崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

文字の大きさ
117 / 139
第十五章

The End.

しおりを挟む
 ボクは思い出していた。色々なことを。今までに、何があったのかとか。マスターがボクに、みんなに、何をしたのかとか。
 だから嫌いになった。もうマスターを愛せなくなった。今までのボクからしたら、とても信じられないだろうけど。……それが真実だった。
「お願い。ボクを見ないで。……もうあなたに、見られたくないから」
 目が嫌だった。手が嫌だった。マスターの何もかもに、寒気がして。吐き気すらして。死んでも構わないとすら思っていた。
 それでもマスターの気配は、変わらなかった。いつもの仮面越しに伝わってくる、マスターの視線。まるで今も、ボクを愛しているかのようで。……でも、違う。
「……その目は、ボクにじゃない。あなたはボクを、見てなんかいない。……その目は、もっと別の……」
「何を言うんだい、クロ。言っただろう。私は君を愛していると」
「ウソだ。あなたは、ボクじゃない。あなたにとってのボクは、代わりなんだ。……使えなくなった電球を、交換するみたいに」
 ボクは知っている。知ってしまった。なぜマスターが、クローンを作っているのか。
「……。何ていう名前だったの? ボクの……”元になった人”は」
「……」
「あの時見せてくれた、写真の人なんでしょ? あの時マスターの隣に居た……」
「それは違う。クロ」
「え……?」
「彼女は違う。君は、彼女じゃない。……もっと別の人なんだ」
「……」
 その時だった。マスターの気配が、……とても寂しくなった。
「私はあの頃、全てを捨てていた。彼女を失った私は、まさに空白そのものだったんだ」
「……」
「だがそんな時、路地裏で死にかけていた私を、一人の少年が手を差し伸べてくれた。それが、”君”だったんだ」
「違う……ボクじゃない! マスターはボクに、その人を重ねているだけ!」
「いや君だ。私の技術は完全だった。君の身体も、君の心も。何もかもが同じだ。それは私がよく知っている」
「ウソだ!! ボクはマスターのオモチャじゃない!! その人でもない!!」
 ボクは足元の石を拾って、マスターに向かって投げつける。
「化け物! 化け物! お前なんか人間じゃない! 化け物だ!」
「……」
 ボクは何度も投げた。石はマスターの顔に、身体に当たって。やがてマントの裾から血が滴ってきて。……胸が締め付けられた。
「もういいよ。クロ。あいつなんて、無視したらいいんだ」
 シロが、ボクを抱きしめてくれた。腕を握って、ボクを止めて。……涙をふいてくれた。
「もういいだろ、メア。とっとと行こう」
「ええ。そうね。十分面白い物を見せてもらったし……潮時ね」
 するとメアは、何かの装置を取り出した。それでボタン押すと、装置は小さな警告音みたいなのを鳴り響かせて……。
『ゴゴゴゴゴゴゴ……』
「な、何の音?」
 大きな地鳴りがした。……でもこれは、戦いによるものじゃない。地続きで響く音じゃなくて、こう……。空から響いてくる音だった。
 だからボクは上を見た。上にあるのは、太陽と、空と、雲だけ。……でもそれも、さっきまでの話で。
「うわああああっ!?」
 何かが現れた。いきなり大地の向こうから、何かが現れて。大きな突風と共に轟音を響かせていた。……――鉄の、鳥?
 空を覆いつくす、巨大な影。太陽に照らされて所々に見える、鉄の肌。大きな翼をはためかせて、空を泳いでいるようで。
 それでボクは思い出した。空を飛ぶ機械、飛行機のことを。……でも、これはそれよりも、もっと……。
「フフフ、貰っていくわよシュバルツ。あんたの大事な大事な……ノアの箱舟をね」
「ノアの、箱舟……?」
 ボクはマスターを見た。その瞬間、ボクの悪い癖が出ていることに気が付いた。知らないことをマスターに聞こうとする、悪い癖。
 だから目を背けた。背けて、自分で理解しようとした。……でもわかったのは、とても大きいってことくらいで。
「フフ、驚いているわね。クロ。……これはね、シュバルツが作った特別な船なのよ」
「……船」
「そう。私たち人類が、この世界に対抗するための船。でも全員は乗れない。乗れるのは、シュバルツに愛されたものだけ。……なのに”ノアの箱舟”なんて、皮肉よね?」
 するとその船、――箱舟は、ボクたちの真正面に着陸した。大きな土埃と振動、騒音を響かせながら、ゆっくりと。
「さあ、乗って。もうこんな所に用はないでしょ?」
 箱舟は完全に止まると、お腹の部分が開いた。ハッチっていうやつだと思う。辺りに居たメアの仲間たちが、一斉に箱舟の中に入っていって。メアもそれに続いた。
「……クロ。……行こう」
 でもボクは動けなかった。シロの足を引っ張っていた。……心の奥にある気持ちが、邪魔をしてて。
 だから終わらせたかった。こんな気持ち、もう嫌だったから。……ボクは後ろを向いて、マスターの顔を見て。……伝えた。
「――さようなら」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...