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公爵家付き工房

第22話 パンツ

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これはどう言う状況なのだろうか?

目の前にものすごい剣幕の女性……フェリシラ様が立っていた。

「えっと……言っている意味が……」

僕が何を隠していると言うんだ?

フェリシラ様に隠し事……。

まさか……。

実は僕は手に入れてしまったんだ。

フェリシラ様のパンツを。

本当に偶然だった。

とある風の強い日……。

ひらひらと飛ぶ白い物体。

それが顔にピタリとくっついたんだ。

広げてみると……パンツだった。

それがどうしてフェリシラ様のだって、分かったかって?

それは簡単だ。

だって、それには名前が書いてあったから……。

まぁ、自分のパンツに名前を書くのは決して珍しいことではないよね……多分。

「申し訳ありませんでした! ほんの出来心で」

僕はそのパンツをすっとポケットに入れてしまったんだ。

許して欲しい……あの時の僕はどうかしていたんだ……。

「まぁ、許してあげてもよろしいですわ」

良かった……。

「ただし! 私にもやってもらいます」

……ん?

どう言う意味だ?

それって……僕のパンツを?

いや、それはさすがに……。

「あの……洗濯した物で良ければ……」
「は? ライル、何を仰っているのですか?」

「え? いや、パンツ……」
「な、何を……とにかく、パンツを返して下さい!! それと私が言っているのは……」

どうして、アリーシャを指差しているんだ?

「誤解です!! アリーシャのパンツなんて……」
「もう! パンツから離れて下さい!! アリーシャちゃんに治療をしたそうですね!!」

へ?

治療?

治療????

何の話だ?

「分からないんですが……」
「そう。私には治療をして下さらない……そういう事ですか!! 分かりました! もう頼みません!!」

……行ってしまった。

一体、何だったんだ?

「アリーシャ。どういうことか、説明してくれ」

……僕は頭を抱えていた。

まさか、アリーシャが砥石で削って、病気を治したと本気で思っていたとは……。

あれは絶対に偶然に決まっている。

もともとアリーシャの病気は治りかかっていたんだ……きっと。

そのタイミングで僕が手を出した、というだけのことだ。

僕にそんな特殊な力がある訳がないんだ。

「ごめんなさい。お姉ちゃんにちゃんと謝ってくる」

とはいえ、困った。

フェリシラ様を怒らせてしまった。

どうするか……

事の発端は僕に治療の力があると思われているからだ。

ならば、僕にはそんな力がないことを証明してみるしかない。

それには……。

「何用ですか? どうせ、私には治療する気はないのでしょ?」
「それは誤解です。僕にはそんな力は……」

「いいえ。アリーシャちゃんは病気が治ったのでしょ? それが何よりの証拠ではないですか!!」

すごく怒っているなぁ……。

「分かりました。では、僕にはその力がないことを証明します。さあ、服を脱いで下さい!」
「へ? それってどう言う意味ですか?」

僕もこの状況は好ましくない。

フェリシラ様とはいい関係でいたいんだ。

だから……。

だからって……。

「どうして、全部脱いでいるんですかぁ!!」
「だって……脱げって言うから」

頭が痛い……。

動悸が激しすぎて……。

フェリシラ様はシーツ一枚だけを体に掛けている状態だ。

その下には……。

僕は生唾を必死に飲み込んでいた。

「服を脱げっていうのは言葉のアヤで……少し肌を見せてもらえればよかったんです」
「……いいわ。とにかく、やって!!」

……もう、いいや。

どうせ、すぐに分かることなんだから。

「アリーシャ。すまないけど、医者を呼んできてもらえないか? 一応、許可を取っておきたいんだ」

少しでも砥石でフェリシラ様の肌を触ることになる。

そこから病気になる可能性もあるんだ。

「はい! 行ってきます」

……大丈夫かな?

「ねぇ、ライル」
「……はい。どうされましたか?」

「本当に治す力はないの?」
「ないですよ。だって、見てくださいよ。砥石ですよ? これで治るなんて話、聞いたことないじゃないですか」

本当はそんな不思議な力があれば、どんなに良かったか。

だけど、現実は残酷なんだ。

フェリシラ様にはこんな方法に頼ること無く、お医者さんの言うことを聞いて……。

あっ……。

僕は誤って砥石を落としてしまった。

シュッ……。

「えっ?」
「あれ?」

砥石をなんとかフェリシラ様の体に当たる前に取ることが出来た。

だけど、勢いで彼女の肌を少し、砥石で擦ってしまった。

擦ってしまったんだけど……。

うそ、だろ?

「肌が白くなっていますわ……」
「白く……なりましたね」

一度、擦っただけだった。

それまで黒ずんだ肌が白く輝くような肌に生まれ変わってしまったのだ。

いや、いやいや。

可怪しい。

そんな訳がない。

砥石で触っただけで……

「フェリシラ様……」
「ライル……お願い。続けて……」

僕はゴクリと生唾を飲んだ。

フェリシラ様がゆっくりとシーツを動かし……生足が目の前に出てきた。

僕はフェリシラ様の足先を持ち……

ゆっくりと砥石を動かした。

シュッ……シュッ……

小気味よい音が部屋に響き渡る。

「なんだか、くすぐったいですね」
「ごめんなさい。もうちょっと優しくやりますね」

フェリシラ様の肌は思ったよりも硬かった。

これがこの病気の厄介なところなんだろう。

柔らかいところは優しく……固いところは激しく。

緩急を付けながら、砥石を動かしていく。

「ふう……」

僕の体は汗だくになっていた。

武具を研磨する以上に神経を使う……。

フェリシラ様の体を研磨するから、という訳ではない。

ちらちらと覗く、シーツの中……。

それが視界に入ると、強制的で集中力が途切れるのだ。

「そろそろ休憩にしますか?」

すでにかなりの時間が経っていたようだ。

まだ、終わったのは片足のみ。

「すみません。こんなに時間がかかるとは……」
「いいの。でも本当に凄いですわね……見て。前よりも肌の状態がすごくいいわ」

あまり、足を上げないでほしい……

その……見えてはいけない部分が見えてしまうから……

そうだ!! 

僕はポケットにしまいこんでいたパンツをフェリシラ様に手渡した。

「お返しします!!」
「どうして、急に……!!!! 見ちゃ、ダメぇぇぇぇ」

僕はビンタを食らって、気絶した……。

これで……良かったんだ。
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