100 / 139
第十四章
What is me?
しおりを挟む
それが今見えた未来だった。ボクがお家の外に出ちゃって、襲われる未来。ボクはマスターの中で震えながら、頭痛に耐えていた。
「……本当にすまない。君にそんな、辛い思いをさせてしまって」
マスターはボクが予知で聞いた言葉と、同じことを言った。この後はマスターが、ボクを床に座らせるんだけど。ボクは抱きつくのを止めなかった。
「……行かないで。ここに居て」
ボクがそう言うと、マスターはボクを抱きしめてくれた。それでずっとそばにいてくれてたから、あの犬が現れることは無かった。
未来が変わったんだと思う。ほんの些細なことだったけど、それでボクは安心して。ようやく落ち着いてきた。
「……マスター。どうしてみんなは、酷い事をするの? どうしてみんな……。あんなことになってるの?」
マスターは答えてくれなかった。いつもなら、答えてくれるのに。きっと教えたくないんだ。何か嫌な理由があるはずだから。
「すまない。もう帰ろう。本当は、ちゃんとしたかったんだが……。まさかここまで酷いとは……」
するとマスターが、何かをボクに注射した。確かこれはラムが、気絶する直前のボクに打ったものと同じ物だと思う。
青い。アダムスとは真逆の色だ。身体の中でそれが巡るのがわかって、少し嫌だった。でもその代わりに頭痛が治まってきたから、よかったけど。
「アラネアは何を考えている……。あれほど警告しておいたのに。覚醒させるのは薬が完成してからでないと……」
「……。アラネア……」
ボクは思い出した。確かあれは、気絶してた途中の時だと思う。ボクはほんの僅かに、意識を取り戻して。アラネアの顔を見たんだ。
とても悲しそうだった。とても辛そうだった。だからボクも、苦しくなって。またすぐに眠っちゃった。
「……マスター、ボク、もう帰りたい。帰って、みんなと……」
「ああ、そうだね。帰ろう。ここは君には、まだ早かった――」
『ガチャッ』
その時、扉が開く音がした。あれは玄関の音だ。だからボクとマスターは、玄関の方を見た。
誰かが居た。とても血だらけの、人が居た。……お胸が大きい。女の人だと思う。でも、あれはもう……。
「たす……けて……」
女の人は呟いた。そして、倒れてしまった。全身から支えを失ってしまったように、バタンって。
マスターが側に寄って、首元に手を当てた。だからボクも、恐る恐る近寄ってみたんだけど。……息の音がしなかった。つまりもう、死んじゃったみたいで。
「まさかここまで来るとはな。貴様が誰に導かれたのかは知らないが、ここに来た以上は生かして返すわけにはいかない」
ボクたちは、玄関の外を見た。……そこには、とても大きな何かが居た。恐竜、それともドラゴン? よくわからないけど、人間なんて比べ物にならないくらいの、化け物。
化け物の口の中は、血でいっぱいだった。それで外を見てみると、沢山の動物たちが死んでた。……死体の山。その中には、予知でボクを襲った人間も混ざってた。
「貴様も哀れな奴隷に過ぎない。しかし貴様は、それを自覚することすら出来ない。……ならば、遠慮は無用だろう」
マスターは化け物に向かって、手を伸ばした。化け物はよくわからないように、それを見ていたんだけど。すぐに表情を変えた。
苦しそうだった。こんなに大きくて強そうな化け物が、怯えてた。……よく耳をすませてみると、どこからかが音がしてて。ボクはその音が、化け物の中から聞こえるってことに気が付いた。
「さらばだ、”星の使者”よ。……大地の一部へと還るがいい」
そうして、化け物は……。弾け飛んだ。まるでパンパンになって、割れてしまった……風船のように。
沢山の血が、飛び散った。細かい肉の破片なんかも、ベチャって壁について。大きかった化け物は、一瞬で散り散りになってしまった。
怖かった。でもその恐怖は、化け物に対してじゃなかった。なぜかはわからないけど、ボクはあの化け物のことを怖いとは感じなかったんだ。本当に怖かったのは……。ボク自身の方。
化け物の死に方には、覚えがあった。あれは確か、メアに力の使い方を教わった時。……あの人形のと、全く同じだった。
怖かった。なぜならボクは、自覚があったからだ。マスターが今やった、化け物の殺し方。……きっとボクは、同じことが出来る。
「マスター……。ボクは、ボクたちは……。一体、何なの……?」
人間じゃない。今更だけど、人間にはこんなことできない。だからメアは、ボクを必要だって言ってたんだ。
とても強い力。使い方を誤れば、誰も彼もを殺せてしまう。……今の化け物が、簡単に死んだように。
ボクはようやく理解した。ボクはもう、力を持っていたんだ。大人にも対抗できる、力を。……でも、でも。
身体が震えてた。すごく寒気がしていた。まるで自分自身が、とても気持ちの悪い化け物みたいに思えて。嫌だった。……今すぐ自分から、逃げ出したくて。
「クロ。よく聞いてくれ」
するとマスターが、ボクの両肩に手を添えた。
「例え誰が、何を言おうと。どう責めようと。クロは、人間なんだ。私達は、人間なんだ。……それだけは、忘れないでいて欲しい」
……初めてだった。マスターの言うことを、信じられなかったのは。マスターがウソをついてるなんて、思ったことが無かった。
マスターはボクを、抱きしめてくれていた。それでも、とても冷たかった。まるで、氷の人形に抱かれてるみたいで。……すごく、怖い。
「……本当にすまない。君にそんな、辛い思いをさせてしまって」
マスターはボクが予知で聞いた言葉と、同じことを言った。この後はマスターが、ボクを床に座らせるんだけど。ボクは抱きつくのを止めなかった。
「……行かないで。ここに居て」
ボクがそう言うと、マスターはボクを抱きしめてくれた。それでずっとそばにいてくれてたから、あの犬が現れることは無かった。
未来が変わったんだと思う。ほんの些細なことだったけど、それでボクは安心して。ようやく落ち着いてきた。
「……マスター。どうしてみんなは、酷い事をするの? どうしてみんな……。あんなことになってるの?」
マスターは答えてくれなかった。いつもなら、答えてくれるのに。きっと教えたくないんだ。何か嫌な理由があるはずだから。
「すまない。もう帰ろう。本当は、ちゃんとしたかったんだが……。まさかここまで酷いとは……」
するとマスターが、何かをボクに注射した。確かこれはラムが、気絶する直前のボクに打ったものと同じ物だと思う。
青い。アダムスとは真逆の色だ。身体の中でそれが巡るのがわかって、少し嫌だった。でもその代わりに頭痛が治まってきたから、よかったけど。
「アラネアは何を考えている……。あれほど警告しておいたのに。覚醒させるのは薬が完成してからでないと……」
「……。アラネア……」
ボクは思い出した。確かあれは、気絶してた途中の時だと思う。ボクはほんの僅かに、意識を取り戻して。アラネアの顔を見たんだ。
とても悲しそうだった。とても辛そうだった。だからボクも、苦しくなって。またすぐに眠っちゃった。
「……マスター、ボク、もう帰りたい。帰って、みんなと……」
「ああ、そうだね。帰ろう。ここは君には、まだ早かった――」
『ガチャッ』
その時、扉が開く音がした。あれは玄関の音だ。だからボクとマスターは、玄関の方を見た。
誰かが居た。とても血だらけの、人が居た。……お胸が大きい。女の人だと思う。でも、あれはもう……。
「たす……けて……」
女の人は呟いた。そして、倒れてしまった。全身から支えを失ってしまったように、バタンって。
マスターが側に寄って、首元に手を当てた。だからボクも、恐る恐る近寄ってみたんだけど。……息の音がしなかった。つまりもう、死んじゃったみたいで。
「まさかここまで来るとはな。貴様が誰に導かれたのかは知らないが、ここに来た以上は生かして返すわけにはいかない」
ボクたちは、玄関の外を見た。……そこには、とても大きな何かが居た。恐竜、それともドラゴン? よくわからないけど、人間なんて比べ物にならないくらいの、化け物。
化け物の口の中は、血でいっぱいだった。それで外を見てみると、沢山の動物たちが死んでた。……死体の山。その中には、予知でボクを襲った人間も混ざってた。
「貴様も哀れな奴隷に過ぎない。しかし貴様は、それを自覚することすら出来ない。……ならば、遠慮は無用だろう」
マスターは化け物に向かって、手を伸ばした。化け物はよくわからないように、それを見ていたんだけど。すぐに表情を変えた。
苦しそうだった。こんなに大きくて強そうな化け物が、怯えてた。……よく耳をすませてみると、どこからかが音がしてて。ボクはその音が、化け物の中から聞こえるってことに気が付いた。
「さらばだ、”星の使者”よ。……大地の一部へと還るがいい」
そうして、化け物は……。弾け飛んだ。まるでパンパンになって、割れてしまった……風船のように。
沢山の血が、飛び散った。細かい肉の破片なんかも、ベチャって壁について。大きかった化け物は、一瞬で散り散りになってしまった。
怖かった。でもその恐怖は、化け物に対してじゃなかった。なぜかはわからないけど、ボクはあの化け物のことを怖いとは感じなかったんだ。本当に怖かったのは……。ボク自身の方。
化け物の死に方には、覚えがあった。あれは確か、メアに力の使い方を教わった時。……あの人形のと、全く同じだった。
怖かった。なぜならボクは、自覚があったからだ。マスターが今やった、化け物の殺し方。……きっとボクは、同じことが出来る。
「マスター……。ボクは、ボクたちは……。一体、何なの……?」
人間じゃない。今更だけど、人間にはこんなことできない。だからメアは、ボクを必要だって言ってたんだ。
とても強い力。使い方を誤れば、誰も彼もを殺せてしまう。……今の化け物が、簡単に死んだように。
ボクはようやく理解した。ボクはもう、力を持っていたんだ。大人にも対抗できる、力を。……でも、でも。
身体が震えてた。すごく寒気がしていた。まるで自分自身が、とても気持ちの悪い化け物みたいに思えて。嫌だった。……今すぐ自分から、逃げ出したくて。
「クロ。よく聞いてくれ」
するとマスターが、ボクの両肩に手を添えた。
「例え誰が、何を言おうと。どう責めようと。クロは、人間なんだ。私達は、人間なんだ。……それだけは、忘れないでいて欲しい」
……初めてだった。マスターの言うことを、信じられなかったのは。マスターがウソをついてるなんて、思ったことが無かった。
マスターはボクを、抱きしめてくれていた。それでも、とても冷たかった。まるで、氷の人形に抱かれてるみたいで。……すごく、怖い。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる