崩壊した世界からの脱出 -ボクたちはセックスしか知らない-

空倉霰

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第十七章

Snow day

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 ――その時、ボクは初めて雪を見た。白い粉みたいなのがふわふわしてて、冷たくて。手のひらにそれを乗せると、ゆっくりと溶けていく。
 雲の隙間から見える、白い月。そこから雪は降っているように見えた。手を伸ばせば届きそうだけど、多分無理で。ボクはただ地上からそれを眺めていた。
「大丈夫? クロ」
 そうしていると、シロが話しかけてくれた。ずっと屋上に居たボクを心配してくれたみたいで、毛布を貸してくれて。ボクとシロは一緒の毛布にくるまる。
「今日は冷えるね。だからかな、獣たちも今日は大人しいみたい」
「うん。……とても静かな夜」
 毛布の中で手を繫ぐ。お互いの手が冷たかったけど、ずっと握ってて。暖かくなるまで待っている。

「皆、大丈夫かな……」

 今日で箱舟から逃げてから、何日かが過ぎていた。最初の何日かは化け物から逃げ続けるばかりだったけど、昨日見つけた廃墟のおかげで、ようやく落ち着いた夜を迎えていた。
 だからだと思う、今になって皆のことが心配になってきて。頭に浮かぶのはここに居ない人たちのことばかり。
「大丈夫だよ。皆強いんだから。今更僕達が居なくたってやってける」
「……」
「それに皆はクロに頼り過ぎなんだ。だから少しくらいこういうのがあってもいいんだよ」
「そう、かな」
 でもシロはそういうけど、やっぱり心配だった。皆が喧嘩していないかとか、傷ついてないかとか。……ボクが居てどうにかできるのかは、わからないけど。
 それに怖いのかもしれない。いつも側に居た人が、居ないっていうことが。もう会えない訳じゃないんだけど、やっぱり寂しくて。
「あんな奴らどうでもいいじゃない。無視よ無視」
「……メア」
「ほら、ご飯出来たわよ。暖かいうちに食べて」
 するとメアが現れて、スープの入った器をボクたちに差し出した。まだ温かいみたいで、湯気がたっている。
「今日はウサギが狩れたの。ちょっと苦労したけど、大したことなかったわ」
「……ありがとう」
 ボクは器を受け取って、しばらく手を温めた。良い香りが漂ってくるから、お腹も鳴って。口をつけてゆっくりと飲み込む。
 ……美味しい。よくわからないけど、とっても美味しい。今まで食べてた物とは違って、ちゃんとしたご飯って感じがする。
 でも、どうしてだろう。どうしても”ありがとう”って言えない。今までのことが頭に残ってて、ボクを引っ張ってる。
「ちょっと薄味じゃない? これ」
「うるさいわね。あんまり塩ないんだからしょうがないじゃない。文句ならちょっとしか持ってこなかった自分に言うのね」
「わかってるよ。……海にでも向かってみようか」
 シロとメアは、もう普通に話している。まるで前から知り合いだったみたいに。いや、実際そうなんだろうけど。……ボクがメアと初めて会った時で、きっともう知り合いだったんだ。
「ねえ」
「うん?」
「メアは本当に……一緒に来てよかったの?」
「……」
「向こうにはメアのこと、必要としてる人が居るんじゃ……」
「あんな場所、二度と戻りたくない。それが理由にはならない?」
「ご、ごめん……」
「それに箱舟の管理は”姉さん”に任せてある。それはあなたも聞いたでしょう? あの時に……――」
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