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78 街の防衛設備
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ある朝、俺は奇妙な音で目を覚ました。
ぴぃぃぃいぃ……。
最初は風の音かと思ったが、それは微かに震えながら空間を撫で回すような、耳の奥にこびりつくような音だった。目を覚ました俺は、寝癖のまま家の外に出た。音の出所は、村の西端、ゴロウが半ば趣味で積み上げていた石材の山のあたりだった。
そこには、フィオナと狩人がいた。二人とも腕を組んで、石を見つめていた。
「……何やってるんだ」
「起きたか」
フィオナはその鋭い目で俺を一瞥した。朝っぱらから剣を背負ってるのがこの女の通常営業である。
「これを見てくれ」
狩人が足元の石を蹴った。ごつごつとした黒い鉱石が、地面に転がっている。見た目には、どこにでもあるただの岩だった。しかし、驚くべきことに、その岩の表面が微かに震えていた。
「昨日の夜、獣の鳴き声を聞いた気がしてな。偵察に出たら、この石が震えてたのさ」
「震えてた?」
「そう、獣の気配に反応して、震えた。そして、ぴぃぃぃって鳴った」
狩人は淡々と説明するが、その声には隠しきれない興奮があった。
「それは……防衛アラームみたいなもんか?」
「そうだろうな。しかもだ──」
狩人が岩を持ち上げると、その表面に細かな線が浮かび上がった。まるで網目のように複雑な模様。俺はそれを見て直感した。
「……これは、魔素に反応してるな」
「やはりか」
フィオナが頷く。
「この石は“共鳴石”と名付けるべきだろう。魔素に敏感で、特定の波長に反応する。獣や魔獣の接近を、音で知らせる──」
「それ、めっちゃ便利じゃねぇか」
俺は目を見開いた。今まで、村の防衛といえば“勘と根性”で成り立っていた。見張り台に立って肉眼で探す、あるいは六本足ウサギ(仮)を睨ませて様子を見る、といった具合である。だがこの共鳴石があれば、感知→警報→対応、という近代的なフローが確立できる!
「……フィオナ、お前、もしかして最初からそれを狙ってたのか?」
「いや、これは偶然だ。狩人が見つけた」
「ふふん、私は怠けて獲物を待つタイプだからな」
狩人は自信満々で言った。狩りとは努力の問題ではなく、仕掛けと待機の芸術であるというのが彼女の持論で、実際その通りの成果を挙げている。罠にかけ、気配で探知し、そして獲物が近づけば石が鳴る──これはもう、異世界版セキュリティシステムと言っても過言ではない。
「よし、これを村中に配置しよう」
俺がそう言うと、フィオナがすぐに反応した。
「だが、どの魔獣に反応するのか、波長の調整が必要だ。やみくもに設置しては誤作動が増えるだけだ」
「なるほど。じゃあ、共鳴石を調整できる装置を作るか……」
俺たちは急遽、技術者たちを集めた。魔素鉱石の扱いに詳しいゴーレム班、エリスの協力で魔素の流れを可視化し、セリアに制御装置の組み込みを頼んだ。
やがて完成したのは、小さな石台の上に共鳴石を設置し、その横に魔素調整用の結晶を並べたものだった。結晶の角度と組み合わせで、共鳴する波長を変えられるという仕組みだ。
「これを各所に設置すれば、魔獣の接近を事前に感知できる!」
「フィオナ、戦闘準備に入れる時間が稼げるな!」
「狩人、罠を張る時間が増えるぞ!」
俺は胸を張って言ったが、ふと気づいた。
──俺、最近ほとんど戦ってないな。
村の防衛はフィオナが、狩猟は狩人が、技術開発はエリスとセリアが、建築は大工と漂流者たちが担っている。じゃあ、俺は何を……?
「街の象徴として、立ってればいいのでは?」
「それ、いる?」
などと軽口を叩いているうちに、共鳴石のテスト運用が始まった。夕方、森の方角に石がピリリと音を鳴らした。
「南西方向、魔獣一体、接近中!」
「見張り班、確認急げ!」
「罠班、配置につけ!」
数分後、魔獣は罠にかかり、戦う間もなく拘束された。
──すごい。これは本当にすごい。
共鳴石は、村に初めて“安全という概念”をもたらしたのだ。
「よし、今夜は祝杯だ!」
俺が叫ぶと、フィオナは「訓練の後ならば」と応じ、狩人は「仕留めた獣を焼いて食うぞ」と喜んだ。
こうして、共鳴石という小さな石は、俺たちの村を一歩「街」へと押し上げる、確かな礎となったのであった。
ぴぃぃぃいぃ……。
最初は風の音かと思ったが、それは微かに震えながら空間を撫で回すような、耳の奥にこびりつくような音だった。目を覚ました俺は、寝癖のまま家の外に出た。音の出所は、村の西端、ゴロウが半ば趣味で積み上げていた石材の山のあたりだった。
そこには、フィオナと狩人がいた。二人とも腕を組んで、石を見つめていた。
「……何やってるんだ」
「起きたか」
フィオナはその鋭い目で俺を一瞥した。朝っぱらから剣を背負ってるのがこの女の通常営業である。
「これを見てくれ」
狩人が足元の石を蹴った。ごつごつとした黒い鉱石が、地面に転がっている。見た目には、どこにでもあるただの岩だった。しかし、驚くべきことに、その岩の表面が微かに震えていた。
「昨日の夜、獣の鳴き声を聞いた気がしてな。偵察に出たら、この石が震えてたのさ」
「震えてた?」
「そう、獣の気配に反応して、震えた。そして、ぴぃぃぃって鳴った」
狩人は淡々と説明するが、その声には隠しきれない興奮があった。
「それは……防衛アラームみたいなもんか?」
「そうだろうな。しかもだ──」
狩人が岩を持ち上げると、その表面に細かな線が浮かび上がった。まるで網目のように複雑な模様。俺はそれを見て直感した。
「……これは、魔素に反応してるな」
「やはりか」
フィオナが頷く。
「この石は“共鳴石”と名付けるべきだろう。魔素に敏感で、特定の波長に反応する。獣や魔獣の接近を、音で知らせる──」
「それ、めっちゃ便利じゃねぇか」
俺は目を見開いた。今まで、村の防衛といえば“勘と根性”で成り立っていた。見張り台に立って肉眼で探す、あるいは六本足ウサギ(仮)を睨ませて様子を見る、といった具合である。だがこの共鳴石があれば、感知→警報→対応、という近代的なフローが確立できる!
「……フィオナ、お前、もしかして最初からそれを狙ってたのか?」
「いや、これは偶然だ。狩人が見つけた」
「ふふん、私は怠けて獲物を待つタイプだからな」
狩人は自信満々で言った。狩りとは努力の問題ではなく、仕掛けと待機の芸術であるというのが彼女の持論で、実際その通りの成果を挙げている。罠にかけ、気配で探知し、そして獲物が近づけば石が鳴る──これはもう、異世界版セキュリティシステムと言っても過言ではない。
「よし、これを村中に配置しよう」
俺がそう言うと、フィオナがすぐに反応した。
「だが、どの魔獣に反応するのか、波長の調整が必要だ。やみくもに設置しては誤作動が増えるだけだ」
「なるほど。じゃあ、共鳴石を調整できる装置を作るか……」
俺たちは急遽、技術者たちを集めた。魔素鉱石の扱いに詳しいゴーレム班、エリスの協力で魔素の流れを可視化し、セリアに制御装置の組み込みを頼んだ。
やがて完成したのは、小さな石台の上に共鳴石を設置し、その横に魔素調整用の結晶を並べたものだった。結晶の角度と組み合わせで、共鳴する波長を変えられるという仕組みだ。
「これを各所に設置すれば、魔獣の接近を事前に感知できる!」
「フィオナ、戦闘準備に入れる時間が稼げるな!」
「狩人、罠を張る時間が増えるぞ!」
俺は胸を張って言ったが、ふと気づいた。
──俺、最近ほとんど戦ってないな。
村の防衛はフィオナが、狩猟は狩人が、技術開発はエリスとセリアが、建築は大工と漂流者たちが担っている。じゃあ、俺は何を……?
「街の象徴として、立ってればいいのでは?」
「それ、いる?」
などと軽口を叩いているうちに、共鳴石のテスト運用が始まった。夕方、森の方角に石がピリリと音を鳴らした。
「南西方向、魔獣一体、接近中!」
「見張り班、確認急げ!」
「罠班、配置につけ!」
数分後、魔獣は罠にかかり、戦う間もなく拘束された。
──すごい。これは本当にすごい。
共鳴石は、村に初めて“安全という概念”をもたらしたのだ。
「よし、今夜は祝杯だ!」
俺が叫ぶと、フィオナは「訓練の後ならば」と応じ、狩人は「仕留めた獣を焼いて食うぞ」と喜んだ。
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