崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第五章

仕事、そして休息

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 第六収容所は、他とは違って特別な場所になっている。特に重要な人物を収容しておくために作られた牢屋で、監視カメラや監視員、思いつき実現可能なありとあらゆる手段が実行されている所だ。
 俺がレジスタンスに入ってからは、二回ほど使われたらしいが。それ以来は、ずっと封印されてきた。そんな場所が今、使用されているということは……。
「あれが……。――”ノア”、なのか?」
 薄暗い部屋。防弾ガラス越しに見える、椅子に拘束されている子供。白いドレスを着た、ちょうど黒と同じくらいの子がそこにいた。とてもここで閉じ込めておく必要があるような人物には、見えないが……。
「はい。なんでも、自らここへ来たそうで」
「ふむ……。ずっと隠れてきた奴が、今になって現れるとは。どういう心境の変化だろうな」
 ノアという人物のことを、先生から聞いたことがある。なんでも”箱舟”という名の何かを、起動させるための重要なキーだとか。
 そいつを、いや。彼を見つけることが、俺達の第二の使命だった。それが、俺達の道を切り開く鍵になると。まあもちろん、シュバルツを倒さないとそれも意味がないらしいのだが。
「……。にしても、噂には聞いてたが。やはり厳重だな。少しっていうか、明らかにやり過ぎな気もするが」
 ふと俺は、辺りを軽く見渡した。そして少し目線を動かしただけでも、目に入ってくる、監視カメラの山。そして、重装を施した監視員。さらにさらに、アホかってほどのセントリーガン。……一体、どれだけの資源をここに費やしてるんだ?
「昨日から急ピッチで作業したんです。おかげで向こう一年分の資源が、底をついてしまいましたよ」
「だろうな。……先生のことだから、考えがあるんだろうが……」
 すると、ノアがこちらを見た。……まるで、恐ろしい化け物か何かのような眼光。思わず俺は、背筋が凍ってしまう。
「さすがに、鋭いな。で? いつまで見張ってればいいんだ?」
「さあ……。とりあえず次の命令が下るまで、ってことらしいです」
「未定か……。まあ、いつものことだ」
 それからしばらくは、何事もなく時間が過ぎていった。予想に反して、ノアは一切の抵抗を見せず。実に大人しいまま、拘束され続けた。
 最初こそ俺達は緊張していたが、十時間も過ぎれば、トランプで遊ぶ者も現れ。いつしか俺達は、暇を持て余すようになっていき。気が付けば、交代の時間が来ていた。
「そろそろ二十時か……。よし、交代だ。引継ぎの準備は済ませたか?」
「終わってます。……にしても、全然動きませんでしたね」
「まあ、言ってもまだ初日だしな。これからさ」
 そうして俺は、引継ぎを済ませて休憩へと向かった。そしていつも通り、食堂で夕食分の缶詰を受け取り、食べようとしたのだが。ふと、黒のことが気になった。
 腹は空かせていないだろうか。レオはちゃんと食事を与えただろうか。色々と考えているうちに、気が付けば俺は黒の部屋へと向かっていて。扉をノックしていた。
「黒、入るぞ」
 中に入ると、ベッドに座る黒が居た。どうやら起きていたようで、黒は俺と目を合わせて。柔らかい笑顔を向けてくれた。
「あ……。おか、えり。アイジス」
「え? ……えっと。ただいま」
 急に度肝を抜かれてしまった。おかえりなんて言われたの、いつぶりだろうか。おかげで適切な返答を探すのに、少し手間取ってしまった。
 とにかく俺は、部屋に入って。また黒の隣に腰を下ろした。そうすると、俺は部屋にレオが居ないことに気が付く。
「あれ。なあ、あのデカい奴はどこ行ったんだ?」
「……お仕事だって、帰ったんだ」
「そうか。ったく、ちゃんと見張ってろっての」
 人に守れと言っといて、自分がほったらかしてどうすんだ。今度会ったら、叩きのめしてやる。
「……あ、そうだ。ほら、これ」
 ふと思い出した俺は、ポケットから缶詰を取り出し。それを黒に手渡す。
「その様子じゃ、腹減ってそうだしな。食べとけ」
「わあ、ありがとう。お腹、空いてたんだ」
 幸いなことに俺は、そこまで空腹じゃなかった。まあカンパンは、もう食べ飽きてたってのもあるが。俺よりも黒が食べるほうが、なんかいい。
「……。ん、食べないのか?」
 だが黒は、缶詰を持ったままで。開けようとはしなかった。それで俺が聞いてみると、なぜか黒は目を逸らして。小さな声で、答えた。
「……お腹、空いてないの」
「……? そう、か」
 妙だな。たった今、腹減ってるって言わなかったか? 俺がそう思っていると、黒は缶詰をベッドに置いて。俺の肩に、身体を預けた。
「ど、どうした?」
「……なんでもない」
 いや、そんなこと言ったって。明らかにどうかしてるじゃないか。なんで突然、俺の肩に寄り添ってるんだ? それに、君の、その手。
「ちょ、ちょっと待った。君、どこを触ってるんだ」
「……アイジスの、大事な所」
「いやそうだけど、そうじゃなくて。どうしてそんなとこを、急に」
「……」
 すると黒は、ちょっと背伸びをして。俺の耳元に、口を近づけて……。
「――今日は、しないの?」
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