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冒険者編

33 サンゼロの街

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 休憩を済ませてから、サンゼロの街に向かうことにした。

 ここからは歩いても朝には到着するだろう。

 一度、どこかで野宿でもして……。

「野宿は嫌よ」
 
 やっぱり、それは嫌なのね。

 ……朝まで歩くことにした。

「やっと着いたわね」

 サンゼロの街に到着した。

 ここは元々、山間にある街で鉱山で有名だった街だ。

 今は鉱山は閉じられているために街は寂れてしまっているが、最近のダンジョンの誕生により、かつての賑わいを戻しつつある。

「ちょっと!! どうして、どこの宿もいっぱいなのよ」

「仕方ないじゃないか。冒険者がいっぱい来ているんだから」

 今は街の人口よりも多い人が来ているせいで、どこもかしこも宿が満員なのだ。

 馬小屋でもいいからと言っても、そこも人で一杯で馬が外で寝ているほどだ。

「困ったわね。冒険者の仕事どころではないわ。宿探しでこんなに苦労するとは思わなかったわ」

 こんなときに『買い物』スキルがあれば、宿を教えてくれるんだけど……。

 仕方なく、辺りをうろついていると、人だかりが出来ているのを見つけた。

 覗いて見ると、どうやら宿の宿泊出来る権利の競りが行われているようだ。

 まったく、商魂がたくましいなと思いながらも様子をうかがっていた。

 どうやらちょうど始まっていたみたいで、どんどん値が上がっていく。

 回りにいるのは、おそらく冒険者だけのようだ。

 権利は10万トルグから始まり、すぐに20万トルグになった。

 このあたりから手を上げる人が減ってきて、三人で競っている感じだ。

「21万」
「22万」
「25万だ!!」

 値が上がる度にどよめきが起こる。

 よく見たら、赤き翼の面々じゃないか!!

 自称有名な赤き翼が、興奮しながら競りをしているとは……なんか笑ってしまうな。

 それにしても、まさか、こんなところで出会うとは。

「50万!!」

 初めて手を上げた。

 別に赤き翼がいたからって訳じゃないよ? 宿がないと不便だからね。

 ちなみに五十万トルグは、家族で慎ましく生活をすれば数カ月は暮らせる大金だ。

 競りを主催している商人風の男が、こちらを見つめてから周りに価格を釣り上げることを促す。

「50万!! これ以上はいませんか? いませんね? 分かりました。そこの方に権利を売ります!!」

「おおっ!!」

 前にでて、権利が書いてある紙を受け取った。

 あまり質の良くない紙だ。こんなのが50万と思うと、なにやら不安に感じてくる。

 そんなことを考えていると、ふと誰かに腕を掴まれた。

 赤き翼のレオンだった。相変わらず……なんかちょっと臭いな。

「よお。久しぶりだな。まさかこんなところで会うとはな。今日は連れの女はいねぇのか。この前は散々恥をかかされちまった」

 ん? 何言ってんだ? 頭だけじゃなく、目も腐っているのか?

「離してもらってもいいか?」

 ちょっと臭いので……

「ああ、いいぜ。ただし、その権利をよこせばな」

 自称有名人の赤き翼はただのチンピラだったのか……冒険者ギルドのランクもあまり当てにならなそうだな。

「あんた、頭が湧いてるのか? これが欲しかったら、50万以上の金を出せばよかったじゃないか。それとも倍を出すっていうのなら、考えてやってもいいが?」

「なめやがって。いいか? これが最後だ。俺によこせ!!」

「断る!!」

 競りが終わって、人が少なくなったと思ったが、この騒ぎで再び周りに人が集まってきた。

「ちっ!! ここにいるって事はお前もダンジョン目当てなんだろ? 精々、俺に見つからないようにするんだな」

 ニヤッと気持ち悪い笑みを浮かべて、その場を去っていった。

 一体、あいつは何がしたいんだ?

 B級冒険者というのは、ランクで言うとかなり上の方のはずだ。

 それなのに、どう考えても街のチンピラにしか見えない。

 それともB級って大したこと無い?

 あいつのせいで、冒険者のランクが分からなくなる。

 それにしてもミーチャがいない? 横にしっかりといるじゃ……あれ、いない。

 と思っていたら、すぐ後ろにいた。

「おわっ!! ビックリしたぁ。横にいないから探しちゃったよ。なんだ。後ろにいたのか。あいつは頭も悪いのに、目も悪いんだな」

「かばうつもりはないけど、違うわよ。闇魔法で姿を隠していたのよ。今はロスティにしか見えないはずよ」

 あ、そうですか。

 ミーチャの赤き翼嫌いは相当なものなんだな。

「そうですか……まぁ、とにかく宿に泊まれそうだぞ」

「本当に……良かったわ」

 権利証に書いてある場所に行くと、おんぼろの宿屋だった。

 これに50万も払ったのか……なんだかショックだ。

 しかし、中は意外と綺麗だったのに驚いた。

 ただ、ベッドが一つしかないのが……ミーチャをチラチラと見るが、何も気にしていない様子だ。

 ミーチャは気にならないのかな?

 この街は長居するような場所ではないが、しばらくはゆっくりと寝られそうにないぞ。

「ミーチャ。早速、ギルドに行こう。さっさとダンジョンとやらを攻略して、次の町に向かおう」

「何を言っているの? ロスティ。ダンジョンなんて、そんな簡単に攻略なんて出来るわけないでしょ? それに私達はランクが低いから、ダンジョンの低層にしか入れないはずよ」

 どうやら知らないことがたくさんありそうだな。

「えっ!? そうなの? じゃあ、ここに来た意味がないじゃないか……」

「もしかしたら、抜け道があるかも知れないわ。とにかく、ギルドで話を聞きましょう」

 ボロい宿屋を出て、冒険者ギルドに向かうことにした。
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