崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第八章

始まり

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 ……。すごく、眠い。……どうしてだろう。でも、なんだか。長い長い、夢を見ていたような。
 身体が、ふわふわする。頭が、ぽわぽわする。……なんだか、マスターに。優しく、抱きしめてもらってるみたいな。
「――! ――!?」
 ……何かの、音がする。……誰かの声かな。それに、大きな音も。何の音なんだろう。
 目が上手く開けられない。とても眠くて。でも、眠れそうになくて。……ボクは、少し頑張って。自分の瞼を、開けてみた。
「……。あ……」
 ……。アイジスだ。アイジスの、横顔が見えた。すごく、近くで。……。ああ、そっか。ボクはアイジスに、おんぶされてるんだ。
 でも、どうして。どうしてだろう。アイジスは、どこに行ってるのかな。ボクを連れて、どこに行ってるのかな。
「……ア、イ……ジス……」
「クロッ! 目を覚ましたか!」
 ようやく、声が聞こえた。……アイジスが、汗をかいてる。すごくたくさん。
「おいあぶねえ! 離れろ!」
「ぐおっ! ちっ、おいロイン! 本当にあってんだろうな!?」
 ……何が、起きてるんだろう。えっと、レオ、が居て。……それで、それで……。
『ゴゲァァアッッ!!』
「うわあああっ!?」
 化け物が居た。あの、変な化け物が。こっちに向かって、大きな口を開けて。それに、あの触手も飛ばして……。思わずボクは、暴れてしまう。
「や、やめろっ! 来るなっ! あっちいけ!!」
「おわっ、クロ! 落ち着け、大丈夫だ! 俺が居るから!」
「ひっ……うっ……」
 ボクは、ようやく理解した。アイジスとレオは、あの化け物から逃げてるんだ。……前の時みたいに、たくさんの化け物から……?
「こっちだ! 急げ!」
「ッ――!」
 ……なんで、居るの? なんで、なんで。……コイツが。
「もう弾がねえぞ! おい、レオ!」
「任しとけ!! 必殺! 筋骨断絶拳ッ!!」
「ふざけてねえでちゃんとしろ!」
「いやしてんだよ! こうしねーと技のノリが悪いんだよ!」
 ……アイジス。どうして? どうして二人が、コイツと居るの? コイツは、悪い大人なんだ。マスターを虐める、悪い奴なんだ。……ボクをさらうのは、コイツのはずなんだ。
 ……それじゃあ、まさか。もしかして。……二人まで、マスターを、虐めるの? ……そんな、そんな。……ウソ、だよね?
 もうマスターを殺す必要は、ないんだ。だって、だって。シロは、もう戻ってきたんだ。もう、大丈夫なんだ。……なのに。
「……どう、して……?」
「ここだ! 入れ!」
「がはっ! はあ、はあ……」
「いいぞ、閉めろ!」
『ガゴッゴゴゴゴゴ……バダーンッ』
「はあ、はあっ! ……はあーーっ!」
「ふう……。く、クロ。大丈夫か?」
 アイジスが、ボクを地面に下ろした。……とても、鉄臭くて。錆びだらけの床で。……どこもかしこも、ボロボロで。
 でも、そんなのはどうでもいい。……ボクは、聞かなくちゃ。ちゃんと、聞かないと。
「……どうして、居るの……?」
「……クロ? どうした、大丈夫か? どこか、頭でも……」
「そいつは、悪い奴なんだっ! どうして、一緒に居るの! なんで、なんでっ!!」
 思わずボクは、大きな声を出した。……二人が、びっくりしてて。ボクは、ロインの目を、睨みつけた。
「……久しぶり、だな。クロ。……その……」
「やだ! こっちに来るな! 止めろ、止めろ!」
 ボクは必死に、床から拾った鉄の砂を、投げつける。何度も、何度も。近寄ろうとするロインに向かって、なんとか抵抗した。
「お、おい! クロ! ……どういうことだロイン! お前まさか!?」
「……その、言ってなかったが。俺は、……クロに、嫌われてるんだ」
「ぎいっ……! お前ッ……!」
「死んじゃえ! お前なんか、死んじゃえ!! 消えちゃえ!!」
「二人とも、そこまでだ」
 ……。レオが、ボクの腕を掴んだ。アイジスの腕も、掴んでた。
「うっ……! うっ……!」
「クロ、とりあえず落ち着いてくれ。大丈夫だ。俺たちが、守るから。……それに、アイジスも。もう決めただろう」
「……それは、そうだが……。でも、クロが」
「ひぐっ……えぐっ……」
「一応聞いておく。オメー、クロに何したんだ? ……事と次第によっちゃあ、俺たちは契約を捨てるぜ」
「いや、その。何もしてないっちゃしてないんだが……。……ほ、ほら。クロ? 怖くない、怖くない……」
「来るなッ!! お前なんか、化け物に喰われればいいんだ! 死ねっ! 今すぐ消えろ!!」
「……。こう、言ってるが。……どうする、アイジス」
「お前の勘が、外れたと考えるべきか。……とりあえず、殺すか?」
「待ってくれって! もう話はついたろ! だから俺は、ただ嫌われてるだけなんだって!」
 もう嫌だ。こんな奴、顔も見たくない。帰ろう。マスターの所に、帰ろう。アイジスも、レオも。コイツに騙されてるんだ。
「……やれやれ。子供の扱いは、そんなんじゃ駄目ですよ」
「あ、ふぇ、フェイ……」
「フェイ!? お前、どうしてここに……!?」
「まあそれは後で。……とにかく今は、こっちの方が先でしょう」
 ……。誰かが、近づいてくる。緑色の髪。あいつも大人だ。……ボクの前で、しゃがんで。……怖い。
「こんにちは、クロくん。オレは、フェイって言うんだ。よろしくね」
「う……う……」
「……大丈夫。このお兄さんは、ちょっとお馬鹿さんなんだ。でも君を傷つけたりは、しない。オレが約束する」
「お、お馬鹿ってフェイ? おい?」
「ほら、おいで。……大丈夫、大丈夫だよ。ね?」
 ……緑の髪の人は、手を広げている。ボクに、近づくことはせず。ずっと、ボクを待っているようだった。
 ……目が、とても穏やかで。……笑顔で。少しだけ、ボクは。安心して。……ふと、よりどころを求めるみたいに。その人の腕の中に、入っていった。
「あ……」
「……よしよし。怖かったね。大丈夫だよ。ここに居れば、オレたちが守るからね」
 この人は、ぎゅってしてくれて。頭を撫でてくれた。……暖かい。なんだか、いい匂いがして……。マスター、ほどじゃないけど。不思議だ。……安心、する。
「お、おおー……」
「まったく。隊長も、レオさんも。ロインもだ。……もう少し子供の気持ちってのを、理解してあげないと」
「は、はい。すみません……」
「……さ、クロ。もう、大丈夫?」
「……うん」
「いい子だね。……ほら、隊長。抱いてあげてください」
「あ、ああ……」
 ボクは、アイジスの方に戻って。……抱きしめてもらった。大きくて、がっしりした身体で。……恥ずかしいな。本当なら、ボクが、アイジスを抱いてあげなくちゃいけないのに。
「……ごめんな、クロ……」
「……ううん。……でも、でも。なんで、居るの……?」
 ボクはずっと、アイジスの胸で顔を隠していた。後ろを、向きたくなくて。
「とにかく、隊長はクロについていてあげてください。オレが医者の所まで案内するんで」
「……ああ、わかった」
「レオさんは、このままロインと一緒にボスと会ってもらいます。話があるそうなんで」
「いいだろう。……おい、アイジス。お前、絶対クロから目を離すなよ」
「当たり前だろ。……そっちは、任せたからな」
「おーけー。じゃ、行こうか」
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