崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第十二章

過去

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 俺はそいつに、昔の話をしてやった。昔の世界は、どうだったとか。昔の人間は、どうだったとか。
 昔は、外があった。外には森があって、町があった。自由があった。そんな感じの、くだらない話を。
 そして、俺が”どうやってここに来たのか”。……全部の元凶を、全部の出来事を。そいつに教えてやった。こういう話をするのは、今が最初で最後だと思ったから。
 俺の話を聞き終えたそいつは、一言だけ質問した。「寂しくないの?」と。だから俺は答えた。そんなのもう、飽きるぐらい味わったと。
 昔話を終えた俺は、久しぶりに煙草を吸った。ずっと隠し持っていた、湿気た煙草を。こんなの吸っていないと、やっていられないので。
「多分、近いうちに戦争が起こる。メアと、シュバルツと、俺達で。どうなるかはわからんが……。お前は隠れとけよ。そんなナリじゃあ、死ぬぜ」
 俺はアイジスのようにショタコンではない。だから別に、子供の裸なんぞどうでもいいが。他の奴らは違う。そういう意味でも、隠れておいたほうが無難だ。
「……でも、どうして戦うの? お兄ちゃんたちは、悪い人なの?」
「ん?」
 それは、子供ゆえの純粋な疑問というやつだろう。そいつは、というかクロは、シュバルツのことを絶対的に信用している。もはやそれは、信仰に近い度合いで。
 だから、シュバルツが悪人という思考はしない。この場合、俺達が悪者か、メアが悪者か、という話なワケで。
「そうさ。俺達は、悪者なのさ。メアもお前を傷つける、わるーい奴なんだぜ」
「……」
 そいつは、俺から少し離れた。まあ当然だろう。……実際問題、皮肉なことではあるが。俺が言ったことは真実だ。少なくとも、俺の価値観では。
「だからお前は、俺達には近づくな。そのままマスターの所に居ろ。そうすりゃ、何も怖い事は起こらねえ」
「本当?」
 俺はそいつから、ナイフを取り上げる。
「こいつも、お前には必要ねえ。俺が貰っとくぜ」
「あ……」
 俺はナイフを腰にしまい、吸い終わった煙草の火を床で消した。そして立ち去るために、立ち上がったのだが。そいつが俺の服の裾を掴んで、離さない。
「なんだ?」
 寂しいのだろう。きっと、ずっとここで一人だったのだ。理由はわからないが、ここで侵入者が来ないように見張っていた。だから俺が悪人とはいえ、一人になるのは嫌なのだ。
「言ったろ。俺は悪人だ。お前には、マスターが居るじゃねえか」
「……。そうじゃない」
「あ?」
「……。もっと、ここに居て」
「だから、お前にはマスターが……」
「ボクじゃない。……君が、寂しそうだから言ってるの」
「!」
 その時だった。今まで無理矢理封じ込めておいたものを、一気にえぐりだされる。理性でかき消していた、己の感情を。
「……もっと、ここに居て。じゃないと、君が、壊れちゃうから」
「悪いが俺は、ショタコンでもロリコンでもねえ。子供に頼る趣味はねえんだよ」
 俺は、何とかその場を逃れようとする。クロの怖さは、傍から見て知っているので。
「駄目。逃がさない。……君が壊れる所なんて、見たくない」
「黙れよ。お前に何がわかんだ」
「……わからない、けど……」
「お前はガキだ。わかんねえし、理解出来ねえよ。……離せ」
 意外と強情だ。ずっと足にしがみついている。……これ以上は危険だ。さっさと逃げてしまおう。
「なっ!?」
 その時、扉が突然閉まってしまう。これでは逃げることが出来ない。まさか、こいつが?
「……。君、まだ言ってないことがある」
「……」
「ボクに、何も言ってない。まだ、隠してることがあるでしょ」
「何をだよ。全部言ったろ」
「……」
「ここから出せ。……じゃねえと、殺すぞ」
「それでいい。それで、いいから。……お願いだから、全部、話して」
「……」
「……」
「……別に、何でもねえよ。好きな奴を、……また奪われただけだ」
「っ……」
「まあ、そもそも俺のじゃなかったけどな。……俺だって、自分があいつに相応しいとは思ってねえさ。あいつの相手は、あいつが決める。……それが道理だろ」
「違う」
「は?」
「そんなの、違う」
「何が違うってんだ。別に間違ったこと言ってねえだろ」
「そんなの、君の本音じゃない」
「……」
「……大丈夫。ここなら、誰にも聞こえないから。……その大切な人にも、聞こえないから」
「……」
 やっぱり、クロは恐ろしい。こういうところが危険なんだ。こういう、誰も彼もを受け入れてしまうところが。
「俺さ、意外と頭いいんだよ。自分で言うのもなんだが、結構物事はちゃんと考えられる方だと思うんだわ」
「……」
「でも、こと好きな奴に至ってはな。そういうのが全部できなくなるんだよ。なんというか、理性じゃないっていうかさ」
「……」
「……だから、嫌なんだよ。あいつを奪われるのが。あいつが、誰かのものになるのが。……そんなことになるくらいなら、いっそ。……あいつを、殺してしまいたい」
「……」
「許せねえんだ。あいつを、奪う奴が。……俺の幸せを、奪う奴が。幸せになれねえなら、生きてたって仕方ねえだろ」
「……。ねえ」
「あ?」
「……もしも、何だけど。……その、大切な人が。誰かに傷つけられたら……。どうする?」
「決まってんだろ。……皆殺しだ。あいつは、俺だ。あいつの傷は、俺の傷だ。……俺を傷つける奴は、誰だろうと許さねえ」
「……。なら、ボクと一緒に来て」
「……?」
「ボク、わかるの。……君の大切な人が、傷ついているのが
 「――! おい、それってどういう意味だ! お前何か知ってんのか!?」
 俺はそいつの肩を掴んで、睨みつける。
「……その人、この前、レイプされたんだよ。何人もの人に、傷つけられたんだ」
「ッ……!」
「……でも、金髪の子に助けられたの。危ない所だった。もう少し遅かったら……」
「やっぱり、か……。どうりであいつ、最近変だと……!」
「落ち着いて。……大丈夫。だから、ボクと一緒に来て欲しいの」
 するとそいつは、俺に腕を組ませてくる。
「……あいつらは、悪い奴なんだ。君を傷つける、悪い奴。……だから、一緒に来て。一緒に、あいつらを懲らしめるの」
「あいつらを……?」
「うん。……マスターの、元に。君も、マスターと一緒になるの」
「……」
「そうすれば、皆殺せる。大切な人を、守れるの。……悪い奴は、皆、死んでしまえばいい。……そうでしょ?」
 いつもなら、断っていたと思う。いつもの理性的な俺なら、間違いなく断っていた。……だが、感情的になっていた。頭の中が沸騰していて、他のことを考えられなくなっていて。
 復讐心で、心が溢れていた。全員をブチ殺すまで止められそうにない。だから俺は、そいつについて行くことにした。どちらにせよ、今更戻った所で。もうあいつらを、仲間だと思うことは出来ない。
「……ボクの名前は、クロ。……君の名前は、何ていうの?」
「俺は、……俺の名前は……――」
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