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第十一章
恐怖
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二日後。俺はようやく目覚め、ベッドから起き上がった。あまりに寝すぎたので全員が痛くて。起きてからまず最初にしたことは、ストレッチだった。
そして上体を逸らしていると、レオが部屋に入ってきた。レオは俺の顔を見るや否や、抱きついてきて。心配したぞと呟く。だから俺は、わるいわるいと答えた。
「いやー、よかったよかった。怪我も、ないしな。本当どうしたんだ? そんなに眠っちまってさ」
「疲れてたんだ。ここ最近、色々あったからな」
俺はレオと一緒に食堂に行った。そして、いつも通りに飯を食い。いつも通りに、本部の外で仕事をこなした。今日の仕事は、新しいアジトのためのスペースを確保すること。
俺は人一倍、頑張った。二日分の遅れを取り戻すために、キビキビと働く。弾を撃って、化け物を殴り倒して。やはり汗水流して、働くのはいいものだ。
『私は騙せんぞ、アイジス』
……。どっから現れたんだか。俺は今、単独行動で通路を進んでいるのだが。いつの間にか、曲がり角を曲がった先に。金髪の奴が居た。
『貴様は、憎しみを捨てきれていない。そのままでは、いつか暴走するだけだ』
うるさい奴だ。別に俺は、何ともないのに。
『そのわざとらしい笑顔を止めろ。……腹が立つ』
「知らねえよ。それより、こっちは仕事中なんだ。邪魔すんな」
俺は奴の隣を通って、奥へと進もうとした。……だが、奴がいきなり腕を掴んで。ものすごい力で、馬乗りになってくる。
「……おいおい。欲求不満か? お前にはクロが居るだろ。それともまた前みたいに、俺を誘惑する気かよ」
『……』
「……手、離せよ」
『離さない』
「離せっつってんだよ」
『断る』
「離せよクソ野郎!!」
『ではなぜ、お前は震えている!!』
……。奴は、俺の手をつかんでいた。手首の辺りを、がしっと。……。だから、嫌でもわかった。自分が、震えているのが。
『私はウソをつく奴が大嫌いだ! 誰かに対しても、そして、自分に対してもな!』
「……お前には関係ないだろ」
『ふざけるな!! 私はあの女を殺したかった! だが、貴様のせいで殺せない! 迷惑も良い所だろうが!』
「……」
『……なぜだ、なぜそこまでする! 確かにクロは崇高だが、それでも限度があるだろう! ……なぜ、ただの人間のお前が、そこまで……』
「……もう言ったろ。俺は、クロに惚れてたんだよ。だからだ」
『っ……』
「……。もういいか。仕事があるんだ。……言っておくが、もう俺は、勃ってねえぞ」
『……』
「じゃあな」
そうして俺は、嫌に軽かった金髪の奴を押しのけ。立ち上がって、通路を進んだ。……。しかしその直後に、また奴は俺の腕を握って、俺を引き留める。
「……なんだよ」
『そこまで言うなら、こちらにも考えがある』
「……」
『貴様が我儘を通すというのなら、私も我儘を押し通させてもらうぞ!!』
「っ!?」
すると奴は、俺の身体を回転させ。自分と俺を向かい合わせた。そして俺は、とっさに攻撃体勢を取るのだが……。間に合わず、奴の術中にはまってしまう。
「……」
『……』
「……おい。何してんだよ」
奴は、俺を抱きしめていた。まるで、いつかのクロのように。
『クロと比べているのではない。私は貴様を客観的に見て、こうすべきだと判断しただけだ』
「……。よくわかんねえ」
『……。お前は、よくやっている。自らの衝動に抗い、罪を償おうとしている』
「……」
『そのうえで、あの出来事は。ある意味では試練だったのだろう。お前を試す、試練』
「……」
『……。誠に勝手ではあるが、代わりに私が言おう。……既にお前の罪は、いや。お前には、相応しい罰が下った』
「……。へえ」
『……だから、もういい。……思う存分、泣け』
「……」
『泣けと言ってるんだ。……今は、私が許す。私が、お前を受け止めてやる』
「……」
変なヤツだ、そう思った。……。しかし、なぜかこの時。俺は、コイツの名前を知りたいと思って。
「……お前、何て名前なんだ?」
『……私の名は、アグネス。聖女の名をかたどった、……模造品だ』
へえ。そうなのか。アグネスね。……どっかで聞いたような気もするが。覚えていない。
というか、今はそれよりも。何かを我慢出来そうになかった。よくわからんが、何かを我慢してて。
『今は、誰も居ない。この場に居るのは、私とお前だけだ』
「へー。そうか。まあ、そんなん知ったことじゃねえけど」
俺は、減らず口を叩いていた。でも、その一方で。……なぜか、涙を流していた。
『……。辛かっただろう。だが、もう大丈夫だ。……お前に、怖いものはもうない。恐れるものは、何もない』
暖かかった。クロよりも。……いや、このアグネスの身体が、とても暖かくて。それが、俺の心を、溶かしていくようで。
気が付けば、俺は言葉にならないような泣き声をあげていた。すすり泣くように、歯を噛みしめながら。
『……私が、お前を守る。だからお前も、私を守れ。……それでいい。それだけで、いいんだ』
……言いたいことは、なんとなく伝わってきた。お互いが、お互いを守る。そのために、生きる。……だが、今だけは。今だけは、それを無視して。……ただ、泣いていたかった。この暖かさに、身を任せていたかった。
そして上体を逸らしていると、レオが部屋に入ってきた。レオは俺の顔を見るや否や、抱きついてきて。心配したぞと呟く。だから俺は、わるいわるいと答えた。
「いやー、よかったよかった。怪我も、ないしな。本当どうしたんだ? そんなに眠っちまってさ」
「疲れてたんだ。ここ最近、色々あったからな」
俺はレオと一緒に食堂に行った。そして、いつも通りに飯を食い。いつも通りに、本部の外で仕事をこなした。今日の仕事は、新しいアジトのためのスペースを確保すること。
俺は人一倍、頑張った。二日分の遅れを取り戻すために、キビキビと働く。弾を撃って、化け物を殴り倒して。やはり汗水流して、働くのはいいものだ。
『私は騙せんぞ、アイジス』
……。どっから現れたんだか。俺は今、単独行動で通路を進んでいるのだが。いつの間にか、曲がり角を曲がった先に。金髪の奴が居た。
『貴様は、憎しみを捨てきれていない。そのままでは、いつか暴走するだけだ』
うるさい奴だ。別に俺は、何ともないのに。
『そのわざとらしい笑顔を止めろ。……腹が立つ』
「知らねえよ。それより、こっちは仕事中なんだ。邪魔すんな」
俺は奴の隣を通って、奥へと進もうとした。……だが、奴がいきなり腕を掴んで。ものすごい力で、馬乗りになってくる。
「……おいおい。欲求不満か? お前にはクロが居るだろ。それともまた前みたいに、俺を誘惑する気かよ」
『……』
「……手、離せよ」
『離さない』
「離せっつってんだよ」
『断る』
「離せよクソ野郎!!」
『ではなぜ、お前は震えている!!』
……。奴は、俺の手をつかんでいた。手首の辺りを、がしっと。……。だから、嫌でもわかった。自分が、震えているのが。
『私はウソをつく奴が大嫌いだ! 誰かに対しても、そして、自分に対してもな!』
「……お前には関係ないだろ」
『ふざけるな!! 私はあの女を殺したかった! だが、貴様のせいで殺せない! 迷惑も良い所だろうが!』
「……」
『……なぜだ、なぜそこまでする! 確かにクロは崇高だが、それでも限度があるだろう! ……なぜ、ただの人間のお前が、そこまで……』
「……もう言ったろ。俺は、クロに惚れてたんだよ。だからだ」
『っ……』
「……。もういいか。仕事があるんだ。……言っておくが、もう俺は、勃ってねえぞ」
『……』
「じゃあな」
そうして俺は、嫌に軽かった金髪の奴を押しのけ。立ち上がって、通路を進んだ。……。しかしその直後に、また奴は俺の腕を握って、俺を引き留める。
「……なんだよ」
『そこまで言うなら、こちらにも考えがある』
「……」
『貴様が我儘を通すというのなら、私も我儘を押し通させてもらうぞ!!』
「っ!?」
すると奴は、俺の身体を回転させ。自分と俺を向かい合わせた。そして俺は、とっさに攻撃体勢を取るのだが……。間に合わず、奴の術中にはまってしまう。
「……」
『……』
「……おい。何してんだよ」
奴は、俺を抱きしめていた。まるで、いつかのクロのように。
『クロと比べているのではない。私は貴様を客観的に見て、こうすべきだと判断しただけだ』
「……。よくわかんねえ」
『……。お前は、よくやっている。自らの衝動に抗い、罪を償おうとしている』
「……」
『そのうえで、あの出来事は。ある意味では試練だったのだろう。お前を試す、試練』
「……」
『……。誠に勝手ではあるが、代わりに私が言おう。……既にお前の罪は、いや。お前には、相応しい罰が下った』
「……。へえ」
『……だから、もういい。……思う存分、泣け』
「……」
『泣けと言ってるんだ。……今は、私が許す。私が、お前を受け止めてやる』
「……」
変なヤツだ、そう思った。……。しかし、なぜかこの時。俺は、コイツの名前を知りたいと思って。
「……お前、何て名前なんだ?」
『……私の名は、アグネス。聖女の名をかたどった、……模造品だ』
へえ。そうなのか。アグネスね。……どっかで聞いたような気もするが。覚えていない。
というか、今はそれよりも。何かを我慢出来そうになかった。よくわからんが、何かを我慢してて。
『今は、誰も居ない。この場に居るのは、私とお前だけだ』
「へー。そうか。まあ、そんなん知ったことじゃねえけど」
俺は、減らず口を叩いていた。でも、その一方で。……なぜか、涙を流していた。
『……。辛かっただろう。だが、もう大丈夫だ。……お前に、怖いものはもうない。恐れるものは、何もない』
暖かかった。クロよりも。……いや、このアグネスの身体が、とても暖かくて。それが、俺の心を、溶かしていくようで。
気が付けば、俺は言葉にならないような泣き声をあげていた。すすり泣くように、歯を噛みしめながら。
『……私が、お前を守る。だからお前も、私を守れ。……それでいい。それだけで、いいんだ』
……言いたいことは、なんとなく伝わってきた。お互いが、お互いを守る。そのために、生きる。……だが、今だけは。今だけは、それを無視して。……ただ、泣いていたかった。この暖かさに、身を任せていたかった。
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