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第十五章
The End.
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ボクは思い出していた。色々なことを。今までに、何があったのかとか。マスターがボクに、みんなに、何をしたのかとか。
だから嫌いになった。もうマスターを愛せなくなった。今までのボクからしたら、とても信じられないだろうけど。……それが真実だった。
「お願い。ボクを見ないで。……もうあなたに、見られたくないから」
目が嫌だった。手が嫌だった。マスターの何もかもに、寒気がして。吐き気すらして。死んでも構わないとすら思っていた。
それでもマスターの気配は、変わらなかった。いつもの仮面越しに伝わってくる、マスターの視線。まるで今も、ボクを愛しているかのようで。……でも、違う。
「……その目は、ボクにじゃない。あなたはボクを、見てなんかいない。……その目は、もっと別の……」
「何を言うんだい、クロ。言っただろう。私は君を愛していると」
「ウソだ。あなたは、ボクじゃない。あなたにとってのボクは、代わりなんだ。……使えなくなった電球を、交換するみたいに」
ボクは知っている。知ってしまった。なぜマスターが、クローンを作っているのか。
「……。何ていう名前だったの? ボクの……”元になった人”は」
「……」
「あの時見せてくれた、写真の人なんでしょ? あの時マスターの隣に居た……」
「それは違う。クロ」
「え……?」
「彼女は違う。君は、彼女じゃない。……もっと別の人なんだ」
「……」
その時だった。マスターの気配が、……とても寂しくなった。
「私はあの頃、全てを捨てていた。彼女を失った私は、まさに空白そのものだったんだ」
「……」
「だがそんな時、路地裏で死にかけていた私を、一人の少年が手を差し伸べてくれた。それが、”君”だったんだ」
「違う……ボクじゃない! マスターはボクに、その人を重ねているだけ!」
「いや君だ。私の技術は完全だった。君の身体も、君の心も。何もかもが同じだ。それは私がよく知っている」
「ウソだ!! ボクはマスターのオモチャじゃない!! その人でもない!!」
ボクは足元の石を拾って、マスターに向かって投げつける。
「化け物! 化け物! お前なんか人間じゃない! 化け物だ!」
「……」
ボクは何度も投げた。石はマスターの顔に、身体に当たって。やがてマントの裾から血が滴ってきて。……胸が締め付けられた。
「もういいよ。クロ。あいつなんて、無視したらいいんだ」
シロが、ボクを抱きしめてくれた。腕を握って、ボクを止めて。……涙をふいてくれた。
「もういいだろ、メア。とっとと行こう」
「ええ。そうね。十分面白い物を見せてもらったし……潮時ね」
するとメアは、何かの装置を取り出した。それでボタン押すと、装置は小さな警告音みたいなのを鳴り響かせて……。
『ゴゴゴゴゴゴゴ……』
「な、何の音?」
大きな地鳴りがした。……でもこれは、戦いによるものじゃない。地続きで響く音じゃなくて、こう……。空から響いてくる音だった。
だからボクは上を見た。上にあるのは、太陽と、空と、雲だけ。……でもそれも、さっきまでの話で。
「うわああああっ!?」
何かが現れた。いきなり大地の向こうから、何かが現れて。大きな突風と共に轟音を響かせていた。……――鉄の、鳥?
空を覆いつくす、巨大な影。太陽に照らされて所々に見える、鉄の肌。大きな翼をはためかせて、空を泳いでいるようで。
それでボクは思い出した。空を飛ぶ機械、飛行機のことを。……でも、これはそれよりも、もっと……。
「フフフ、貰っていくわよシュバルツ。あんたの大事な大事な……ノアの箱舟をね」
「ノアの、箱舟……?」
ボクはマスターを見た。その瞬間、ボクの悪い癖が出ていることに気が付いた。知らないことをマスターに聞こうとする、悪い癖。
だから目を背けた。背けて、自分で理解しようとした。……でもわかったのは、とても大きいってことくらいで。
「フフ、驚いているわね。クロ。……これはね、シュバルツが作った特別な船なのよ」
「……船」
「そう。私たち人類が、この世界に対抗するための船。でも全員は乗れない。乗れるのは、シュバルツに愛されたものだけ。……なのに”ノアの箱舟”なんて、皮肉よね?」
するとその船、――箱舟は、ボクたちの真正面に着陸した。大きな土埃と振動、騒音を響かせながら、ゆっくりと。
「さあ、乗って。もうこんな所に用はないでしょ?」
箱舟は完全に止まると、お腹の部分が開いた。ハッチっていうやつだと思う。辺りに居たメアの仲間たちが、一斉に箱舟の中に入っていって。メアもそれに続いた。
「……クロ。……行こう」
でもボクは動けなかった。シロの足を引っ張っていた。……心の奥にある気持ちが、邪魔をしてて。
だから終わらせたかった。こんな気持ち、もう嫌だったから。……ボクは後ろを向いて、マスターの顔を見て。……伝えた。
「――さようなら」
だから嫌いになった。もうマスターを愛せなくなった。今までのボクからしたら、とても信じられないだろうけど。……それが真実だった。
「お願い。ボクを見ないで。……もうあなたに、見られたくないから」
目が嫌だった。手が嫌だった。マスターの何もかもに、寒気がして。吐き気すらして。死んでも構わないとすら思っていた。
それでもマスターの気配は、変わらなかった。いつもの仮面越しに伝わってくる、マスターの視線。まるで今も、ボクを愛しているかのようで。……でも、違う。
「……その目は、ボクにじゃない。あなたはボクを、見てなんかいない。……その目は、もっと別の……」
「何を言うんだい、クロ。言っただろう。私は君を愛していると」
「ウソだ。あなたは、ボクじゃない。あなたにとってのボクは、代わりなんだ。……使えなくなった電球を、交換するみたいに」
ボクは知っている。知ってしまった。なぜマスターが、クローンを作っているのか。
「……。何ていう名前だったの? ボクの……”元になった人”は」
「……」
「あの時見せてくれた、写真の人なんでしょ? あの時マスターの隣に居た……」
「それは違う。クロ」
「え……?」
「彼女は違う。君は、彼女じゃない。……もっと別の人なんだ」
「……」
その時だった。マスターの気配が、……とても寂しくなった。
「私はあの頃、全てを捨てていた。彼女を失った私は、まさに空白そのものだったんだ」
「……」
「だがそんな時、路地裏で死にかけていた私を、一人の少年が手を差し伸べてくれた。それが、”君”だったんだ」
「違う……ボクじゃない! マスターはボクに、その人を重ねているだけ!」
「いや君だ。私の技術は完全だった。君の身体も、君の心も。何もかもが同じだ。それは私がよく知っている」
「ウソだ!! ボクはマスターのオモチャじゃない!! その人でもない!!」
ボクは足元の石を拾って、マスターに向かって投げつける。
「化け物! 化け物! お前なんか人間じゃない! 化け物だ!」
「……」
ボクは何度も投げた。石はマスターの顔に、身体に当たって。やがてマントの裾から血が滴ってきて。……胸が締め付けられた。
「もういいよ。クロ。あいつなんて、無視したらいいんだ」
シロが、ボクを抱きしめてくれた。腕を握って、ボクを止めて。……涙をふいてくれた。
「もういいだろ、メア。とっとと行こう」
「ええ。そうね。十分面白い物を見せてもらったし……潮時ね」
するとメアは、何かの装置を取り出した。それでボタン押すと、装置は小さな警告音みたいなのを鳴り響かせて……。
『ゴゴゴゴゴゴゴ……』
「な、何の音?」
大きな地鳴りがした。……でもこれは、戦いによるものじゃない。地続きで響く音じゃなくて、こう……。空から響いてくる音だった。
だからボクは上を見た。上にあるのは、太陽と、空と、雲だけ。……でもそれも、さっきまでの話で。
「うわああああっ!?」
何かが現れた。いきなり大地の向こうから、何かが現れて。大きな突風と共に轟音を響かせていた。……――鉄の、鳥?
空を覆いつくす、巨大な影。太陽に照らされて所々に見える、鉄の肌。大きな翼をはためかせて、空を泳いでいるようで。
それでボクは思い出した。空を飛ぶ機械、飛行機のことを。……でも、これはそれよりも、もっと……。
「フフフ、貰っていくわよシュバルツ。あんたの大事な大事な……ノアの箱舟をね」
「ノアの、箱舟……?」
ボクはマスターを見た。その瞬間、ボクの悪い癖が出ていることに気が付いた。知らないことをマスターに聞こうとする、悪い癖。
だから目を背けた。背けて、自分で理解しようとした。……でもわかったのは、とても大きいってことくらいで。
「フフ、驚いているわね。クロ。……これはね、シュバルツが作った特別な船なのよ」
「……船」
「そう。私たち人類が、この世界に対抗するための船。でも全員は乗れない。乗れるのは、シュバルツに愛されたものだけ。……なのに”ノアの箱舟”なんて、皮肉よね?」
するとその船、――箱舟は、ボクたちの真正面に着陸した。大きな土埃と振動、騒音を響かせながら、ゆっくりと。
「さあ、乗って。もうこんな所に用はないでしょ?」
箱舟は完全に止まると、お腹の部分が開いた。ハッチっていうやつだと思う。辺りに居たメアの仲間たちが、一斉に箱舟の中に入っていって。メアもそれに続いた。
「……クロ。……行こう」
でもボクは動けなかった。シロの足を引っ張っていた。……心の奥にある気持ちが、邪魔をしてて。
だから終わらせたかった。こんな気持ち、もう嫌だったから。……ボクは後ろを向いて、マスターの顔を見て。……伝えた。
「――さようなら」
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