12 / 32
11 (終)
しおりを挟む
11●
「ふぁっ……」
ふたたび四つん這いの格好になったユートが身震いする。ユートの後ろから成吾が差し込んだ棒付きのスポンジが全て引き抜かれ、少し遅れて、スポンジに含まれていたらしいローションが股の間を伝って落ちていった。
「どこか痛いところはある?」
すぐには声が出ないので、代わりに首をぷるぷると振る。お仕置きの過激さに反し、痛みはどこにも残らなかった。
「良かった」
成吾の腕が伸びてきて正面から抱きしめられた。嬉しいけれど、少し違和感があった。成吾の体温が冷たいくらいに低いし、なによりもあんなに強かった匂いがすっかり消えている。
「大丈夫。さっきの薬のせいだよ。俺はちょっと興奮しすぎたし、ユートも俺のフェロモンにあてられて辛そうだったから、いったん抑えたんだ。少し楽になっただろ」
成吾が説明しながら、ユートの額に手のひらをあてる。たしかに、匂いと一緒に成吾から威圧感を感じない。出会ったときのように、清涼な空気をまとった好青年に戻っていた。それと反比例して、ユートの異常なほど熱くなっていた身体も酔っていた気分も、冷めたように感じられる。
ゆっくりとベッドに押し倒された。さっきそっぽを向いた成吾の唇のほうから、ユートの唇に近づいていく。
「ユート……もし俺のことが本当に好きなら、」
「好きです」
ユートが食い気味に答えると
「……ありがとう」
すっかり平静に戻った成吾に照れた顔を向けられる。
「じゃあ誓いのキスをしよう。さっき目を開けていろと言ったけど、このときばかりは目を閉じろよ」
「分かりました……」
成吾の切れ長の目が細められるのに合わせて、ユートもそっと目を閉じた。柔らかな感触。軽く唇を喰んだ後、すぐに離れていった。
「愛してる……」
ユートが目を開けた時、成吾が王子様のように見えた。
二人の初めてのキスはまるでおとぎ話のように甘かった。
ユートの望みで、成吾はユートを抱いた。小さないたわるように、優しく身体を揺らしたあと、ユートの体の奥に精を放った。疲れ切っていたユートは温かな幸福感の中で気を失った。
そして夢を見た。
成吾の腕の中で、ユートが卵を産み落とす夢。卵はほのかに青白く、金粉をまぶしたようにキラキラと輝いていた。
成吾は困った顔をして「孵化はしない」と言うけれど、ユートは胸に抱いて温めると決めた。
目が覚めると当然卵などどこにもなかった。だがその代わりに、絵の中の金の巣がまるでユートを祝福するかのように光り輝いていた。
(神様……どうか成吾さんと幸せになれますように)
胸の前で手を組んで祈る。
「おい……起きたならさっさと服を着ろ。こっちはこれから出勤なんだ」
すっかり身支度を済ませた成吾がやって来て、朝食だと急かされた。
「──なるべく早く帰る。俺がいない間にどこかに行ったりするなよ。ユートはこれからずっと、ここにいるんだよ」
成吾の出発前。鞄と車のキーを持ったあと、最終確認する成吾に、ユートは自信満々でうなずいた。
「はい。ちゃんと分かってます、外には決して出ません。しっかりお留守番しています」
「逃げたりしようものなら、どうなるか分かってるよな」
そんな脅し、するだけ時間の無駄だ。
「逃げるわけありません!…………あの。それより行ってきますのキスなんて……します?」
真剣に聞いたのに、成吾には目眩がするといわんばかりに頭を抱えられてしまった。
「ユートは無邪気なところが良いんだけど、その代わりなんか不安なんだよな」
玄関に立ったままかれこれ10分、成吾は何度もユートを振り返っては悩んでいる。
昨夜、ユートに恐ろしい顔で迫ってきたときとのあまりの違いに、実は成吾はもう一人いるんじゃないかと、部屋を探してみたくなった。
「大丈夫ですよ! いくら僕が馬鹿でも、こんなこと絶対に忘れません! だからそろそろ……時間は大丈夫ですか?」
成吾が腕時計のついている方の腕を上げ、時刻を確認する。
「そうだな……でも……」
「気をつけて行ってらっしゃいませ!」
自分のせいで遅刻なんていけないと、ユートは力いっぱい成吾の背中を押して送り出した。
「急げ、急げ……」
ドアが閉まると、すぐユートはリビングの大きな窓辺に駆け寄った。額をガラスにくっつけて、外を見下ろす。事前に成吾の愛車は白のポルシェだと聞いていた。出かけていくのを見つけたい。
「おかしいな、もう行っちゃったのかな……」
残念ながら、空に浮かんだこの部屋から地上は遥か遠く、車が小さすぎて判別がつかなかった。
好きに過ごせと言われていたが、何をするにも気分が落ちつかない。本能的にベッドに飛び込んで成吾の残り香を探した。脱いだ服から微かな香りを見つけて必死に吸い込む。でも、かえって恋しさが募った。
「…………成吾さん……成吾さぁん……」
ユートは延々と泣いた。うるさくしたってどうせ誰にも聞こえない。
静まり返っていた部屋に、チャイムが鳴った。事前に習ったとおりにインターホンを取ると、一階のコンシェルジュだった。
「綾宮夢斗(あやみや ゆうと)様へのお届け物です」
成吾に、サイズの合う部屋着を買ってもらったのを思い出し、涙を拭いて受け取りにでる。
ベージュのスーツと帽子姿の男性が一人、包みを持って立っていた。凛とした佇まいが信頼に足る雰囲気を醸し出している。
「こちらで間違いが無ければこちらにサインをお願いいたします。……ありがとうございます」
男は控えを胸ポケットに仕舞ってから、再びユートに向かって笑みを浮かべた。
「このあとすぐ、12時にランチサービスのお届けに参ります。他に御用がありましたら、いつでも申し付けくださいませ」
「………………」
成吾から口を利くなと言われていたので、ユートは頭を下げるだけで済ませた。男も気にする様子はなく、さっさと立ち去っていく。
リビングに戻ると、羽を休めていたらしい二羽の鳥と目が合った。きっと番だろう。ユートに気づくと仲良く羽ばたいていった。
「成吾さんはお昼は何を食べてるのかな……」
食欲が湧かなくて、せっかく届けてもらった食事もほとんど残してしまった。
罪悪感にかられながら、それでも食べなかったことを成吾に知られないようにゴミ箱の奥に隠した。
その後はずっと外を見ていた。いないと分かっていて地上に成吾の姿を探す。他には何もしたくなかった。
「成吾さん、まだかな……」
やっと夕日が見えてきた。早く夜になって下さいと空に向かってお願いする。
主人である成吾以外、誰も来られない塔の上。ユートはここで守られて、成吾の帰りだけを待っている。
end.
番外編もよろしくお願いいたします
「ふぁっ……」
ふたたび四つん這いの格好になったユートが身震いする。ユートの後ろから成吾が差し込んだ棒付きのスポンジが全て引き抜かれ、少し遅れて、スポンジに含まれていたらしいローションが股の間を伝って落ちていった。
「どこか痛いところはある?」
すぐには声が出ないので、代わりに首をぷるぷると振る。お仕置きの過激さに反し、痛みはどこにも残らなかった。
「良かった」
成吾の腕が伸びてきて正面から抱きしめられた。嬉しいけれど、少し違和感があった。成吾の体温が冷たいくらいに低いし、なによりもあんなに強かった匂いがすっかり消えている。
「大丈夫。さっきの薬のせいだよ。俺はちょっと興奮しすぎたし、ユートも俺のフェロモンにあてられて辛そうだったから、いったん抑えたんだ。少し楽になっただろ」
成吾が説明しながら、ユートの額に手のひらをあてる。たしかに、匂いと一緒に成吾から威圧感を感じない。出会ったときのように、清涼な空気をまとった好青年に戻っていた。それと反比例して、ユートの異常なほど熱くなっていた身体も酔っていた気分も、冷めたように感じられる。
ゆっくりとベッドに押し倒された。さっきそっぽを向いた成吾の唇のほうから、ユートの唇に近づいていく。
「ユート……もし俺のことが本当に好きなら、」
「好きです」
ユートが食い気味に答えると
「……ありがとう」
すっかり平静に戻った成吾に照れた顔を向けられる。
「じゃあ誓いのキスをしよう。さっき目を開けていろと言ったけど、このときばかりは目を閉じろよ」
「分かりました……」
成吾の切れ長の目が細められるのに合わせて、ユートもそっと目を閉じた。柔らかな感触。軽く唇を喰んだ後、すぐに離れていった。
「愛してる……」
ユートが目を開けた時、成吾が王子様のように見えた。
二人の初めてのキスはまるでおとぎ話のように甘かった。
ユートの望みで、成吾はユートを抱いた。小さないたわるように、優しく身体を揺らしたあと、ユートの体の奥に精を放った。疲れ切っていたユートは温かな幸福感の中で気を失った。
そして夢を見た。
成吾の腕の中で、ユートが卵を産み落とす夢。卵はほのかに青白く、金粉をまぶしたようにキラキラと輝いていた。
成吾は困った顔をして「孵化はしない」と言うけれど、ユートは胸に抱いて温めると決めた。
目が覚めると当然卵などどこにもなかった。だがその代わりに、絵の中の金の巣がまるでユートを祝福するかのように光り輝いていた。
(神様……どうか成吾さんと幸せになれますように)
胸の前で手を組んで祈る。
「おい……起きたならさっさと服を着ろ。こっちはこれから出勤なんだ」
すっかり身支度を済ませた成吾がやって来て、朝食だと急かされた。
「──なるべく早く帰る。俺がいない間にどこかに行ったりするなよ。ユートはこれからずっと、ここにいるんだよ」
成吾の出発前。鞄と車のキーを持ったあと、最終確認する成吾に、ユートは自信満々でうなずいた。
「はい。ちゃんと分かってます、外には決して出ません。しっかりお留守番しています」
「逃げたりしようものなら、どうなるか分かってるよな」
そんな脅し、するだけ時間の無駄だ。
「逃げるわけありません!…………あの。それより行ってきますのキスなんて……します?」
真剣に聞いたのに、成吾には目眩がするといわんばかりに頭を抱えられてしまった。
「ユートは無邪気なところが良いんだけど、その代わりなんか不安なんだよな」
玄関に立ったままかれこれ10分、成吾は何度もユートを振り返っては悩んでいる。
昨夜、ユートに恐ろしい顔で迫ってきたときとのあまりの違いに、実は成吾はもう一人いるんじゃないかと、部屋を探してみたくなった。
「大丈夫ですよ! いくら僕が馬鹿でも、こんなこと絶対に忘れません! だからそろそろ……時間は大丈夫ですか?」
成吾が腕時計のついている方の腕を上げ、時刻を確認する。
「そうだな……でも……」
「気をつけて行ってらっしゃいませ!」
自分のせいで遅刻なんていけないと、ユートは力いっぱい成吾の背中を押して送り出した。
「急げ、急げ……」
ドアが閉まると、すぐユートはリビングの大きな窓辺に駆け寄った。額をガラスにくっつけて、外を見下ろす。事前に成吾の愛車は白のポルシェだと聞いていた。出かけていくのを見つけたい。
「おかしいな、もう行っちゃったのかな……」
残念ながら、空に浮かんだこの部屋から地上は遥か遠く、車が小さすぎて判別がつかなかった。
好きに過ごせと言われていたが、何をするにも気分が落ちつかない。本能的にベッドに飛び込んで成吾の残り香を探した。脱いだ服から微かな香りを見つけて必死に吸い込む。でも、かえって恋しさが募った。
「…………成吾さん……成吾さぁん……」
ユートは延々と泣いた。うるさくしたってどうせ誰にも聞こえない。
静まり返っていた部屋に、チャイムが鳴った。事前に習ったとおりにインターホンを取ると、一階のコンシェルジュだった。
「綾宮夢斗(あやみや ゆうと)様へのお届け物です」
成吾に、サイズの合う部屋着を買ってもらったのを思い出し、涙を拭いて受け取りにでる。
ベージュのスーツと帽子姿の男性が一人、包みを持って立っていた。凛とした佇まいが信頼に足る雰囲気を醸し出している。
「こちらで間違いが無ければこちらにサインをお願いいたします。……ありがとうございます」
男は控えを胸ポケットに仕舞ってから、再びユートに向かって笑みを浮かべた。
「このあとすぐ、12時にランチサービスのお届けに参ります。他に御用がありましたら、いつでも申し付けくださいませ」
「………………」
成吾から口を利くなと言われていたので、ユートは頭を下げるだけで済ませた。男も気にする様子はなく、さっさと立ち去っていく。
リビングに戻ると、羽を休めていたらしい二羽の鳥と目が合った。きっと番だろう。ユートに気づくと仲良く羽ばたいていった。
「成吾さんはお昼は何を食べてるのかな……」
食欲が湧かなくて、せっかく届けてもらった食事もほとんど残してしまった。
罪悪感にかられながら、それでも食べなかったことを成吾に知られないようにゴミ箱の奥に隠した。
その後はずっと外を見ていた。いないと分かっていて地上に成吾の姿を探す。他には何もしたくなかった。
「成吾さん、まだかな……」
やっと夕日が見えてきた。早く夜になって下さいと空に向かってお願いする。
主人である成吾以外、誰も来られない塔の上。ユートはここで守られて、成吾の帰りだけを待っている。
end.
番外編もよろしくお願いいたします
41
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています
ミヅハ
BL
主人公の陽向(ひなた)には現在、アイドルとして活躍している二つ年上の幼馴染みがいる。
生まれた時から一緒にいる彼―真那(まな)はまるで王子様のような見た目をしているが、その実無気力無表情で陽向以外のほとんどの人は彼の笑顔を見た事がない。
デビューして一気に人気が出た真那といきなり疎遠になり、寂しさを感じた陽向は思わずその気持ちを吐露してしまったのだが、優しい真那は陽向の為に時間さえあれば会いに来てくれるようになった。
そんなある日、いつものように家に来てくれた真那からキスをされ「俺だけのヒナでいてよ」と言われてしまい───。
ダウナー系美形アイドル幼馴染み(攻)×しっかり者の一般人(受)
基本受視点でたまに攻や他キャラ視点あり。
※印は性的描写ありです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる