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第十八章
Hospital
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――しばらくして。僕達は海の町を抜けて、沖合へと出た。やはり町中の時とは違い、波がかなり酷かったものの。なぜかメアが持っていた操船技術で、なんとか海を渡ることが出来ていた。
そしてその道中で、僕は珍しいものを見ていた。それは太陽の光を受けて、虹色に輝く海。きっとこれが、オイルなどの汚染によるものって気づかなかったら。いつかクロと一緒に、また来たいって思っただろう。
「ここらでは昔、大きな戦闘があったの。その頃に墜落した飛行機や戦艦から、ガソリンとかが漏れてね。それがまだ残ってるのよ」
メアは船の帆を操りながら、僕に言う。……さすがにこうなると、メアに対する疑問もぬぐえなくなってきた。この技術はどこで身に着けたのか、とか。どうしてそんな昔のことを知っているのか、とか。
でもどうでもよかった。今大切なのは、クロのことだけ。クロさえ治るんなら、他のことなんてどうだっていい。……だから、その部分だけは。確認しておかないと。
「なあ、メア」
「何?」
「病院に行くって言ったよな。でもそれって、戦前に作られたものだろ。……今行ってまともな治療、出来るのか」
さっきの海の町でよくわかった。やはり外の世界は、文明らしいものは残っていない。生き残るのが精いっぱいで、科学技術の欠片も見えなかった。
「アンタの言いたいことはわかる。でもそこは、特別なのよ。色々事情があってね」
「特別?」
「……まあ、行けばわかるわ」
メアはそれ以上を話さなかった。こいつは、いつもそう。何かを知っているのかわからないけど、いつも必要以上に話さない。……だから嫌いなんだ。
とにかく、それから二時間ほどで海岸についた。僕はクロを背負って、慣れない砂浜に足をとられながら、メアの後を追う。
「ここから病院はどのくらいなんだ」
「徒歩で一時間って所ね。ゴミがそこら中にあるから、足を傷つけないようにしなさい」
僕はふと、足元の砂を蹴ってみた。すると砂の下から、無数のペットボトルやらガラスやらのゴミが現れる。
「……。本当に、ゴミだらけなんだな」
「今や地球全体がそうよ。どうせ人間なんて、自分のことしか考えないクズばかりなんだから」
それからも僕は、目的地に着くまでの間に色々な物を見た。砂に埋もれた電波塔や、草木一本生えていない爆心地。崩落したビル群や、簡易的に作られた死体焼却所。どこも気分の良いものじゃなくて、むしろモヤモヤするような場所ばかり。
そうしているうちに、僕達はようやく病院に辿り着いた。そこで見た光景が、一番心に残ったと思う。これでクロを助けられるのか、そう思った時に。それは見えた。
「……」
病院の敷地に転ぶ、無数の誰かの骨。必死に助けを乞うかのように並ぶ、何十人分もの頭蓋骨。……それらがまるで、ありふれた品物であるかのように。そこら中に落ちていた。
「ここは、富裕層向けに作られた特別な病院だった。だからここの奴らは、一般人を助けることに、興味なんて無かったのよ」
僕は病院の建物全体を見てみた。そうしてわかったのは、”全てのシャッターが閉じられている”ということ。
きっと、誰一人として入れなかったんだ。助けを求めたけど、誰も答えなかった。……それが、人間。
僕はこの時、クロが眠っていてよかったと思った。こんな光景をクロが見たら、きっとおかしくなってしまうから。
「とにかく、中へ入りましょう。ここなら多分、まだ生きているわ」
僕とメアは、骨の間をかき分けて正面玄関へと近づいた。しかし当然シャッターが閉まっているので、開かないはずなのだけれど。ここでもまたメアが不思議な行動を見せる。
「アタシよ。通して」
メアはシャッターの前に立ち、言葉を発した。それはまるで誰かに語り掛けるようで、僕は一瞬困惑したけど。すぐに全てを理解した。
『オカエリナサイマセ、オジョウサマ』
スピーカーから聞こえてきた、謎の機械の合成音声。そしてその直後、シャッターは錆びついた金属音を響かせながら、ゆっくりと開いていく。
「さあ、行きましょう。クロを、助けなくちゃ」
そしてその道中で、僕は珍しいものを見ていた。それは太陽の光を受けて、虹色に輝く海。きっとこれが、オイルなどの汚染によるものって気づかなかったら。いつかクロと一緒に、また来たいって思っただろう。
「ここらでは昔、大きな戦闘があったの。その頃に墜落した飛行機や戦艦から、ガソリンとかが漏れてね。それがまだ残ってるのよ」
メアは船の帆を操りながら、僕に言う。……さすがにこうなると、メアに対する疑問もぬぐえなくなってきた。この技術はどこで身に着けたのか、とか。どうしてそんな昔のことを知っているのか、とか。
でもどうでもよかった。今大切なのは、クロのことだけ。クロさえ治るんなら、他のことなんてどうだっていい。……だから、その部分だけは。確認しておかないと。
「なあ、メア」
「何?」
「病院に行くって言ったよな。でもそれって、戦前に作られたものだろ。……今行ってまともな治療、出来るのか」
さっきの海の町でよくわかった。やはり外の世界は、文明らしいものは残っていない。生き残るのが精いっぱいで、科学技術の欠片も見えなかった。
「アンタの言いたいことはわかる。でもそこは、特別なのよ。色々事情があってね」
「特別?」
「……まあ、行けばわかるわ」
メアはそれ以上を話さなかった。こいつは、いつもそう。何かを知っているのかわからないけど、いつも必要以上に話さない。……だから嫌いなんだ。
とにかく、それから二時間ほどで海岸についた。僕はクロを背負って、慣れない砂浜に足をとられながら、メアの後を追う。
「ここから病院はどのくらいなんだ」
「徒歩で一時間って所ね。ゴミがそこら中にあるから、足を傷つけないようにしなさい」
僕はふと、足元の砂を蹴ってみた。すると砂の下から、無数のペットボトルやらガラスやらのゴミが現れる。
「……。本当に、ゴミだらけなんだな」
「今や地球全体がそうよ。どうせ人間なんて、自分のことしか考えないクズばかりなんだから」
それからも僕は、目的地に着くまでの間に色々な物を見た。砂に埋もれた電波塔や、草木一本生えていない爆心地。崩落したビル群や、簡易的に作られた死体焼却所。どこも気分の良いものじゃなくて、むしろモヤモヤするような場所ばかり。
そうしているうちに、僕達はようやく病院に辿り着いた。そこで見た光景が、一番心に残ったと思う。これでクロを助けられるのか、そう思った時に。それは見えた。
「……」
病院の敷地に転ぶ、無数の誰かの骨。必死に助けを乞うかのように並ぶ、何十人分もの頭蓋骨。……それらがまるで、ありふれた品物であるかのように。そこら中に落ちていた。
「ここは、富裕層向けに作られた特別な病院だった。だからここの奴らは、一般人を助けることに、興味なんて無かったのよ」
僕は病院の建物全体を見てみた。そうしてわかったのは、”全てのシャッターが閉じられている”ということ。
きっと、誰一人として入れなかったんだ。助けを求めたけど、誰も答えなかった。……それが、人間。
僕はこの時、クロが眠っていてよかったと思った。こんな光景をクロが見たら、きっとおかしくなってしまうから。
「とにかく、中へ入りましょう。ここなら多分、まだ生きているわ」
僕とメアは、骨の間をかき分けて正面玄関へと近づいた。しかし当然シャッターが閉まっているので、開かないはずなのだけれど。ここでもまたメアが不思議な行動を見せる。
「アタシよ。通して」
メアはシャッターの前に立ち、言葉を発した。それはまるで誰かに語り掛けるようで、僕は一瞬困惑したけど。すぐに全てを理解した。
『オカエリナサイマセ、オジョウサマ』
スピーカーから聞こえてきた、謎の機械の合成音声。そしてその直後、シャッターは錆びついた金属音を響かせながら、ゆっくりと開いていく。
「さあ、行きましょう。クロを、助けなくちゃ」
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