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第十五章
You are mine.
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幸せな時間。幸せな瞬間。……ボクはきっと、この先の人生のどこかで。一番幸せなことは何かって聞かれたら、この時のことを答えると思う。
それだけ印象的だった。それだけ、決定的だった。他の全てがどうでもよくて、どうしようもなくて。いつまでも浸っていたかった……ひと時。
……マスターがボクを、愛してくれる。それも嬉しかった。本当に。でも本当に嬉しかったのは、ボクがマスターを……愛してもいいっていうことのほうで。
忘れたくない。失いたくない。そう思っていた。……でも結局、幸せっていうものは長く続かなくて。ボクたちのキスは、ほんの数秒で終わってしまった。
「あっ……」
誰かが居た。少しだけ目を開けた瞬間、カーペットの向こうに子供が見えた。
ボクと同じくらいの背丈で、ポツンと立ってる。なぜかボクはそれがとても気になって、思わずマスターから唇を離してしまった。
「クロ……」
その子はボクを呼んだ。でもボクは、その子を知らなくて。ボクは思わずマスターの後ろに隠れてしまう。
「ノア、なぜここに居るんだ? 君には船の整備を……――。……、なるほど。そういうことか」
「クロ、クロ……」
その子はふらふらしながら、こっちに近づいてくる。それで気が付いたけど、どうやら怪我をしているみたいだった。お洋服がボロボロだし、身体に傷が沢山ついてて。
「あっ……、だ、大丈夫……うっ……」
その子はボクたちの前に来ると、倒れそうになった。だから思わず、ボクは受け止めてあげたんだけど。……その子の身体に触れた瞬間、電気のような何かがボクの中を駆け抜けた。
……なんだろう。なぜかはわからないけど、この子のことを知ってる気がする。今の刺激はそういう……既視感っていうか。そういうものだった。会ったこともないのに、なぜ。
「クロ……。どうして……」
「え……?」
「どうして、ボクじゃなくて……」
何か言ってる。でも何のことだろう。
「……忘れたの? 僕との約束……」
「約束……?」
するとこの子は、突然ボクの手をつかんだ。それで思い切り力を入れて来て、握りつぶされそうになる。
「い、痛い! 痛い!」
「……駄目だよ。約束、したの。クロは僕と一緒になるって……」
「な、何のこと……? それより痛いよ、離して……」
「駄目……。駄目。そんなの嫌だ。クロが居ないと、僕は、僕は……」
何かがおかしい。どうしてこの子は、ボクのことを押し倒そうとしているの。お互い知らないのに、なんで。
「……ふむ。これは貴重なデータだ。実験体の”感染”例はこれが初だな。まあこのデータは記録しておくとして。……どうして君は、ここに居るんだ? ――シロ」
シロ。きっとそれはこの子の名前だろう。マスターはこの子に向かって話しているから、多分そう。
やっぱり会ったことのない子だ。でもそんな子が、どうしてボクのことを知っているんだろう。……どうしてこんなに、切ない目で見てくるんだろう。
「渡さない。お前なんかに、クロは渡さない。クロは、僕と……。僕と一緒になるんだ」
「悪いが君との勝負は、私の勝利で終わったんだ。諦めてくれ」
「そんなの知らない。勝負なんて知らない。僕は、僕は……」
するとこの子は、突然ボクにキスをした。無我夢中っていうみたいに、必死そうに。
……。でも、感じない。何も感じない。嬉しさも、悲しさも。そこにあったのは、ただの空っぽな何かだった。
なんとなくわかった。きっとこの子は塗り替えようとしているんだ。ボクとマスターのキスを、今ここで。……でもこんなキスじゃあ、マスターには勝てなくて。だからボクは、この子を拒絶した。
「あっ……」
……絶望の目だった。何かこう、希望が全部なくなってしまったみたいな。でもその目はすぐに、怒りのものに変わっていって。マスターを睨みつける。
「やっぱり、お前が……」
「どうやら策にはまったようだな。さあ、見せてみなさい。治療してあげよう」
「触るな化け物!!」
マスターがこの子の肩に触ろうとした。でもこの子はそれを振り払って、ボクを抱きしめてくる。
「随分な言い草じゃないか。まあどちらにせよ、クロは渡さない。さっさと帰った方が身のためだ」
「もうどうだっていい……、お前も、他の奴らも!! 全部消えてしまえばいい!!」
するとこの子は、ポケットから何かを取り出した。……スイッチだ。この子はそれを思い切り押し込んで、投げ捨てる。――次の瞬間だった。
それだけ印象的だった。それだけ、決定的だった。他の全てがどうでもよくて、どうしようもなくて。いつまでも浸っていたかった……ひと時。
……マスターがボクを、愛してくれる。それも嬉しかった。本当に。でも本当に嬉しかったのは、ボクがマスターを……愛してもいいっていうことのほうで。
忘れたくない。失いたくない。そう思っていた。……でも結局、幸せっていうものは長く続かなくて。ボクたちのキスは、ほんの数秒で終わってしまった。
「あっ……」
誰かが居た。少しだけ目を開けた瞬間、カーペットの向こうに子供が見えた。
ボクと同じくらいの背丈で、ポツンと立ってる。なぜかボクはそれがとても気になって、思わずマスターから唇を離してしまった。
「クロ……」
その子はボクを呼んだ。でもボクは、その子を知らなくて。ボクは思わずマスターの後ろに隠れてしまう。
「ノア、なぜここに居るんだ? 君には船の整備を……――。……、なるほど。そういうことか」
「クロ、クロ……」
その子はふらふらしながら、こっちに近づいてくる。それで気が付いたけど、どうやら怪我をしているみたいだった。お洋服がボロボロだし、身体に傷が沢山ついてて。
「あっ……、だ、大丈夫……うっ……」
その子はボクたちの前に来ると、倒れそうになった。だから思わず、ボクは受け止めてあげたんだけど。……その子の身体に触れた瞬間、電気のような何かがボクの中を駆け抜けた。
……なんだろう。なぜかはわからないけど、この子のことを知ってる気がする。今の刺激はそういう……既視感っていうか。そういうものだった。会ったこともないのに、なぜ。
「クロ……。どうして……」
「え……?」
「どうして、ボクじゃなくて……」
何か言ってる。でも何のことだろう。
「……忘れたの? 僕との約束……」
「約束……?」
するとこの子は、突然ボクの手をつかんだ。それで思い切り力を入れて来て、握りつぶされそうになる。
「い、痛い! 痛い!」
「……駄目だよ。約束、したの。クロは僕と一緒になるって……」
「な、何のこと……? それより痛いよ、離して……」
「駄目……。駄目。そんなの嫌だ。クロが居ないと、僕は、僕は……」
何かがおかしい。どうしてこの子は、ボクのことを押し倒そうとしているの。お互い知らないのに、なんで。
「……ふむ。これは貴重なデータだ。実験体の”感染”例はこれが初だな。まあこのデータは記録しておくとして。……どうして君は、ここに居るんだ? ――シロ」
シロ。きっとそれはこの子の名前だろう。マスターはこの子に向かって話しているから、多分そう。
やっぱり会ったことのない子だ。でもそんな子が、どうしてボクのことを知っているんだろう。……どうしてこんなに、切ない目で見てくるんだろう。
「渡さない。お前なんかに、クロは渡さない。クロは、僕と……。僕と一緒になるんだ」
「悪いが君との勝負は、私の勝利で終わったんだ。諦めてくれ」
「そんなの知らない。勝負なんて知らない。僕は、僕は……」
するとこの子は、突然ボクにキスをした。無我夢中っていうみたいに、必死そうに。
……。でも、感じない。何も感じない。嬉しさも、悲しさも。そこにあったのは、ただの空っぽな何かだった。
なんとなくわかった。きっとこの子は塗り替えようとしているんだ。ボクとマスターのキスを、今ここで。……でもこんなキスじゃあ、マスターには勝てなくて。だからボクは、この子を拒絶した。
「あっ……」
……絶望の目だった。何かこう、希望が全部なくなってしまったみたいな。でもその目はすぐに、怒りのものに変わっていって。マスターを睨みつける。
「やっぱり、お前が……」
「どうやら策にはまったようだな。さあ、見せてみなさい。治療してあげよう」
「触るな化け物!!」
マスターがこの子の肩に触ろうとした。でもこの子はそれを振り払って、ボクを抱きしめてくる。
「随分な言い草じゃないか。まあどちらにせよ、クロは渡さない。さっさと帰った方が身のためだ」
「もうどうだっていい……、お前も、他の奴らも!! 全部消えてしまえばいい!!」
するとこの子は、ポケットから何かを取り出した。……スイッチだ。この子はそれを思い切り押し込んで、投げ捨てる。――次の瞬間だった。
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