒動は……まさか、俺たちを鎮圧するために?」
ロインが、興味深そうに水槽を見てる。確かに珍しいけど、そんなに気になることなのかな。
「ここなら、少しは安全だよ。……だから、そろそろ教えてくれない? ロインは、どうしてここに来たの?」
すると、シロが話しかけた。ロインはそれを聞いて、少し黙って。何か思いつめたような顔をした。
「……君たちは、この施設から出たことがあるか?」
「ううん、ない」
二人が話してる。ボクにも関係があるのだろうか? 無いのなら、少し休みたい。なんだか疲れちゃった。
「まあ、ないだろうな。……俺も、ないから」
「そうなの?」
「ああ。誰一人、ここから出れた奴は居ない。誰一人として、外の世界を見た奴は居ないんだ」
「……」
「ここに居る者は、全員奴隷のように働かされる。こき使われて、死んでいく。そんなのって、あんまりだろ?」
「そうらしいね」
「だから俺たちは、集まったんだ。……ここから、脱出するための組織。レジスタンスとして」
ロインは、何か写真を見せた。そこには、ロインと同じようなお洋服を着た人達が、何人も写っていた。
「ここの奴らは、ずっと何かを作ってる。そのうちの一つが、さっき襲ってきた化け物だ」
「この水槽の人たちも、もうすぐそうなるよ」
「そうだろうな。目的はわからないが、奴らは何かをしようとしている。だが何にせよ、ろくなことじゃないのは確かだろう。それを調べるのも、俺たちの仕事だ」
やっぱり、よくわからなかった。ボクには、少し難しかった。
「だが少し前から、この施設はおかしなことになっている。……見張りは消え、代わりに実験体が徘徊してて。完全な無秩序状態になってるんだ」
「……」
「まあおかげで、俺たちも色々と調べられてるんだが。どうにもきな臭い。……だからその裏の事情を調べるために、俺はここまで来たんだよ」
「ふーん……。まあようするに、ロインはマスターに会いたいってこと?」
「まあ、そうだな。それが出来れば手っ取り早い。あいつがここの責任者だからな」
……マスターに?
「許さない。あいつだけは、絶対に。こんな地獄を作った、償いをさせてやるんだ」
「ねえロイン、もしかして怒ってる?」
「当たり前だ! こんな地獄のせいで、何人が苦しんでいるか。俺の友達だって――」
「……くない」
「え?」
「……悪くない」
「……な、なんだ?」
「マスターは、悪くない。良い人だよ」
「……。なんだって?」
「それは、別の人のことだよ。マスターは、良い人なんだ」
「違う。君は騙されてるんだ。アイツはただの、いかれた科学者――」
「マスターをそんな風に言うな!!」
「っ!?」
……それは、初めてボクがあげた、怒りの声だった。
「マスターは悪くない! マスターはだって、ボクに優しくしてくれたんだ! ボクは、マスターが大好きなんだ!」
「だからそれが騙されてるんだよ! 本当に優しいなら、君をあんな牢屋に閉じ込めておかないはずだろ!?」
「違う! ボクを閉じ込めてるのは、他の大人だ! マスターこそ、アイツらに騙されてるんだ!」
「思い出せ!! 君たちは、アイツに注射を打たれていたはずだ! あれはただの実験用の薬だ! 君たちは、実験体なんだよ!!」
「黙れ黙れ! 黙れ!! やっぱり、お前なんか信用できない! お前なんか、アイツらに食べられちゃえばいいんだ!」
ボクはシロの腕をつかんだ。そして、一緒に走った。
「あっ、待て!!」
ロインが追いかけてくる。でも、追いつけっこない。ボクらだって、頑張れば早いんだ。
……やっぱり、大人なんて信じられない。大人はみんな、ウソツキだ。ボクらを、騙そうとしてるんだ。
「……クロ」
「シロ、逃げよう! マスターに会いに行こう! アイツなんて、信じちゃ駄目だ!」
「……うん、そうだね。でも、大丈夫だよ」
すると、シロが急に立ち止まった。それでボクは、腕を引っ張られちゃって。その場で転んでしまった。
「ど、どうしたの? 急がなきゃ!」
ボクは倒れながら、シロを見た。その後ろでは、ロインが迫ってきてる。急がないと……?
「――マスターなら、ここにいるから」
……突然、シロが光った。いや、シロのすぐ後ろの辺りが、輝いていた。
眩しかった。ボクは、思わず目をつむって。いつかのようにまた、目が開けられなくなった。
「くそっ、何だ……閃光弾か!? あの子、あんなの持ってて……――!」
遠くで、ロインの息を呑む音が聞こえた。だからボクは、何かあったのかと思って。必死に目を開けようとした。……そしたら、聞こえた。――マスターの、声が。
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