Infinity night

文字の大きさ
23 / 25
双生の真実は末路を呼ぶ

22.発覚

しおりを挟む
12年前

柿崎 茜 14歳

中学校からの下校道、薄暗く長いトンネルで柿崎は知らない男に背後から徐々に迫られていた

恐怖で全身を震わせながら後ろを振り向くこともせずその長い一直線のトンネル内を走る
柿崎が走ると背後にいる男も走った

私…殺される…!

それが嫌でひたすらに走った
トンネルを抜け出せばまだ明るい空が広がっている
抜け出せば少しは安全を担保できる
長いトンネルを抜け出す一歩手前、

逃げ切った…

ぬか喜びだった
地面に落ちていた大きめの石に躓いて派手に転んだ
男が迫って柿崎を見下ろす
暗いトンネルの中で静かに光った鋭利な刃物は柿崎の腹に突き刺される

はずだった

死を覚悟して目を瞑った柿崎がゆっくりと目を開けるとそこには若い女性が後ろ姿があり、柿崎を襲った男は倒れて気を失っていた

その女性が私の方に顔を向けると同時に珍しく通った一台の車のライトが黒く見えない顔を照らした


あの顔が今、目を閉じて私の眼前にあった
左肩から右腰にかけられて切り裂かれた服とから流れ出た血液が床を濡らしている

報告はしない…今はあのグローブの正体を掴まないといけない…報告すれば時間の猶予ができてこの出来事があやふやにされてしまう…
私は今すぐに捜査を再開しなければならない…

床に落ちていた男性用と女性用のそれぞれの服が亜久里の血液で汚れた
柿崎はそれがなにかのヒントかもしれないとそれらの服を全て腕にかけて持ち出す
亜久里の死体をそこに置いたまま食堂を出た

遺体のある1号室に戻るとそこに生存者全員が揃っていた

柿崎が息をゆっくりと吸った

「亜久里さんが殺された」

「「「……!」」」

「ついさっきです 実行犯の立ち姿も見たわ
グローブ着ててよく顔は見えなかったけどこの中にいるのは確実 私を抜いてここに最後に来たのは誰」

寸前の出来事であるため亜久里を殺害してからすぐグローブをどこかに置いてここに来ているはず、柿崎がこの部屋を出る前には誰も戻っていない
時間的にも最後にここに戻った人物が実行犯だとするのが妥当だ

三鷹が口を開いた

「私が最初に戻ってきて…次にその2人が一緒に戻ってきたわ…」

柿崎の中に迷いが生まれた
2人同時に戻ってきたとなると怪しくなるのは最初に戻ってきた人物である三鷹だ
何故ならInfinity nightの処刑人オオカミはただ1人、よって共犯の可能性を捨てざる得ないから
しかし、三鷹には十分なアリバイがある
図書ルームから出ていったのは柿崎の視認、それから報告があるまでは亜久里と部屋にいたことが確定である
遠藤の自殺の確認から図書ルームに柿崎が行くまでの間に猶予はあるがその間に高校生2名を殺せるとは思えない

なにか…なにかヒントが…

柿崎は記憶を探った
違う人格として参加していた今までの記憶を掘り返す

「カフェルームでお茶しません?」

「小説は『屍の宴』の1巻です」

「流行りなんてどうでもいいと思います」

「とっとと終わらせるぞ 全員嘘をつくなよ」

「豊代さんの部屋にありました」

「その縄はどうなってる」

「まだ8号室からぶら下がってますよ」

「真部さんの部屋から回収しました」

「なんのために録音してたのかは知らんがわざわざこんなもん録音する必要があると思うか?」

「あんたどれだけ最上さんを使い回したの」

「えー、一緒にカードゲームしたり、囲碁したり、人生ゲームしたりしてただけだよー」

「じゃあなんで最上くんの方に口紅が…?」

「これって営みの後なのかしら」

「前髪で左目が隠れているのが私なんですけど、千雛は右目が隠れてるんですよ」

前日の地獄のような夜に参加者たちが口にした言葉、吊るす決定打となったもの、状況、自分の中にあるもの全てを…

……!

そして柿崎はこれまでの全てをひとつに繋いだ

千鶴の遺体の目元を確認、即座に視点を千雛の目元に移し、同じものを確認

気になってた…なんで副長にトドメを指す寸前なのに私の声程度でノコギリを手放したのか…
なんで服を脱がされているのか…
千鶴ちゃんの死体には口紅が着いていないのに最上くんの死体には着いているのか…
なんで処刑人オオカミじゃない真部さんの部屋から輝人くんの死体がぶら下がってきたのか…
なんで処刑人オオカミが最初に隆明さんを殺したのか…

全部わかった…

Mr.クリスマスが隆明さんの部屋を9号室にした理由も、真部さんの部屋から出てきた録音機の本当の目的も、の存在も、処刑人オオカミの正体も…!

想像よりもシンプルだ…!
まず、今回の殺人については処刑人オオカミと共犯者の共同、遠藤さんの自殺を知ってから割とすぐに行われている
2人なら異様に短い殺人時間も納得がいく…!
その共犯者は確実に千雛…いや!千鶴ちゃんだ!
この死体は千鶴ちゃんのものじゃない…!千雛ちゃんだ!

柿崎の突飛な発想に見えるが、これは根拠がある

千鶴と千雛は周りから自分たちの違いがわかるよう前髪でそれぞれ違う目を隠している
そして、目を半分隠すと不便なことがある
それは片目の視界が塞がるということ
だから千鶴は右利きで千雛は左利き、でなければ手に持ったものを落としてしまう

だが、遺体は左目が隠れているし、生きている方は右目が隠れている
それだけでは決定打に欠けるどころか、なんの根拠にもなっていない

しかし、そこにグローブのノコギリの持ち方という点を足そう
グローブはノコギリを右手で持っていた
さらに、すぐに亜久里にトドメを指せばいいものを柿崎の声ひとつでノコギリも離して逃げてしまった

これはおかしい

解決できる状態がひとつある
それは右目が隠れていることで手に持っているノコギリの位置を把握しきれていなかったという状態だ
右手が見えないのは右目の視界が悪いということ
つまりは慣れない視界で的を合わせるのに時間がかかるため亜久里にトドメを指すのが遅れた

慣れない視界を作り出せることができるのは双子のみ
右利きなのは千鶴
隠している片目を反対にすればいい
それもロングヘアである2人ならば容易なことだ

さらには口紅も偽装工作の一環で千雛の死体から拭き取られたのだろう
最上にアプローチしていた千雛が口紅をしていることは至って自然だが、片方の千鶴がしていない以上、どうしても違和感となる
ならば千雛の口紅落とす飲も納得がいく
裸なのはおそらく、千雛を殺した千鶴が浴びた返り血を隠すためだ
血液のあまりついていない千雛の服を千鶴が着用し、返り血の付いた千鶴の服は脱ぎ捨てる
それだけでは不自然なため最上からも服を脱がることで性行為中だと思わせるためにもなる

よって、殺されたのは千雛であり、今、柿崎の目の前で立っているのは千鶴である

柿崎の思考はまだ続いていた

次に、輝人くんが殺された事件について、真部さんの部屋から出てきた録音機にあった輝人くんの声は殺人時刻を錯覚させるためと副長は結論づけた…けどそれは違った
正確には真部さんが殺人時刻を錯覚させるというテクニックを使ったと思わせるための処刑人オオカミの偽装工作があの録音機
あの時、輝人くんの声の録音が可能なのは真部さん以外となると隣の部屋にいた人物か、扉の前にいた人物、隣の部屋に関しては8号室は端の部屋だから9号室だけに限られる
じゃあその9号室には何があった…隆明さんの死体だ
死体が録音した?そんなわけがない
ここでなぜ、隆明さんが最初に殺されたのか、わかった…不自然なく隆明さんの部屋である9号室に入るためだ…なんて言ったって死亡者の鍵は死亡者の部屋のドアノブに刺される…それを自由に使ったって問題ないから
さらに9号室なら輝人くんを殺してから隣の部屋の柵に縄を縛り付けてぶら下げることだってできる…
こんなことできるのは当時の状況的にアイツしかいない…!
あの時、アリバイが薄く、9号室に入り込んでも怪しまれない人物…そんなの!!

柿崎が全てを打ち明ける会議を開始する一息を吸った

しかし、

「会議発令」

「「「……!」」」

その一言を放ったのは柿崎が最も警戒していた人物だった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...