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第四章
非常階段へ
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地下三十階。そこはボクにとっては、未知の領域だった。
いつもボクがいたあの牢屋は、シロが言うには地下二階。マスターのお部屋は、地上二百階。よくわからないけど、つまりそこから、とてもとても下に来てしまったことになる。
ボクはシロと一緒に、エレベーターから離れた。とりあえず身を隠せる場所を探して、進んだ。
エレベーターから離れると、気が付いたことがあった。この階には、電気が来ていない。唯一、通路の足元にある薄緑のランプだけはついてるけど、心もとない。
それに、壁の色も変だ。とてもくすんでいて、もはや黒色に近い。でもそれが壁の色じゃなくて、乾いた血の色だと分かった瞬間、ボクは背筋が寒くなった。
「……声を小さくして。奴らは、耳が良いから」
シロが、小声になっている。シロはボクの肩に腕を回して、頑張って歩いている。
どこかから、足音がしていた。ボクら以外の何かが、ここには居る。低い唸り声も、ずっと聞こえるから。
「待って、止まって」
すると突然シロが立ち止まって、その場に座り込んだ。そしてボクの腕を引っ張って、ちょうどそこにあった壁の凹んでいる所に、ボクらは隠れた。
足音が、近づいてくる。近い。ぺたん、ぺたんって。ボクらみたいな、裸足の音。
ボクは、息が荒くなっていた。前のことを思い出して、身体が震えていた。声を出さないように、口を自分の手で抑えていた。
「――!」
そして、現れた。化け物が、ボクらの前を、通り過ぎた。
……人間だった。いや、元人間だった。そいつは、頭がもげてて。自分の左手で、自分の頭を持っている。しかも長い長い背骨が、頭から胴体まで伸びたまま。
これじゃあまるで、怖い絵本で見た、ろくろっくび。まさか、これが本物? 本当に、存在したの?
「っ……! っ……!」
舌を、ペロペロしてる。目玉を、ぎょろぎょろさせてる。……目から、血の涙が流れてる。
こんなの人間じゃない。こんなの、ただの化け物だ。絶対に見つかりたくない。見つかったら、何をされるかわからない。
『ゴァ……ゲァ……』
そして少しすると、化け物はうめき声をあげながら、歩いて行った。ボクらのことには、気が付いていないようだった。
足音がずっとずっと向こうに行って、聞こえなくなって。でもその頃になってもボクは、まだ震えが止まらなかった。
「……大丈夫?」
シロが、支えてくれてた。自分の方が、もっと大変なはずなのに。だからボクも、頑張った。頑張って自分の震えを、抑え込んだ。
「少し行った先に、非常階段があるの。そこを使って、上の階まで行こう。五階くらいあがれば、安全なはずだから」
そうしてボクは、何とか立ち上がって。もう一度通路を進んだ。途中で何度か、またアイツとすれ違うことになったけど。シロのおかげで、何とかやり過ごしていく。
……アイツは、何なんだろう。どうして、あんなことになっているんだろう。そんなことも少しは考えたけど、考えるのは止めた。……何か、考えたくない気がしたから。
しばらくすると、ボクらは何かの扉の前に辿り着いた。まるで金庫のように、厳重な扉。お船の舵みたいなのが、扉の中央についている。
「ちょっと待って。……ああ、駄目だ。これじゃあ僕には開けられない」
「えっ……。じゃ、じゃあ、どうするの?」
「この階のどこかに、管理官が居るはずなんだ。そいつが鍵を持ってるんだけど……、この様子じゃ……」
ボクは、後ろを振り返った。そして、思った。きっとそいつも、あの化け物になっているんだろう、と。
「……ねえ、クロ」
「……何?」
「……戦おうか、僕らで」
……。考えなかったわけじゃない。でも、勝てる気がしなかった。いつものあの大人たちにさえ、勝てないのに。
「大丈夫。弱くても勝てる方法は、あるんだ。……行こう。ちょっと気になる場所があるから」
いつもボクがいたあの牢屋は、シロが言うには地下二階。マスターのお部屋は、地上二百階。よくわからないけど、つまりそこから、とてもとても下に来てしまったことになる。
ボクはシロと一緒に、エレベーターから離れた。とりあえず身を隠せる場所を探して、進んだ。
エレベーターから離れると、気が付いたことがあった。この階には、電気が来ていない。唯一、通路の足元にある薄緑のランプだけはついてるけど、心もとない。
それに、壁の色も変だ。とてもくすんでいて、もはや黒色に近い。でもそれが壁の色じゃなくて、乾いた血の色だと分かった瞬間、ボクは背筋が寒くなった。
「……声を小さくして。奴らは、耳が良いから」
シロが、小声になっている。シロはボクの肩に腕を回して、頑張って歩いている。
どこかから、足音がしていた。ボクら以外の何かが、ここには居る。低い唸り声も、ずっと聞こえるから。
「待って、止まって」
すると突然シロが立ち止まって、その場に座り込んだ。そしてボクの腕を引っ張って、ちょうどそこにあった壁の凹んでいる所に、ボクらは隠れた。
足音が、近づいてくる。近い。ぺたん、ぺたんって。ボクらみたいな、裸足の音。
ボクは、息が荒くなっていた。前のことを思い出して、身体が震えていた。声を出さないように、口を自分の手で抑えていた。
「――!」
そして、現れた。化け物が、ボクらの前を、通り過ぎた。
……人間だった。いや、元人間だった。そいつは、頭がもげてて。自分の左手で、自分の頭を持っている。しかも長い長い背骨が、頭から胴体まで伸びたまま。
これじゃあまるで、怖い絵本で見た、ろくろっくび。まさか、これが本物? 本当に、存在したの?
「っ……! っ……!」
舌を、ペロペロしてる。目玉を、ぎょろぎょろさせてる。……目から、血の涙が流れてる。
こんなの人間じゃない。こんなの、ただの化け物だ。絶対に見つかりたくない。見つかったら、何をされるかわからない。
『ゴァ……ゲァ……』
そして少しすると、化け物はうめき声をあげながら、歩いて行った。ボクらのことには、気が付いていないようだった。
足音がずっとずっと向こうに行って、聞こえなくなって。でもその頃になってもボクは、まだ震えが止まらなかった。
「……大丈夫?」
シロが、支えてくれてた。自分の方が、もっと大変なはずなのに。だからボクも、頑張った。頑張って自分の震えを、抑え込んだ。
「少し行った先に、非常階段があるの。そこを使って、上の階まで行こう。五階くらいあがれば、安全なはずだから」
そうしてボクは、何とか立ち上がって。もう一度通路を進んだ。途中で何度か、またアイツとすれ違うことになったけど。シロのおかげで、何とかやり過ごしていく。
……アイツは、何なんだろう。どうして、あんなことになっているんだろう。そんなことも少しは考えたけど、考えるのは止めた。……何か、考えたくない気がしたから。
しばらくすると、ボクらは何かの扉の前に辿り着いた。まるで金庫のように、厳重な扉。お船の舵みたいなのが、扉の中央についている。
「ちょっと待って。……ああ、駄目だ。これじゃあ僕には開けられない」
「えっ……。じゃ、じゃあ、どうするの?」
「この階のどこかに、管理官が居るはずなんだ。そいつが鍵を持ってるんだけど……、この様子じゃ……」
ボクは、後ろを振り返った。そして、思った。きっとそいつも、あの化け物になっているんだろう、と。
「……ねえ、クロ」
「……何?」
「……戦おうか、僕らで」
……。考えなかったわけじゃない。でも、勝てる気がしなかった。いつものあの大人たちにさえ、勝てないのに。
「大丈夫。弱くても勝てる方法は、あるんだ。……行こう。ちょっと気になる場所があるから」
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