崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第十四章

Happy...?

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 水槽の中のボクは、虚ろな目でボクを見ていた。意識があるのかないのか、それはわかんない。……でも、どこか寂しそうで。悲しい感じがした。
 しばらく時間をおいて、ようやくボクは立ち上がることが出来た。まだ心はざわついているけど、少しだけ落ち着いてきて。……ボクは水槽に手をついて、ボクを見つめた。
「こいつはお前の複製だ。人格もあるし、記憶だってある。……唯一無いのは、意識だけさ」
「……、複製……?」
「”クローン”ってことだよ。シュバルツは、お前の”代わり”を用意してやがんだ。……いつお前が、死んでもいいようにな」
 ……思い出した。この水槽は、この前ボクが入っていたものと同じなんだ。中に水も入ってて、呼吸器もついてて……。
 ……わからない。全部が、理解出来ない。そっくりだとかそういう話じゃないんだ。この中に居るのは、ボク自身なんだ。ボクと同じ顔。ボクと同じ身体。全部全部が、何もかもが一緒。……それって、どういうことなの……?
「お前は……いや。前のお前は、もう死んだ。だが幸いなことに、脳だけは無事だったんだ。その脳をこの複製に移植して、お前を生き返らせた。……理解できるか?」
「……そんなの、わかんないよ。……でも……」
 一つだけ理解出来たことがある。……それはレオのお部屋に居る、あの子のこと。きっとあの子は、ここで産まれたんだ。……でも。
「……。マスター、あの子のこと。偽物って言ってた。……それって、どういうことなの? ここに居るのは、ボクじゃないの?」
「いや、ここに居るのは紛れもなくお前だ。遺伝子も肉体も、何もかもがお前と同じ。ただ一つだけ違うのは……、”性格”だ」
「性格?」
「ああ。詳しくは知らんが、どうやらこのクローンには”性格”に個体差があるらしい。まあ要するに、一番シュバルツ好みの性格をしているのが、お前ってことだ。……それ以外は全部、偽物呼ばわりさ」
「……」
「これでわかったか? これが、お前の真実だ。……お前は、普通に産まれてきたんじゃない。ここで作り出されたんだ。……それを、どう受け止める?」
 レオがボクを見ていた。ボクはそれに目を合わせてから、もう一度水槽に目を向ける。
 不思議な感じがしていた。すごく怖かったんだけど、気味が悪かったんだけど。……今は、それよりももっと……。
「……? お前……」
 ……とても幸せだった。マスターがボクのために、ここまでしてくれてるってわかって。気が付けばボクは、顔が真っ赤になっていた。
 嬉しい。マスターはボクだけを、見てくれている。ボクだけを愛してくれている。……どうしようもないほどに、幸せで。その幸せな気持ちが、恐怖をどこかへと消し去っていた。
「……。それがお前の、解釈ってわけか?」
「……。わからないよ。でも、でも……。とても、嬉しいんだ。すごく気味が悪い、けど。とても、とても……」
 あの子のことが浮かんでいた。あの子も、ボク。あの子もマスターを、愛している。そしてここの子たちも、きっと。……でもマスターが愛しているのは、ボクだけで。
 ……。すごく、怖い。もしもボクが、あの子だったら? もしもボクが、この子たちだったら? ……それを考えるのが、怖くて怖くて仕方がない。だからそれを誤魔化したくて、ボクはただ必死に、幸せな自分に浸っていた。……考えないようにしていた。
「お前でもそうなることがあるんだな。意外だぜ」
「……。レオも……」
「ん?」
「レオも同じ、だよね?」
「……何がだ?」
「レオだって、レオだって……。アイジスが好き、なんだよね。ならレオだって、アイジスを……。他の人に渡したくない、よね……?」
「……」
 ボクはレオのお洋服を、握りしめていた。必死に訴えかけて、ボクの求めてる答えを聞きたかった。
「お前のその気持ちは理解出来る。……だがな、しわ寄せってのは必ず来るもんだ」
「……しわ寄せ?」
「”結果”ってことだよ。お前が何かの選択をするたびに、その結果がどこかで来る。その結果がどう動くのかは、俺にはわからねえ」
「……」
「お前がシュバルツを独占すれば、他のお前が何をするか。……そういうことだよ、しわ寄せってのは」
「……他の、ボクが……?」
 ボクは思い出した。あの子がしたことを。マスターに振り向いてもらえなくて、あの子は……。
「あいつはお前だ。あいつのする行動は、お前のする行動でもある。……それがどういう意味か――」

「それは違うな。シエラ」

 その瞬間、ボクとレオは思わず後ろを見た。……そこには、いつの間にかマスターが居て。ボクたちのことを見ていた。
「ま、マスター……」
「アレは失敗作だ。アレとクロは、同じではない。ただ容姿が似ているだけの模造品だ」
「……はん。失敗作ねえ」
 マスターはお部屋に入って、水槽に近づいた。それで中の子をじっと見つめているんだけど……。何か、嫌な感じがする。
「いいかい、クロ。君は特別な存在なんだ。……こんな質の悪いクローンなんかと、自分を一緒にしてはいけないよ」
「で、でも……」
「……ああ、そうだね。君はそういう子だ。例えそれが出来損ないだとしても、君は愛してしまう。そこが君の素晴らしい所なんだ」
「……?」
「だが君の愛は、出来損ないなんかに注がれるべきではない。君はもっと高みに、崇高な存在となるんだ。……そのための障害は、全て排除しないと」
 マスターはそう言うと、何かの機械を操作した。そのピッていう電子音が、なぜか耳の奥に残って。……ボクの全身に、寒気が走った。
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