崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第十二章

セキュリティ

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 俺は治療室を調べつくして回った。一見すれば、変な機械やら変な薬があること以外は問題なかったものの。だが一つだけ問題があった。それが、この壁。
 この壁は、他とは違って少し凹んでいる。こういうデザインにも見えるが、凹んでいるのはここだけだ。……そしてシュバルツの性格を考えれば。こういうことになるわけで。
「よし、これだ」
 隠し扉。やっぱりあいつは、少し古臭い。机の下にボタンがあった。それを押せば、隠し扉が開く。まあ開けゴマっていう音声認識じゃなかっただけマシだろう。
 そこは、狭く長い通路になっていた。今までのコンクリート作りのものではなく、しっかりとした研究機関のための通路。白い壁に、白い床。
 とにかく俺は、注意しつつ奥へと進んだ。レーザーなんかが出て来て、俺を八つ裂きにするかとも思ったが……。意外にセキュリティは甘いようで、すんなり進めた。
 そして、一番奥。何かの扉の前に、俺は立っていた。特に指紋認証とか暗証番号とかもなく、ドアノブを捻れば、開くらしい。
 俺は大きく深呼吸をして、ドアノブを握った。それでゆっくりと、回していく。
「――」
 その時だった。背後から何かの音がしたので、俺はすぐに振り返って銃を構えた。何かしらの敵か、それともセキュリティか。どちらにせよ俺は殺意をこめて、後ろを見たのだ。
「……。クロ?」
 すると、なぜか後ろにはクロが居た。シロではなくて、クロが。クロが一人で、俺の後ろに立っていたのだ。
「お前、どうしてここに? 何してるんだ?」
 しかしクロは、俺の質問に答えることなく。ただぼうっと、俺の顔を見ていた。意識があるのか、ないのか。ハッキリしない。
 だが仮にあったとしても、正常ではないのだろう。なぜならクロは、裸だったからだ。普通の神経をしてたら、こんな所で素っ裸で立っているわけがない。
「……とにかく、待ってろ。なんか持ってくるから」
 俺は少し戻って、治療室の隣の部屋で適当な服を選んだ。選んだというより、最初に目についたものを手に取っただけだが。
 そして俺はその服を、クロに着せた。大きなワンピースを、上からバサッと。とりあえずはこれでいいだろう。
 だが、気に入らなかったらしい。クロは今着たばかりの服を、破り捨てた。せっかくの綺麗な服が、ビリビリになっていく。
「……マスター以外から貰うお洋服なんて、嫌いだ」
 クロは、俺を睨みつけていた。まるで、親の仇のように。
「おい、落ちつけよ。何怒ってんだ? そんな物騒なもん持ち出してよ」
 クロは、俺にナイフを向けていた。確実な、明確な殺意を抱えて。……ふと、気が付く。こいつは、クロじゃない。
「……。なるほどね。そういうことか。こいつは随分、面倒なことになってんな」
 確か俺の知っているクロには、手首にリストカットの痕が残っていた。だがコイツには、無い。つまりはクロも、シロと同じように。
「お前は、誰だ? マスターを、虐めるのか?」
「虐めねえよ。アイツが虐めて来ない限りはな」
 この時点で、俺の推測はもはや確信になっていた。この施設に渦巻く、奇妙な秘密。奇妙な真実。
 だが、それを知った所でどうするか。別に今更、何かが変わるわけじゃない。世界が救われるわけでも、アイジスが救われるわけでも。
「で、どうする。侵入者である俺を、殺すのか?」
「……。大人しく帰るんなら、殺さない」
「へ。優しいねえ。そこはやっぱり似てんのか」
「……?」
 だから俺は、そっとしておくことにした。こういうのは、個人の問題だ。俺が介入することじゃない。元々今回の件は、俺が気になってただけだ。
 俺はその場を立ち去るために、そいつの横を通り過ぎた。そして通路を出て、治療室に戻る……。
「待って」
 それを、そいつが引き留めた。
「……お兄ちゃんは、ここがどこか、知ってるの?」
 そいつは、俺に問いかけた。恐らくそれは、この世界において。唯一俺ぐらいだけが、語る権利を持つもの。……俺以外で言えば、シュバルツくらいにしか語れない。
「ああ。知ってるぜ」
「……」
 多分そいつにとって、俺は初めて出会う”他の人間”なのだろう。恐怖と好奇心が混ざったような、表情をしている。
「知りたいんなら、話してやる。……でもな、つまらねえぞ」
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