Infinity night

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見つけてくれなかった普通じゃないところ

6.会議①

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会議開始が真部から宣言された

参加者は速やかに会議に使われる食堂に到着した
シャンパンを飲まされた時と同じ席に着席する

隆明の席は空いており、気を失っている2人の席も空席となっている

ほか12名が自席に着く

全員が気づいたことがあった

ゲーム開始前に酒村が立っていた場所に見たことない好青年がいた
身長は170cmくらいで紳士服を着ている

その青年が胸に手を当てて頭を少し下げて元に戻す

「Merry Xmas 皆様 わたくし 白宮  白兎しろみや はくとと申します 会議の司会を務めさせてもらいます」

手短に自己紹介を済ませた白宮の前で手を挙げたのは三鷹だった

「どうされましたか 三鷹様」

「気を失っている2人はどうしますの」

会議は生存者全員で行うべきであるが、黒木と日向美は揃って気絶している
三鷹の疑問は妥当なものだ

「そうですね~ 叩き起こしましょうか」

席から離れキッチンルームへと入る
すぐに白宮は出てきた
気絶している2人を片手で引きずりながら…

その2人を1列に並べると

「起きろ!!罪人ヒツジ!!」

白宮の大きな声と同時に右拳が2人の腹にめり込まれた

「「ゴバッ…!?」」

2人は吐血しそうな勢いで目を覚ました

全員が仰天する
自己紹介からは感じられなかった白宮の激昂が食堂に轟いている

「さっさと立って席に着けや!!」

全員、唖然としていた

起こされた、いや殴られた2人は腹をおさえて腰をかがめて自席まで歩き、席に着く

白宮も自分の立ち位置までゆっくりと歩き頭を下げた

「お騒がせしました」

他の人たちとは違い真部は真顔、亜久里はククッと笑って白宮を見ている

「会議を開始する前にルールがありますのでわたくしから説明させていただきます」

参加者は会議におけるルールを一言一句聞き逃さぬよう理解した

千鶴が白宮の言うことを脳内でまとめる

会議中の発言は自由で席から立ち上がることや移動することは禁止…
投票のタイミングは個人で決めることができて…参加者の過半数が同じ人に投票した時点で投票された人を吊るす…
投票方法は白宮さんを手を挙げて呼び、他の人に聞こえないよう報告する…
会議に制限時間はない…

理解を完了させた瞬間、真部が手を上げた

え、はや…

白宮が真部の口元に耳をおろした

真部が周りに聞こえないように内容を伝えると白宮は元の位置に戻る

そして真部が口を開く

「俺は倉宮 日向美に投票した」

全員が驚いたが、日向美は他の参加者とは比べられない仰天と絶望が顔に浮かんでいる

「え、なんでですか!!」

日向美が身を乗り出して真部に言い放った

「落ち着け 説明は俺がする」

真部は調査したことの全てを話した

隆明の死体には胸にナイフが刺さっていたが豊代の調査から死因は刺殺ではなかったこと

ゲームが始まる前にあった電子カイロが無くなっていること

見た目からは死因が何か分からないこと

待機を命じていたのに日向美と黒木が部屋出ていたこと

武器庫にあると考えられたスタンガンがないこと

キッチンルームに2人が倒れていてスタンガンが日向美の体の下敷きにされていること

隆明の遺体に小さな黒い点が2つあったこと

「ここからは俺の推理だ」

参加者の全員が耳をすます
捜査一課の人物による演説に

「まず被害者が殺されたのはいつなのかだ」

豊代との調べによりゲーム開始以前に殺されているだろうことはわかっていた

「これはゲーム開始前、俺たちが眠らされている間に先に目覚めた、または眠らされたフリをしていたやつに殺されている」

三鷹が口を開いた

「なぜそう言えるのかしら」

「簡単だ 俺たちは目覚めた瞬間、Mr.クリスマスのラジオを聞かされ、俺はすぐに武器庫に入った」

「その時には死体があったと」

「そうだ 明らかにゲーム開始後からだとそんなに早く行動に出るのは不可能だ」

三鷹は納得し、また耳を澄ませた

「だがこの時点では誰が殺してもおかしくない状況だ」

ゲーム開始前ならば誰でも隆明を殺し、悠長にゲーム開始を待つことができる

「だから俺はゲーム開始前に異様な行動をしたやつに目をつけた」

その一人一人に指を指す

「詩音、倉宮、豊代、日向美だ」

指された豊代と日向美以外の2人は少し驚いたがすぐに表情を戻した
日向美は依然としてあわて顔を治せない

「この4人はゲーム開始前に被害者に触れている 体を温めるためにな」

隆明が低温で倒れた時、この4人は隆明に触れて低温を治そうとしていた

「この4人の誰かが何かを仕込んだんじゃないのかと俺は考えた 結果的にこれはハズレだ」

そう
この時点では何も仕込まれてはいない

「だが、俺の指示を聞かなかった馬鹿がいた」

事情聴取のあとに命じた自室での待機を無視して外に出た人物が2人

「1人は黒木、もう1人は…」

とその人物の方向をじっと見つめた

「倉宮 日向美 そうだろ?」

日向美はどことなく視線を逸らした

「だんまりか まぁいい」

真部は推理を続ける

「俺は前の予想もあって日向美をさらに怪しく見た 輝人と日向美の部屋を捜索したのだが何も見つからなかったんだよな 輝人」

唐突に向けられた冷たい視線
輝人の声が詰まった

「え、えぇ…」

「会議前に言ったよな 隠し事をするなと…」

輝人は真部の言葉に今にも嬲り殺されそうな刺さる感覚を覚える

「え、えっと…」

日向美の目もこちらに向いた
まさに「言わないで」と伝えんばかりの目だ

「そういえば」

真部がわざとらしく言う

「日向美の部屋の鍵はどこにあるんだろうな」

真部が日向美の部屋を捜索する際には部屋をこじ開けたため鍵の在処はわからない
だが、普通は部屋から出た日向美が鍵を閉めているため鍵を持っているのは日向美のはずである

「日向美 今、持っているのか」

探す素振りはなかった

「持ってないのか じゃあ輝人は」

詰みだ…

輝人はそう思った
もう空気は真部に支配され、ここから母の無実を訴えるのは自滅行為に近いと悟った

そしてポケットの手を入れて1つの鍵を取りだした

「お母さんの部屋のものです…」

真部以外の全員が驚いた

「ちょ!え!どゆこと!!」

驚きを隠せなかった千雛が机を叩いた
輝人は黙って下を向き、口を開けようとしない

それを見た亜久里の痺れが切れた

「話せよクソガキ 隠し事はなしのはずだろ?」

それに恐れを覚え、震えながら口を開く

「僕は頼まれたんです お母さんに… 鍵を隠してと」

「で?」

亜久里が冷たく返す

輝人が自分に言われたことをそのまま口にする

「スタンガンを隠す時間稼ぎをよろしく と言われました」

確定申告だ
スタンガンの持ち主はやはり日向美だった

日向美が身を乗り出した

「テルくん!!」

11人の冷たい視線が日向美にささる

「ま、まってくださいよみなさん…!私がスタンガンを持っていたからって犯人扱いされるんですか!」

「黙れ」

真部が日向美の主張を一言で止めた

「あの車椅子野郎はスタンガンで殺されたってことだろ捜査一課さんっ」

亜久里が真部の方に調子よく言った

「その通りだ 死体には小さな黒い点があった
あれはスタンガンによる火傷跡だ
そこから強い電流を流し続けて殺した」

「それは私じゃない!!」

日向美は叫んだ

「大体!なら私は気絶させられていたの!」

「自分を被害者にするためだろ」

あっさり答えた

「お前は部屋から出たあとキッチンルームのどこかにスタンガンを隠そうとした だがそこには黒木がいた 見られてはまずいと考えて気絶させた」

図星をつかれたように慄く

「そして黒木を隠そうとした時、あろうことか息子が食堂に入ってくるのが見えたんだろ」

真部と輝人が別れたあと輝人は食堂に向かった
それを見つけたのだ

「見つかってしまえば自分が黒木を気絶させ、真っ先に殺人犯だと思われてしまうと考えたお前は」

真部はキッチンルームの方に目をやった

「キッチンルームにあるトースターに潜り込んだ」

日向美が分かりやすく視線を逸らした
輝人は「…!」と自分で気づけなかったことに驚いた

「自分の息子が俺を呼びに上の階に戻るのを見て、再び身を出して黒木を隠そうとしたが、予想外が起こった」

日向美を睨みつけて笑った

「俺が走っておりてきたことだ 足音に反応したお前は咄嗟に懐のスタンガンを使って自分を気絶させ、あたかも自分が被害者であるかのように見せた」

あわよくば他人に自分が気絶させられたという虚偽の事実を作り出すための自己犠牲だったわけだ

しかし、それは真部が腹の黒い点を見つけたことで失敗した

「証拠にお前の腹には被害者と同じ黒い点が2つ着いていた」

推理発表は終わった
ここからは日向美の反論を待つことだな…
その反論がどう出るかも俺は予想詰みだ

日向美が焦り顔で恐る恐る口を開いた

「電子カイロは…」

声が小さくて聞こえなかったようで全員が耳をたてた

「電子カイロは!!電子カイロはどこにあるというの!私はそんなの持ってないし!それを持ってる人が怪しいんじゃないの!!」

そう電子カイロの所在がわかっていない
先程の真部の発言にもなくなったことしか触れられておらず、スタンガンの跡があるからという曖昧な理由で殺人犯にされかけている日向美の唯一の反論材料だった

真部はニヤついた

しかし、それは真部の思考の範疇だった

かかったなw

「それは俺も知らん けどお前の息子なら知ってるんじゃないか」

全員の視線が再び輝人に集まった
それを確認して真部は言葉を続けた

「日向美の部屋を調べた時、2人で手分けしたんだが、お互いが捜した箇所は確認してないんだ なぁ輝人、なにかあったんじゃないか」

輝人は見ている
小机につけられた引き出しの中に衝撃的な何かがあった

「……」

輝人は狭間にいる
5年前に永遠の愛を誓った夫を捨てて自分とその場から逃げて助けてくれた尊敬すべき存在を大切にするという信念があった

しかし、真部の推理や自分も捜査をして全てを目にしている事実から母が殺人を起こしたことがほぼ確実になり、正義感から母を吊るすべきという気持ち

そして輝人は覚悟を決めた
自分が信じるのは、、

「小机の引き出しに線が切られた電子カイロがありました」

自身の正義感だ

発言した瞬間、輝人は視線を下におろした
母の表情を見るのが怖かった
絶望した顔をしているだろう、息子に決定的事実を突きつけられたという複雑な表情をしているだろう、、
それを凝視する勇気は小学生には、いや、息子としてなかった

「だってよ 殺人犯オオカミ

真部が日向美に向けた言葉は残虐な言葉だった

亜久里が手を挙げた

「終わりだな こいつでほぼ確だろ」

白宮が亜久里の元まで歩いて耳をたてる

投票を終えた亜久里が全員に向けて言う

「他の奴らも投票しろよ 容疑者さんももう言い分はないらしいしな」

次々と渋々、手を挙げた

白宮が一人一人、手を挙げた順番に聞きまわる
そして、まだ手を挙げている人物がいるのに関わらず、自身の立場に戻った

つまり、

「同一人物に過半数以上の票が入りましたので投票と会議を終わらせていただきます」

結果をまなべは腕を組み、亜久里は頬杖をついてニヤつき、輝人は視線を下におろし、日向美は失望した表情で待った

「投票により、今回吊るされるのは…」

その分かりきった結果に息を呑むものはいなかった

「4番  だ」

日向美の表情は虚しく赤色に染まった
溢れ出る涙を抑えられず喚いた

「やだ!!私じゃない!!」

その場から立ち上がり、椅子を倒し、自暴自棄になって机を叩く

その負け犬の遠吠えをほかの人物は無様なように眺めている

暴れ散らかす日向美の襟を背後から白宮が掴んだ

「処刑の時間だ 倉宮日向美」

反対の手に持った巨大な空の袋を日向美の頭から被せた
それは日向美の膝までを覆い尽くせるものだった
既に袋に緩く巻かれていた紐を力強く引っ張り袋と体を縛り、脱出を防ぐ

袋の中から

「出して!!私じゃない!!本当に!!私じゃないの!!」

と泣き叫び、声が枯れている日向美の言葉が聞こえる

その拷問のような光景をほかの人物は驚愕の表情で見ることしかできず、言葉は出なかった

「お前の罪にあった処刑方法を用意してるんだw全力で楽しめ!www」

快楽に溺れたように白宮が残酷に笑う
その姿に全員が引いた

続けて悪魔の声が食堂に響いた

『MerryXmas 諸君、今投票結果が出て処刑が決まったようだね 白宮くん4番の処刑タイトルを発表しなさい』

白宮はMr.クリスマスの言う通りにこちらを向いて口を開いた

「4番 倉宮 日向美の処刑は…」


 【蘇るトラウマ!!全力DV拷問パンチ!!】

このタイトルを口にした瞬間、地獄絵図が始まった

白宮の拳が袋に詰められた日向美にぶつけられる
「痛い!」と叫ぶ日向美の声を聞かずに一発、また一発と拳を打ち付ける
全身を統べるように殴りつけ、ボコボコと鈍い音が食堂に響く

「痛い!やめて…!」と嘆く日向美の叫びに耳を全く傾けず白宮は残虐で狂気じみた顔つきで狂ったような笑い声で痛めつけることを楽しんでいる

「アハハハハハッwwwwww!死ね死ね死ね!!wwwもっと痛がれ!wwwお前には~サイコーなショウタイムダロォォオ?」

その光景は見ているものの一部に吐き気を催させる程の境地であり、そこまで達していない者も目を背けたくなる残酷なものである

「ぃた…ぃ…や、、やめ…」

日向美の声はもうないに等しかった

掠れる声諸共、うち潰すように殴る

「キーコーエーナーイーナー!!」

それとは裏腹な白宮の音が聞こえなくなるほどの甲高い声がその場を支配している

そしてボコッという音はグチャッという音に変わった
何かを殴りつける音ではなく肉を潰す音へと様変わりしてしまった
音が変化すると同時に日向美の掠れ声も聞こえなくなった

終わった…

誰もが悟った
命が絶えたことを

「アー死んじゃったか~」

殴ることをやめた白宮が残念そうに拳を下ろした

残った13人の方向へ振り向いて笑みを浮かべる

「これにて処刑は終わりです 死体は本人の部屋に置いとくんで、あと吊るされた人物と殺された人物の鍵は部屋の鍵穴に刺しとく決まりだから隆明さんの部屋の鍵持ってる人は僕にください」

詩音が立ち上がって隆明の部屋である9番室の鍵を受け渡した

「ありがとうございます ではこれにて会議は終わりですので解散してくださーい」

そう言い残して袋を引きずりながら食堂を出た

「オ"ェェェエ!!」

「…!」

白宮の姿が見えなくなった瞬間、輝人は体を崩して吐瀉物を流れ出した

それを心配した豊代がすぐに駆けつけて背を揺すった

「大丈夫かい?」

「お母さんが……」

失念した表情で呟く

目の前で母親が殴り殺された
そして、その状況に追い込んだのは自分でもあるのだと

本当に気持ち悪い

そういった感情が生き残った全員にあった
そして参加者に改めて感じさせたのだ

このInfinity night という気の狂った人狼ゲームからは逃げ出せず、隙を見せればすぐに殺されてしまうのだと

だが、その変えることのできない事実と状況に加え、彼らは悟らざる得なかった

     まだ処刑人オオカミは吊るされていない

ということに
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