無人島転生 〜素材チートで開拓してたら、村どころか王国ができそうです〜

しゅがれっと

文字の大きさ
68 / 138

68 新たな技術と漂流者

しおりを挟む
 また漂流者か。

 俺は遠い目をして溜息をついた。

 異世界に飛ばされて以来、漂流者を拾うのはもはや日常茶飯事になっている。最初の頃こそ「仲間が増えた!」と感慨深くなったものだが、今となっては完全に作業である。漂流者というのは放っておくと勝手に流れてくるものであり、もはやこの村は漂流者収容所と化しているのではないか、と危惧せざるを得ない。

 「海岸に漂流者がいた」

 フィオナが無駄のない動きで俺の前に立つ。

 この女、とにかく無駄がない。息を吸う動作にすら一切の隙がなく、まるで鍛え抜かれた剣戟のようにスムーズである。どうしてそこまでストイックでいられるのか? いや、俺は知っている。この女こそ、俗世から切り離された孤高の求道者であり、常に「強くなければならない」と己を追い詰める悲しき修行僧のような存在なのだ。

 彼女の辞書には「怠惰」という言葉が存在しない。もしも彼女が俺のような堕落した人間であったならば、「昼寝」という項目の重要性について真剣に討論し、どの時間帯の昼寝が最も快適であるかを検証する日々を送ったに違いない。しかし現実には、彼女は未だに「昼寝」という概念を理解しようとすらしていない。これは由々しき問題である。

 「そいつ、起き抜けに地面を触って『ここはどんな地盤だ?』と訊いた」

 「……は?」

 「それと、妙に石を握りしめていた」

 「お前はどう思う?」

 「どうでもいい」

 彼女はばっさりと切り捨てた。

 そう、フィオナは興味がないのだ。地盤がどうだとか、建築がどうだとか、そういう些末な問題に対して一切の関心を示さない。彼女にとって重要なのは、「村の防衛」と「剣の鍛錬」と「己が鍛え上げた筋肉」だけである。

 「……お前ってさ、家とかどう思ってんの?」

 「必要な時に雨風をしのげればそれでいい」

 「えっ、おしゃれとか快適さとか求めないの?」

 「不必要だ」

 彼女は剣の柄に手を添えたまま、静かに言い放った。

 俺は心底震えた。

 この女にとって、家というのはただの“避難所”でしかないのだ。住み心地? 家具の配置? そんなものは剣術の修練の前では取るに足らない瑣末な問題であり、彼女の関心を引く要素にはなり得ない。

 もしフィオナが建築家だったならば、家という概念そのものを全否定して「人間は野営すべきだ」と主張したに違いない。いや、もはや彼女にとって住居とは鍛錬の場であり、四方の壁など不要なのではないか?

 俺は一つの仮説を立てた。

 ――フィオナは、家を壊しながら生きてきたのではないか?

 戦場に身を投じ、敵の砦を打ち砕き、あらゆる構造物を瓦礫に変えてきた結果、「家とは壊すものである」という認識に至ったのではないか?

 「……もしかして、家って邪魔だと思ってる?」

 「攻められたら防衛拠点になる」

 彼女は真顔で答えた。

 ――この女、まじでそういう思考回路なのか。

 俺は悟った。彼女にとって家は戦術の一部であり、「住まう」ためのものではなく、「戦う」ためのものなのだ。

 俺は建築技術者の男に目をやった。

 彼は意識を取り戻したばかりにもかかわらず、異常なまでに饒舌だった。曰く、「この地形ならアーチ橋をかけるのに最適だ」とか、「村の建築基盤が脆弱すぎる」とか、「適切な石材さえあれば頑丈な建物が作れる」とか、聞き慣れない言葉を次々と並べ立てる。

 「……で、お前は何者なんだ?」

 「建築技術者だ」

 簡潔な答えだった。

 俺は考えた。建築技術者がいるならば、村の発展には大きく寄与するかもしれない。今までの俺たちの家は、木材を組み合わせた簡易な構造のものばかりで、雨風をしのぐには十分だったが、長期的に見ると耐久性には不安があった。特に、最近では魔獣の襲撃が増えてきており、より頑丈な建物が必要になっていたのだ。

 「……石造りの家は作れるか?」

 俺がそう尋ねると、漂流者は自信満々に頷いた。

 「もちろんだ。適切な石材を選び、基礎をしっかりと築けば、木造よりも遥かに頑丈な建物が作れる」

 なるほど。俺は頷いた。

 「じゃあ、まずは試しに作ってみてくれ」

 こうして、村の建築計画が始動した。

 まず、適切な石材を探すところから始めた。村の近くには岩山があり、そこから切り出した石を加工して建築資材とする。漂流者の指示のもと、ゴーレムを使って石を運び、試しに小さな倉庫を建ててみることになった。

 最初のうちは、石を積むだけの単純な作業だった。しかし、漂流者の指導に従ってアーチ構造を取り入れると、驚くほど頑丈な壁が出来上がった。

 「おお……」

 思わず、俺は声を漏らした。今までの木造建築とはまるで違う。石と石の組み合わせだけで、ここまでの強度を生み出せるとは思わなかった。

 「すごいな」

 隣でフィオナが呟いた。

 彼女は建築には興味がないと思っていたが、実際に頑丈な構造が生まれる瞬間を目の当たりにすると、さすがに感心したらしい。

 「この建物なら、簡単には壊れないな」

 「だろう?」

 漂流者は誇らしげに胸を張る。

 「お前が武器を振るっても、簡単には崩れないぞ」

 「……試してみても?」

 「やめろ」

 俺は即座に止めた。

 フィオナは「耐久テスト」という名目で建物を壊す気満々だったが、ようやく建てたばかりの倉庫を破壊されてはたまったものではない。

 「まあ、これで村の防御力は上がるな」

 俺は倉庫を見上げながら呟いた。これが成功すれば、他の建物にも応用できる。より安全な住居を作ることができれば、村の発展はさらに加速するはずだ。

 そして、建築技術者の助言をもとに、村の中心部に本格的な石造りの家屋を建て始めることになった。

 ――だが、ここで問題が発生する。

 「……石の運搬が大変だ」

 石造建築には大量の石材が必要だが、木材に比べて圧倒的に重い。そのため、村人だけで運ぶのは難しく、ゴーレムを動員することになった。しかし、それでも手間がかかる。

 「ふむ、ならば橋を作るのがいいな」

 漂流者はそう提案した。

 「川の向こうに石材が豊富な採掘場があるのなら、アーチ橋をかければ運搬の効率が上がる」

 確かに、その通りだ。今までは木造の簡易な橋しかなく、大量の石を運ぶには適していなかった。しかし、アーチ橋を作れば、より頑丈な輸送路が確保できる。

 俺たちは早速、橋の建設に取り掛かった。

 試作のアーチ橋は、予想以上に頑丈だった。単純に石を積み上げるだけではなく、重力を利用した構造のおかげで、驚くほど安定している。

 「これなら、馬車を通しても問題ないな」

 「よし、これで石材の運搬もスムーズになる」

 こうして、村の建築技術は一段階上のレベルへと進化した。

 ――だが、俺はふと横を見る。

 「……フィオナ?」

 彼女は橋をじっと見つめていた。

 「この橋、どれくらいの衝撃に耐えられる?」

 ――だから壊す気か!?

 俺はすぐさま全力で彼女を止めた。

 こうして、俺たちの村は新たな建築技術を手に入れ、さらに発展への道を歩み始めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

処理中です...