追放鍛治師の成り上がり〜ゴミスキル『研磨』で人もスキルも性能アップ〜家に戻れ?無能な実家に興味はありません

秋田ノ介

文字の大きさ
34 / 69
鍛冶の街 グレンコット

第28話 馬車は揺れるものですよね?

しおりを挟む
ガタン!

馬車が何かに乗り上げた音だ。

これで何度目だろうか?

アグウェルを抜けてから、2日が経っていた。

長閑な風景が広がり、気持ち良く外を眺める……。

そんなことをしていたら、舌を噛んでしまうほど道が悪い。

僕達が目指すところは鍛冶の街と言われる。

峡谷に作られた一件の工房から始まったと言われる。

そこには魔女が住み、様々なものを作ったと。

それが鍛冶の原型と言われ、その街では魔女が崇拝の対象となっている。

協会が聞けば、腰を抜かしてしまうことだが、実用的な街だけに王国が完全に保護しているため、手出しが出来ない。

いわば、魔女の聖地と言ったところか。

もっとも、おとぎ話の域は出ないけどね。

「もう、お尻が限界よぉ!」

気持ちは分かります……ですが……

「どうして、僕の上に座るんですか?」

どう考えても可怪しい。

もっとやり様はあるはずだ。

例えば、荷物を下に敷くとか……。

「ダメですわ。荷物はどれも一流品。お尻に敷くなんて言語道断ですわ」

僕はいいと?

やっぱり、フェリシラ様には庶民としか思われていないのだろうか。

馬車が揺れる度に……

「キャッ」

と可愛い声が聞こえる。

それと、大きく揺れる胸が目の前にあった。

これは我慢し甲斐があるな……。

ガタン!

「もう我慢なりません。ライル! なんとか、して下さい!」

と言われてもなぁ……。

僕は馬車を降り、周りを見渡す。

大小の石が入り交じる道路。

それも永遠と続くかのように、地平線まで続いていた。

車輪を見ると随分と傷つき、摩耗が激しそうだ。

この調子だと、車輪が壊れてしまうかもな。

そうなれば……きっとお嬢様はお怒りになられるだろう。

そこで登場!!

「研いでみるか」

木製の車輪を砥石で研ぐなんて聞いたこともないが……

シュッ……シュッ……

お?

いい感じの音だな。

悪くない……。

シュッ……シュッ……。

これは……。

新品のように光り輝く車輪へと生まれ変わってしまった。

とはいえ……何も変わっていないんだよな。

ガタンっ!!

と揺れるのは我慢してもらおう。

「どうでしたか?」
「えっと……どうでしょう? とりあえず、僕の上に座ります?」

明らかに僕のごまかしを見抜いているだろうな。

あっ、でも座るのか。

「さあ、行きましょうか」

……あれ?

揺れない?

胸が揺れていないぞ。

なんだか、ちょっとショックだな。

「凄い!! ライル、一体何をしたの?」
「えっと……砥石で研いだだけなんですけど……」

そんな目で見ないで欲しい。

本当に研いだだけなんだ!

「分かったわ。そういう事にしておくけど、謙遜は程々にね。でも、凄いわ。こんな快適な馬車は初めてよ」

本当にどうなっているんだ?

外を覗いても、車輪はそのままだ。

なのに、揺れない……どう言う事だ?

……。

「もう、降りても大丈夫ですよ? フェリシラ様」

揺れないことは十分にわかったはずなのに、どうして膝の上に乗ったままなんだ?

「そ、それもそうね。てっきり、ライルが喜んでいるかと思って……」

まぁ、喜んでいないと言えば、嘘になるけど……そこまでではないかな。

足、痺れるし。

「フェリシラ様はこういう旅はよくなさるんですか?」
「そうね……あまりないかしら。領から出たのも学園に行った時が最初ですから……」

なんだか、空気が重くなってしまった。

それもそうだよな。

あんなことをされたら、思い出したくないよな。

「ライルは全部、知っているのでしょ?」
「えっと……デルバート様から伺っています。全部かどうかは分かりませんが」

……なんて言えばいいんだ?

慰めたほうがいいのかな?

「本当に第二王子も馬鹿よね」

ん?

「あんな庶民を相手にするなんて……」

なんだか、僕のことを言われているようでちょっと胸が痛い。

「ごめんなさい」
「えっ? いえ、ライルは違うの! 私、そんなつもりで……えっと……そう、ライルは元貴族なんですから、全然違うわよ……ね?」

あまり違うようには感じないんだけど。

庶民はどこまでいっても庶民なのだから。

絶対に貴族と結ばれることなんてない。

そう言う意味でフェリシラ様も言っているのだろうな。

「でも本当に馬鹿かもしれませんね。こんなにキレイなフェリシラ様との婚約を破棄してしまうなんて」
「……本当に、そう思いますの?」

僕は強く頷いた。

僕だったら……と考えると。

と言っても考えても無駄なんだけどね。

「嬉しい。ライルにそう言ってもらえるだけで悩まなくて済むのかもしれませんね」
「……僕の言葉でフェリシラ様が楽になるなら……なんでも言いますよ」

「ふふっ。その言葉は忘れないでくださいね。その時が来たら、言ってもらいますからね?」

ん?

なんだか、背筋がぞっとする感じになった。

そう、まるでデルバート様と話をしているかのような……。

馬車の旅はそろそろ終わりを迎えていた。

「どうやら、峡谷に着いたみたいですね」

ゴーゴーと鳴り響く風が馬車の窓を容赦なく叩きつける。

風の峡谷 グレンコット。

別名、鍛冶の街。

峡谷の中は煙で包まれ、街の全貌は一切見えなかった。

それでも僕は興奮していた。

この煙が全て鍛冶工房からのものだから。

そんな活気溢れる場所にこれから足を踏み入れるんだ。

僕は涙を拭いた。

「行きましょうか。フェリシラ様」
「ええ。エスコートをよろしくね」

「私もいるよぉ」
「分かっている。アリーシャも道に迷わないようにな。手を繋ぐか?」

「私もよろしいですか?」

ん?

ああ……。

右手にアリーシャ。

左手にはフェリシラ様。

僕は浮かれながら、グレンコットの街に足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...