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第三話
魔煌の涙
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定期検診。思えば私達にとって、唯一人間らしいと言える行いだろうか。
ただ当然それを行うのは病院ではなく、工房。私達のような魔導人形の整備を専門とする――【人形師】らによって、定期検診が行われる。
国外に魔導人形の品質をアピールするためか、この国では定期的な整備が義務付けられていた。
ただ疑問なのは、次の定期検診はまだ二ヶ月も先なはずという事。別に法律に反する訳では無いが、なぜわざわざ前倒しに。
……また何か企んでいるのだろうか、あの【人形師】は。
「着いたぞ、目を開けろ」
頭に蹴りを入れられ、私は無愛想に目を覚ます。
輸送のために雇われた、フリーランスの魔導士。私達は彼らの使う【転送魔法】により、極秘裏に輸送されていた。
「奥の部屋に居る。さっさと済ませてこい」
胸の奥のむかつきを抑え込みつつ、私とアイロムは工房の奥へと。
そしてそこに居たのは、一人の背の高い人形師。彼は白の園と専属契約を結ぶ人形師であり、一応……腕は確かなのだが。
少々性格に難がある。
「ン? ン~……。ン~……。フフ。うん、良い色だ」
いわゆる学者気質というのか。彼は常に何かしらの実験をしており、まさに今彼はフラスコをくるくると回している最中。
「今日はなんの手伝いですか、リュート。わざわざ私達を呼び出すなんて」
「ン! ああ、二人共。来てたのか。いやなに、なんてことはない。ちょっとした学術的な興味だ。さあ座ってくれ、さあ座って。さあさあ」
リュート。リュート・シュワルツ。この国随一の人形師であり、【ネジ外れの科学者】とも揶揄される男。
正直言えば、私はこの男が苦手だ。真面目に整備こそしてくれるが、その度に私達を妙な実験に巻き込む。
例えばそう……白の園で利用するための、媚薬開発だとか。
「変な実験なんてしないで、まともに人生を送ればいいんだ。それだけ顔も体もいいくせして、学者程度に収まる生き方は勿体ないと思うがな」
「か、カシュラ。落ち着きなよ。確かに性格は変だけどさ」
「それを俺の目の前で言うあたり、君らも相当肝が据わってると思うがな??」
緑髪のベリーショートヘア。顔は若く、爽やかな顔立ち。いわゆるメガネの美男子タイプで、微笑んだ時の顔は中々悪くない。
「俺はただ興味のある事しかやりたくないだけさ。例えばほら、今は惚れ薬なんてものを作ってる最中なんだがな? これの効果を二人に」
「断る。そんな無粋なもの、捨ててしまえ」
「冗談だって冗談! ははは。これは後で助手との逢引にでも使うさ」
「ふ、不純だなぁ……」
「とにかく今日の用事はなんだ。また私たちに頼み事でもあるのか? 言っておくが変な実験の相手は断るぞ。……まあどうせ、本気で断る権利は無いんだがな」
するとリュートはニコリと微笑み、少しだけ真面目な顔を取り繕う。
「実はな、ある人物から面白いものを仕入れたんだよ」
「……ある人物?」
「ああ。名前は言えないがな。とにかくこれを見てくれ、君らにとっても悪い話じゃないはずだ」
リュートが取り出した物は、やはり薬瓶。また媚薬の類かと思って目を逸らそうとした――が。
すぐに私は目を戻し、薬瓶の中の【液体】を見つめた。
「【魔煌の涙】だよ。知っているだろう? 流石に君にとっちゃ無視出来ない代物のはずだ」
「……待て。そんなもの何処で手に入れた。お前が入手出来るほど安い代物じゃないはずだ」
「悪いが詳しい事は話せない。だが事実だ、これが今ここにあるという事だけはな」
「ふざけるな、また厄介な事に私達を巻き込むつもりか!? これ以上バカげたことにアイロムを……!」
「ちょ、ちょっと待った! ね、ねえ。カシュラ。これって何? なんか凄いの? 僕その置いてけぼりなんだけど」
私はその言葉にハッとし、我に返る。私はひとつ咳払いをし、半ば怒るようにリュートに目配せを。
「これは、【魔煌の涙】と呼ばれる古の秘薬だ。簡単に言えば、そうだな……。――君たちにかけられた、【呪い】を解く力を秘めているんだよ」
「呪い……? え。ちょ、ちょっと待って。それってつまり、その……?」
「ああ。君らの体にかけられた、【結晶化の呪い】。それを一時的にではあるが、無効化出来るんだ」
ただ当然それを行うのは病院ではなく、工房。私達のような魔導人形の整備を専門とする――【人形師】らによって、定期検診が行われる。
国外に魔導人形の品質をアピールするためか、この国では定期的な整備が義務付けられていた。
ただ疑問なのは、次の定期検診はまだ二ヶ月も先なはずという事。別に法律に反する訳では無いが、なぜわざわざ前倒しに。
……また何か企んでいるのだろうか、あの【人形師】は。
「着いたぞ、目を開けろ」
頭に蹴りを入れられ、私は無愛想に目を覚ます。
輸送のために雇われた、フリーランスの魔導士。私達は彼らの使う【転送魔法】により、極秘裏に輸送されていた。
「奥の部屋に居る。さっさと済ませてこい」
胸の奥のむかつきを抑え込みつつ、私とアイロムは工房の奥へと。
そしてそこに居たのは、一人の背の高い人形師。彼は白の園と専属契約を結ぶ人形師であり、一応……腕は確かなのだが。
少々性格に難がある。
「ン? ン~……。ン~……。フフ。うん、良い色だ」
いわゆる学者気質というのか。彼は常に何かしらの実験をしており、まさに今彼はフラスコをくるくると回している最中。
「今日はなんの手伝いですか、リュート。わざわざ私達を呼び出すなんて」
「ン! ああ、二人共。来てたのか。いやなに、なんてことはない。ちょっとした学術的な興味だ。さあ座ってくれ、さあ座って。さあさあ」
リュート。リュート・シュワルツ。この国随一の人形師であり、【ネジ外れの科学者】とも揶揄される男。
正直言えば、私はこの男が苦手だ。真面目に整備こそしてくれるが、その度に私達を妙な実験に巻き込む。
例えばそう……白の園で利用するための、媚薬開発だとか。
「変な実験なんてしないで、まともに人生を送ればいいんだ。それだけ顔も体もいいくせして、学者程度に収まる生き方は勿体ないと思うがな」
「か、カシュラ。落ち着きなよ。確かに性格は変だけどさ」
「それを俺の目の前で言うあたり、君らも相当肝が据わってると思うがな??」
緑髪のベリーショートヘア。顔は若く、爽やかな顔立ち。いわゆるメガネの美男子タイプで、微笑んだ時の顔は中々悪くない。
「俺はただ興味のある事しかやりたくないだけさ。例えばほら、今は惚れ薬なんてものを作ってる最中なんだがな? これの効果を二人に」
「断る。そんな無粋なもの、捨ててしまえ」
「冗談だって冗談! ははは。これは後で助手との逢引にでも使うさ」
「ふ、不純だなぁ……」
「とにかく今日の用事はなんだ。また私たちに頼み事でもあるのか? 言っておくが変な実験の相手は断るぞ。……まあどうせ、本気で断る権利は無いんだがな」
するとリュートはニコリと微笑み、少しだけ真面目な顔を取り繕う。
「実はな、ある人物から面白いものを仕入れたんだよ」
「……ある人物?」
「ああ。名前は言えないがな。とにかくこれを見てくれ、君らにとっても悪い話じゃないはずだ」
リュートが取り出した物は、やはり薬瓶。また媚薬の類かと思って目を逸らそうとした――が。
すぐに私は目を戻し、薬瓶の中の【液体】を見つめた。
「【魔煌の涙】だよ。知っているだろう? 流石に君にとっちゃ無視出来ない代物のはずだ」
「……待て。そんなもの何処で手に入れた。お前が入手出来るほど安い代物じゃないはずだ」
「悪いが詳しい事は話せない。だが事実だ、これが今ここにあるという事だけはな」
「ふざけるな、また厄介な事に私達を巻き込むつもりか!? これ以上バカげたことにアイロムを……!」
「ちょ、ちょっと待った! ね、ねえ。カシュラ。これって何? なんか凄いの? 僕その置いてけぼりなんだけど」
私はその言葉にハッとし、我に返る。私はひとつ咳払いをし、半ば怒るようにリュートに目配せを。
「これは、【魔煌の涙】と呼ばれる古の秘薬だ。簡単に言えば、そうだな……。――君たちにかけられた、【呪い】を解く力を秘めているんだよ」
「呪い……? え。ちょ、ちょっと待って。それってつまり、その……?」
「ああ。君らの体にかけられた、【結晶化の呪い】。それを一時的にではあるが、無効化出来るんだ」
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