無人島転生 〜素材チートで開拓してたら、村どころか王国ができそうです〜

しゅがれっと

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77 新種発見

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 村の朝は早い。いや、誰かの人生相談に応じていると、否応なく早くなるものである。目覚めた時点で俺の上にはルナがいて、何かしらのお悩みを可愛らしい顔面でぶつけてきたのだったが、その内容は「ルナも飛びたい」であった。

 「飛ぶって、ウサギは飛ばないだろ」と返すと、「ぴょーんは飛ぶ!」と宣言された。これは論理的な敗北である。よって、俺は朝食もそこそこに草原へと付き合わされる羽目になった。そんな中、医者とエリスという、俺の人生に次々と珍妙な案件を持ち込んでくる人物たちが、草原の端から俺を呼ぶ。

 「見ろ、あれを! ついに発見したぞ!」

 叫ぶ医者の声には、妙に芝居がかった抑揚がある。彼は大仰な手振りで草原の彼方を指し示していた。俺は視線を向ける。──その瞬間、時が止まった。

 「……浮いてる……?」

 「そう! そして、モーモーと鳴いている!」医者はなぜか嬉々としていた。そんな彼の背後で、エリスが少し距離を取りながらも鋭く観察を続けていた。

 俺たちの視線の先には、ふわふわと宙に浮いた牛──としか形容できない生物が、悠然と浮遊しながら草を食んでいた。重力の恩恵を気まぐれに裏切るその姿は、どこか哲学的で、しかし、腹が減ったらちゃんと地面に降りるあたり、実に生活感のある生命体だった。

 「重力を操る……これは器官の問題か、魔素の影響か……」

 エリスが眉間にしわを寄せ、手をかざす。すると微細な魔素の流れが視えるという彼女の能力が発動し、空気中に淡い光の筋が浮かび上がる。

 「……この子、体内で重力の流れを逆転させてる。魔素を利用してね」

 「つまり天然の反重力牛ってことか」

 「言い方が雑すぎるわ」

 だが、俺の脳内にはすでに「牛乳が空から降ってくる未来」や「浮遊牛のレース賭博」が駆け巡っていた。この村が経済都市に進化しつつある今、牛が空を飛ぶくらいどうということはない。

 「問題は、こいつを飼育できるかどうかだな」

 「無理だな」

 即答したのは医者だった。彼は浮遊牛をしげしげと眺めた後、「浮いてるということは、逃げようと思えば空へ高跳びできるということだ」と言う。

 「……どうするんだ。ロープで地面にくくりつけるか?」

 「それでは牛の尊厳が……」

 「尊厳がどうとか言ってると夜逃げされるぞ」

 俺たちは話し合った末、試験的に一頭だけ捕獲することに決めた。幸い、彼らは草原をぐるぐると浮遊しているだけで、好奇心旺盛というよりは無関心で、ロープに特に警戒心を持たなかった。むしろ、引っ張るとフワフワと素直に付いてくるという、愛嬌ある対応をしてくれた。

 「名は……『モーフロート』とでも呼ぶか」

 「命名権をさりげなく握るのやめてくれない?」

 村へ連れ帰ったモーフロートは、専用の「浮遊牧場」に隔離された。というのも、浮いているせいで通常の柵では役に立たず、上方向の移動を防ぐために天井ネットを張る必要があった。

 「この牧場、ほとんど鳥籠じゃないか……」

 村人の感想もごもっともだが、それでも「新種家畜」としての期待は高く、肉の試食では「驚くほどジューシーで臭みがない」と好評を博した。

 「重力が減ってるぶん、筋肉が柔らかくなるのかもな」

 俺が呟くと、エリスが真剣な顔で頷いた。

 「でも、栄養価は高い。魔素の巡り方が特殊だから、薬効成分も含まれてる可能性があるわ」

 「ほう……つまり、浮いて健康、食べて健康ってわけか」

 「牛なのに、なぜそんなに優等生なの……」

 医者はうんざりした顔をしつつも、研究対象として興味津々な様子だった。

 その日の夜、俺は自作の納屋の上に登って、空に浮かぶ牛のシルエットを眺めていた。時折、彼らは鼻息を「ぷしゅーっ」と抜きながら、微かに揺れる。空を漂うそれは、どこか神々しい。

 村は、気づけば「空に浮かぶ牛を飼う街」になりつつあった。

 「……これ、絶対観光資源になるな」

 俺はそう呟いて、納屋から転げ落ちた。
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