崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第六章

交渉

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 「ノア……。そんな名前は捨てた。今はもう、別の名前で生きている」
「へえーえ? オメーがねえ。あんなに自分の”名前”に固執してたのにか?」
「変わるんだよ。結果論としても、だ」
 俺は、間合いを取り続けた。こいつの強さは、昔から知っている。だからこそ肉体を鍛えたのだ。弾丸は止められなくとも、弾丸”のような”拳は、止められるほどに。
「で、何しに来た。今の俺は、ただの脱走者。オメーが興味を引くような人間ではないと思うが?」
「愚問だよ。君は脳まで筋肉だが、馬鹿じゃない。私が何を望んでいるのか、既に大方の検討はついているんだろう? 君のお得意の、勘でな」
「……」
 時たま、自分が嫌になることがある。それは自分の、当たり過ぎる”勘”に対してだ。ポーカーやブラックジャックをやる時はともかく、嫌な予感まで当たってしまうのが、困りもので。
 そしてそれは、今もなお起こっている。今俺の頭の中には、とある勘が浮かんでいた。それも中々例を見ない、突拍子がなく。最悪な勘。……結論のみを言う。今俺が選択をミスしたら、『人類は終わる』。
「単刀直入に聞く。――オメーが、シロか?」
 しかし根拠がない。だからその場合、確かめてみれば済む話だ。……違っていたら、それで済む。それで済むんだ。
「ああ、そうだ。……それが、今の私の名だ」
 だが、済まなかった。それだけでは済まなかった。となると、”そういうこと”になる。つまり俺の勘は、ただの気に留めておくだけではなく。現実的に警戒しなくてはいけない問題になってしまった。
「やはり君の勘は、実に優れている。その能力を、世界に活かしてほしいものだが……」
「お断りだね。超能力が世界にどんなことをもたらしたか、知らんわけじゃあるまい。俺はちっぽけなギャンブルで勝てさえすれば、それでいいのさ」
「……そうか。まあいい。それより、本題に入ろう」
「……」
「クロを返せ。そうすれば、必要以上の損害は出さない。約束する」
 やはり、コイツの目的はあの子供か。理由は知らんが、コイツはあの子供に対して執着している。……ただの実験体を回収するためだけとは、考えにくいな。
「へへ。アイラブユーってことかい。オメーもようやく人の心を学んだってこったな?」
「……ああ。そうだな。皮肉だが、あの時君に言われた言葉が、ずっと頭でリフレインしている。確かに人の心というものは、難しい。今でも必死に練習しているよ」
「練習するもんじゃねーよ。……心ってのはな」
「……フッ。で、どうなんだ。条件は飲むのか、飲まないのか?」
「……」
「これは助言だが、飲んだ方が得策だ。……飲まない場合、私は手段を択ばない。お前たち全員を、”終わらせて”もいいんだ」
 終わり。ノアの言う、終わり。……それだけは避けたい。それだけは、避けなくてはならない。
「……いつまでだ」
「ん?」
「いつまで俺達は、オメーらの支配下なんだ? 全てを管理され、全てを指示されて。いつ終わる? どうせ終わらせるなら、その支配を終わらせてくれよ」
「……。それは無理な相談だ。君達だって、死にたくはないだろう?」
「どっちみち死んでるようなもんさ。……レジスタンスも、あいつらも」
「……」
 黒を渡すべきか。確かアイツらは、シロと出会うことを望んでいる。そういう意味で言えば、向こうから来てくれて万々歳だが……。
「あいつを取り返して、どうするつもりだ? また実験をするのか?」
「……しない。もう、クロにはしない」
「じゃあ何するんだ? 何が目的だ?」
「保護だ。それだけだ」
「……」
 ウソをついているようには見えない。……信じられないが、どうやら本当に黒を回収したいだけのようだ。
 となると、これから起きる”それ”を回避するために。黒を渡したほうが賢明だろう。コイツの元なら、一応の安全は確保されるはずだ。
「いいだろう。だがその代わり、約束は守ってもらうぞ。被害は最小限に、忘れるな」
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