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王都トリスタニア

side 没落男爵 ローラルフ

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私はローラルフ=ウォーカーだ。

私の元に一通の手紙がやってきた。

王家の印が刻まれた、この国で最も重要な手紙だ。

だが、これが我が家の最大の不幸を呼び込むものだとは想像もつかなかった。

「おめでとうございます。あなた。ついにコンテストの審査委員長だなんて。鍛冶師の世界であなたの右に出るものはいないと王家が認めてくださったんですわ」

それは次に開かれる王国コンテストの審査委員長に任命するものだった。

毎年、しのぎを削り、優勝を勝ち取る苦労をしなくても済む。

そして、審査の立場に立つということは……

私は鍛冶師としての最高の名誉を手に入れたのだ。

息子のベイドもメレデルク工房で修行を積んでいる。

これで我がウォーカー家も安泰だな……。

だが、浮かれていた気持ちは一気に吹き飛んでしまった。

……ライルが一位通過?

信じられなかった。

あの、鍛冶師としての才能が一切ない……ライルが?

しかも、出場している鍛冶師は誰もがこの国で第一線で活躍する者たちばかりだ。

私でも一位通過は難しいと言うのに……。

「ウォーカー卿」
「これはレイモンド殿下」

横にいる豚の存在を忘れていた。

「あれは君に息子だそうだな?」

誰のことを言っているんだ?

「すみませんが、ライルとベイド……二人共、我が息子ですが」
「ちっ!! ライルというやつのことだ」

第二王子にまで名を覚えられているのか……。

ライル……追放したのは失敗だったか?

いや、今更、後には引けない。

それに『鍛冶師』スキルがないのだ……必ず、どこかでボロが出るはず。

それにベイドがいる。

3位通過は相当なものだ。

これに期待するしか……。

「ライルを負けさせる……それが出来るとしたら、どうだ?」
「……」

そんなことが出来るのか?

「沈黙は同意と受け取るぞ?」
「……どうやって、行うというのですか?」

第二王子の作戦は実に巧妙だった。

剣術の腕のない弟を無理やり、近衛騎士見習いにしたあげく……。

この大会に潜り込ませたのだ。

弟殿の実力は、どう見ても見習いの中では最低だという。

「どうだ?」
「どうだ? と言われましても……私に何をしろと?」

第二王子は悪魔の囁きをしてきた。

「いいか? 弟の番号はここに入れない」

参加者が見習い剣士を選ぶための抽選箱だ。

「一位通過は必然的に最後に呼ばれる。つまり……」

ライルの剣がその弟殿に手渡されるということか。

「ウォーカー卿には、その采配をしてもらいたい。審査委員長としての権限でね」

私はなんとなく察した。

この為に呼ばれたのだと……。

私ならば、この不正に対してイヤとは言えない。

なぜなら、ライルが勝利をすれば……私に見る目がないと露見するから。

ベイドが優勝すれば……もしくはライルを上回ればいいが……。

その確証も得られない。

「分かりました……」
「それは結構!! 頼むぞ」

私は、私の手で王国コンテストの由緒ある歴史に泥を塗った。

だが、全てはウォーカー家を守るため……。

だが……信じられない光景が広がっていた。

「レイモンド殿下!! 話が違うではないか。弟殿は弱いのではないのか?」

弱いどころの騒ぎではない。

誰もが弟殿に注目を始めている。

彼の剣技が素晴らしいからだ。

これでは、何のために不正を働いたというのだ……。

「これは何かの間違いだ……あいつが、こんなに強いはずがないんだ」

使えない……。

手元の点数表を見ると……

弟殿がメレデルク殿の剣士に勝たなければ、ライルの優勝は大きく遠のく。

ベイドは今のところ、暫定二位。

このまま、いってくれ……。

私はまだ、神に見放されていなかったようだ。

「同時破壊……」

救われた……。

両者の剣が粉々になり、試合が終わった。

結果はベイドが二位のまま。

ライルは三位と言う結果。

これでいい……私にとっては最高の結果だ。

「レイモンド卿。最善ではなかったが、最高の結果でしたな」
「ふん!! それでも、奴が入賞しては意味がないのだ」

……まぁいい。

「最善……とは何のことですかな? ウォーカー男爵」

……なんで、ここに。

「スターコイド公爵。このようなところに、なぜ」

だが、私の声を無視し、レイモンド卿に視線を送っていた。

「これは、お久しぶりです。レイモンド殿下」
「ちっ!!」

この二人の間に何があったんだ?

「さて……これから表彰式が始まるね?」
「え? ええ。その予定です」

なんだ?

何か、胸騒ぎがする。

「ベイド君、実に優秀な鍛冶師に成長したね。親としては鼻が高いんじゃないか?」

……。

なぜか、背中から汗が吹き出す。

公爵の目からは祝いを言っているような雰囲気を微塵も感じなかった。

「はぁ……ありがとうございます。これで我が家も後継者が……」
「それはどうかな? 私の情報では、ベイド君の剣は盗品の疑いが掛かっている」

なっ……。

……だが、あり得る。

考えてみても、おかしな話だ。

駄作しか作れなかった者がたった一年程度の修行で……。

前に一度だけ見た、信じられない輝きをした剣……。

あれが作れたと思ったが、盗品と言われると、そっちのほうが納得がいってしまう。

「そ、それは真ですか!!?」

だが、それを認めることは出来ない。

それをしてしまえば……。

「間違いないと思う。盗賊は捕まり、その者はベイドに剣を手渡したと言っている。剣の特徴も同じだ。それに……彼にあれが作れると本気で思っているのかな?」

私は言葉に窮してしまった。

「これはね、王の耳にも入れてある。そして、こちらに向かっている。これがどう言う意味か分かるよね?」

終わった……。

「ウォーカー男爵、君にはそれを隠蔽し、コンテストで不正を行ったという疑いがある。そして、王が自ら、それを糾弾しにやって来るということだよ。バカをしたね。ウォーカー男爵」

私はウォーカー家を守ろうとしただけなんだ……。

なんで、こんな目に。

全ては……。

「私は悪くない!! レイモンド殿下の差し金なのだ!!」
「ふっ……ふざけるんじゃねぇよ。どこにそんな証拠が!」

「あるではないか。弟殿を無理やりねじ込んだ。それが何よりも!」
「くっだらねぇ。父上がこっちに向かっているんだろ? だったら、俺は用済みだ。じゃあな」

「レイモンドぉぉぉぉぉ!」

後日、王からの処罰が下った。

蟄居が命じられ、鍛冶師としての今までの功績を全て抹消されたのだった。
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