スラム出身の公爵家庶子が、スラムの力を使って、後継者候補達を蹴落として、成り上がっていく。でも、性悪王女が可愛くてそれどころではないかも

秋田ノ介

文字の大きさ
13 / 45
スラム編

第13話 人間以外の種族の話

しおりを挟む
 再び、ガーフェの屋敷を訪ねることにした。ただ、僕一人では心もとない。ガーフェ一人を相手にするなら問題はないんだけど、向こうはなんというか変態の巣窟みたいな場所だ。心の拠り所が欲しくなってしまう。

 師匠? 来てくれるわけがない。とりあえず、ニッジの御見舞を兼ねて、様子を見に行くことにした。もしかしたら、一緒に行ってくれるかも知れないという淡い期待をして。

 「ロラン様。今日も麗しいお姿を拝見できて、幸せです。畑の様子でも見にいらっしゃたんですか? 今日も子供たちが収穫をしておりますから、明日にでも炊き出しをする予定なんですよ」

 今日もマリアは優しく僕に微笑みけてくる。僕は直視できないでいた。マリアの裸を見て以降、目に焼き付いてしまって何をしても離れないのだ。師匠で見慣れているはずなのに、他の女性だから違うのかな?

 僕の様子にマリアが心配そうな声を掛けてくるけど、理由なんて言えたもんじゃない。いや、言ったら余計大変なことになりそうな予感が子供でも感じてしまう。

 「大丈夫です。最近はいろいろありましたから。炊き出しも順調そうで良かったです。僕もお手伝いしますから」
 「それは嬉しいです。やっぱりロラン様がいるだけで子供たちが喜びますから」

 そう言ってもらえると、嬉しいな。でもマリアが近づいてくると、気恥ずかしくてどうしても距離を取ってしまう。

 「やっぱりロラン様の様子がおかしいですよ。まさか……」

 なぜかマリアが愕然とした表情を浮かべ、「許さないです」と小さく呟いていた。なんか僕が声を掛けられない雰囲気だったので、話を変えることにした。ニッジのお見舞いが出来るか聞いてみたが、マリアは首を振るだけだった。まさか、そんなに状態が悪いのだろうか?

 「体には何も問題はないのですが……その男性を見るとなんというか、様子が変わってしまうのです」

 そうだよな。あんな凄惨な場面を見たら、ショックも受けてしまうよな。そうなると、しばらくはガーフェのところに連れていくのは難しいかも知れないな。となると、僕一人で行くのか……不安だな。

 「ガーフェ様のところに行かれるのですか? でしたら……」

 僕は今、ガーフェと対面している。相変わらず、怒っているような顔をしているが、僕になんとなく分かる気がする。ガーフェはちょっと怯えている。僕の横には凄い剣幕のマリアがいるからだ。

 「ロラン様になんてものを見せたんですか!!」

 マリアはガーフェに会うなり、開口一番がこれだった。これにはガーフェもたじろいでしまったのか、言葉がでない様子だ。マリアが怒っている様な姿を見るのはこれが初めてかも知れないな。

 「ロラン様が……私をちょっと避けるんです。この屋敷を離れてからだから間違いありません。どうしてくれるんですか⁉」

 「いや、あの……」
 マリアは畳み掛けるが、ガーフェはただ嵐が去るのを待っている様子だ。隣にはしっかりと美女風の男が立っているが、二人共マリアの剣幕に恐れおののいているようだ。マリアって何者?

 「シスター。僕は大丈夫ですから。そんなにガーフェ様を怒らないでください」
 「いいえ。ここはしっかりと灸を据えておかねばなりません。いくらガーフェ様と言えども、私のロラン様に悪影響を及ぼすことは断じて許されないのです」

 ……どうしよう。今更言えない。僕がマリアと距離を置いている理由が、マリアの裸を見たことが原因だなんて。済まない!! ガーフェ。

 結局、ガーフェと美女風の男が土下座をすることでマリアの溜飲は降りたようだ。そして、もう二度と僕の前で情事は繰り広げないことを約束させられていた。まぁ、それはありがたいからマリアに怒ってもらって良かったと思ってしまった。

 「それじゃあ、私は子供たちが心配なので帰りますね。本当はロラン様と一緒に居たのにですが……」
 マリアは涙目になって名残惜しそうに去っていった。僕はホッとして、ガーフェもホッとしているようだ。ガーフェは僕と目があると、再び土下座をしてきたので、立ち上がるように促した。なんか、色々すみません。

 「シスターが怒鳴り込んでくるとは思ってもいませんでしたなぁ。いやはや、恐ろしさで肝が潰れてしまいましたよ」
 ガーフェの表情はなんとなく恐怖を感じている怒った顔から、普通の怒った顔に戻っていた。

 「シスターがここに行くって言った時は、こうなるとは想像もしていませんでしたよ。それにしてもガーフェ様でも恐怖を感じることなんてあるんですね。意外でした」

 「何をおっしゃいますか。このスラムで敵に回してはいけない一人ですぞ。あの美しい顔の裏には……」

 ちなみに師匠もその一人に数えられていて、実は僕も加わっているらしい。もっとも僕の場合は師匠のところで暮らしているだけが理由みたいだけど。

 「師匠から聞いたんですけど、シスターってかなりスラムに長く住んでいるって聞きましたけど」
 「その通りです。ご存知の通り、このスラムは旧都にあります。あの教会は旧都でもっとも大きなもので、そこの教会長をしておられたのがシスターなのです」

 教会長がなんでシスターって呼ばれているんだ?

 「今では教会とは名ばかりですからな。一応、フォックス教の教えをしているみたいですが、教会からの支援はいっさいありませんので。シスターという呼び方はマリア様の希望で、孤児院の院長という意味でそう呼ばせてもらっております」

 そうだったのか……何も知らなかったな。教会長って立場がどれ程のものかわからないけど、きっと凄く偉い人だったんだろうな。

 「それはもちろん。フォックス教は王国最大の信徒を抱える教会です。かつての王都の教会の教会長といえば、教会内でも五本の指に入るほどの地位です」
 ガーフェが手を広げて説明してくれる。ただ、ガーフェの人差し指が無くなっているのが気になった。

 「気になりますか? これは帝国の矢を受けて負傷したもの。このせいで剣も握れず、引退に追い込まれたのですよ。かつては帝国を相当恨みましたが、まぁ、今の暮らしはさほど悪くはありませんから、怪我をしたのも良かったと思ってきました。妻がいる暮らし……いいものですぞ」

 仲睦まじい二人を見ていると、なんだか羨まし……くならないな。不思議とまったく、感情が湧いてこない。それよりも再び情事が始まるのではないかという警戒心のほうが強い。僕はすぐに逃げ出せるように、足をドアの方に一歩近づけた。

 それに気付いたガーフェは笑いながら、「今はしませんよ。それこそシスターに殺されてしまいますから」

 そんなにマリアが怖いの? マリアって本当に何者なんだろうか? というか何歳なんだ? 普通に考えれば、ここが王都って呼ばれていたのは百年も前の話だって聞いたことがある。そうなると百歳以上……二十歳半ばくらいにしか見えないマリアの顔を想像して、とても信じられない気持ちになった。

 「私は今でも信じていないのですが、教会長というのは本当だったようなので、疑うわけにもいきませんね。実はシスターは魔族と言われる我々とは違う種族の血を引いているという話なのです」

 魔族? 聞いたことがないな。人間以外の種族なんているのか? そういえば亜人っていうのが帝国には多くいるって聞いたことがあるけど。

 「かつて……千年ほど前のことです。人間、亜人、魔族はこの大陸で絶えず争いをしていたそうです」

 魔族は長命な者が多く、魔法に優れている。亜人は力が強く、鋼の肉体を持っているものが多い。人間は二種族に比べれば力も魔力も劣るが、弱点を突く工夫する力がある。

 そうガーフェに説明された。人間はその工夫により大陸の覇者となり、亜人と魔族は大陸の不毛な土地に追いやられたらしい。そして、百年前に亜人達が起こした国家がグラット帝国となり、人間の王国を再び侵略しだしたというのだ。

 「魔族は閉じ込められてから、動きがないようです。帝国の快進撃の裏には魔族がいるという噂もありましたが、私が戦場で剣を振っていた時には魔族の影は無かったように思えます」

 なるほど。王国と帝国の関係がなんとなく分かってきたぞ。そうなると……ん? なんでこんな話になったんだ? マリアだ。マリアが何者かって話からだ。

 「ガーフェ様。それでマリアが魔族だって話は分かりました。疑いたい気持ちもよく分かります。魔族の事はまったく分からないですけど、人間と姿形が一緒なんですか?」 

 「それは私にもはっきりとは分かりません。なにせ魔族の話は千年も前の話。古文書の記録にも大して詳しくは載っていないのでしょう。魔族の話は私も人伝なもので。ただ、マリア様はどうやら魔族と人間の血を引いているのではというのがもっぱらの噂ですな。姿形が似ているのは、そのせいではないかと」

 ふむ……どうやら誰も分からないようだ。とりあえず、マリアは長命だってこと。美人だってこと。そして優しいってこと。それだけ分かっていれば十分そうだな。でも、魔族と亜人の話はちょっと面白かったな。機会があったら、調べてみるのもいいかも知れないな。

 「そういえば、ロラン様は今日はどういった御用なんでしょう?」

 ……すっかり忘れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...