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第十四章
This is me.
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ボクはこの短い間で、色々なことを知った。その中のうちの一つが、生きていると何度か不思議なことを体験するってことで。今のレオの言葉も、それに入ると思う。
意味が分からなかった。何かこう、たとえ話をしているのかとか。何か遠回しな言い方をしてるのかとか。色々考えたけど、結局わからなくて。ボクはその言葉が、その通りの意味にしか聞こえてこなかった。
冗談を言ってるようには見えない。でもレオは、冗談を言う人だ。いつも面白いお話をしたり、皆を笑わせたりしている。
だからボクは、少しだけ笑ってみた。頬を上げて、ニコッて。……でもレオは笑わなかった。ずっと真剣な表情で、ボクのことを見ているだけだった。
「……ごめん。でもそれって……どういう、ことなの?」
「そのままさ。お前は、死んだ。そして生き返った。シンプルな話だろ」
「……。そんなの、ウソだよ」
「あん?」
「ボク、知ってるよ。人間は、死んだら生き返らないんだ。もう戻って来ないんだ。……だからボクたちは、お墓を作るんでしょ?」
ボクの頭には、あの霊園のことが浮かんでいた。お墓の前で泣いている、あの人たちのこと。
死んだら、もう動かない。喋らない。語らない。……だから悲しいんだ。もう会えないから、もう触れあえないから。
「もうそんな時代じゃねえってことさ。……人間は、そういう所まで来ちまってんだよ」
「……?」
「……。まあ、見た方が早いか。来い。こっちだ」
するとレオは、ボクの手を引っ張ってどこかに向かった。少し焦っているのか、手に汗をかいているのがわかって。
……いや、違った。汗をかいているのはボクだった。全身が熱くて、苦しくて。心の奥がすごくもどかしかった。
「お前だってもうわかってるはずだ。少し考えれば、納得出来るだろ」
ボクは喋らなかった。ただ必死に、レオについていくだけで。……考えることを捨てていた。
嫌な予感がした。進む道がだんだんと怪しくなって、薄暗くなって。冷たい空気に気が付いた所で、ボクは鳥肌が立った。
大きな扉があった。それは今まで見た中で、一番頑丈そうな。ただ無機質に、冷酷に。……ボクたちの進む道を閉ざしていた。
「ちょっと待ってろ」
レオは扉に近づいて、何かの機械を操作した。ボタンを押すような音や、何かをスキャンするような音。それでそういう音が全部鳴り終えて、少し静かになって。
『ギュガガッガガッガガガッッ!!!!』
大きな金属音がした。とても嫌な、頭に響く高い音。
それで突然、辺り一面にあった壁が”動いた”。まるで回転するボードのように、クルッと回って。そして壁の裏から、おびただしい数の……”目玉”が現れた。
『審査を開始します。動かないでください』
目玉たちはギョロギョロと動いて、ボクたちを観察した。何かをしてくるわけでもなく、ただ不気味にボクたちを見てて。何かを調べてるみたいだった。
……すごく、嫌だ。何かこう、奥の奥まで見透かされてるみたいで。何もかもが見られてるっていう、嫌な感覚。……思わずボクは、レオにしがみついた。
『アクセスが承認されました。セキュリティ保持のため、侵入理由を記録してください』
「来るべき時が来た。それだけだ」
『記録されました。なお、十分以上の滞在、また不正な行動には処罰が行われますのでご注意ください』
すると目玉たちは、また元通りの壁に戻っていって。目の前の大きな扉が、ゆっくりと開いて行った。
中から冷気が漏れてる。思わずボクは、安心するとともにくしゃみが出て。鼻をすすって、レオのお顔を見た。
「いいか。一つだけ言っておく」
「……?」
「この先にあるのは、ただの”現実”だ。善でも悪でもねえ、ただ一つの事実があるだけだ。……それをどう解釈するかは、お前次第だってことを覚えときな」
レオはそういうと、中に向かって歩いた。ボクは今の言葉を理解する間もなく、それについていく。
……すごく寒い。それに冷気のモヤモヤで、よく見えない。一歩歩くごとに、足の裏が凍ってしまいそうだった。
「さあ、見てみな」
「え……?」
するとレオは、突然止まった。だからボクは辺りを見渡してみるけど、ここには何もない。ここにあるのは機械と、円柱の形をした水槽だけで。特に目新しいものは何もなかった。
「……この中を覗いてみろ。そうすりゃ、全部がわかるからよ」
レオは水槽に手を当てて、霜をぬぐい取った。それで水槽の中には、緑色の液体が入っているのがわかって。ボクはなんとなくその中を見てみた。
「うっ……」
……誰かが入ってる。何か人間みたいなのが、入ってて。中で眠ってるみたいだった。
これは確か、前に見たことがある。えっと、ロインと一緒に見たやつだ。シロも一緒に居た。あの人間が入った不思議な水槽、それがここにもあるなんて。
「もっとよく見てみろ。……ちゃんとその目で、な」
レオが背中を押した。それでボクは、水槽に顔が当たりそうになって。思わず水槽に手をつく。
……その時だった。ボクが手をついて、顔を上げた瞬間。……ボクは中に入っている人間と、目が合って。……得体の知れない感情が、ボクの中に湧いてきた。
「っ……! っ……!!」
ボクは尻餅をついた。目の前で何が起きたのか、わからなくなって。目の前の現実を、受け入れられなくて。
……時間がかかっていた。まずボクは、この恐怖に勝たなきゃいけなかった。この味わったことのない、感覚。……いや、今までに一度だけ味わったことがある、あの感覚。……それを否定したくて、ボクは別の水槽を覗いてみた。
でも無駄だった。どの水槽にも、同じ物が入っていた。……何個も、何個も。ここには同じようなのがいっぱいあって。それでボクは、また座り込んでしまった。
「これが現実だ。……そういう奴なんだよ、シュバルツは」
身体が震えていた。寒さとかじゃなくて、怖かったから。……これが、何なのか。何が起きているのか。どうしてこうなのか。全部がわからなかった。全部が、気持ち悪かった。
そしてボクは、目の前にある水槽を見上げて。もう一度だけ中身を見た。そして中の物と、もう一度目を合わせて。ボクはようやく理解した。……中に入っているのは、……”ボク”なんだって。
意味が分からなかった。何かこう、たとえ話をしているのかとか。何か遠回しな言い方をしてるのかとか。色々考えたけど、結局わからなくて。ボクはその言葉が、その通りの意味にしか聞こえてこなかった。
冗談を言ってるようには見えない。でもレオは、冗談を言う人だ。いつも面白いお話をしたり、皆を笑わせたりしている。
だからボクは、少しだけ笑ってみた。頬を上げて、ニコッて。……でもレオは笑わなかった。ずっと真剣な表情で、ボクのことを見ているだけだった。
「……ごめん。でもそれって……どういう、ことなの?」
「そのままさ。お前は、死んだ。そして生き返った。シンプルな話だろ」
「……。そんなの、ウソだよ」
「あん?」
「ボク、知ってるよ。人間は、死んだら生き返らないんだ。もう戻って来ないんだ。……だからボクたちは、お墓を作るんでしょ?」
ボクの頭には、あの霊園のことが浮かんでいた。お墓の前で泣いている、あの人たちのこと。
死んだら、もう動かない。喋らない。語らない。……だから悲しいんだ。もう会えないから、もう触れあえないから。
「もうそんな時代じゃねえってことさ。……人間は、そういう所まで来ちまってんだよ」
「……?」
「……。まあ、見た方が早いか。来い。こっちだ」
するとレオは、ボクの手を引っ張ってどこかに向かった。少し焦っているのか、手に汗をかいているのがわかって。
……いや、違った。汗をかいているのはボクだった。全身が熱くて、苦しくて。心の奥がすごくもどかしかった。
「お前だってもうわかってるはずだ。少し考えれば、納得出来るだろ」
ボクは喋らなかった。ただ必死に、レオについていくだけで。……考えることを捨てていた。
嫌な予感がした。進む道がだんだんと怪しくなって、薄暗くなって。冷たい空気に気が付いた所で、ボクは鳥肌が立った。
大きな扉があった。それは今まで見た中で、一番頑丈そうな。ただ無機質に、冷酷に。……ボクたちの進む道を閉ざしていた。
「ちょっと待ってろ」
レオは扉に近づいて、何かの機械を操作した。ボタンを押すような音や、何かをスキャンするような音。それでそういう音が全部鳴り終えて、少し静かになって。
『ギュガガッガガッガガガッッ!!!!』
大きな金属音がした。とても嫌な、頭に響く高い音。
それで突然、辺り一面にあった壁が”動いた”。まるで回転するボードのように、クルッと回って。そして壁の裏から、おびただしい数の……”目玉”が現れた。
『審査を開始します。動かないでください』
目玉たちはギョロギョロと動いて、ボクたちを観察した。何かをしてくるわけでもなく、ただ不気味にボクたちを見てて。何かを調べてるみたいだった。
……すごく、嫌だ。何かこう、奥の奥まで見透かされてるみたいで。何もかもが見られてるっていう、嫌な感覚。……思わずボクは、レオにしがみついた。
『アクセスが承認されました。セキュリティ保持のため、侵入理由を記録してください』
「来るべき時が来た。それだけだ」
『記録されました。なお、十分以上の滞在、また不正な行動には処罰が行われますのでご注意ください』
すると目玉たちは、また元通りの壁に戻っていって。目の前の大きな扉が、ゆっくりと開いて行った。
中から冷気が漏れてる。思わずボクは、安心するとともにくしゃみが出て。鼻をすすって、レオのお顔を見た。
「いいか。一つだけ言っておく」
「……?」
「この先にあるのは、ただの”現実”だ。善でも悪でもねえ、ただ一つの事実があるだけだ。……それをどう解釈するかは、お前次第だってことを覚えときな」
レオはそういうと、中に向かって歩いた。ボクは今の言葉を理解する間もなく、それについていく。
……すごく寒い。それに冷気のモヤモヤで、よく見えない。一歩歩くごとに、足の裏が凍ってしまいそうだった。
「さあ、見てみな」
「え……?」
するとレオは、突然止まった。だからボクは辺りを見渡してみるけど、ここには何もない。ここにあるのは機械と、円柱の形をした水槽だけで。特に目新しいものは何もなかった。
「……この中を覗いてみろ。そうすりゃ、全部がわかるからよ」
レオは水槽に手を当てて、霜をぬぐい取った。それで水槽の中には、緑色の液体が入っているのがわかって。ボクはなんとなくその中を見てみた。
「うっ……」
……誰かが入ってる。何か人間みたいなのが、入ってて。中で眠ってるみたいだった。
これは確か、前に見たことがある。えっと、ロインと一緒に見たやつだ。シロも一緒に居た。あの人間が入った不思議な水槽、それがここにもあるなんて。
「もっとよく見てみろ。……ちゃんとその目で、な」
レオが背中を押した。それでボクは、水槽に顔が当たりそうになって。思わず水槽に手をつく。
……その時だった。ボクが手をついて、顔を上げた瞬間。……ボクは中に入っている人間と、目が合って。……得体の知れない感情が、ボクの中に湧いてきた。
「っ……! っ……!!」
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……時間がかかっていた。まずボクは、この恐怖に勝たなきゃいけなかった。この味わったことのない、感覚。……いや、今までに一度だけ味わったことがある、あの感覚。……それを否定したくて、ボクは別の水槽を覗いてみた。
でも無駄だった。どの水槽にも、同じ物が入っていた。……何個も、何個も。ここには同じようなのがいっぱいあって。それでボクは、また座り込んでしまった。
「これが現実だ。……そういう奴なんだよ、シュバルツは」
身体が震えていた。寒さとかじゃなくて、怖かったから。……これが、何なのか。何が起きているのか。どうしてこうなのか。全部がわからなかった。全部が、気持ち悪かった。
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